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【増え続ける海洋ごみ】今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること
- 海洋プラスチックごみ問題が深刻化、2050年には魚より海洋ごみの量が多くなると言われている
- 海洋ごみの7〜8割が街から発生。雨が降った際などに路上のごみが川や水路に流出し、海へ至る
- 国や企業だけでなく、一人一人のごみを減らす意識や行動が、海の未来を守る
取材:日本財団ジャーナル編集部
※この記事は2020年4月27日に公開した記事を再編集しています
私たちの海がごみで溢れようとしている。プラスチックごみだけをとっても、世界に合計1億5,000万トン以上(※1)の量が存在していると言われ、毎年約800万トン(ジャンボジェット機にして5万機相当)(※2)に及ぶ量が新たに流れ出ていると推定される。美しい海が消える。これは、遠い未来の話ではなく、私たちの子どもや孫の世代に起きうる問題なのだ。
- ※ 1.参考:WWFジャパンWEBサイト「海洋プラスチック問題について」、McKinsey & Company and Ocean Conservancy(2015)
- ※ 2.参考:WWFジャパンWEBサイト「海洋プラスチック問題について」、Neufeld,L.,et al.(2016)
特集「増え続ける海洋ごみ」では、人間が生み出すごみから海と生き物たちを守るためのさまざまな取り組みを通して私たちにできることを考え、伝えていきたい。今回は、海洋ごみ問題のおさらいと注目すべき取り組みについてご紹介する。
増え続ける海洋プラスチックごみ
世界の国々が2030年までに達成すべき17の目標として、2015年9月に国連サミットで採択された持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」(外部リンク)。最近では、メディアなどでも取り上げられることが多いSDGsの14番目の項目に掲げられているのが「海の豊かさを守ろう」(外部リンク)である。
海洋ごみにもさまざまな種類があるが、もっとも問題とされているのがプラスチックごみである。海洋ごみの半分以上を占めるプラスチックごみは、その素材の性質上滞留期間が長く、中には400年以上海の中を漂うものもあるという。
図表:海洋ごみでプラスチックごみが占める割合
環境省の調べによると、毎年海に流出するプラスチックごみのうち2〜6万トンが日本から発生したものだと推計される。このままでは2050年の海は、魚よりもごみの量が多くなる(別タブで開く)と言われるほど問題は深刻化している。
海の生物たちへの影響も甚大だ。これまでに魚類をはじめ、ウミガメや海鳥、クジラなどの海洋哺乳動物など少なくとも700種ほどに被害をもたらしている。この内92パーセントがプラスチックごみによる影響(※)で、例えば、ポリ袋を餌と間違えて食べてしまったり、漁網に絡まったりして傷つき、死んでしまうことも日常だ。
- ※ 参考:WWFジャパンWEBサイト「海洋プラスチック問題について」、Gall & Thompson(2015)
また、プラスチック製品が紫外線による劣化や波の作用などにより破砕され、5ミリメートル以下の欠片となったマイクロプラスチックの影響(別タブで開く)も懸念されている。例えば、マイクロプラスチックがサンゴに取り込まれ、その影響でサンゴと共生関係にある褐虫藻(かっちゅうそう)が減少する、といった現象が報告されている。人工的に作り出されたプラスチックが、自然界で完全に分解されるまでには数百年以上と途方もない時間がかかる。さまざまな生物同士のつながりによって成り立つ海の生態系のバランスを、マイクロプラスチックが崩してしまう可能性があるのだ。
海洋プラスチックごみがこのまま増え続けると、漁業や観光業への影響だけでなく、船舶運航の障害、沿岸中域の環境も悪化。これは、はっきりと分かっている問題だけで、地球の表面積の7割を占める海の汚染が及ぼす影響は未知数の部分も多い。
海洋ごみの7〜8割は街から
海洋ごみはいったいどこから来るのか。その大半は私たちが暮らす街からである。街で捨てられたごみが水路や川に流れ出し、やがて海へとたどり着く。
図表:海洋ごみの発生メカニズム(プラスチック)
日本財団と日本コカ・コーラ株式会社が2019年4月から12月にかけて東京都、神奈川県、富山県、岡山県、福岡県の河川流域を中心に実施した「陸域から河川への廃棄物流出メカニズムの共同調査」(別タブで開く)によると、ごみの発生原因は「投棄・ぽい捨て系」「漏洩(ろうえい)系」の2つに大別されることが分かった。
「投棄・ぽい捨て系」では、これまでモラルの問題と一括りにされることが多かったが、社会的な問題や産業構造などが要因でごみを投棄・ぽい捨てせざるを得ない状況も発生していることが明らかとなった。
一方「漏洩系」では、ごみを集積している地点からの漏洩や、災害時の応急処置で使用され経年劣化した製品や農業資材の流出が確認された。
では、そのような流出経路をたどる海洋ごみに対し、どのような対策が有効なのか。ここからは日本財団とステークホルダーが取り組むプロジェクトについて紹介したい。
海洋ごみ削減を実現するビジネスを創出
日本財団、JASTO(外部リンク)、 株式会社リバネス(外部リンク)が中心になって展開する「プロジェクト・イッカク」(別タブで開く)は、「海洋ごみ問題の根本は生産、消費、廃棄を原理とする経済システムそのものにある」という考えのもと、「これ以上、海にごみを出さない」システムの構築を目指している。
2019年に異分野の専門家たちと複数のチームを立ち上げ、「衛星画像による広域漂着ごみ可視化システム」「ドローンによる海岸漂着ごみ解析サービス」「海ごみを代替燃料化する自律分散型エネルギーシステム」「牡蠣パイプごみ及び人工芝ごみの回収・再資源化サービス」などといった、8つのビジネスを開発。循環型社会の実現に向けて、2022年より本格的にスタートさせた。
「コスプレ」を軸にアワード、一斉清掃活動、シンポジウムを実施
世界最大のコスプレイベント「世界コスプレサミット」(外部リンク)と日本財団がタッグを組み、海洋ごみ削減に貢献したコスプレイヤーを表彰するアワードや、国内外のコスプレイヤーによる一斉清掃活動など行っている。2019年6月に開催され「コスプレde海ごみゼロ大作戦!in東京タワー」(別タブで開く)では、世界の人気コスプレイヤーや一般参加者合わせて総勢430名が集結し、2,700リットル(1袋30リットル)もの街ごみを回収。人気漫画『ワンピース』のモンキー・D・ルフィに扮した日本財団・笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長も話題を集めた。
自動回収機によるペットボトルの新しい回収スキームを構築
日本財団とセブン-イレブン・ジャパン株式会社、行政の連携により、セブン-イレブン店舗への自動回収機設置による新しいペットボトルの回収スキームの構築(外部リンク)に取り組んでいる。キャップやラベルをはずした使用済みのペットボトルを回収機に投入すると、自動的に圧縮・減容。利用者にはnanacoポイントが付与されるなど利用促進が図られる仕組みになっている。また、これにより使用済みペットボトルから再びペットボトル(BtoB)にするために必要となる高純度なプラスチック素材を作り出すことが可能に。
現在自動回収機は、東京都大和市(15台)、東京都渋谷区(1台)、沖縄県那覇市(20台)、神奈川県藤沢市(15台)、神奈川県横浜市(120台)の店舗で展開しており、今後も増える予定だ。
海洋プラスチックごみ問題を科学的に分析し、正しい情報を発信
日本財団は東京大学と共同プロジェクト(別タブで開く)を立ち上げ、海洋プラスチックごみの発生メカニズムや、人体への影響などについて研究・対策に取り組んでいる。問題の解決基盤となる科学的知見を充実させ、正しい情報を国内外に広く発信することで、社会全体で解決するためのアクションにつなげていく。
「地域ぐるみ」で取り組む「海にやさしい」社会づくり
美しい富山湾を臨む富山市で始まったのが、市民を巻き込んだ「地域ぐるみ」での海洋ごみ対策モデルづくり(外部リンク)だ。日本財団と連携し、これまで神通川支流などでごみ流出のメカニズムを調査したほか、子どもたちが海洋ごみについて学ぶモデル授業なども展開。さらに、地元のプロスポーツチームなどと連携した市民一斉のごみ拾いなどを実施するなど、さまざまなアクションで「海にごみを出さない」という意識を広げている。
また、瀬戸内海に面する岡山、広島、香川、愛媛の4県と日本財団が手を組み、瀬戸内海の海洋ごみの削減を目指す共同事業「瀬戸内オーシャンズX」(外部リンク)を2020年にスタート。4県の海洋ごみ発生源調査・研究と共に、企業や地域と連携したバリューチェーン(価値連鎖)の構築、海ごみゼロアクションを促す啓発・教育プロジェクトの実施、それらの知見をもとにした政策形成を行い、海洋ごみ対策の広域モデルの構築を目指している。
全国一斉清掃活動の推進と対策モデル事例の発信
日本財団では環境省と連携し、全国一斉清掃キャンペーンの実施や海洋ごみ対策のモデル事例の発信を行っている。
「海ごみゼロウィーク」(外部リンク)は、5月30日(ごみゼロの日)から6月5日(環境の日)を経て、6月8日(世界海洋デー)前後を「海ごみゼロウィーク」と定め、「海ごみゼロ」を合言葉に一斉清掃活動を推進。日本全体が一緒になって、海洋ごみ削減のためのアクションを行うことで、一人一人の「ごみを出さない」「ごみを捨てない」「ごみを拾う」という意識を高め、美しい海を未来へとつなぐ。2019年度は全国約1,500箇所で清掃イベントが開催され、約43万人が参加した。
海洋ごみ対策に関する優れた取り組みを全国から募集・選定し、表彰する「海ごみゼロアワード」(外部リンク)も実施している。実践的活動や普及啓発などの取り組みに贈られる「アクション部門」と、革新的な技術や製品に贈られる「イノベーション部門」、将来に向けた広がりが期待される取り組みや着想に贈られる「アイディア部門」を設置し、その功績を讃えると共に日本のモデル事例として世界に発信するのが目的だ。2019年度には、254件もの団体から応募があった。
海を守るには私たちの意識変化がカギ
増え続ける海洋ごみに対し、国や企業による取り組みも重要だが、私たち一人一人が普段からごみを減らす努力をすることが、何よりも効果的だ。
例えば、日頃の生活ですぐに実践できるものとして、3R(スリーアール)がある。3Rとは「Reduce(リデュース)」「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」の頭文字を取った3つの行動の総称であり、限りある地球の資源を有効的に使う、循環型社会を目指すものである。
- Reduce…使用する資源の量を少なくすること、廃棄物の発生を抑制すること
- Reuse…使用済みとなった製品を廃棄せずに、繰り返し使用すること
- Recycle…廃棄物などを原材料やエネルギー源として再利用すること
2019年11月に開催された「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019」の基調講演で登壇した小泉進次郎環境大臣(別タブで開く)は、「小さな行動が地球の未来を救う」と語り、「個人レベルでも、水道水をマイボトルで持ち歩くようにすれば、家計にも環境にも良いですよね。一人一人ができること、企業や自治体にできること、環境省はそれらを全力で応援しますから、ぜひみんなでソーシャルイノベーションを起こして行きましょう!」と呼びかけた。
小泉大臣の基調講演の後にスピーチを行った日本財団・笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長も「簡単なことでいいから一歩前に踏み出してほしい」と行動を起こすことの大切さを語った。
マイボトルの他にも、ごみをポイ捨てしない、過剰包装を避ける、マイバックを持参するなど、私たちにできることは多い。四方を海に囲まれ、長年その恩恵を受けて暮らしてきた私たち日本人。一人一人の環境に対する意識の変化が、海の未来を変えるはずだ。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。