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児童養護施設出身、3人組YouTuberが語る「児童虐待をなくすには?」への答え
- 2021年度の児童虐待の相談対応件数は20万件を超え、過去最多に
- 児童養護施設出身者のユニット・THREE FLAGSは、社会的養護の今を情報発信している
- 親自身が幸せになることを諦めない。それが、子どもを幸せにすることにもつながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
社会的養護とは、保護者のいない子どもや、保護者に育てさせることが適当でない子どもを、公的責任で社会的に養育し、保護すると共に、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことであり、主なものに児童養護施設、里親制度などがある。
社会的養護が措置される理由として最も多いのが親からの虐待だ。
厚生労働省の調査(※)によると、児童虐待の相談対応件数はほぼ右肩上がりで伸び続けており、2021年度は過去最多の20万7,659件を記録した。
図表:児童虐待相談対応件数の推移
増加要因としては、心理的虐待相談件数の増加や、虐待相談窓口の普及による家族・親戚、近隣知人、児童本人等からの通告が増加したことが挙げられる。
2020年の調査(※)では、児童虐待相談があった中で実際に一時保護がなされるのは13.3パーセント、そのうち児童養護施設等の施設に入所する子どもは15.8パーセントとなっている。
児童虐待の要因には、親自身の生い立ち、家族の孤立、貧困など、さまざまな問題が複雑に絡み合っており、決して当事者家族だけで解決できる問題ではない。
今回は、児童養護施設出身の3人が当事者活動(※)を行う中で出会い、立ち上げたユニット「THREE FLAGS(スリーフラッグス)」(外部リンク)に、各々の体験談を交えながら、当事者の視点から社会的養護下にある子どもたちに必要だと思う支援、児童虐待をなくすためにできることを伺った。
- ※ 児童養護施設出身者同士で集まり、意見交換会等の活動を行なうこと
[THREE FLAGS メンバー紹介]
西坂來人(にしざか・らいと)
愛称はライト。東京を拠点に映画監督、絵本作家として活躍。父による家庭内暴力から逃れるため小学5年生〜6年生の時期を児童養護施設で過ごす。中学生に上がると同時に家庭復帰し、以降は母子家庭で育つ。
山本昌子(やまもと・まさこ)
愛称はまこちゃん。ボランティア団体ACHAプロジェクトを主宰。生後4カ月にネグレクトが原因で保護され19歳まで、乳児院、児童養護施設、自立援助ホーム(※)で過ごす。
- ※ なんらかの理由で家庭や施設にいられなくなり、働かざるを得なくなった15歳から22歳までの若者たちが入居し、生活をする場所
ブローハン・聡(ぶろーはん・さとし)
愛称はBRO。児童養護施設出身者としての講演活動のほか、フリーでタレント、モデル、弾き語り配信などを行う。義父からの虐待により11歳で保護され、7年間を児童養護施設で過ごす。
みんなが正しく知ることで、後輩たちの希望に
THREE FLAGSは2019年、児童養護施設出身で当事者活動をしていた3人で結成された。その活動は多岐にわたり、メディア出演のほか、児童養護施設の職員や福祉団体に所属する支援員に対して研修を行うことも多いという。
活動の柱となっているのはYouTubeチャンネル「THREE FLAGS -希望の狼煙(のろし)-」(外部リンク)での動画発信だ。
番組説明には「児童養護施設出身の3人の視点から社会を考え、新しい未来を作るための“声”を発信する情報発信番組」と書かれている。
社会的養護に関する情報や、支援に関わる人へのインタビュー動画を定期的にアップしているTHREE FLAGS。活動の目的をライトさんはこう話す。
「僕は父から暴力を受けていたこともあって、大人に対して不信感の強い子どもでした。ただ、それが大きく変わったのが東日本大震災の時です。故郷の福島にさまざまな支援が届いて、プロジェクトが立ち上がり、被災地が抱える課題が1つずつ解決されるのを間近で見て、『大人が本気で力を合わせたときの力はすごい!』と思えるようになったんです。そうやって力を合わせるためには、『課題の見える化』がとても重要だと。僕が社会的養護の当事者活動をするようになったきっかけも、社会的養護の現状や課題の見える化が必要だと考えたからです」
動画制作にあたって、施設で暮らす子どもたちに希望を持ってもらえるような発信も心掛けているという。その思いはYouTubeのチャンネル名「THREE FLAGS -希望の狼煙-」にも表れている。
YouTubeでの収益はある程度貯まった段階で、18歳となり児童養護施設や里親家庭から自立しなければならない若者の支援を行うアフターケア事業に取り組む団体などに寄付する予定だ。そうすることで、社会的養護下での生活と社会生活とのギャップに苦悩する若者たちに対し、視聴者が「見るだけで支援できる」チャンネルにしたいという。
社会的養護の子どもに必要なのは心のケア
「当時、欲しかった支援はありますか?」と3人に質問をすると、三者三様の回答を当時の体験談込みで話してくれた。
例えばBROさんは児童養護施設にいた時、支援されることに抵抗感を抱き、周りの大人には適度な距離感をとってほしいと思っていたそうだ。
「僕の場合、表面的には周りの大人とうまくやっていたのですが、義父からひどい虐待を受けてきたこともあって、心はかなり荒んでいました。施設では心理士の先生もついてくれたのですが、自分を詮索されたくなくて、できるだけ会わないよう行動していました。当時の僕にとっては、施設にいて日々の生活を安全に送れることだけで十分でした」
「大人を信用していなかったし、近付いてほしくなかった」と、当時を振り返るBROさんだが、26歳の時にアフターケアを行う団体と出会い、自身が社会的養護下にいる子どもであったことを初めて認識したという。それまでは「どの家の子どもも何かしら問題を抱えている」と思い込み、周りにSOSを出せなかったそうだ。
まこさんは逆に、児童養護施設での暮らしはいい思い出だと振り返る。
「遊びやスポーツ体験など、施設にいたからこそできた経験というのを、数多くさせてもらえたので不満はないんです。職員の方がちゃんと私の話を聞いて、受け止めてくれたというのも大きいですね。施設で嫌なことがあっても『あんなことがあったね(笑)』と笑い話となるか、『一生許さない!』となるかは、施設や職員さん次第なのかもしれません」
ライトさんも当初はBROさんと同じく、職員に対して「関わらないでくれ」と思い、児童養護施設では自身を透明化していたという。
「まこちゃんとは真逆で、田舎というのもあったんですけど、僕は施設のことを『世の中にある問題を1カ所に集めて、みんなから見えないようにする場所』というふうに捉えていました。子どもながらに、世の中の施設に対する無関心さに憤っていたんだと思います。ただ、ある日、感情が爆発して、職員さんに怒りをぶつけてしまった時、職員さんは僕の気持ちや状況を理解してくれて、全部受け止めて、抱きしめてくれました。初めて母親以外の人に認められた気がして、泣いてしまったのを覚えています」
まこさんはライトさんの発言を受け、こう補足する。
「私の施設の人は『施設で育ったことついて文句を言ってくる人がいたら、ここに連れてこい!』とよく言ってくれました。社会的養護の子どもに対し、周りの大人がちゃんと『悪いのはキミじゃない』と口に出して、自信を持たせてくれるということが、一番大事なんじゃないかって思います」
社会的養護下にある子どもたちにとって、心のケアが何よりも重要だといえそうだ。
施設退所後に感じる「帰れる場所がない」という不安
社会的養護の子どもは児童養護施設を出てからも、頼れる家族や大人がいないため、困難を強いられることが多い。施設を出たあと、BROさんは「進路について考える時間がない」という悩みを抱えていたという。
「施設の子どもは、『18歳になったら帰れる場所がなくなる』ということだけは確定しているので、進路についてゆっくり考えることができません。就職して仕事が合わなくても、経済的な問題もありなかなか辞めることができないんです。僕は病院の事務の仕事に就いたのですが、上司に言われるがままで、あの1年は失敗だったなと思っています。『自分はどうしていきたいのか?』を話し合える人との時間が欲しかったですね」
まこさんは施設退所直近で、大きな孤独感を感じてしまったという。
「施設の職員さんは、常に人手が足りない状況の中でも、本当によくやってくれていたと思うので、感謝をしています。ただ、私が卒園する頃はまだアフターケアがそこまで充実していなかったことや、卒園間近に施設が荒れていたこともあって、最後の最後に『自分は施設の大勢の子どものうちの1人でしかないんだ。帰る場所はないんだ』と感じてしまったんです。『育ててくれた人にいつでも会える環境をつくって、維持する』というのは、社会的養護の子どもにとって重要だと思います」
そんな思いから、まこさんは児童養護施設出身の若者とつながる場を提供する居場所づくり「まこHOUSE」(外部リンク)という活動も行っている。アフターケアの普及、必要性の周知も社会的養護の大きな課題といえる。
大人が幸せになることを諦めなければ、社会はきっと変わる
社会的養護を必要とする子どもたちに対して、私たちができることにはどんなことがあるのだろうか?
BROさんは「まずは知ることがとても重要で、THREE FLAGSのYouTubeを活用してくれたらうれしい」と話す。
「半分宣伝みたいになっちゃうんですけど(笑)、僕たちのチャンネルでは、できる限り情報源のある信頼できる情報を提供したり、支援に関わっている大人の思いを反映することを大事に動画作りをしているので、社会的養護や虐待などの問題について知る入口としてはいいのかなと。また、課題に対して、個人がアクションできることについても触れるようにしています。社会課題に取り組んでいるというと、特別なスーパーマンのような人を想像するかもしれませんが、得た知識から自然と生まれる行動が、いつか誰かのスーパーマンになりうると思っています」
ライトさんも情報を知ることが大事だと賛同し、それをSNSでシェアしたり、周りの人に伝えるだけでも、社会を変える一歩につながると話す。また、施設への入所理由で圧倒的に多い虐待の問題を解決していくことがとても重要で、それを解決するために個人ができることも多いという。
「虐待の背景にはさまざまな問題が絡んでいるのですが、一番は『子育てをする人が孤立してしまうこと』だと思っています。子育てに関して、『なんでも自分でやらないといけない』という社会の同調圧力が、大きなストレスにつながっているのではないでしょうか。子育ては1人ではできないと思うし、みんなでやるべきものだと思っています。自身が住んでいる地域や、所属しているコミュニティが、子育てをしている人にとって相談のできる場所になるといいのかな」
まこさんも親への支援の必要性にうなずき、言葉を重ねる。
「虐待をされた当事者と話していて、よく聞く言葉が『親を救ってほしかった』なんですよ。子どもだけを救っても児童虐待の問題は解決しません。親が苦しみから解放されなければ、子どもに心の傷が残り続けると思うんです。実際、虐待を受けた子どもが虐待をする親になる『虐待の連鎖』も起きてしまっています」
まこさんは、「大人が幸せであるかどうか」が、児童虐待の問題に大きく関係すると考えている。
「自分の子どもを虐待をしたくてしている人はいないはず。大人がつらいときにつらいと言える場が必要なんだと思います。なので、大人の人たちには『今、幸せかな?』と自分に問うてほしい。もし、幸せではなかったとしても、幸せになることを諦めないでほしい。何がつらいのかを分析して、一つずつでいいから整理をしていく。『大人が幸せになることを諦めないこと』が、子どもの幸せにつながる第一歩なのかなと思います」
子どもはもちろん、自分が幸せになることも諦めない。そのためには、誰かに頼ることも必要で、周囲や地域の人たちは温かい目で見守り、時には手を差し伸べる。そんな社会になれば、虐待で苦しむ子どもも親もきっといなくなるはず。
最後にTHREE FLAGSが提案する、社会的養護の課題に対し「個人ができるアクション」を3つ紹介したい。
1.話題にしよう
1人でも多くの人が身近な人と話題にすることで、やがて社会に広がり、社会的養護の問題の認知と解決への取り組みにつながる。
2.ボランティアに参加しよう
問題に少しでも関心を持ったら、地域の施設、子ども食堂、NPOなどの活動に参加してみよう。それが子どもや親にやさしい地域づくりにつながるはず。
3.募金や寄付をしてみよう
善意がしっかり届くよう寄付先を選び、募金や寄付をしてみるのも手軽にできる社会貢献だ。子どもや親にとってより良い社会づくりにつながる。
まずはTHREE FLAGSのYouTubeなどで現状を知り、自分のできることから始めてみよう。
撮影:十河英三郎
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