きれい事だけじゃ海は守れない。「日本一楽しいごみ拾い」に取り組むNPO代表の哲学

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ごみ拾いの後、きれいになった砂浜で遊ぶ子どもたち

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

・“意識が高い”だけのイベントに人は集まらない。素直に参加したいと思う動機づくりが必要

・全国で一斉に“海ごみ”に注目すれば、人の関心が高まり社会も変わる可能性が高まる

・一人ひとりがごみが海に与えるダメージや、ごみの発生原因を知らなければ、海の未来は守れない


今年で設立14年目を迎えるNPO団体「海さくら」は、「タツノオトシゴが帰ってくるぐらい、江の島の海をきれいにする」ことを目標に活動している。彼らが毎月開催するごみ拾いイベントは評判が高く、数百人ものボランティアが集まることもある。

代表を務めているのは、老舗船具屋を営む古澤純一郎(ふるさわ・じゅんいちろう)さん。かつて古澤さんはボランティア活動や社会活動を「偽善的」とすら感じていたという。なぜNPO団体を立ち上げるに至ったのだろうか。江の島、そして海への思いとともに、その軌跡を伺った。

ゆるく楽しい「社会活動」の始まり

老舗の船具店に生まれた古澤さんにとって、海や川は子どもの頃から身近な存在だった。中でも心惹かれたのが、江の島の海だったという。「デートもプロポーズも、すべて江の島でしたんですよ」と懐かしむ。

かつてはごみが落ちている浜辺を見ても「そういうものだ」と、気に留めていなかったという古澤さん。しかし江の島へ何度も通うにつれ、「きれいにしたい」と思うようになった。「子どもが生まれた影響も大きいですね」。子どもたちが楽しく遊べる、きれいな海を残したいと考えたのだ。

そうして1人でごみ拾いを始めたが、あまりのごみの量に圧倒された。

「学生時代は強豪テニス部に所属して、ボールボーイを何カ月も続けた経験がありました。“素早く的確に拾う”ことに関してはプロ級との自負があったのですが…。やっぱり1人では限界がありましたね(笑)」

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NPO団体「海さくら」代表の古澤さん

また、海洋ごみを何とかしたいと思う反面、声を上げることにためらいも感じていたという。

「そういったことは“偽善者”や“意識高い系”の戯れ言と受け取られるんじゃないかと思っていたんです。実際、僕自身がそう感じていましたから」

そんな思いを変えるきっかけとなったのが、沖縄出身のミュージシャン、BEGIN(ビギン)主催の「うたの日コンサート」だった。イベントはとても楽しかった一方で、戦争や平和について考えさせられたそう。

「沖縄の人たちは戦時中、防空壕の中に入ると小さな声で歌って励まし合っていたそうなんです。コンサートではそんな歴史を伝えつつ、『今は大きな声で歌えて幸せだね』と、言外(げんがい)に戦争がないことの喜びを語っていました」

“戦争の悲しみと平和の大切さ”を楽しいイベントの中で考えさせる。押しつけがましくないその手法に、「これならやってみたい!」と古澤さんは思った。

写真:海でごみを拾い集める大勢の一般ボランティア
今では多くの参加者が集う「海さくら」も初めから軌道に乗ったわけではない

そうして「海さくら」を設立するも、最初の2年間はほとんど人が集まらなかったという。学生時代の友人にお願いして来てもらっていたが、「楽しくはなかった」と述懐する。

「当時は世間体を気にして、真面目に『海をきれいにしよう!』と語っていました。それは本当に心から思っていることなのですが、周りからすればきれい事に聞こえるんですよね。それにそもそも、ごみ拾いをするだけのイベントに人が大勢集まるわけがない。僕だって、大切な時間を割いてボランティアのごみ拾いに参加しようとは思ったことはありませんでしたから」

どんなごみ拾いなら、自分は積極的に参加するだろうか。例えばおいしいものが食べられる。面白いゲームができる。人との出会いがある。そんな楽しいものなら、参加したいと思うだろう。そうして古澤さんが自身の気持ちに素直になってごみ拾いを企画するうちに、参加者が徐々に増えていった。

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2006年、第3回目のごみ拾いに集まったボランティアメンバー

設立から14年。苦労を乗り越え、「目指せ!日本一楽しいごみ拾い」をスローガンに掲げる「海さくら」は、毎回大勢のボランティアが集まるほど成長した。

相撲取りとごみ拾い?ユニークな「海さくら」の企画

「面白いゴミ拾った選手権」に、3分間で誰が一番たばこの吸い殻を拾うことができるかを競う「タバコフィルター選手権」、「海の日」にみんなで青いサンタクロースになってごみを拾う「ブルーサンタ」、ラップイベントとごみ拾いが融合した「RAPごみ拾い」など、「海さくら」が企画するイベントは多岐にわたり、どれも老若男女が楽しめるよう工夫されている。

中でもインパクトのある企画の一つが「どすこいビーチクリーン」だ。このイベントでは、現役の相撲取りと一緒にザルで砂をこして、徹底的に浜をきれいにする。そうして、くぎやガラスがない安全な土俵を作り、相撲を体験するものだ。この企画はどのように実現したのだろうか。

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相撲体験ではしゃぐ子どもたち

「今は家業である船具店を継いでいますが、その前は広告代理店で働いていました。そこで相撲部屋に、深川の『どすこいうどん』を紹介したことがあって。そのつながりがあり、お相撲さんとごみ拾いができたら楽しそうだな…と思いつき、相談したところ、ご協力いただけることになりました」

2015年から始まったこの企画は話題を呼び、多くのメディアに取り上げられた。日本財団ともこの企画をきっかけに関わりが生まれ、今となっては一緒に海洋ごみの問題解決に向けて取り組むパートナーとなっている。

「海さくら」は、2019年5月30日から6月8日にかけて日本財団と環境省が主催する「海ごみゼロウィーク」にも参加している。日本全国で同時にごみ拾いを行うこの取り組みに関して、「環境問題に“せーの”でみんなが目を向ける期間を設けることは、本当に意味あるものだと思います」と古澤さん。

「環境問題に関心がある方は全国にいるのに、普段はそれぞれの団体がバラバラに動いています。それでは、環境問題にあまり興味がない人に事の深刻さを伝えることはできない。全国で一斉に“海ごみ”に注目すれば、みんなが話題にしているなら参加してみようかな…と思ってくれる人もいるでしょう」

豊かな海を守ることは重要な課題であると多くの人が認識している一方で、海洋ごみがどれほど自然にダメージを与えているか、そもそも海洋ごみがどのように発生するのかを知る人は少ない。警鐘は鳴らされているのに、状況は改善するどころか悪化している。

「これは、正確な知識が広く伝えられていないことも原因の1つだと思うんです」と古澤さんは言う。例えばプラスチックストロー。メディアでもたびたび取り上げられ、2020年までにプラスチックストローの使用を中止すると発表した企業もあるが、なぜプラスチックストローが問題なのか。その具体的な理由は案外知られていない。

「海洋ごみのほとんどが、下水道を通って川・街から流れてきたものです。その多くをプラスチックごみが占めていて、これが結果的に海洋生物を傷つけることもあります。だからまずは、プラスチックストローをやめることから始めようというわけです」

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海洋ごみは、官民が一緒に解決するべき問題と考える古澤さん

何が原因でどんなことが起きているのか。個人単位でこれを理解していなければ、大きな変革を起こすことはできない。

「そういったことに興味を持ってもらうためにも、海ごみゼロウィークは海洋ごみの深刻さを体感できる。多くの人に自分事として捉えてもらう絶好の機会だと思っています」

タツノオトシゴが帰りたくなる、美しい海の森を目指して

森の中には多種多様な生き物が暮らし、食物連鎖によりつながっている。それは海も同じことだ。

「僕はダイビングが好きで、たまに海に潜るんです。数年前までは江の島の海底には豊かな海藻がたくさんあったと聞きます。最近は、すごい勢いで姿を消しています」と、心配そうに古澤さんは語る。

「海さくら」の目標である「タツノオトシゴが帰ってくる海」を実現するには、海藻の森は必須だ。海藻に付着する微生物が多くの海の生き物たちの栄養になるからである。

そんな大切な海藻が、なぜ姿を消しているのだろうか。ここにも海洋ごみの問題が関わる。海藻が育つのに必要な太陽光を、ごみが遮ってしまうのだ。また、ごみや汚水によって水質が悪化していることも原因の1つと考えられている。

そこで「海さくら」は、ごみ拾いを継続しながら海の環境面からもアプローチすることにした。「海創造プロジェクト」と題し、2015年から神奈川県水産技術センターの協力・監修を受け、定期的な水質検査を実施。と同時に、タツノオトシゴがすみかにする「アマモ」と呼ばれる海草の苗を海底に植えて、育てている。移植ではなく、種から育てることでアマモの遺伝子を相模湾産にし、しっかり根付かせることが重要になる。

「専門家や技術者と連携し、協力を仰いだ結果、海草の一種である『アマモ』を増やすことが一番だという結論に至りました。ただ、増やせばいいというものではなく、アマモを植えることに生態系上問題がないのか、慎重に検討を重ねました。いまは、しっかり見守りながら時間をかけて取り組んでいます」

豊かな海の森が蘇ることを目指し、地道にコツコツと努力を重ねているのだ。

写真:ケースに入ったアマモの苗
海にアマモの苗を植え付けて、豊かな海の森を蘇らせる「海創造プロジェクト」
写真:海底でゆらぐアマモの苗
成功と失敗を繰り返し、アマモが元気に育つ環境を模索している

ユーモアを交えて語り、終始笑顔を絶やさない古澤さんだが、「とにかく本当に、そろそろ皆で海をきれいにしないと」と、真剣な面持ちになる。

「毎月たくさんの方がごみ拾いに来てくれます。それでも、流れ着くごみは減りません。街のごみを減らす必要があるんです」

海のごみの約8割が街からやってくる。海を変えるには、まずは街・生活を変えなければならないのだ。そのため、「海さくら」の清掃活動は海だけでなく、街にもおよぶ。そんな古澤さんを突き動かす海への思いとは何なのか。

「深い理由なんてありません。やっぱり、恋人たちが訪れたときには、きれいな海であった方が素敵ですし、子どもたちにも楽しく気持ち良く、海で遊んでほしい。それぐらいシンプルな動機なのです」

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「海さくらって、ロマンチックでしょう」と笑う古澤さん

団体名の「海さくら」は、古澤さんが作った言葉だ。夕日に照らされた海はキラキラ光り、まるで薄紅の桜が散っているように見えるのだという。

「いつか波打ち際まで“海さくら”が届くほど、ごみのない海にしたい。それはきっと、とてもきれいな光景でしょうね」

楽しく、無理なく、そして着実に、多くの人に海の大切さを伝えながら活動を続ける古澤さん。「海さくら」が足元まで伸びる浜辺を夢見て、今日も海と向き合っている。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

古澤純一郎(ふるさわ・じゅんいちろう)

古沢工業株式会社代表取締役、NPO法人「海さくら」代表。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、大手デパートにて3年間勤務した後、広告代理店で5年間マーケティング営業の業務に従事。退社後、現職。
海さくら 公式サイト(外部リンク)

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