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男女ともに訪れる更年期。少しでも快適に過ごせるよう症状の仕組みと治療法を学ぶ
- 40代、50代の女性の多くが更年期症状を抱え、男性も心身の疲労をきっかけに症状が現れることがある
- 「年齢のせい、我慢すべき」と考え、症状があるにもかかわらず、受診しない人が多い
- 更年期には適切な治療法があることを知り、更年期について気軽に話せる環境が必要
取材:日本財団ジャーナル編集部
最近、「疲れが抜けにくい」「気分の浮き沈みが激しい」「集中力が続かない」、そんな変化を感じることはありませんか。
それは単なる年齢やストレスではなく、更年期によるホルモンバランスの変化が関係しているかもしれません。更年期は40〜50代の女性に多いイメージがありますが、近年では男性にも更年期症状が現れることが知られるようになってきました。つまり、更年期は誰にとっても無関係ではない身近な健康課題なのです。
40代から50代を中心に、女性ホルモンの減少によって心身にさまざまな不調が現れる更年期。近年では、女性だけでなく男性にもホルモンバランスを崩すことによって症状が現れることが知られるようになってきました。
2024年の経済産業省の調査(※)では、更年期症状による国内経済損失は年間約3.1兆円に上るとされています。更年期症状によって仕事や生活に影響を受ける人が少なくないという現実が浮かび上がってきます。
こうした状況から、更年期は個人の健康問題にとどまらず、社会や企業も向き合うべきテーマとなっています。一方で、更年期に対する正しい知識や治療法は、まだ十分に浸透していません。
この記事では、千葉大学医学部附属病院(外部リンク)で産科・婦人科を専門とし、2024年に泌尿器科医の佐々木春明医師と共に『マンガでわかる!男女で知っておきたい更年期』(主婦の友社)を監修・刊行した甲賀かをり(こうが・かをり)先生に、更年期の仕組みや症状、向き合い方について伺いました。
- ※ 参考:経済産業省「令和6年2月 女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」

男女で異なる、更年期の時期とホルモンの変化
――まず、女性が更年期になりやすい時期や仕組みについて教えてください。
甲賀先生(以下、敬称略):女性の場合、更年期とは、閉経前の5年間と、閉経後の5年間を合わせた約10年間と定義されています。
日本人は、50歳前後で閉経する人が多いため、更年期の時期は45歳から55歳が平均的です。更年期になると、卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン(卵巣ホルモンの1つ※)」が、乱高下を繰り返しながら減少していきます。
この急激なホルモン変動によって現れる不調が更年期症状です。
- ※ 「エストロゲン」とは、子宮内膜を増殖させて妊娠の準備を整える卵巣(女性)ホルモンのこと
――次に、男性が更年期になる時期やメカニズムについて教えてください。
甲賀:男性の場合は、女性と違って決まった時期があるわけではありません。
通常は「テストステロン(※)」という男性ホルモンの値が、20代をピークに緩やかに下がっていきます。ただ、ストレスや疲労が蓄積することで、急激に減ってしまうことがあるんです。すると、さまざまな更年期症状が現れてきます。
テストステロンは早ければ30代から減少するので、若いうちから症状が出る人もいますね。
- ※ 「テストステロン」とは、主に精巣で作られる男性ホルモンのこと

気づきにくい更年期のサインと症状の個人差
――更年期になったと分かるサインはありますか。
甲賀:女性の場合だと、閉経してからでないと正確には分かりませんが、月経の変化がサインになります。
更年期が始まると、月経周期が不規則になり、日数が短くなったり、長引いたり。経血量が以前よりも減ったり増えたり、といった変化があります。40代に入ったら「もしかしたら更年期かもしれない」と意識しておくとよいでしょう。
一方、男性の場合は分かりやすいサインが少ないため、自分でも気づかないうちに症状に悩まされている人も多くいます。
――更年期になると、どんな症状が出るのでしょうか。
甲賀:女性の場合は、ホットフラッシュと言われる異常な発汗をはじめ、関節痛、肩凝り、不眠、めまい、頭痛、手足の冷え、不正出血、疲れやすい、といった身体症状が現れることがあります。
加えて、不安感、抑うつ、イライラする、といったメンタルの不調に悩まされる人もいます。症状には個人差があり、ほとんど症状を感じない人もいますね。
ただし、厚生労働省の調査(※)によると、50代女性の約4割、50代男性の約1割が日常生活に支障をきたすほどの更年期症状を抱えているんです。こうした重い症状は「更年期障害」と呼ばれます。
そして、男性の更年期障害は、医学的に「LOH症候群(加齢性腺機能低下症)」と呼ばれています。主な症状には、やる気がなくなる、気分が塞ぐ、イライラする、食欲不振、性欲の低下、不眠、集中力や記憶力の低下などがあります。これらの症状はうつ病とよく似ており、見分けがつきにくいというのが注意点です。
- ※ 参考:厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」(2022年)
――女性で更年期症状が出る人と出ない人には、どんな違いがあるのでしょうか。
甲賀:年齢とともに女性ホルモンが減少する生理現象は誰にでも起きることですが、体質によってはその変動が少ない人もいます。緩やかに減少していくと体が対応できるため、症状が出にくいのです。
また、体の変化に敏感な人もいれば鈍感な人もいます。同じようにホルモンが減少していても、感じ方によっては気にならず、「症状がない」と感じる人もいますね。

受診につながりにくい理由と、予期せぬ疾患の可能性
――更年期症状が出る人は、日常生活でどんなことに困るのでしょうか。
甲賀:私は婦人科に勤めているのですが、女性の患者さんで、ホットフラッシュで汗が止まらず、職場や家庭でお困りの方がたくさんいらっしゃいます。
暑い時期だけでなく、寒い時期でも汗をかくのでいつもタオルが手放せませんし、洋服が濡れてしまって着替えなければならないことも。「大事な場面で汗をかいたらどうしよう」と心配になって、仕事に集中できないこともあるでしょう。
寝ている間も汗をかくので、夜中に何度も目が覚めてしまう人もいます。ぐっすり寝られないので、体が休まらず、次の日の活動にも影響が出ます。ほかにも関節痛の症状によってパソコン作業がしづらくなった、料理ができなくなったという声も聞きます。
2021年のNHKの調査(※1)では、更年期症状を理由に仕事を辞めた人が、女性で9.4パーセント、男性で7.4パーセントいることが分かりました。一方で、これだけ日常生活に支障が出ているにもかかわらず、厚生労働省の調査では(※2)、医療機関を受診している人は10パーセント以下にとどまっています。
- ※ 1.参考:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」
- ※ 2.参考:厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果(2022年7月26日)
――症状が出ていても治療に結びついていないのは、なぜでしょうか。
甲賀:まだまだ多くの人が「年齢のせい」「我慢するもの」と思っているからです。また、治療法があることは知っていても、ホルモン剤での治療に抵抗があることで、受診をためらう人もいるようです。
男性の更年期に関しては、女性と比べて認知度が低く、そもそも「男性に更年期があることすら知らなかった」という人が多いのも実情です。
知っていても、「更年期だと認めたくない」という気持ちがあり、受診につながらないことも。周囲の人に相談するハードルも、女性よりずっと高いのではないかと思います。
――更年期であることを言い出しづらいという背景があるのですね。
甲賀:そうですね。ただ、何か症状がある場合に「更年期だ」と自分で決めつけてしまうのも危険です。というのも更年期とみられる症状の中には、ほかの疾患が隠れていることもあるからです。
――どんな疾患が隠れている可能性があるのでしょうか。
甲賀:例えば、更年期によくあるホットフラッシュやほてり、動悸は、甲状腺疾患の代表的な症状でもあります。
ほかにも月経不順だと思っていたら、子宮体がんによる不正出血だったというケースも。これらが発症する年齢は更年期の時期と重なるため、更年期症状だと思い込んで重大な疾患を見落とさないように注意が必要です。
ですので、お困りの症状があれば医療機関を受診してほしいと思います。

減少したホルモンを補充する治療で症状は改善していく
――女性の更年期症状には、どんな治療法があるのでしょうか。
甲賀:更年期で減ってしまったホルモンを補う「ホルモン補充療法」が主な治療法です。
治療薬には飲み薬や貼り薬、ジェルタイプの塗り薬があります。どれも効き目は同程度ですが、飲み薬よりは皮膚から摂取する貼り薬や塗り薬のほうが、副作用が出にくいことが分かっています。
――貼り薬や塗り薬もあるんですね。手軽に始められそうです。
甲賀:貼り薬は腹部に貼ることが推奨されていて、目立たないので取り入れやすいと思います。塗り薬は腕や太ももなどに塗るのが一般的です。
「皮膚がかぶれやすい人には貼り薬ではなく塗り薬」「飲み忘れの心配がある人には持続期間が長い貼り薬」というように、ライフスタイルや体質に合わせて使い分けできるようになっています。
使用する薬剤の種類や量は、患者さんの年齢や症状、月経の有無や持病、これまでにかかった病気などを考慮しながら、医師が慎重に判断します。
――「ホルモン補充療法」ではどのような効果が得られるのでしょうか。
甲賀:多くの人は2カ月ほどで症状が軽快していきます。なかでも、ホットフラッシュや動悸などの症状は改善が早く、数日で効果が出る人もいます。
治療を始めることで、更年期以降の健康維持にもつながるので、症状を我慢せず、早めに受診することをおすすめします。
実は、エストロゲンが低い状態が長く続くと、骨粗しょう症や動脈硬化のリスクが高まります。ただし、半年から1年ほど治療を続けることで、徐々に骨密度が上がっていくんです。
――「ホルモン補充療法」のリスクについて教えてください。
甲賀:かつてはホルモン剤の投与によって、乳がんのリスクが高まるといわれていましたが、今では乳がんになるリスクはとても少ないことがデータでも明らかになっています。
ただし、「ホルモン補充療法」を受けられない人もいます。その一つが乳がんの既往歴がある患者さんです。そのほかにも、慎重な投与が必要とされるケースがガイドラインで定められています。
「ホルモン補充療法」に限らず、漢方による治療を行っている病院もあります。自分の体質や症状に合った治療法を、医師と相談しながら選んでいくことが大切です。


気づきにくい男性の更年期。受診の目安はセルフチェックできる
――男性の更年期症状には、どのような治療がありますか。
甲賀:男性は「テストステロン補充療法」が有効です。2週間から4週間に1回の通院で筋肉注射を行います。保険適用ではありませんが、自由診療で飲み薬もあります。男性の場合も効き目には即効性があります。
――更年期症状があれば、すぐに医療機関に相談したほうがよさそうですね。
甲賀:生活に支障が出るような症状があれば、迷わず受診しましょう。受診の目安として、更年期症状をセルフチェックできる質問票を活用することができます。
女性は「SMIスコア(簡略更年期指数)」、男性は「AMSスコア(男性更年期障害質問票)」が代表的です。身体的・精神的症状に関する質問に答え、合計点数から症状の程度や受診の必要性を判断することができます。
――何科を受診すればよいでしょうか。
甲賀:女性は婦人科に相談してみてください。専門外来を設けている専門機関もありますし、日本女性医学学会のホームページには専門医が在籍する医療機関が掲載されていますので、参考にしてみてください。
男性の場合は、泌尿器科でも更年期を扱っていないことがあるため、「LOH外来」や「男性更年期外来」と掲げている医療機関を調べて受診することをおすすめします。


更年期は自分の人生を見直し、生活習慣を整えるチャンス
――治療以外に、日常生活で気をつけられることはありますか。
甲賀:大前提として、規則正しい生活を送ることが大切です。バランスの良い食事をとり、適度な運動をして夜にぐっすり眠る。それが自律神経を整えることにもつながります。
男性の場合、年齢を重ねると職場以外の人とのコミュニケーションが減ってしまう傾向があるので、ワクワクできる趣味を始めたり、新しい人間関係を築いたりすることが、更年期の症状を乗り越えるために大事なポイントです。
――更年期について知られてきたとはいえ、職場や家庭など日常の会話の中では話題にしづらいと感じます。
甲賀:更年期に対する職場や社会での認識を変えていく必要がありますよね。タブー視されているとまでは言いませんが、扱いづらいテーマであることは確かです。ただし、更年期は誰にでも訪れるものですから、理解し合うことが大切です。
そのためには企業側の努力も必要です。例えば、更年期についてのセミナーや勉強会を開き、福利厚生の一環として取り入れていけば、更年期を迎えても元気に働き続けられる人が増えていくはず。また、若い人たちが準備できるような啓発活動も求められていると思います。
――同じように家庭でも、更年期について話せるようになるといいですよね。
甲賀:そうですね。もし身近な人が更年期かもしれないと思ったら、「更年期なんじゃない?」と指摘するのではなく、「治療法があるみたいだよ」と教えてあげてほしいです。普段の何気ない会話で伝えることができれば、きっと素直に受け止めてもらえると思います。

――甲賀先生は医師として診療にあたり、また大学院で教授を務める傍ら、更年期の正しい知識を広める活動にも力を入れているそうですね。
甲賀:まず、書籍『マンガでわかる!男女で知っておきたい更年期』(主婦の友社)を出版したことで、「本を読んで治療を始めました」「家族が更年期だと気づきました」という声も多く、更年期の知識を広めることに役立てたのではないかと思っています。
そして、日本女性医学学会の理事として、ガイドブック「ホルモン補充療法の正しい理解をすすめるために」の制作にも携わりました。治療法を考える際の参考資料として、活用いただければと思います。
――これから更年期を迎える人たちは、どんな備えが必要でしょうか。
甲賀:更年期には、つらい症状が現れることがありますが、効果のある治療法は確立されていますので、対処できるものとしてポジティブに受け止めてほしいです。
まずは、更年期がどんなもので、どんな治療法があるのかを知るために、アンテナを張っておくことが大事。心の準備をしっかりしておけば必要以上に恐れなくて済みます。
そして、更年期はこれからの人生を考える準備期間でもあります。自分が何に価値を置いて生きていきたいのか、その先の人生をどう楽しむのか。自分の生活リズムや時間配分を工夫できるチャンスでもあります。
そんなふうに考えて、更年期を前向きに捉えていきましょう。


更年期を迎えた人たちが暮らしやすい社会をつくるために、私たち一人一人ができること
更年期を迎えた人たちが暮らしやすい社会をつくるために、私たち一人一人にできる3つのアドバイスを甲賀先生に伺いました。
[1]更年期は誰にでも訪れる変化だと理解する
更年期は、誰にでも訪れる。個人差が大きく、日常生活に支障を来たすようなつらい症状が出ることもあるため、周りの人は配慮を心がける。また、女性だけでなく、男性にも症状が現れることがあることを、本人も周囲も理解しておくことが大切
[2]更年期について気軽に話せる環境をつくる
更年期の話題をタブー視せずに、職場や家庭で気軽に話題にできるような環境を整えていく。症状に悩んでいる人がいれば、「まずは病院に相談してみたら」「治療で楽になることもあるよ」と声をかけてみる
[3]治療法があることを知れば、適切な受診につなげられる
更年期症状には、すでに効果的な治療法が確立されています。対処できるものだと知ることが第一歩。症状が現れ始めたらチェックリストを活用して状況を把握し、治療が必要なタイミングで医療機関を受診してみる
両親が中高年になり、「もしかしたら更年期なのでは」と感じる場面が増えてきました。身近な人であっても話題にしづらい更年期について正しく知りたい、そして、いずれ更年期を迎える若い世代にも情報を届けたいと思い、取材を申し込みました。
更年期にはさまざまな症状があり、仕事や生活に支障をきたすことがある。その一方で、効果のある治療法が確立されていることはあまり知られていません。先生の話を伺って、更年期に対する漠然と感じていた不安が解消されました。
そして今、更年期に悩んでいる人が適切な治療へとつながるよう、身近な人たちに悩みを打ち明け、情報を共有し合える関係性や環境を構築することが大事なのだと感じました。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。