日本財団ジャーナル

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メディアリテラシーを楽しく学べる、謎解きゲーム形式の教育プログラム「レイのブログ」で、偽情報や誤情報を見抜く力を身に付ける

イラスト:謎解きゲームに取り組む女子学生
「レイのブログ」は、謎解きゲーム形式で楽しみながらメディアリテラシーを学べる体験型教育プログラム。画像提供:株式会社 Classroom Adventure
この記事のPOINT!
  • 「レイのブログ」は、楽しみながらメディアリテラシー(※)やファクトチェック能力を学べる、ゲーム形式の教育プログラム
  • 座学中心のメディアリテラシー教育への問題意識が「レイのブログ」開発につながった
  • 検証スキルに加え、発信者の意図を想像する力や拡散しない意識など、情報との向き合い方を学ぶことが重要
  • 次の3つを構成要素とする、複合的な能力のこと。1.メディアを主体的に読み解く能力、2.メディアにアクセスし、活用する能力、3.メディアを通じ、コミュニケーションする能力。特に情報の読み手との相互作用的なコミュニケーション能力

取材:日本財団ジャーナル編集部

インターネットを正しく活用するためには、情報の真偽を確かめるファクトチェックが不可欠です。最近では生成AIによる悪質な偽情報(意図的につくられた虚偽の情報。フェイクニュースやデマを含む)、誤情報(勘違い、誤解により拡散した間違い情報)が急増しており、ファクトチェック能力の重要性がますます高まっています。

そのファクトチェック能力を鍛えられると話題になっているのが、「レイのブログ」(外部リンク)。謎解きゲーム形式で楽しみながらメディアリテラシーを学べる、体験型教育プログラムです。

「レイのブログ」は、慶應義塾大学の学生によって開発されました。参加者は 「疑う」「調べる」「判断する」 の3つのステップを通じて、楽しく実践的にファクトチェックを学べます。

『レイのプログ』のフローチャート。疑う・調べる・判断するの3ステップを繰り返し、謎の人物レイを探し出す謎解きゲームの仕組みを図解している
「レイのブログ」はスマホ、もしくはタブレット端末とインターネット環境があれば実施可能。画像提供:株式会社 Classroom Adventure

「レイのブログ」は、どのような経緯で開発されたのでしょうか。今回、現代の若者に必要なリテラシー教育や、偽情報や誤情報に騙されないためのスキル、被害者を増やさないための方法について、「レイのブログ」を開発・運営している株式会社 Classroom Adventure (外部リンク)の今井善太郎(いまい・ぜんたろう)さんにお話を伺いました。

オンライン取材に応じる今井さん。Classroom AdventureではCEOを務める

多くの人は「どうやって偽情報や誤情報を見抜くのか」という技術を教わっていない

――「レイのブログ」とは、どのような内容なのでしょうか。

今井さん(以下、敬称略):「レイのブログ」は、メディアリテラシーや情報の検証方法を楽しく学べる、謎解きゲーム形式の教育プログラムです。偽情報や誤情報をどう見抜くのか、ファクトチェックの手法や疑う力を身に付けることができます。

物語は謎の人物レイから届いた挑戦状をきっかけに始まります。参加者は、レイが運営しているブログを見つけ、その中に隠された情報から実際にインターネット検索を利用し、レイの正体を探っていきます。ただし、ブログの中には巧妙に仕込まれた虚偽の情報も含まれていて、それを見極めながら進めていく仕組みになっています。

進めていくうちに、情報の真偽をどう判断するのか、統計のトリックや生成AIによるフェイクの見抜き方など、今の時代に必要な知識やスキル、考え方を実践的に学べるようになっています。

ゲーム内で使用されるフェイクニュース教材の例。高齢化率に関する偽情報記事と、スマートフォン画面でのゲーム進行画面を示し、URL・記者名・出典などの疑うべきポイントを解説している
ゲーム内の例題。ニュースサイトのURL、記者の名前、出典などを確認し、真偽を見極める。画像提供:株式会社 Classroom Adventure

――「レイのブログ」を使った授業を行う場合、学校の先生から依頼が来るのでしょうか。

今井:そうですね。一番多いのは、中学校や高校の先生が生徒に対して「SNSやネットの使い方が心配だ」と感じ、依頼されるケースです。

先生方も非行防止教育やSNSリテラシー講座という枠組みの中で、メディアリテラシーやSNSの使い方に関する授業をされていますが、日々忙しい業務の中で専用の教材を作ることは難しいようです。

――どういうきっかけで「レイのブログ」の開発したのでしょうか。

今井:主に2つあります。1つ目は、メディアリテラシーの授業を面白くしたいという理由です。

Classroom Adventureの創業メンバーは私を含めて3人で、私がカナダ、アメリカ、日本、と異なるバックグラウンドで育ってきました。ただ、全員に共通していたのが、「メディアリテラシーやSNSの使い方をテーマにした学校の授業は、すごく大切ではあるものの、正直つまらなかった」という思いです。

実際の授業では「Wikipediaは偽情報も多いから、使わないようにしよう」「SNSは君たちにはまだ早い」といった話ばかりで、自分ごととして捉えるのが難しいと感じていました。もっと面白く楽しい授業ができないか、と思ったのが開発のきっかけです。

2つ目は、2022年に開催された、情報の検証力を競うGoogle主催のファクトチェック大会において、日本で優勝し、世界でも4位に入賞したことです。当時はちょうどフェイクニュースが社会問題となっていた時期で、ファクトチェックそのものに面白さを感じましたし、それをプログラム化できないかと考えるようになりました。

――なぜ、偽情報や誤情報は拡散されてしまうのでしょうか。

今井:インターネットを使えば、誰もが発信者にも受信者にもなれます。ただ多くの人は「どうやって偽情報や誤情報を見抜くか」という技術を教わっていません。そのため、真偽不明の情報を信じてしまい、拡散につながってしまうのです。

また、AI技術の進化により、生成AIによる画像と実写との判別が困難になってきていることも理由の1つでしょう。少し前であれば、「画像生成AIは人間の指の画像を生成するのが難しい」といわれていたのですが、現在はそんなことはなく、技術はどんどん進歩しています。

発信する側の考えや意図を想像した上で、検証スキルを使う

――現在、教育現場で行われているファクトチェックやメディアリテラシーの授業には、どのような課題があるのでしょうか。

今井:「新聞や本などの文章をしっかり読みましょう」「批判的に読みましょう」といった教え方が中心で、インターネットの情報についても「嘘が多い」と警告するだけで終わってしまうことが多いです。つまり、「どんな嘘があるのか」「どうすれば信頼できる情報にたどり着けるのか」といった、より実践的な部分が抜け落ちていると感じています。

「レイのブログ」を使った授業では、実践的に偽情報や誤情報と向き合ってもらい、情報の検証スキルとマインドセット(考え方の癖)の両方を育むことを大切にしています。

――マインドセットとはどういったものでしょうか。

今井:それは、発信者の立場や意図を想像する視点を持ち、情報を鵜呑みにしない姿勢のことです。

例えば、YouTubeやX(旧Twitter)といったプラットフォームには、「内容が事実かどうかよりも、注目を集められるかどうか」を重視するユーザーがいます。実際、フェイクニュースのような真実ではない情報の方が、かえって拡散されやすい傾向もあります。

さらに、プラットフォーム側にとっても、投稿の表示数が多いこと自体が評価につながるため、そうした情報に対して積極的に対応する理由が生まれにくいという構造があります。こうした仕組みを知っておくことは、とても重要です。

もちろん、ファクトチェックに使えるツールや、検索のコツといった具体的な検証スキルも大切です。ただ、それらはテクノロジーの進化やサービスの変化によって、いずれ使えなくなる可能性もあります。

だからこそ重要なのは、「そもそも情報とはなぜ発信されるのか」「その背後にどんな意図があるのか」を考えることです。時代が変わっても応用できる力を育てることが、私たちが目指すメディアリテラシー教育です。

――「レイのブログ」の参加者からは、どういった意見や感想が寄せられていますか。

今井:「普段なら寝てしまうようなテーマだったけど、2時間があっという間で集中できた」といった、授業として楽しかったという感想を聞くことが多く、私たちとしてもうれしいです。

他にも「偽情報や誤情報について初めて学べた」「明日から使ってみようと思えた」「怪しい情報があったので、ファクトチェックしてみました」と後日コメントを送ってくれることもあります。

中学校・高校での導入事例を紹介する資料。開成中学校と静岡県立掛川東高校での実施状況、参加生徒数、授業風景の写真、生徒と教員からの感想コメントが掲載されている
「レイのブログ」の中学校での導入の導入事例。画像は「レイのブログ」資料より
授業風景の写真
これまでの参加者は5,000人以上に上る。画像は「レイのブログ」公式サイトより

正しい情報にアクセスして判断できることは、あらゆる社会問題を解決する土台

――偽情報や誤情報の拡散を防ぎ、正しい情報を広めるためには、社会全体としてどういう取り組みが必要でしょうか。

今井:私たちのような民間の取り組みを支援する仕組みがないことが、課題だと感じています。実際、私たちのもとには毎日、学校から数十件の問い合わせをいただくのですが、対応できるのはごくわずかで、ほとんどの場合、「予算が合わない」という理由で開催に至らないのが現状なんです。

偽情報や誤情報の拡散を防ぐには、ファクトチェックやリテラシーの向上に加えて、制度の厳罰化や国や自治体による予算措置など、包括的な取り組みが必要だと思います。

――最後に偽情報や誤情報による被害者や犯罪に巻き込まれる人を増やさないために、私たち一人一人が考えるべきこと、行動できることを教えてください。

今井: ダボス会議(※)に合わせて毎年発表される「グローバルリスクレポート」という報告書があります。これは、世界が直面する主要なリスクを短期(2年以内)と長期(10年以内)の視点から評価したもので、いわば「社会問題の世界ランキング」ともいえるものです。

その2025年版レポートでは、今後2年以内における最重要リスクとして、偽情報や誤情報が挙げられています。しかも、これは2年連続なんです。

異常気象や戦争が深刻な社会課題であることは多くの人が知っていますが、偽情報や誤情報が最重要リスクとされている事実は、あまり知られていないのではないでしょうか。

偽情報や誤情報は、あらゆる社会問題とも関わってきます。正しい情報にアクセスし、自分で適切に判断できる環境を整えるということは、あらゆる社会課題の解決に向けた土台となるのではないでしょうか。

これまでは、「深く考えずに情報を拡散していた」という人もいるかもしれません。けれども、少しでも「なんだか怪しいな」と感じたら、ファクトチェックまではしなくても、「拡散はやめておこう」と一度立ち止まることにも、十分意味があります。

逆に「この誤情報が広まるのは危険だ」と感じたときには、逆に正しい情報を調べて発信してみるなど、自分なりの「情報との向き合い方」を学んでいってほしいと思っています。

  • 経済、政治、文化などさまざまな分野の世界のリーダーが、世界の諸課題について議論する国際会議

偽情報や誤情報に惑わされないよう、一人一人ができること

  • 情報を検証するスキルを学び、情報発信の背景を考えるようにする
  • 何も考えずに拡散することは控え、「怪しいな」と思った情報は調べる
  • 偽情報や誤情報は世界的な社会課題となっていることを意識する

フェイクニュースに関する報道を目にすることが増える中で、対策に取り組んでいる団体はないかと調べていたところ、「レイのブログ」の知り、取材を申し込みました。

私自身も、「みんなが言っているからきっとそうなんだろう」と、特に疑いもせずに誤情報を信じてしまった経験があります。なかでも、自分にとって「そうであってほしい」と思う、都合のいい情報に関しては、無意識に信じやすい傾向があると感じています。

取材を通じて、そうした心地よい情報ほど、一歩立ち止まって疑う視点を持つことの大切さに改めて気づかされました。日々の情報との向き合い方を見直すきっかけとなった取材でした。

〈プロフィール〉

今井善太郎(いまい・ぜんたろう)

株式会社Classroom Adventure 共同創業者。2001年、東京生まれ。中学卒業後カナダへ渡り19歳まで暮らす。現地小学校でのインターン経験などから教育に興味を持ち活動する。2022年にGoogleが主催するファクトチェックの世界大会”Youth Verification Challenge”で日本優勝、世界4位。同じ大学の研究室から一緒に大会に出場した3人で株式会社Classroom Adventureを立ち上げる。またオンラインでの幼児教育を行う株式会社YOMYも立ち上げ運営。慶應義塾大学総合政策学部在学中。

株式会社 Classroom Adventure 公式サイト(外部リンク)
レイのブログ 公式サイト(外部リンク)

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