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115カ国に広がるきれいの輪。ごみ拾いSNS「ピリカ」が目指すポイ捨てのない未来
- 増加が止まらない海洋ごみ。その発生源の7~8割は街から川を伝って流出したもの
- ごみ拾いSNS「ピリカ」は、清掃活動を可視化し、人と人とをつなぐことでごみ拾いの輪を広げる
- 一度のごみ拾い体験がポイ捨てを防ぐ。目指すのは、ごみが流出する量と回収される量が逆転する社会
取材:日本財団ジャーナル編集部
私たちが街を歩いていると、目にすることが多いポイ捨てごみ。街で捨てられ、放置されたこれらのごみが、海洋ごみの原因になっている現状をご存じだろうか。
2015年にMcKinsey & Company and Ocean Conservancyが発表した調査によると、海洋ごみの発生元の7~8割は街からの流出であるということが明らかになっており、ポイ捨てごみと、ごみを集積している地点からの漏洩(ろうえい)、災害時の応急処置で使用され経年劣化した製品や、農業資材の流出が原因であることが確認されている。
ポイ捨てと海洋ごみには密接な因果関係があるということだ。
2020年9月28日に行われた横浜市内のごみ拾いでは、わずか1時間で45キロ以上のごみが集まった。その理由として、「コロナで飲食店のテイクアウトが浸透したことによる、容器のポイ捨て増加」と市の職員は話す。
また、街のごみ箱減少もポイ捨ての理由の1つであろう。2022年6月のNHKによる報道では、2011年からの約10年で、京都市の街頭ごみ箱が半数以下になったとし、その理由として「家庭ごみ等が大量に持ち込まれることにより、かえって周りにごみが散乱し、業務量が増加している。予算の都合上、撤去せざるを得ない」と市の職員は話していた。
このポイ捨て問題。実は実態調査があまりなされていないという事実も伝えておきたい。環境省が2021年に行った調査では、「ポイ捨てごみ量の調査をしている」と答えた市長区村はたった8.9パーセントであった。
図表:ポイ捨てごみの量の調査実施有無
海洋ごみを減らすためには、ポイ捨てに関するさまざまな問題の調査・解決も必須と言えるだろう。
この深刻なごみ問題の現状を変えようと2011年に開発・リリースされたのがごみ拾いSNS「ピリカ」(外部リンク)だ。これまでポイ捨てごみの問題は、人々のモラルに訴えかける形で解決を試みられることが多かったが、このアプリはSNSという特性を活かしごみを拾うという行為を楽しくし、人とのつながりによってモチベーションを保てる工夫がされている。これまで(2022年10月時点)世界115カ国、延べ200万人の人が参加し、拾われたごみは合計2億個にも上る。
開発元である株式会社ピリカ(外部リンク)で取締役を務める村越隆之(むらこし・たかゆき)さんに、このユニークなSNSが秘めた可能性についてお話を伺った。
ごみ拾いを可視化し、人とのつながりでモチベーションアップ
ごみ回収・調査に関するさまざまなサービスを展開しているピリカは、組織のミッションとして、「2040年までに自然界に流出するごみの量と、回収されるごみの量を逆転させる」を目標に掲げている。
ごみ拾いSNS「ピリカ」が誕生したのは2011年のこと。代表の小嶌不二夫(こじま・ふじお)さんは7歳の時に小学校の図書室で環境問題の本に出合い、その解決を決意。その後、大学院時代に世界各地を周り、さまざまな場所でごみの山を目の当たりにして衝撃を受け、まずはごみ問題を解決することを心に決める。
「世界を周る中で、先進国であっても、アマゾンの奥地であっても、至る所にごみがあるということに小嶌は気が付いたそうです。これは世界中で起きていることだと認識した小嶌は、科学技術の力を使ってごみ問題を解決したいと考えました。その思いがごみ拾いSNS『ピリカ』の出発点です」と村越さん。
なぜSNSという形にしたのか。村越さんは小嶌さんから、当時このような話を聞いたという。
「最初はごみ拾いロボットの開発なども考えたそうですが、開発や運用に多大なコストもかかりますし、まずは人の手でごみを拾うのが最も効率が良いと考えました。また当時TwitterやFacebookなどのSNSが人気を集めていたこともあり、ごみを拾ってもらい、それを写真付きで投稿するというSNSの形に行き着きました」
ごみを拾うという活動は、その場がきれいになるだけなので形に残らない。しかし、ごみ拾いSNS「ピリカ」によって行為が可視化されると、記録として残り、さらにそれが他人に誉められたり、感謝されたりすることで、モチベーションを保てるというわけだ。
ポイ捨てごみの問題を人のモラルに頼ってなくすのではなく、人の輪やつながりを広げ、ごみ拾いという行為を加速させようとしている。
最初こそ投稿は、ピリカのメンバーのものばかりだったそうだが、その後どんどんとユーザー数を増やしていく。ごみ拾いSNS「ピリカ」に組み込まれた、数々のモチベーションアップの仕組みを、村越さんは説明してくれた。
「開発時にこだわった点が、アプリを立ち上げた時、最初に表示される画面を、今自分がいる場所のマップにすることでした。ごみが拾われた場所がマークで表示され、普段自分が生活している地域に、ごみを拾ってくれている人がいるということが確認できます。自分の家の近くでごみを拾ってくれた人がいると分かったら、『ありがとう』のリアクションを送りたくなると思いますし、それが拾ってくれた人のモチベーションにつながります。他にも頑張って活動している方にスポットライトが当たるよう、活動実績に応じてバッジ、他ユーザーへの影響度なども表示されるようになっています」
実際に、ユーザーからは「今まで1人でごみ拾いをしていると思っていたけど、『ピリカ』によって、自分の近くにもごみ拾いをしている人がいるんだと気付けて嬉しかった」というコメントも寄せられている。
その後、ごみ拾いSNS「ピリカ」の普及に拍車をかけたのがピリカ自治体版(外部リンク)の提供だ。ピリカ自治体版では、地域ごとのごみ拾い活動の様子や成果を1つのWEBページに集約しており、誰でも閲覧ができるようになっている。
例えば、渋谷区のWEBページには、ごみ拾いSNS「ピリカ」を使って渋谷区内でごみを拾った人の情報が自動的に抽出され、マップ上に表示される。個人ランキングや団体ランキングのほか、地域ごとのごみ拾い活動の推移もグラフ化される。
これまで地域で行われてきたごみ拾い活動では、ごみの量や参加人数の計測を主催者がアナログで行うことがほとんどだったが、ごみ拾いSNS「ピリカ」であればそれらを簡単に集計することが可能。さらに、その活動内容を自治体版のサイトに訪問した誰もが閲覧できるため、参加者数アップにもつながっているという。
渋谷区では、ごみ拾いSNS「ピリカ」導入前と後で、ごみ拾いの参加人数が2.5倍、拾ったごみの量が10倍にも増えたそうだ。
また、ピリカの取り組みはこれだけではなく、新たなサービスを次々に開発している。そのきっかけを村越さんはこう話す。
「世界はどのくらい汚れているかという指標が、実はあまりちゃんと定義されていないことに気が付きまして、そこで開発されたのがスマートフォン端末を活用したごみ分布調査サービス『タカノメ』です。カメラで街を撮影すると、落ちているごみを画像認識して判別。ごみがどこにどれくらい分布しているか、簡単に調べることができます」
このサービスにより、自治体が清掃ルートの検討や、施策の効果測定もできるようになったという。
また、海や河川にどのくらいマイクロプラスチックが流出しているかを調査するために開発された「アルバトロス」では、その発生源の1つが、フットサル場やテニスコート、運動場で使われている人工芝であることを突き止めた。
ピリカでは拾ったごみの再資源化にも力を入れている。
「僕らはごみの地産地消と言っているのですが、フットサル場から出たマイクロプラスチックごみを使って、フットサル場で使うコーンの製造なども行っています」
ごみを拾って終わりではなく、流出元の解析や、ごみの活用など、ピリカはあらゆる角度からごみ問題の解決に取り組んでいる。
一度ごみを拾うことで、ポイ捨て防止につながる
海洋ごみの原因でもあるポイ捨てごみに対して、私たちはどのようなアクションをとっていけばいいのだろか?村越さんはこう話す。
「ぜひ一度、ごみ拾いSNS『ピリカ』を使っていただけたらと思います。ごみ拾いをすることには複合的な意味合いがあると思うんです。一度ごみ拾いをしたことがある人は、ごみを捨てなくなるという調査データがありますし、誰かがごみを拾ったことが『ピリカ』を通して伝われば、それは他の人のモチベーションにもなります。『ピリカ』によって今の目の前にあるごみをなくすだけでなく、未来のポイ捨てごみまでなくしていきたいですね」
かつてGoogle等の大企業で働いていた村越さんは、2021年から取締役としてフルタイムでピリカに参加している。その理由を伺うと、当時をこう振り返ってくれた。
「3歳になる息子がいるのですが、外を歩けるようになった時、道に落ちていたタバコの吸い殻を拾いまくって、うれしそうに僕に見せてくれたんです。その姿を見て初めて『あ、自分がなんとかしなくちゃ』と怖くなりました。それまでもピリカがやっていることはとても意義のあることだと感じてはいたのですが、自分のミッションだと強く思ったのはその時でしたね」
村越さんのように、社会課題を自分ごとだと捉えられた瞬間、人の意識や行動は変わる。海洋プラスチックごみの問題は、決して遠い世界や遠い未来の話ではない。私たちの行動の一つ一つが地球のあらゆる場所に、そして未来につながっていることを意識していきたい。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。