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強制加入、平日活動……。保護者にのしかかるPTA活動の負担。見直すべき運営のあり方
- 子どもの学校生活をサポートするPTA。強制加入などさまざまな課題を抱えている
- PTA専用支援サービス団体「PTA’S(ピータス)」では、PTAが抱える課題を解決するための情報提供を行っている
- 「子どものため」という信念を共有し、対話を心がければPTAは進化することができる
取材:日本財団ジャーナル編集部
春は子どもたちの進級、進学が近づく季節。PTAの役員・委員選出が行われるため、憂鬱だという人も多いだろう。
「PTA」とは「Parent -Teacher Association(保護者と教師からなる団体)」の略で、保護者と教師が協力しながら、子どもたちの成長をサポートすることが目的とされている。
大半の学校にある制度だが、保護者には強制加入や活動の強制、平日に行われる活動、非効率な作業といった負担がのしかかり、共働きの家庭が増えたいまの日本において、ネガティブな意見を聞くことも少なくない。
そんなPTAが抱えるさまざまな問題を解決するべく、PTA業務のアウトソーシング(外注サポート)をメインとする支援サービス「PTA’S(ピータス)」(外部リンク)を立ち上げたのが合同会社さかせる(外部リンク)代表の増島佐和子(ますじま・さわこ)さんだ。自身もPTAの役員を務めた経験があるという増島さんの元には、日々PTAに関する相談が届くという。
ネットでは不要論も見かけるPTA制度。しかし、話を伺うと「学校という組織にPTAは不可欠」という現状が見えてきた。
再就職を諦めた人も。PTAの問題は社会の課題
――PTAの主な業務についてはおおかた把握しているのですが、細かな作業も多いと聞きます。
増島さん(以下、敬称略):細かな作業は書ききれないほどありまして、総会資料の作成や印刷といったPTA運営の業務から、学校へのサポート業務もあります。コロナ禍で行われるようになった校内の消毒や、運動会などの学校行事の見回り、さらには教室のカーテンの洗濯をPTAが担っている学校もあります。
――増島さんはPTAのどのような点が問題だとお考えですか?
増島:母親からは「PTAの委員や役員をやるために再就職を諦めた」「昇進の打診があってもちゅうちょした」という声、父親からは「やってみようと思っても仕事を休めない」「女性ばかりの中に入りづらい」という声が届いています。
PTAの問題というと、親同士や教師・学校とのもめ事のような捉え方でメディアに取り上げられることが多いのですが、私はPTAの問題は社会課題ともつながっていると思うんです。女性の社会進出や男性の子育て参加、どちらの障壁にもなっていますよね。
――確かにそうですね。「PTAは不要なのではないか」という意見も耳にしますが、PTA制度を廃止にするのは難しいのでしょうか?
増島:実際に廃止した学校をいくつか知っていますが、多くの場合、PTAという名前ではない保護者の団体が立ち上がります。PTAがなくなっても運動会などの学校行事はなくなりませんから、結局、行事のお手伝いを募集する係や、それらを取りまとめる係が必要になるんです。現状の日本において、人手不足や予算不足の問題を抱える学校という組織を、保護者のサポートなしで運営していくのは難しいのではないでしょうか。
――「学校のことは学校側だけで対応するべき」という声もあると思うのですが、構造的にできないんですね。
増島:そうですね。それぞれの学校のPTAで話し合い、活動を縮小することは可能だと思うのですが、PTAの本来の目的は「子どもたちの学校生活のサポート」です。今は先生も数が足りていないですし、業務が多過ぎて子どもたちと向き合う時間が足りていないと聞いています。PTAという保護者によるサポートは不可欠ではないかなと私は考えています。
――教師や学校へのサポートが子どもたちへのサポートにつながっていると。
増島:そうですね。一方でPTAの業務が保護者の負担になっていることは役員経験者としてよく分かるので、効率化や外注などを取り入れつつ、新しい形でPTAを発展させていくことが必要ではないかと思っています。
――ネガティブな意見も多いのに、PTA制度の問題が解決しないのはなぜでしょうか?
増島:大きな理由としては、PTAが任期制で頻繁に人が入れ替わるからではないでしょうか。変えたいと思っても「自分の任期は終わったから……」と思う人が大半なんだと思います。また、さまざまな価値観の人が所属しているわけですから、PTAに参加して改革しようとしても、その人が孤立してしまうというケースもあると聞きます。
ただ、SNSですとネガティブな意見がシェアされやすいんですけど、「PTAに参加して良かった」という声もあるということは知っていただきたいですね。
会費が有効活用され、気持ちが少し楽になったという声も
――増島さんが立ち上げたPTA’Sは、どのような活動をされているのでしょうか?
増島:PTA運営で起きる困り事に対する情報の発信や相談を受け付け、その解決策として、外注先の紹介なども行っています。登録費や手数料は一切かかりません。
保護者の限られた時間やリソースを有効活用していくには、プロに任せるべき仕事はプロに任せた方がいいと私は思っているんです。その方が、質が上がるし安定もする。そしてそれは、子どもたちの学校生活の充実にもつながります。PTA’Sでは外注先となる全ての企業様と面談を行っており、信頼できる企業様のみを掲載しています。
――ウェブサイトには「PTAお役立ち情報」(外部リンク)も掲載されていますね。
増島: PTA経験者なら誰でも経験したことのある困り事に対する情報を掲載しています。皆さんが一番知りたいのは、「自分たちの活動が適切か?」「法の観点から見て本来どうあるべきか?」という情報だと思うので、必要に応じて弁護士の先生にリーガルチェックをしていただいて、エビデンス(根拠)に基づいた記事を掲載しています。これらの情報はログインいただかなくても閲覧することが可能です。
――増島さんはPTAの役員経験者だとお聞きしました。
増島:はい、コロナ前とコロナ禍の2年間、小学校のPTA役員をやっていました。役員として活動をしていた時に感じたのは、「みんながあまり楽しそうじゃない」ということ。そして、子どもたちへの悪影響ですね。親がPTAに不満を抱えていたら、家でも家族に不満を漏らしたり、夫婦げんかが起こったりすることが考えられます。
子どもに、親がネガティブな態度で学校やPTAに関わる姿って見せたくないですよね。保護者がPTAに前向きに参加できる仕組みやツールをつくりたいと思って、2020年にPTA’Sを立ち上げました。
――実際にPTA’Sを利用した方からの声で、印象的なエピソードはありましたか?
増島:PTA’Sを通じて行事のサポートを利用された方から「自分は忙しくて物理的なPTA活動ができず、後ろめたい気持ちがあったんですけど、今回、自分たちの払ってる会費がみんなに見える形で有効活用されているのを見て、罪悪感がなくなりました」という感想をいただいたことがあります。
本来は会費を納めているだけで、PTAへの協力にはなっているのですけど、なかなか皆さんそういう感覚にはなりにくいというのは、気付きでもありました。
――ということは、「PTA業務を外注するということ」自体に嫌悪感を抱く人もいそうですが……。
増島:はい。「一部の役員や保護者から反対されている」という相談はよく受けますね。「自分たちで手を動かして、努力して、初めて活動したことになる」という感覚の方は少なくないです。そういう時には、外注にすることでどんな効果が得られるかをきちんと伝えられるといいと思います。
外注の目的は負担軽減と、質が上がること。例えば通学路の中の危険箇所を示す、いわゆる「安心安全マップ」の作成でいうと、子どもにとってどこが危険かという情報は保護者たちしか集められません。ただ、それを地図に落とし込むデザイン業務もPTAの中で割り振った場合、お金はかからないかもしれませんが、分かりにくいものになってしまう可能性があり、そうなると「子どもを守る」という目的を果たしていないことになってしまいます。目的と効果を考えて、プロに外注するという選択肢がPTAにもあっていいと思います。
立場や意見は違っても、お互い子どもを思っていることを意識して
――PTAの活動に問題点を感じたら、どのように行動するのがいいでしょうか?
増島:対話することだと思います。以前、「PTAに強制加入させられそうだ。弁護士に相談しようと思っている」と相談を受けたことがありました。誰にどう相談されるかはもちろん個人の自由ですが、同じ学校にいる親同士ですし、子ども同士が友達である可能性も考えると、あまりおすすめはできません。
ただ、その方は「PTAが本来あるべき姿(子どものための組織)に戻ってほしい」と思っているし、運営している役員さんたちは「PTAをなくすわけにはいかない」と思っている。それはどちらも子どもを思ってのことなので、お互いの思いを認め合いながら、対話ができるといいのかなと思います。
――より良いPTA活動のために一人一人できることはどんなことでしょうか?
増島:運営側は、まず活動を見える化することではないでしょうか。活動の目的や全容が見えれば、気持ち良く参加できる人も増えるはずです。
また、もう1つ大切なのが、PTAの維持を目的としないことです。運営側がまずはこの活動が何のために、誰のためにあるのかという目的にきちんと立ち返って、できれば年度の始めに、どういった活動にするか話し合う場が設けられるといいと思いますね。
――PTAに参加する側として、できることはどんなことがありますか?
増島:ネガティブな情報に左右されず、「自分の子どもが通う学校のPTAは、どんな組織なんだろう?」とまずはフラットに知ること。中には「オンラインでのやりとりはNG。全部、紙ベース」といった本当に古い体制のところもあります。そういう時は、PTA自体の正しい情報を知っていただくことが大切ではないかと。
先ほどもお伝えしたように、お互い同じ学校の保護者ですので、傷つけ合うことや非難し合うことが目的ではないはずです。お互いにどう歩み寄れるかという視点から行動してみると、いい形に発展していけるのではないかと思います。
取材の最後、「PTAに入らないことによるデメリットがあるか?」を聞いてみると、「突き詰めて考えると、正直ないと思います。メリット・デメリットの考え方を超えて、子どもたちの成長のため、保護者みんなで学校を支えるという意識をいかに持ってもらえるか。それが重要ではないかと思います」と増島さんは言い、深く納得した。
今の形がベストではない。しかし、「子どもたちのため」、この目的を心に留めていれば、PTA制度はより良く進化していけるのではないだろうか。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
増島佐和子(ますじま・さわこ)
大学卒業後、 広告代理店3社で営業職を経験し、一卵性の双子の妊娠・出産を機に退職。その後、認可保育園運営事業者での企画職を経て独立。2020年にPTA専用支援サービス「PTA’S」をリリース。2021年に合同会社さかせるを設立。代表を務める。
PTA’S 公式サイト(外部リンク)
合同会社さかせる コーポレートサイト(外部リンク)
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