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死にたいほどがんばってきた人が、もうがんばらなくていいように
執筆:三島つむぎ
死にたいほどがんばってきた人が、最後に、本当に自分でいのちを絶ってしまう。
そんな報道を目にするたびに、うまく息が吸えなくなる。
この文章を書いている私も、当事者だった。
大切な人を見送って、遺された立場であると同時に、自分自身も苦悩を抱えながら生きてきた。
きれいごとは言いたくない。
ただ、死にたいほどがんばってきた人が、もうがんばらなくていいように。何ができるのか考え続けている。
死にたい人ほどつらい人、それを支える人の苦悩が増えている
この記事は、いま「死にたい」と思っている方や、そんな方をそばで支えている方へ、小さくても何かヒントをお届けできれば……という思いで書いている。
日本財団「第4回 自殺意識全国調査報告書」 によれば、4人に1人が本気で自殺したいと考えたことがあり、6.2パーセント は自殺未遂経験者だ。
「周りの人を自殺で亡くした経験がある」という人も4人に1人となっており、多くの人が直面し得る社会問題といえる。
自分が自殺問題に直面したときの考え方
もし、これらの問題に自分が直面したら、どう向き合っていけばよいのだろう。
「万人に共通する、唯一の正解はない」という前提のもとではあるけれど、4つのポイントをご紹介したい。
1.死にたい気持ちを全否定しない
とてもデリケートな問題だから、ていねいにお伝えしたい。私は、誰かが「死にたい」と思う気持ちを、否定したくないと考えている。
「そういうことを考えるのは、絶対にダメ」
「家族の気持ちを考えたら、そんなことはできないはずだ」
「自殺なんて、最低の行為」
とても、正しい意見かもしれない。そのポジションから強く意見を述べ続けてくださる方の存在が、多くの人を救うことも理解している。
一方で、人が自らいのちを絶つ背景には、どうしようもなく苦しくて、現実と正面を切って向き合えない事情がある。
死にたい気持ちを全否定することは、そんな苦しさを抱えながら旅立っていった人たちや、いま苦しみの渦中にいる人たちを否定する気がして、私にはできないのだ。
死にたい気持ちを受け入れることと、ほんとうに死んでしまうことは、別のこと。
死にたい気持ちを受け入れても、死ななければいい。そう考えている。
2.ただ、私はあなたに死んでほしくない
ただ、絶対的な確信を持って、断言できることがある。
私は、あなたに死んでほしくない。
“死にたい気持ち”は、痛いほど、よく分かるつもりだ。
道はないとしか思えないことも、絶望する気持ちも、意味を見いだせない空虚な毎日も、黒の深すぎる孤独も———。
軽い気持ちで、死にたいなんて言っていないことを、知っている。そのうえで、やっぱり、あなたには生きていてほしい。
3.100パーセント助かる方法を期待しない
では、具体的にどうやって、この闇を抜ける手がかりをつかんでいけるだろうか。
一般的には、いのちの電話、心療内科の受診、行政窓口や学校への相談、などの行動が提案される。
どれも、救われる人の多い選択肢だ。
しかし、修羅場をくぐってきた経験からは、「勇気を出して行動しても、状況が好転しない人もいる」という事実を、あえてお伝えしたいと思う。
一歩を踏み出して行動したのに、解決しなかったことに絶望して、旅立ってしまった人を知っているからだ。
ご提案したいのは、「あらゆる選択肢は、フィフティー・フィフティーで、半分だけ、助かる確率がある」と考えることである。
その真意は、「“これで絶対に助かる”という、100パーセントの期待をしてよい選択肢は、存在しない」と心構えすることで、うまくいかなかったときのショックから、こころを守るということ。
世の中は繊細なグラデーションになっていて、あいまいなこと、よく分からないことがたくさんある。
期待し過ぎず、成功確率は五分五分、くらいの気楽さを持てたら、少し肩が軽くなるはずだ。
4.最後の砦は無限にある
同時に知っておきたいのが、「“100パーセント助かる絶対の方法”はないけれど、“フィフティー・フィフティーの確率で助かる選択肢”は、無限にある」という事実である。
“最後の砦”というものは、ない。最後の砦は、無限にあるからだ。
「これが最後の砦だから、この方法がダメだったら、もうダメだ」と、思い込まないでほしい。
最後の砦は、たくさん、たくさん、無限に出てくるものである。
フィフティー・フィフティーのアイデアリスト
フィフティー・フィフティーのたくさんの選択肢から、何が合うか?は、実際に試してみて、試行錯誤しながら探し当てることになる。
選択肢をたくさん持っていれば、その分、探し当てる確率が高くなる。
あなたに合うかはフィフティー・フィフティーだけれど、ここではいくつかのアイデアをご紹介したい。
1.経口補水液とサプリメント
いきなり即物的なお話で申し訳ないのだが、「水分と栄養」を身体に補給することの重要性を、ひしひしと感じている。
精神状態がよくないとき、「飲む・食べる」といった生命維持につながる行動を、なんとなく回避してしまうことがある。
しかし、脳に必要な水分や特定の栄養素が不足することで、精神症状が出ることがあるのだ。
自分の“こころの苦しさ”が何由来なのか、問題を切り分けしないといけない。
たとえば、塩分・水分が不足して脱水症状に陥ると、体調が悪くなり「イライラ」などの精神症状が出る。
図表:塩分・水分の不足で起きる症状
こころがとても不安定になったとき、塩分(ナトリウム)と水を補給できる「経口補水液」を飲むと、落ち着くことがある。
[経口補水液とは?※資料3]
経口補水液は、水にナトリウムなどのミネラルとブドウ糖を一定の割合で配合した飲料。 体液とほぼ同じ浸透圧のため、吸収率・吸収速度が非常に高く、「飲む点滴」とも呼ばれている。 スポーツドリンクに比べて糖分が少なく塩分が多く含まれている。暑さや発熱などで大量に汗をかいたときや、下痢や嘔吐による脱水症状が出たときの水分補給には、経口補水液が適している。経口補水液を一時に大量に飲むと、ナトリウムの過剰摂取になる可能性もあるので、腎臓、心臓等の疾患の治療中で、医師に水分の摂取について指示されている場合は、指示に従おう。
ほかには、マルチビタミンミネラルやプロテインなどのサプリメントも、助けとなる。
もちろん理想は、「栄養バランスのとれた食事をしっかり食べる」ことだ。
しかし、苦しい局面では、そんな余裕も気力もないことが、ほとんどではないだろうか。
そんなときでも、経口補水液やサプリメントを活用して、最低限の水分と栄養を体に補充することは、ひとつの選択肢である。
2.情報の遮断
近年では、SNSを通じて、簡単に人とつながることができる。
こころに痛みを持つ者同士、共鳴して、支え合うこともあるだろう。
その選択肢もフィフティー・フィフティーのひとつだが、逆に、SNSをはじめとする情報を遮断する選択肢もある。
こころがとても弱っているときは、なかなか人間関係がうまくいかない。新しい出会いが、新しい悩みを運んでくることもある。
SNSのタイムラインには、自分が目にしたくない情報も、向こうから飛び込んでくる。
つらいニュースが、人々の好奇心をあおるエンタメとして消費され、当事者の傷をえぐって回るブーメランのように飛び交う日も、珍しくない。
あえて見ないと決め、情報を遮断することも、選択肢だ。
3.本を読む
インターネットから無作為に情報を得るのをやめたら、時間が余るかもしれない。
そんなときには、本を開いてみる。
心ある作者や編集者・出版社によって、ていねいに紡がれた書籍なら、安心して接することができる。
参考までに、私が読んでいた本で、記憶に残っている2冊をご紹介する。
- 『自殺って言えなかった。』(外部リンク) 編集:自死遺児編集委員会・あしなが育英会(サンマーク出版)
- 『空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集―』(外部リンク) 編集:寮 美千子(新潮社)
4.自助グループに参加する
「自助グループ」をご存じだろうか。同じ問題を抱えている人たちが集まって、問題を分かち合う場のことである。
[自助グループとは?※資料4]
交通被害者やアルコールや薬物などの依存症の人たち、犯罪被害者など同じ問題を抱える人たちが自発的に集まり、問題を分かち合い理解し、問題を乗り越えるために支え合うのが目的のグループ。同じ問題を抱えている人たちが対等な立場で話ができるため、参加者は孤立感を軽減されたり、安心して感情を吐露して気持ちを整理したり、グループの人が回復していくのをみて希望を持つことができたりと、さまざまな効果が期待できる。
自助グループに関する情報は、お住まいの都道府県のWebサイトなどで提供されている。
自助グループでは、参加者が安心して参加できるようにルールが定められており、その点で安全に参加しやすい場といえる。
誰かとつながりたくなったとき、SNSで見知らぬ人とつながる以外にも、同じ悩みを持つ人と出会える選択肢があることを、知ってほしいと思う。
最後に、個人的な話を、少しさせてほしい。
助かるための選択肢は無限にある、とお伝えしたが、最終的に私を救ってくれたのは、“にんげん”ではなかった。
一度目は、どしゃぶりの雨の日に目の前に現れた、犬だった。二度目は、やっぱりどしゃぶりの雨の日に現れた、猫だった。
私よりも小さい、消えそうな命を守ろうと必死になるうちに、私は、“にんげん”としてのつらい時間を、やり過ごすことができた。
にんげんのことで悩んでいる人に、にんげんの素晴らしさを押し売りしたくはない。
ほんとうに厳しい状況にいる人たちの、「助けてくれる人なんていない」という声を、否定したくないから。
けれど、あなたの味方になってくれる“存在”まで、否定しないでほしい。きっと出会えるから、いまを、どうか、生き延びてください。
困りごとや悩みごと相談窓口一覧(電話、SNS)|厚生労働省(外部リンク)
[資料一覧]
※1.引用:日本財団「第4回 自殺意識全国調査報告書」 (外部リンク)
※2.引用:農林水産省「aff 2018年8月号」(外部リンク)
※3.出典:農林水産省「過去の相談事例」(外部リンク)
※4.出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「自助グループ」(外部リンク)
〈プロフィール〉
三島つむぎ(みしま・つむぎ)
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。ライターとして、企業における課題解決や、メンタルヘルス問題の当事者としての経験を伝える活動も行っている。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。