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貧困対策だけではないこども食堂の役割。医師が考える食を通じた「健全な社会づくり」とは
執筆:nishicherry2480
事情があり、一人で食事をせざるを得ない子どものため、食事を提供する場として「こども食堂」がある。
こども食堂には、食事を提供するだけでなく、食育を推進する場にもなるなど、さまざまな利点があるだろう。一人で食事をするよりも、誰かと一緒に食事をした方が食生活が良好になるという研究もあり、医学的観点からのメリットも多い。
そこで本記事では、こども食堂について医学的な立場から解説し、その役割について検討していきたい。
こども食堂とはどんなものか?
こども食堂とは、貧困家庭や孤食の子どもに対して、地域住民のボランティアや自治体が主体となり、子どもが一人で利用できる、無料、または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する場のことである(※資料1)。
なお、孤食とは週の半分以上1日の全ての食事を一人で食べている状態のことを指す(※資料2)。
名称は「こども食堂」ではあるが、近年は親や地域の人々など、誰でも利用できる食堂が増えている。地域交流や子どもの見守りの場など、地域に開かれたコミュニティの場としての役割も担っていると言ってよいだろう(※資料1)。
こども食堂の役割とは、次の図で示す通り(※資料1)。
- 経済的貧困への対応
- 「地域」と「子ども・保護者」のつながりを深める
- 食育の推進などのさまざまな学びへの支援
NPO法人全国子ども食堂支援センターむすびえによると、こども食堂の数は2022年12月時点で7,000カ所以上になると報告されている(※資料3)。
食事を誰かととることで食生活が良好となったという研究結果も
誰かと食事を共にする(共食)頻度と良好な精神症状には、正の相関関係があるとされる。共食が多い人はファーストフードの利用が少なく、野菜や果物などの健康的な食品の摂取頻度が高い傾向が見られた、とする研究だ(※資料4)。
また、農林水産省の「食育に関する意識調査」では、生活習慣病の予防や改善のために気をつけた食生活の実践状況について、ほとんど孤食をしていない人の方が、週2日以上孤食をする人と比べて良好であった(※資料2)。
これらの結果からも、良好な食生活を心がける習慣を子どもの頃から身につけておくことは、将来の健康にとっても重要であると言えるだろう。医学的な観点からも、こども食堂を利用し、孤食を改善することにはメリットが多い。
こども食堂を併設するクリニックから見た課題
こども食堂の運営主体はNPO法人事業所、社会福祉法人、自治会、個人、企業・事業所、協同組合などさまざまだ(※資料1)。また医療機関の中にも、こども食堂を開催しているクリニックがある。
そして、実際に子どもの貧困支援をしている医療機関を特集した「医療機関が行う子どもの貧困支援」(※資料5)の中に、次のような1つの意見がある。
「『貧困家庭だと思われるから子ども食堂には行くな』とお父さんに言われる」という話は少なくない。「貧困は恥」と感じ支援を受けることをよしとしない。こうした人たちに対し「あの人意外にプライドが高くて」という言い方が支援者の中から出ることがあるが、これは世間で自己責任論が強いためであって、私たちはそうしたことを感じないで支援を受けられるような工夫をする必要がある。
この意見には、こども食堂の課題の1つが隠れているのではないだろうか。
こども食堂の課題として、「来てほしい家庭の子どもや親に来てもらうことが難しい」という点が全体の42.3パーセントと、一番大きなウェイトを占めているという報告がある(※資料6)。
このような問題が生じるのは、行政や地域が全ての家庭事情について把握しきれていないから、という理由も挙げられるだろう。
その一方で、貧困家庭と思われることを恥ずかしく思うことや、世間的に貧困は自己責任という風潮があるため、社会的な支援を受けるのは恥ずかしい、という気持ちもあるのではないだろうか。
こども食堂を広めていくために必要なこと
孤食、つまり子どもが一人で食事をとるケースや、子どもが十分な食事をとれないという理由や背景には、貧困に加え虐待などデリケートな事情も潜在するだろう。
そういった背景にも配慮が必要ではあるが、先述のように誰かと食事を共にすることで良好な食生活の構築に良い影響があるのであれば、その努力を果たすべきだ。医学的な観点からも、こども食堂を必要とする人が必要なときに利用できることが好ましい。
筆者は現在、勤務医として働きながら、2人の子どもを育てている最中である。
こども食堂を利用したことはないが、働きながら子どもたちの食事の準備をするということはとても気を遣うし大変なことだ。
また、子育てについても、これで良いのか、とつい悩んでしまいがちであり、周囲の人と気軽に話ができる環境がほしいときもある。そういったコミュニケーションの場としてこども食堂も利用してみたいという気持ちはある。
とはいえ、筆者の周りには、こども食堂に対してあまり肯定的な意見を持っていない人もいる。
ここでは筆者の母の例を紹介する。
子とその親が一緒に子ども食堂を利用している場面を報道していた際に、彼女は「これは親の甘えではないだろうか」という感想を筆者に話した。
貧困などで食事をとることが難しい子どもに対する支援について否定的というわけではなかったようだ。彼女にとっては子どもに食事を用意することは親として当然のことであり、こども食堂で食事をとることは「甘え」つまり個人の責任を果たしていなかった、と思えたのだろう。
こうした意見を持つ人は、他にもいるのかもしれない。
しかし、それは貧困そのものや、食事の用意をできないのは個人の責任であるとする考えが強いからなのではないだろうか。貧困や失業には個人の努力で対処すべきだといういわゆる「自己責任論」が主張される場面も多い(※資料7)。
しかし、親が貧困に陥ると、その子どもも影響を受けるといった、貧困の連鎖が存在するのも、また事実である(※資料8)。そのため、実際には個人の努力のみでは貧困から抜け出すことは難しい場合も多いと考えるほうが自然だろう。
貧困は自己責任だと片付けるのではなく、周りや社会がサポートしていくことが大切であり、その一つとしてこども食堂は有効な取り組みである。
また、親が食事の準備を、金銭的や時間的な面で負担と考えることは、確かに個人レベルの問題とも言えなくもない。
しかしその実、長時間労働が常態化していることでなかなか家事に手が回らないことや核家族化などで頼る人が身近にいない、などの社会的な仕組みの問題もあるのではないだろうか。
こども食堂は、ゆくゆくは大人になり社会を支える子どもたちやその保護者、地域にとって良い効果をもたらす取り組みである。
社会全体として、そのような取り組みを支えていくことや、周知していくことが大切だ。
そうした俯瞰的な見方を、医療者の立場からも周知していくべきであると考えている。
社会で生きる力を育む「子ども第三の居場所」
こども食堂を広めていくためには、いくつか取り組むべき課題がある。その1つに、金銭的な面の課題がある。
先に挙げたこども食堂の運営に対するアンケート調査では、「運営費(立上げ時を除いた普段の運営にかかる費用)の確保が難しい」が課題の2位となっていた(※資料6)。
日本財団は、放課後に子どもが安心して過ごせる場所である「子ども第三の居場所」(別タブで開く)をつくる取り組みを行なっている。
そして、2022年11月17日、小倉(おぐら)内閣府特命大臣(少子化対策、男女共同参画)へ、子どもが家庭や学校以外で安心して過ごせる「子ども第三の居場所」の安定的な運用のため、ガイドライン策定と予算措置について取りまとめた政策提言書を手交(別タブで開く)した。
こども食堂も含めた子どもの第三の居場所をつくるためには、いろいろな面での国や地方自治体の補助も欠かせない。その一端として日本財団の取り組みや提言も有意義であり、ぜひこれらを参考にした政策検討が進むことを祈っている。
こども食堂には、貧困への支援という大きな役割がある。また繰り返しになるが、一人で食事をとる「孤食」の状態を改善し、食生活をより良いものにしていくという効果もあることを周知していくことが何よりも大切だ。
医療者の立場からもこれらの事実を周知し、より良い社会づくりに貢献していければと願っている。
[資料一覧]
※1.参考・出典:「子ども食堂」WAM NET(外部リンク)
※2..参考・出典:「一日の全ての食事を一人で食べている『孤食』の状況」農林水産省(外部リンク)
※3.参考・出典:「2022年度 こども食堂全国箇所数発表(2022年12月 速報値)」むすびえ(外部リンク)
※4.参考・出典:「共食行動と健康・栄養状態ならびに食物・ 栄養素摂取との関連」J-STAGE(外部リンク/PDF)
※5.参考・引用:「医療機関が行う子どもの貧困支援」日本子ども学会(外部リンク/PDF)
※6 .参考・出典:「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集」農林水産省(外部リンク/PDF)
※7.参考・出典:「自由と自己責任に基づく秩序の綻び」J-STAGE(外部リンク/PDF)
※8.参考・出典:「子どもの貧困問題と貧困の連鎖の解決に向けて」香川大学経済学部(外部リンク/PDF)
〈プロフィール〉
nishicherry2480(にしちぇりー)
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。
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