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高い虐待死率、利用しづらいバスや公共トイレ。多胎育児当事者の実情と不足する支援

写真:双子の男の子と手を繋ぐ母親
社会の理解が広まらない多胎育児。周囲の理解不足が親たちを追い詰めるケースも
この記事のPOINT!
  • 多胎育児の虐待死率は、1人の子どもを産み育てる場合に比べ2.5倍から4倍に
  • 公的な支援は自治体判断によって導入がされない、内容が十分でないなどの課題がある
  • 多胎育児の困難感の理解を広めることが、より子どもを産み、育てやすい社会につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

双子や三つ子など、一度の出産で生まれた複数の子どものことを多胎児(たたいじ)と呼び、その育児のことを多胎育児(たたいいくじ)という。

多胎児の出生率は年によって多少のばらつきがあるものの、総分娩数の約1パーセントとなっており、決して珍しいケースではない。

図表:2015年から2020年までの分娩数と多胎の割合

表:2015年から2020年までの分娩数と多胎の割合

・2015年の総分娩数1,018,022件、単産数1,007,792件、複産数10,195件、双子10,067件、三つ子122件、四つ子5件、五つ子1件、複産率1.00%

・2016年の総分娩数987,923件、単産数977,780件、複産数10,131件、双子10,000件、三つ子129件、四つ子2件、五つ子0件、複産率1.03%

・2017年の総分娩数956,456件、単産数946,532件、複産数9,914件、双子9,769件、三つ子142件、四つ子3件、五つ子0件、複産率1.04%

・2018年の総分娩数928,151件、単産数918,387件、複産数9,745件、双子9,620件、三つ子122件、四つ子3件、五つ子0件、複産率1.05%

・2019年の総分娩数875,470件、単産数866,378件、複産数9,083件、双子8,937件、三つ子143件、四つ子3件、五つ子0件、複産率1.04%

・2020年の総分娩数849,041件、単産数840,105件、複産数8,932件、双子8,790件、三つ子137件、四つ子5件、五つ子0件、複産率1.05%
2015年から2020年までの分娩数。多胎児(双子から五つ子まで含む)が産まれる確率は、総分娩数の約1パーセントとなっている。出典: e-Stat(外部リンク)

複数の子どもを同時に産み、育てることは過酷だ。多胎育児のサポートを考える会が2019年に行った調査(外部リンク)によると、保護者が多胎育児中につらいと感じたのは以下のような場面だ。

図表:多胎児家庭の育児の困りごとに関するアンケート調査「多胎育児中に『つらい』と感じた場面について」

●外出・移動が困難である【89.1%】
・2人が同時に泣くかもしれないと思うと不安で、公共交通機関を利用できない。

●自身の睡眠不足・体調不良【77.3%】
・乳児期、それぞれの泣きに対応してたら15時間が経っていた。ご飯をどうしたかの記憶がない。

●自分の時間がとれない【77.3%】
・自分のトイレに行くわずかな時間さえもありません。我慢をしすぎて膀胱炎にもなりました。
イライラがピークに達して、双子がいる家に鍵をかけて、マンションの下まで自分だけ飛び出してしまったことがあります。

●大変さが周囲に理解されない【49.4%】
・行政にはいくつかのサポートがあるようだが、そのサポートを受けるための移動が困難な事に気付いていただけてない。
多胎児家庭の育児の困りごとに関するアンケート調査「多胎育児中に『つらい』と感じた場面について」より。出典:多胎育児のサポートを考える会

また、一般社団法人日本多胎支援協会が2018年に公表した調査報告書(外部リンク/PDF)では、多胎家庭での虐待死の発生頻度は、1人の子どもを産み育てる家庭と比べ、2.5~4倍以上にもなるという結果が出ている。

最近では元女子バレーボール日本代表選手であり、双子の母親でもある大山加奈(おおやま・かな)さんが、2人乗りベビーカーを理由にバスに乗車拒否をされたことをブログ(外部リンク)で明かし、多数のメディアが取り上げるなど話題を集めた。悩みに悩んだ末、バスを利用しようとした際の出来事で「バスに乗れなくて泣く日が来るなんて…」と投稿している。

双子、三つ子などの出産はハッピーな面のみが注目されやすいが、子育てに関する困難な部分についてはあまり理解されていない。

今回は、一般社団法人関東多胎ネット(外部リンク)の理事である中川美織(なかがわ・みお)さん、花俣美加(はなまた・みか)さんの2人に、多胎育児の現実と課題について話を伺った。

ちなみに、中川さんは長男と双子の長女・次女を持つ3児の母で、東京・立川市で多胎児サークル 「SwingRing~ふたご応援プロジェクト~」(外部リンク)の 代表理事も務めている。花俣さんは双子の男の子を持つ2児の母で、埼玉県・さいたま市で多胎児サークル 「さいたまPeanuts CLUB」(外部リンク)の代表も務めている。

「虐待をするのは自分だったかも…」多胎育児の過酷さ

関東多胎ネットは、 関東地方で活動している多胎サークル代表者などで構成されている団体だ。次の4つの事業を主に展開している。

  • ピアサポート:多胎育児経験者による多胎家庭への訪問・オンラインでのサポート
  • ファミリー講座:多胎児を出産予定または多胎育児中の家庭に向けての育児講座の実施
  • 交流会:育児を楽にする情報交換や育児相談など心を軽くする交流会の開催
  • サークル支援:各地域で活動をしている多胎サークルのサポートやアドバイス
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子育てイベントに関東多胎ネットとして参加した際の写真。上段の左から2番目が中川さん、下段左から2番目が花俣さん。写真提供:一般社団法人関東多胎ネット

――関東多胎ネット立ち上げのきっかけを教えてください。

中川さん(以下、敬称略):多胎サークルは、多胎育児をしている母親がボランティアで立ち上げて運営することがほとんどなので、サークル運営者の子育てがひと段落すると、サークルが自然消滅してしまうという実態があり、組織の継続が難しいんです。そこで継続性のある団体を設立しようと、関東多胎ネットはつくられました。各サークルで連携し、1サークルでは難しい行政への働きかけなども行っています。

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オンラインで取材に応じてくれた関東多胎ネットの理事を務める中川さん

――多胎サークルは各自治体に1つくらいはあるのかと思っていたのですが、そうではないんですね。

中川:はい。かなり地域差があります。2018年に愛知県で3つ子の子育て中だった母親が、子どもを虐待死させてしまう事件がありましたが、その事件をきっかけに各地でサークルが増えたのだと思います。私が双子を産んだ2010年頃には、多胎育児サークルはほとんどなかったと思いますね。

花俣さん(以下、敬称略):多胎のお母さんたちの多くは、「あの事件を起こしたのは私だったかもしれない」と捉えています。精神的にも肉体的にもいつもギリギリの状態で、「いつか自分も同じようにしてしまうのではないか」と。二度とあのような悲しい事件を起こさないためにも、多胎のお母さんたちの居場所をなくしてはいけないと思っています。

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オンラインで取材に応じてくれた関東多胎ネット事務局の花俣さん

――多胎育児が大変だということはなんとなく分かるのですが、具体的にはどういったところがつらいのでしょうか?

中川:双子や三つ子のように多胎で産まれてくる子どもたちは、早産になり、小さく産まれてくるケースが多いため、哺乳力の弱い子が多いんです。そうすると授乳にとても時間がかかりますし、双子の場合、単純計算でも2倍の授乳回数となります。1時間に1回くらいの割合で授乳をすることがありました。

写真:保育器の中の赤ちゃん
多胎児は早産で生まれる子どもも多い。写真提供:一般社団法人関東多胎ネット

――授乳に時間もかかるし、回数も多くなると、ストレスも相当ですね……。

中川:そうなんです。おむつ替えや夜泣きなど、対応しなくてはならないことが次々と起こるため、睡眠時間も細切れでしか確保できませんでした。

――産後は肉体的にも精神的にも不安定ですもんね。初産なら、なおつらいと思います。

花俣:外出も大変なんです。2人用のベビーカーでは通れない道があって、公共施設のトイレに入れないこともあります。なので、親がトイレを我慢しなくてはいけない状況というのも多々あるんです。

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一般的な双子用ベビーカー。横に幅があるので、通れない場所も多いという

中川:「1人が泣きだしたら、もう1人も泣く」というように共鳴し合うことも多いため、ドキドキしながら外出することになります。周りの目もあって、親は常に「すみません」と言わなくてはいけません。「そんな思いをするくらいなら、家にいよう」と考えるようになり、孤立してしまう親も多いんです。

――多胎育児のつらさは、当事者でなければなかなか理解できませんよね。

花俣:あと、単純に育児に手一杯で、声を上げる余裕がないという状況なんですよ。先ほどもお話ししたように、睡眠時間の確保さえままならない方もたくさんいるので、自分が大変なことを誰かに相談するという考えにも至れないんだと思います。

――大山加奈さんのニュースはどう思われました?

花俣:「やっぱりベビーカーに子どもを乗せたままバスに乗っちゃ駄目なんだ……」と、受け止めてしまった人が多かったと思います。そもそも子育ては思い通りにいかないことの連続なのに、多胎育児の場合、それが倍以上になっているわけで。だんだんと「子育てがうまくできないのは自分のせい」と、自責的思考になってしまうんですね。それなのに一般の人、ましてや公共移動交通機関の人から冷たい反応をされると、心が折れてしまいますよ。

――誤解をしている方も多そうなので、改めてお聞きしたいのですが、「縦型のベビーカーを使用したり、タクシーを使ったりすればいいのでは?」という意見もあるかと思います。それらはやはり難しいのでしょうか?

中川:縦型のベビーカーは、子どもの腰や首が据わったあとでしか利用ができないものが多いんです。最初は横型を買って、後から買い替えるというのも、金銭的になかなか厳しい。

花俣:チャイルドシートを用意しているタクシーは増加しましたが、2つ用意しているところは少ないですね。事前予約を行えば、用意していただける会社もあるんですけど。チャイルドシートがない場合、赤ちゃんを抱っこひもで抱っこした状態でシートベルトをするのが一般的ですが、双子だと体が2つ必要です。また、当然タクシーはバスや電車などと比べて高額になります。自治体によっては、タクシーチケットを配布してくれるところもありますが、まだまだ少ないのが現状で、実質、公共交通機関しか選択肢がないご家庭も多いんですよ。

中川:本来、公共交通機関は誰もが乗れるものですし、国土交通省からも一定の条件を満たしたバスであれば、2人用ベビーカーは畳まずに乗ることができるというアナウンス(外部リンク/PDF)も出ているので、誰もが安心して乗れるようになるといいと思っています。

東京都交通局の公式サイト(外部リンク)では、二人乗りベビーカーのバス乗車方法が乗務員のサポートも含め丁寧に紹介されている。画像引用元:東京都交通局

足りない支援。導入するかどうかは自治体次第

――一般に伝わりにくい多胎育児ならではの出費というのはどういうものがありますか?

花俣:ベビーカーに関していうと、双子用のものはそもそもの流通数が少なく、中古でも値段が張るというのがありますね。また、出産後すぐチャイルドシートが2つ必要になりました。

中川:出費について事前にサークルのみんなに聞いたんですけど、全員が「車を買い替えた」って言っていました。公共施設のトイレにも入れないときがあるので、車の中で着替えさせることもよくあります。なので、ベビーカーはもちろん、衣装ケースなんかも車に詰め込まないといけなくて。双子の4人家族であっても、8人乗りくらいの車でないと多胎育児はつらいと思います。

――8人乗り!維持費も相当かかってしまいますね、都心部ならなおさら……。そういった多胎育児家庭に対する、国からの支援というのはあるのでしょうか?

中川:厚生労働省が出した母子保健医療対策総合支援事業実施要綱の中に、2020年、多胎妊産婦等支援(※)というものが新設されました。多胎家庭の交流会の実施や、家事育児サポーターを派遣しますよという支援なのですが、導入するかどうかは自治体任せというのが現状になります。

中川:また、東京都ですと「とうきょうママパパ応援事業」(※)という支援を行っています。多胎妊産婦等支援とほぼ同じような内容で、都から全額予算が出る仕組みです。ただ、こちらも導入決定はあくまで区市町村の判断になります。

花俣:たとえ自治体が導入を決めても、家事育児サポーターに入る事業者が不足していて、人手を確保できないという事態も起きているようです。

――あるにはあるが、複合的な要因で支援の手が足りていないというわけですね。

中川:はい。もっと実態に即した支援がほしいという思いもありますね。例えば多胎妊娠をした場合、早産のリスクがあるため、特定妊婦(※)というものに指定されます。中後期になると、医師の指示で自転車や自動車の運転を禁止されることがあるんです。こういうときにこそタクシーなどの移動支援を使いたいのに、支援は出産以降でないと使えません。

  • 公的支援を妊娠中から要するような環境にある妊婦のこと。早産以外の対象には予期せぬ妊娠や貧困などがある

花俣:多胎児が産まれる前は、どんな育児が始まるのか想像もできていない人も多く、支援を頼まない方も多いんですよ。出産後に支援が必要だと思っても、とにかく時間的、精神的な余裕がなく、助けを求める暇もなくなります。妊娠中にプレファミリー教室に参加し、専門家から基礎知識を学ぶことや、多胎育児経験者の話を聞くこと。また、ピアサポート支援を導入するなど、多胎児家庭には産前から産後まで切れ目のない支援がとても重要だと感じます。

中川:多胎サークルという存在があることを知らずに、多胎育児を行っている家庭も多いと思います。できるのであれば、多胎児の妊娠が発覚した時点で「こういう支援やサークルがありますよ」と、行政側から声をかけるということをやっていただきたいですね。

写真:ピアサポート体験会の様子
関東多胎ネットでは育児イベント等でのピアサポートの体験会も実施。写真提供:一般社団法人関東多胎ネット

多胎育児を知ることが、より子育てに優しい社会につながる

――多胎育児をしているご家庭を支援するために、私たちができる行動はどんなものがあるでしょうか。

中川:まずは「多胎育児の現状を知ってもらう」ことだと思っています。私は講師としていろいろな教育機関などでお話をさせていただくことがあるのですが、「大変だとは聞いていたけど、ここまでだったんだ」と、皆さんとても驚かれるんですね。知識を得られれば、それがアクションにつながっていくと思うので、まずは現状を知っていただきたいと思っています。

花俣:私は「声掛け」ですね。手伝ってもらうことに慣れていなくて、つい「大丈夫です」と言ってしまうこともあると思うのですが、孤立しがちな多胎育児は、たった一言だけでもつながりが感じられ、この社会に生きているんだと思えるはず。そんな声掛けが当たり前の社会になれば、多胎育児家庭に限らず、より子育てがしやすい社会につながっていくと思います。

中川:多胎育児をサポートしている団体というのは、ボランティア活動がほとんどです。子育て経験者の方はもちろん、そうでない方もボランティアやプロボノ(※)として参加してもらったり、寄付など検討していただいたりするとありがたいですね。私たちの法人でなくとも、助けを必要としている団体はたくさんありますから。

  • 各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般のこと

中川:ただ、私たちは「多胎育児は大変だから特別扱いしてほしい」と言いたいわけではないんです。老若男女全ての人々が、安心・安全に暮らせる社会のため、ワンステップとして、この活動を行っているということはお伝えしておきたいですね。

大山加奈さんが上げた声を受けて、2022年12月、東京都は改めて「ベビーカーは畳まずに乗車してほしい」と呼びかけ、双子を育てる家庭を招いた乗車体験会などを行った。

多胎育児への理解は少しずつではあるが広がっている。少子高齢化に歯止めをかけるには、この流れを拡大していくことが重要だと考える。

一般社団法人関東多胎ネット 公式サイト(外部リンク)

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