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部活は子どもの大切な体験機会。学校に指導員を派遣する団体に聞く部活動の意義
- 教員の長時間労働につながる部活動の顧問制度は、指導員制度や地域移行等、改善するための仕組みが整いつつある
- しかし、誰もが気軽に始められるこれまでの部活文化とは少し形が変わってしまう可能性がある
- 従来どおりの部活文化を守ることと、教員の労働問題解決。両立できる方法を検討する必要がある
取材:日本財団ジャーナル編集部
長時間労働を原因とした過労死や休職の増加など、教員の過重労働(別タブで開く)が深刻な問題となっており、「学校はブラック企業と変わらない」という声も上がっている。
その問題の1つが部活動の顧問制度だろう。教員の職務と働き方は特殊で管理が難しいため、休日勤務手当や時間外勤務手当が支給されない(※1)。また、本来休みであるはずの土日に、練習や試合の引率義務が発生することもあり、その手当は3,600円(※2)とかなり安い。
- ※ 1. 公立学校の教員の給与について定めた「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」によるもの。休日勤務手当や時間外勤務手当を支給しない代わりに、給与月額の4パーセントを「教職調整額」として支払うことを定めている。1971年に制定。
- ※ 2.参考:「『新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について』関係資料」文部科学省(外部リンク/PDF)
2017年のスポーツ庁の調査(※)によると、部活動について「希望する教員が顧問に当たる」と答えた公立中学校は2.2パーセント、公立高校は0.4パーセントだった。部活動顧問は「ほぼ強制的に決められている」と言っても過言ではない。
そんな中、注目を集めているのが2017年にスポーツ庁から施行された「部活動指導員制度」だ。教員に代わり、スポーツに携わった経験を持つ人が公立の中学・高校に派遣され指導を行う制度で、NPO法人日本スポーツ支援振興協会(外部リンク)では、大学生部活動指導員の派遣を行っている。
この仕組みが教員の労働環境を変えるかもしれない。今回、同団体理事長の原大地(はら・だいち)さんに「これからの部活動」の在り方について話を伺った。
「部活動指導員制度」と「地域移行」が教師を救う
――部活動指導員制度とはどんな制度なのでしょうか?
原大地さん(以下、敬称略):2017年から始まった、部活動の技術指導や大会・練習試合など学外での活動を引率できる指導員を、外部から派遣できるようになる制度です。
それ以前から外部指導員というのは存在していたのですが、制度化以前は費用が保護者負担だったり、部活動の引率ができなかったりするという課題がありました。現在、費用は国・都道府県・自治体が3分の1ずつ負担しており、学外への引率も行えるようになっています。また、指導員任用に当たっては、規則の策定や研修の実施など、体制整備が求められます。
――部活動指導員になるために必要な条件などはあるのでしょうか?
原:自治体によって異なります。私たちの団体が活動をしている神奈川県横浜市では、ざっくり言うと「18歳以上でスポーツ経験のある健康な人物」といった条件が設けられています。
――国を挙げて部活動顧問の問題を解決しようとしているわけですね。
原:はい。さらに2023年度からは、部活動の指導を地域移行していくことが予定されています。地域移行というのは、要するに部活動の顧問が地域のスポーツクラブや民間企業などの指導員に委託されていくことを指します。
当初、「土日の部活動に関しては、2023年度から3年の間に地域移行する」が目標とされていましたが、最近になって実現が難しいことから「可能な限り早期に」と修正(2022年12月)となりました。平日の部活についても徐々に地域移行を予定しているそうです。
――では、地域移行が完了すれば、部活動顧問の問題は解決するということでしょうか?
原:個人的には「完全に移行すること自体が難しい」のではないかと考えています。中学校のある地域に、全ての部活をカバーできるスポーツクラブや民間企業があるとは限りません。
また、地域移行に関しては、費用に関して「保護者の負担とする」と明記されており、習い事と変わらなくなってしまうことも課題ではないかと思っています。
全ての子どもたちが、スポーツ体験の場を奪われないように
――原さんが代表を務める日本スポーツ支援振興協会では、スポーツ指導員を派遣されているそうですね。
原:はい。横浜市内の公立中学校に派遣しています。部活動指導員制度には2パターンあって、1つは部活動指導員自体が顧問となるパターン。もう1つは教員が顧問を務めつつ指導員を派遣するパターンで、私たちの団体は後者になります。
大学と連携し、大学生を指導員として派遣しています。指導員は子どもたちと日々接するわけですから、素性の知れない人に託すことはできません。そこで大学側でも人柄や素質を見極めてもらった上で、派遣を行っております。
――指導員として派遣しているのはどのような学生ですか?
原:プロスポーツチームに内定している学生や、指導者を目指す学生が多いですね。教員を目指している学生もいます。
――どのような学校が、部活動指導員制度を利用されているのですか?
原:顧問はいるけれど、部活指導の経験がない場合や、そもそも人手不足ということでお声がけいただくことが多いです。あとは、地域移行によって教員による休日の指導ができなくなってしまいますので、「早めに備えておきたい」と、連絡が来ることもあります。
――実際にこの制度を使った人からはどんな声が上がっていますか?
原:顧問の先生からは、「競技に情熱を持っている大学生の指導を受けて、子どもたちが刺激を受けた」という話を聞いています。グラウンドに早く出て練習していたり、整理整頓をしたり、技術以外の振る舞いに関していい影響を受けたという声もありますね。
子どもたちからは、「もっと上手くなりたいと本気で思えた」や、「モチベーションが上がった」という声を聞きます。
――原さんがこのような活動を始めたきっかけは?
原:「子どもたちがスポーツを楽しめる環境」が、当たり前ではないと知ったことがきっかけです。
私は長く野球に携わってきた経験から、野球教室を運営していたのですが、そこに通っていた中学生に「部活は楽しい?」と聞いたところ、「顧問の先生が野球をやったことないから、教えてもらえなくてつまらない」とか、「先生が忙しくて部活に来ないから楽しくない」という話を聞いたんです。よくよく話を聞いてみると、野球部だけでなく多くの部活でそういった事態が起きていると聞き、驚きました。
――なるほど、そういった子どもたちを救いたいと考えたんですね。
原:はい。私は部活動というのは教育の一部だと考えています。その教育が学校側の事情によって制限されてしまうということは、あってはならないと思います。
「地域のスポーツクラブがあればいいんじゃない?」と思う方もいらっしゃると思うのですが、金銭的な負担がかかるため、全員が通えるわけではありません。
――世界的に見るとそういった地域のスポーツクラブに参加する形式がメジャーで、日本の運動部のような形式自体が珍しいとききました。
原:そうですね。でも、甲子園という文化は、部活があったからこそ生まれたものだと思います。部活という形で誰もがスポーツに触れられるという日本独自の文化は、守っていくべきだと思っています。
多方面からの働き方改革が、子どもたちの成長につながる
――部活動がより良い形で発展していくためには、どのような支援が必要だと思いますか?
原:部活動の指導が地域に移行していくのは、ある程度仕方がないと思っています。一方で顧問をやりたくて教員になった先生もいるので、そういう方たちへの配慮もしてもらえるといいのかなと。
部活動が勤務時間を大きく占めていることは事実だとは思いますが、ペーパーレスやIT化など、他の部分で働き方改革をすることも可能だと思うんです。教員の方たちにもう少し余裕が生まれれば、結果的に子どもたちが良い教育を受けることにつながりますし、部活という文化も守られると思います。
最後、部活動をより発展させていくために、私たち一人一人ができることは何があるかをたずねると、原さんは「教育や子どもたちについてもっと考えてもらえたらうれしいですね。部活動は子どもたちが社会性や協調性を学ぶ場でもあります。教員も守り、部活も守る。どちらも両立する方法はあると思います」と答えてくれた。
部活動は子どもたちにとって重要な「体験の場」だ。国も動き出した部活動への改革をより良い形で進め、子どもたちが健やかに成長していくためにも、私たち一人一人が無関心でいてはいけない。
〈プロフィール〉
原大地(はら・だいち)
神奈川県横浜市生まれ。小学4年生から野球を始め、大学まで続ける。その後、聖マリアンナ医科大学硬式野球部監督に就任。2019年より野球塾を開校し、大人から子どもまで幅広く指導を行う。そこでスポーツを行う環境が整っていない事を知る。「誰かが改善しなければ、子どもたちの未来が危うい」と感じ、子どもたちの未来をより良いものにするため、仲間と共にNPO法人日本スポーツ支援振興協会の設立に至った。
NPO法人日本スポーツ支援振興協会 公式サイト(外部リンク)
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