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日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。国内外で加速する「脱プラスチック」の動き
- プラスチックは、海洋汚染や地球温暖化を進めるなど、環境問題の大きな要因に
- 製造・使用の禁止や代替品の推進、リサイクルの強化など、世界的に脱プラスチックの動きが活発化
- 事業者、自治体、消費者(私たち)の連携が、地球に優しいサステナブルな社会をつくる
取材:日本財団ジャーナル編集部
私たちの暮らしに欠かせないプラスチック。食品容器やペットボトルだけでなく、家電製品や自動車、建物に至るまで、さまざまなところで使われている。
しかし、現在、世界中で脱プラスチックの動きが加速している。身近なところではカフェチェーンでの紙ストローの採用や、スーパー等でのレジ袋の有料化などが記憶に新しい。
その背景には、適切に処理されなかったプラスチックごみによる海洋汚染や、製造や焼却時に出る二酸化炭素の増加による地球温暖化など、さまざまな環境問題が絡んでいる。
今回は、プラスチックに起因する環境問題と共に、世界の脱プラスチックの動向を通して、プラスチックと上手に付き合うために私たち一人一人にできることを考えていきたい。
多岐に及ぶプラスチックの地球環境への影響
プラスチックの語源は、ギリシャ語の「プラスティコス(plastikos)」。「形づくることができる」という言う意味を持つこの言葉は、プラスチックの特性を分かりやすく示している。
石油から製造されるプラスチックは、熱や圧力を加えることで人々が思い描く形に加工できる。さらに軽量かつ丈夫なプラスチックはさまざまな工業製品に使用され、私たちの生活を豊かにしてくれる。しかし、その一方で深刻な環境問題を引き起こしているのも事実だ。
海の生態系の破壊、経済的損失を招く海洋汚染
ストローが鼻に刺さったウミガメや、お腹から膨大なごみが見つかったクジラの死体のニュースなどをきっかけに、世界的に注目されるようになった海洋プラスチックごみ問題。環境省の令和元年版 『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』(外部リンク)によると、1950年以降に世界で生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄。そのうち回収されたプラスチックごみの79パーセントが埋め立て、あるいは海へ投棄されている。
毎年約800万トンのプラスチックごみが海に流出し、このままのペースでは、2050年には海の中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超える(別タブで開く)と試算されている。
そんな海や海岸に漂流・漂着するプラスチックごみの7〜8割は、街で出たものが水路や川を伝って流出したもの。ポイ捨てなどマナーやモラルの問題だけでは解決できない(別タブで開く)ことも明らかになった。
プラスチックごみは、海の生物たちの命を脅かすだけでなく、その豊かな自然で成り立っている漁業・養殖業や観光業にも大きな打撃を与えている。経済協力開発機構(OECD)の調べによると、世界で年間130億ドル(1兆4,300億円)もの経済的損失が発生しているという。
また、一度流出したプラスチックごみは、紫外線による劣化や波の作用などにより破砕され、やがてマイクロプラスチックと呼ばれる5ミリメートル以下の小さな粒子となる。それが海の生物たちに取り込まれることでの生態系への影響や、それを食する人体への影響も懸念(別タブで開く)されている。
地球温暖化を加速させる、温室効果ガスの増加
大規模な森林火災や大雨による洪水、異常な干ばつや寒波の襲来など、毎年のように世界中で起こる異常気象。その原因とも言われる地球温暖化の背景にもプラスチックが存在する。石油から作られるプラスチックは、製造過程やごみとして焼却される過程で、温室効果ガスと呼ばれる二酸化炭素を大量に発生させる。
2016年1月の世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)に合わせて、イギリスのエレンマッカーサー財団が発表した報告書では、石油消費量におけるプラスチックが占める割合は2014年が6パーセントなのに対し2050年には20パーセントまで上昇。それに伴い、カーボンバジェット(※)におけるプラスチックが占める割合は2014年が1パーセントなのに対し、2050年には15パーセントにまで上昇すると予想されている。
- ※ 炭素予算。地球温暖化による気温上昇を一定の数値に抑えようとする場合に想定される、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量と将来の排出量の合計)の上限値
図表:BAUシナリオにおけるプラスチック量の拡大、石油消費量
もちろんプラスチックだけが海洋汚染や地球温暖化の原因ではないが、大きな影響を及ぼしていることは間違いない。
2018年6月に発表されたUNEP(国連環境計画)の報告書では、2015年のプラスチック生産量を産業セクター別にみた場合、レジ袋、プラスチック製のスプーン、ストロー、商品のパッケージといった容器包装セクターのプラスチック生産量が最も多く、全体の36パーセントを占める。
また、1人当たりプラスチック容器包装の廃棄量を国別で比較した場合、日本はアメリカに次いで2番目に多く年間約32キログラムに相当。このニュースは、実は日本がプラスチックごみ大国だったと、世間でも大きく話題を集めた。
世界中で加速する脱プラスチックの取り組み
深刻な環境問題を背景に、世界的に脱プラスチックの取り組みが進んでいる。主な国の最新の取り組みをまとめてみた。
アメリカ
1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量が、世界で最も多いアメリカ。プラスチックへの規制は州や自治体ごとで異なるが、2021年11月に米国環境保護庁が「国家リサイクル戦略」を発表し、国全体としてリサイクル可能な商品の増加や、リサイクル過程での環境負荷の軽減を行い、2030年に向けたリサイクル率50パーセントを目標に定めた。
使い捨てプラスチックストローの廃止や、プラスチックごみをクリーンエネルギーに変える技術開発など、大学やグローバル企業、スタートアップの間での、プラスチック問題解決への動きも活発だ。
中国
世界最大のプラスチック消費国である中国でも、プラスチックごみ管理の強化が進められている。2021年9月に発表された「プラスチック汚染改善行動計画」では、2025年までにプラスチックごみを削減するための目標や、生産、流通、消費など各プロセスにおけるプラスチック製品の管理を強化する取り組みが記されている。
小売り、オンライン取引、飲食、ホテルなどでの使い捨てプラスチック製品の使用を減らすように求めているほか、プラスチック代替品の普及や、ごみ回収のルール化、リサイクルの強化についても記されている。
EU(欧州連合)
プラスチックごみをはじめとした環境問題に対し、世界的にも高い意識を持って取り組んでいるEU。2019年5月に使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案が可決された。2021年7月から代替可能な皿、カトラリー、ストロー、コップ、発砲スチロール製食品容器などが規制対象となった。と同時にプラスチックボトル回収率を2029年までに90パーセント、リサイクル材料含有率を2025年までに25パーセント、2030年までに30パーセントといった明確な目標も掲げている。
また、それぞれの加盟国でも脱プラスチックの動きは活発だ。先駆的な取り組みをしているフランスでは、2040年までに全ての使い捨てプラスチック包装を無くす目標が設けられ、2022年1月から全ての小売業において野菜と果物のプラスチック包装が禁止となった。
また。イタリアでは2018年1月にマイクロプラスチックを含む製品の生産禁止を発表、オランダのスーパーでは2018年にプラスチック包装を全く使わない売り場が世界で初めて誕生し話題を集めた。
イギリス
王室でもプラスチック製品の使用を禁止しているイギリス。2020年10月からプラスチック製のストローやマドラーなどの供給が禁止された。また、2022年4月からは国内で製造または輸入されたプラスチック製包装材において、サイクル材使用率が30パーセント未満の場合に課税される「プラスチック製包装税」制度が導入された。
インド
インドでは、2016年3月にプラスチック廃棄物管理規則を制定して以降、製造・流通・使用・処理において規制や罰則を設けるなど環境汚染対策に取り組んできた。2022年7月からは、使い捨てプラスチック製品を禁止するという厳格な規則が設けられた。対象となるのは、プラスチック製の袋、カップ、ストロー、皿、ペットボトルなど。
プラスチックを規制せずに「資源として循環」させる日本の新法
日本では2022年4月から「プラスチック資源循環促進法」(外部リンク)が施行された。これはプラスチックを規制するものではなく、プラスチック製品の設計から製造・販売・回収・リサイクルという全体の流れの中で、事業者・自治体・消費者が連携しながら、地球に優しい循環型経済(サーキュラーエコノミー)の構築を推し進める法律だ。
この法律は「3R+Renewable」が基本原則となっている。
- Reduce(リデュース)…製品に使用する資源の量を少なくすること、廃棄物の発生を抑制すること
- Reuse(リユース)…使用済みとなった製品を廃棄せずに、繰り返し使用すること
- Recycle(リサイクル)…廃棄物などを原材料やエネルギー源として再利用すること
- Renewable(リニューアブル)…製品に使用する資源を再生可能なものに代替すること
プラスチックの増加につながらないよう工夫をすると共に「捨てることを前提としない経済活動」を目的とし、事業者や自治体、消費者にぞれぞれの役割が求められる。
事業者の役割
事業者は「製造事業者」「販売・提供事業者」「排出事業者」の3つに分類できる。
製造事業者は、国が定めた「プラスチック使用製品設計指針」に沿って、製品の設計・製造、材料の選択に努めなければならない。
具体的には、
- 使用する材料を少なくする
- 過剰な包装を抑える
- 再使用可能な部品を使用する
- 製品・部品において単一素材を使用(もしくは素材の種類を少なく)する
- 製品の分解・分別を容易化する
- プラスチック以外の素材に代替する
- 再生プラスチック、バイオプラスチックを利用する
ほか。また、環境負荷等に対する製品のライフサイクル評価を行うと共に、ホームページ等での製品情報の取り組みを積極的に開示することが求められる。優れた製品設計にはグリーン購入法上の配慮や支援を受けられる認定制度も設けられている。
次に販売・提供事業者(小売業・飲食店、配達飲食サービスなど)は、「特定プラスチック使用製品」使用の合理化が求められる。特定プラスチック使用製品として定められた12品目(フォークやスプーン、飲料用ストロー、歯ブラシ、衣類用ハンガーなど)に対し、提供方法の見直しや提供する製品自体の工夫に努めなければいけない。
具体的には、
- 特定プラスチック使用製品を有償で提供する
- 景品等を提供(ポイント還元等)するなど、消費者が特定プラスチック使用製品を使用しないように誘引する
- 特定プラスチック使用製品について消費者の意思を確認する
- 特定プラスチック使用製品について繰り返し使用を促す
- 特定プラスチック使用製品を代替製品に切り替えする
- 商品やサービスに応じて、適切なサイズ・数量で特定プラスチック使用製品を提供する
- 繰返し使用可能な特定プラスチック使用製品を提供する
さらに製造事業者、販売・提供事業者共に、自治体や消費者と協力して積極的に自主回収・再資源化を行うことが求められる。
次に、排出事業者(事業所、工場、店舗等で事業を行う事業者)は、排出・回収・リサイクルの段階において、「排出事業者の判断基準省令」に基づいて排出の抑制・再資源化等の取り組みが求められる。「再資源化事業計画」を作成し、国の認定を受けることで、「廃棄物処理法※」に基づく許可がなくても、再資源化事業を行うこともできる。
- ※ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
なお排出量が250トンを超える排出事業者(多量排出事業者)には、取り組みが不十分な場合に、国から勧告・公表・命令等を受けることがある。
自治体(市区町村)の役割
プラスチック使用製品廃棄物の分別基準を設けて、その基準に沿って市民が分別に取り組むよう周知することが求められる。また、分別収集された廃棄物を利用しての再商品化や、再商品化計画を作成し国から認定されれば、選別保管などの中間処理を省略することが可能となる。
消費者である私たちに求められる役割
事業者、自治体の努力だけでは、地球に優しい資源循環型の社会はつくれない。「プラスチック資源循環促進法」のサイトでは、普段の暮らしの中で、「プラスチックは、えらんで、減らして、リサイクル」に、積極的に協力することが求められている。取り組むべきことはいたって簡単だ。
えらんで
環境に優しいプラスチック製品を選ぶ。できれば、事業者の役割で触れた「プラスチック使用製品設計指針」に沿って作られた製品を選ぼう。
減らして
プラスチックを過剰に使用しないよう心掛け、プラスチックごみを減らす。できれば、事業者の役割で触れた「特定プラスチック使用製品」の合理化に沿って、ライフスタイルを変えてみよう。
リサイクル
市区町村や店頭などでのプラスチック製品の分別・回収・リサイクルに協力する。プラスチックごみによる海洋汚染や、地球温暖化を招く温室効果ガスを抑えるには、正しいごみの分別が大きな鍵に。暮らしの中で「3R+Renewable」を意識しよう。
私たちの暮らしにとても身近で、暮らしを豊かにしてくれるプラスチックは決して悪ではない。そんなプラスチックを扱う人間の行動を改めることこそが、豊かな海を守り、サステナブルな社会をつくるのだ。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。