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子どもと大人、横並びの関係性を紡ぐ「バディ」は新たな子どもの居場所になるか?
- 大人と子どもがバディ=相棒となり、月に2回、1~2年間を共に過ごすバディプログラム
- 横並びのフラットな関係性を築き、子どもとその保護者に良い変化を与えている
- 人生の余剰分をみんなで出し合うことが、子どもだけでなく大人も孤立しない社会につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
家でも学校でもない、子どものための“第三の居場所”が全国で増えつつあり、日本財団においても子どもの社会で生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」(別タブで開く)を、全国134拠点(2022年10月時点)に展開している。家庭の抱える困難が複雑・深刻化し、地域のつながりも希薄になる中で、孤立する子どもたちに安心して過ごせる居場所を提供しようという試みだ。
そんな中、場所は構えず、大人と子どもが1対1で時間を過ごすことで信頼関係を築くという、新たな形の居場所づくりが2020年に誕生した。一般社団法人We are Buddies(外部リンク)が提供する「バディプログラム」というオランダ発の取り組みだ。
子どもとボランティアの大人が2人1組のバディズ(仲間・相棒)となって、月に2回ほど交流するというこの取り組み。核家族化、地域のつながりが希薄になる中で、孤立しながら子育てをしている、いわゆる「孤育て(こそだて)」の保護者にも良い変化を起こしているという。
バディプログラムとは一体どんなものなのか、そして人と人がつながることで生まれる反応とは。代表の加藤愛梨(かとう・あいり)さんに伺った。
「お面をかぶった大人」や玄関前に置かれたボールから生まれた問い
――We are Buddiesで提供しているバディプログラムとは、どんなものなのでしょうか?
加藤さん(以下、敬称略):5歳から18歳の子どもと、研修を受けたボランティアの大人が2人1組のバディズとなります。過ごし方は2人で決めてもらい、月に1回から2回のペースで交流し、2年間でフラットな関係性を築いていくという仕組みです。子どもの成長に保護者以外の大人が関わることで、子どもには信頼できる身近な大人が増えますし、保護者にとっては、子育ての仲間ができるという良いことがあります。
――どういった子どもが参加していますか?
加藤:We are Buddiesではオープンに参加者を募っているので、ひと言で表すのが難しいのですが、不登校や発達障害のある子どもの親御さんから連絡をいただくことが多いです。それ以外にもひとり親家庭や、多胎児(※1)やきょうだいじ児(※2)をお持ちのご家庭も多いですね。「他者が子どもに関わった方が良い理由のあるご家庭」という感じじゃないかと。
- ※ 1.双子や三つ子など、一度の出産で生まれた複数の子どものこと
- ※ 2.障害者を兄弟・姉妹に持つ子どもを指す言葉。障害者のきょうだいの世話をしたり、親の目が自分に向かないことを我慢したり、幼い頃から困難を抱えていることが少なくない
――大人はボランティアということですが、どういった方が参加されているのでしょう?
加藤:私たちは「大人バディ」と呼んでいるんですけど、基本的には紹介制となっています。それ以外だと、提携している福祉系の大学に通われている方から希望者を募るなど、子どもに危険が及ばないよう、身元が分かる方に大人バディになってもらっています。そこから面談や研修を受けてもらって、運営チームでマッチングを行い、バディズ結成となります。年齢は20歳前後から60代くらいの方までさまざまです。
――このような活動を始めたきっかけは何でしょう?
加藤:地域の関係の希薄さや、大人のあり方に対する問いがきっかけです。私は近所付き合いの多いエリアで生まれて、親以外の大人にも囲まれて育ったのですが、大人になってさまざまな場所で暮らすにつれ、「あの環境は、現代では当たり前ではないんだ」と気付かされました。また、2018年、当時はシェアハウスで暮らしていたのですが、そこで同じ家に住む小学生とボール遊びをしていて、ボールが隣の家に入ってしまったことがあったんです。ボールを取りに伺ったら、住人の方に「玄関前に置いておくから、数分後に取りに来てください」とインターホン越しに言われて。ご近所付き合いが本当になくなってしまっているんだなと、とても驚いたんです。
――ご近所付き合いは過去のものになりつつありますよね。
加藤:そうですね。あと、私は中学3年から4年間オランダで暮らしていたんですけど、帰国後の就職活動で、大人がお面をかぶっているというか、本音ではないことを話しているように感じたんです。「オランダでは大人もありのままで生きている印象だったのに、なぜだろう?」と考えたときに、「心の内をさらけ出せる相手が誰もいないのでは?」と仮説を立てたんです。誰にでも、たった一人でいいから心を開ける人とのつながりがあれば、この社会はもっと過ごしやすくなるのではないかという思いが大きくなっていきました。
――そこからなぜバディプログラムに?
加藤:先ほど話したシェアハウスで、6歳の男の子のAくんと出会ったことが大きかったですね。Aくんは保護者の方と一緒にシェアハウスで暮らしていました。共に暮らすうちに、Aくんと私は、「大人と子ども」という枠組みを超えて信頼関係を築くことができたんです。そして、現代の子育て事情についても考えることが増え、親が孤立したまま子育てをする、いわゆる「孤育て」化が進んでいることも知って、自分に何かできないか考えるようになりました。そこでオランダで行われていたバディプログラムを日本でやってみようと思ったんです。
子どもを導くのではなく、横並びのフラットな関係を築く
――活動をしていく上で、大切にしていることはありますか?
加藤:フラットな関係性を築いてもらうことを大切にしています。バディは横並びの関係で、「大人が何かを教えてあげる」といった上下関係ではないんですね。
――なぜそういった関わりができるのでしょうか。
加藤:大人バディの参加するモチベーションに理由があるのかもしれません。「人との関わりをもっと深めていきたい」「自分と属性や年齢が異なる、子どもの見ている世界に興味がある」というような方が多く、みんな楽しんで参加してくれています。1対1の関係性なのでお互いのペースで時間を過ごせることも大きいのではないかと。
その他、We are Buddiesが大切にしているポリシーは次の3つだ。
- 自分の心も、子どもバディの心もどちらも尊重する
- 対話を大切にする
- 共に生きるを探求する
加藤:この活動は一応2年間という期限付きのプログラムにはなるのですが、せっかく出会った2人なので、その後も何かしらの関係性が続いていくといいなと願っています。実際、2年経ったあとも、会っているバディズは多いんですよ。
――これまでの活動で印象的な出来事はありますか?
加藤:とあるひとり親家庭のBちゃんのことです。発達障害のあるきょうだいがおり、きょうだい児として、ストレスや寂しさを多く抱えていました。
――バディプログラムでBちゃんにどういった変化があったのですか?
加藤:お母さんが何かの拍子に「私がいなくなったらどうする?」とBちゃんに聞いたら、「困るよ!Cちゃん(Bちゃんの大人バディ)の家に行くしかないじゃん!」と言っていたんです。オランダのバディプログラムも「対処より予防」をコンセプトにしているので、何かあったときに頼れる関係性が築けていると感じられました。
人とつながることはその人の眼鏡を借りること
――大人バディをやることによる良いことは、どのようなものがありますか?
加藤:「自分の子どもではない利害関係のない子どもと関わることによって、自分の在り方を見つめ直す機会になった」とか、「今までの自分の人生で接点のない人と出会うことで、視野が広がった」っていう声を聞いています。私自身も「他人の眼鏡を借りられるようになるんじゃないか?」って思っています。活動のきっかけとなったAくんの部屋には危険生物の図鑑など、彼と知り合わなければ一生見ることがなかったようなものがたくさんあったんです。他人の目に映る世界と自分の目に映る世界って全く違うじゃないですか。
――他人の視点を得られるってことですね。
加藤:そうなんです。例えば、朝起きた瞬間の気持ちひとつとっても、私は割と感情がないんですけど(笑)、私の周りでは「今日も幸せだ」と思って歌いたくなるという人がいたり、「死にたい」と思う人もいたりします。一緒に時間を過ごしてお互いの感覚を交換していくと、各々の世界が広がっていくのではないでしょうか。
――一方で、個人主義が進んでいる気がします。特に子どもたちは見知らぬ大人とは話してはいけないと教えられていますし、他者と関わることの難しさを感じる場面は多いです。
加藤:私は「人は人を信頼せずには生きていけない」と思っています。人を信頼する際は「裏切られるかもしれない」などの不安や心配も伴いますが、だからといって誰とも関わらないというのは、ちょっと極端かなと思うんです。一方でいろんな危険があるということも理解できるので、そういう時代だからこそ、We are Buddiesのやるべきことがあるんだと感じています。
――子どもたちの孤立や、子育ての孤立の問題に対して、一人一人が何かできる行動はありますか?
加藤:たくさんあると思いますね。でも頑張り過ぎて、その人の人生を大事にできなくなってしまうと、それは本末転倒になってしまうので、自分の人生を大事にしながら、それでも余裕があれば、その余剰分を誰かに差し出す人が増えるといいのかなと思います。それがお金の人も、時間の人もいると思うんです。We are Buddiesではなくても、素晴らしい活動をしている団体はたくさんあるので、お金に余裕があれば寄付したり、時間がある方はボランティアをしたり。あとは自分の身近な人、例えば親族や近所の人で大変そうな人がいたら、ちょっと会いに行ってみるとか、連絡してみるとか、そういうことでもいいのかなと。みんなが余剰分をちょっとずつ差し出すことができれば、いい社会になっていくと思います。
バディプログラムは孤立する子どもを救うだけでなく、大人も子どもたちの眼鏡を借りて、世界が広がっていくということに可能性を感じた。子どもは親だけでなく、地域や社会で育っていく。人間関係が希薄化した現代、バディプログラムのような中間の立ち位置の「育ての親」が増えていけば、孤立して苦しむ人も少なくなっていくはずだ。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
加藤愛梨(かとう・あいり)
1989年、東京都墨田区生まれ。高校時代はオランダで過ごし、International School of Amsterdamを卒業。帰国後、国際基督教大学で過ごした後、サントリーホールディングス株式会社に入社し、ビールの商品開発などを担当。2018年に個人事業主になり、「拡張家族」をテーマに血のつながりを越えた関係性を築く社会実験コミュニティCiftに参画しつつ、シェアオフィスWORKSTYLINGにてコミュニティマネージャー業務に従事。その後、保護者だけが子育てにかかわり、生き辛さを抱え、そのしわ寄せが子どもに行ってしまう世の中の状況に疑問を持ち、一般社団法人We are Buddies を立ち上げ、東京、群馬、千葉県市原市で活動中。
一般社団法人We are Buddies 公式サイト(外部リンク)
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