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子どもの声を聞き、意見を尊重する「子どもアドボカシー」。身近にできる支援を考える

イメージ写真:草原で元気よくジャンプする子どもたち
子どもの意見を尊重する社会づくりのために必要なこととは。lansa/shutterstock

執筆:浅野すずか

子どもを尊重しようという社会の動きが高まり、2023年4月1日に「こども家庭庁」が発足しました。こども家庭庁では、政策に子どもの意見を反映させることで、より子どもたちが幸せに暮らせる社会をつくろうとしています。

子どもにとって幸せな社会をつくるためには、子どもを社会の構成員として認め、当事者である子どもの意見を聞くことが大切です。そのため、今ある「子どもの意見を尊重する」「子どもの声を大切にする」といった動きは、従来の大人主導の社会から脱却するためのスタートラインとなるでしょう。

しかし、子どもの意見を尊重するとは、具体的にどういったことでしょうか。「あなたは今の生活で、何か困っていることはある?」「どんな社会にしていきたい?」と聞くだけでいいのでしょうか。

本当の意味で、子どもが自分の意見を表明し、子ども主体の社会をつくるためには何が必要なのか、考えていきます。

日本における子どもに関する政策

新しく発足する「こども家庭庁」は、内閣総理大臣の直属の機関で、内閣府の外局となります。子ども政策担当大臣やこども家庭庁長官を置き、「企画立案・総合調整部門」「生育部門」「支援部門」の3つから構成されます。

こども家庭庁の体制図:
内閣総理大臣、こども政策担当大臣、こども家庭庁長官をリーダーに、その下に「企画立案・総合調整部門」「成育部門」「支援部門」の3つの部門を設けています。

■企画立案・総合調整部門
全体の取りまとめ
1.こども・若者全体の声を聞いた上でのこども政策全体の企画立案
2.地方自治体や民間団体の協力
ほか

■成育部門
こどもの育ちのサポート
1.妊娠・出産の支援や母親と小さなこどもの健康支援
2.保育所や幼稚園など小学校に入学する前のこどもの育ち
3.小中高生の居場所づくりや放課後児童クラブ
4.こどもの安全(性的被害や事故の防止)
ほか

■支援部門
特に支援が必要なこどもをサポート
1.こどもの虐待防止やヤングケアラー(※)などの支援
2.血のつながった家族以外と暮らすこどもの生活の充実や大人になって社会へ出ていくための支援
3.こどもの貧困やひとり親家庭の支援
4.障害のあるこどもの支援
ほか
※家族にケアが必要な人がいるため、家事や家族の世話などを行なっているこども
出典:「こども家庭庁について」内閣官房 こども家庭庁設立準備室 p11、12(外部リンク/PDF)

「こども家庭庁の目指すもの、必要性」として、「こども政策をさらに強力に進めていくため、常にこどもの視点に立ち、こどもの最善の利益を第一に考え、こどもまんなか社会の実現に向けて専一に取り組む独立した行政組織と専任の大臣が必要。新たな行政組織として、こどもが、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができる社会の実現に向けて、こどもと家庭の福祉の増進・保健の向上等の支援、こどもの権利利益の擁護を任務とするこども家庭庁を創設する。」とあります(※資料1)。

「こどもまんなか社会」とは、常に子どもの最善の利益を第一に考え、子どもに関する取組・政策を真ん中に据える社会のこと。その実現のために、子どもや若者からヒアリングを行う機会をつくったり、政府に意見を送れるようにパブリックコメントの制度も設けられます。

子どもに関する政策の司令塔機能は、これまで内閣府や厚生労働省などに分散されていました。それがこども家庭庁の発足によって、一本化されるのです。

子どもの意見を尊重する「子どもアドボカシー」とは

子どもの意見を尊重しようとするとき、「子どもアドボカシー」については知っておくべきでしょう。

子どもアドボカシーとは、子どもが意見や考えを表明できるようにサポートすること。アドボカシー(advocacy)は、ラテン語の「voco(声を上げる)」に由来します(※資料2)。

子どもアドボカシーを実践する人を「アドボケイト」といいます。現段階では公的な資格はありませんが、NPO法人などがアドボケイトの養成講座を実施しています。

アドボケイトの特徴の1つは、保護者や学校など子どもに関わる人や組織から完全に独立していること。もしアドボケイトがどこかの組織と密接に関係しているのであれば、子どもはその組織に気を遣い、アドボケイトに本音を話せないかもしれません。

子どもアドボケイトは、子どもが意見を表明する権利を支えるために存在するので、完全に独立している必要があるのです。

子どもアドボカシーの対象は、社会的養護の子どもがメインとなります。

児童福祉法の改正により、2024年から「児童の意見聴取等の仕組みの整備」が実施されます。これによって、児童養護施設や一時保護施設の子どもたちへの措置を検討する際、子どもの意見を聞くことが盛り込まれました。

しかし、社会的養護の子どもに限らず、家庭の中にもなかなか自分の声を聞いてもらえないと感じている子どもはいるはず。子どもの声を社会に反映させるためには、あらゆる子どもに対して子どもアドボカシーが必要です。

保護者や教師など子どもに関わる全ての人が子どもアドボカシーについて理解し、子どもの声を聞くことで、子どもを尊重した社会を実現できるのです。

子どもの意見を尊重する「子どもアドボカシー」とは

子どもの意見を尊重しようとするとき、「子どもアドボカシー」については知っておくべきでしょう。

子どもアドボカシーとは、子どもが意見や考えを表明できるようにサポートすること。アドボカシー(advocacy)は、ラテン語の「voco(声を上げる)」に由来します(※資料2)。

子どもアドボカシーを実践する人を「アドボケイト」といいます。現段階では公的な資格はありませんが、NPO法人などがアドボケイトの養成講座を実施しています。

アドボケイトの特徴の1つは、保護者や学校など子どもに関わる人や組織から完全に独立していること。もしアドボケイトがどこかの組織と密接に関係しているのであれば、子どもはその組織に気を遣い、アドボケイトに本音を話せないかもしれません。

子どもアドボケイトは、子どもが意見を表明する権利を支えるために存在するので、完全に独立している必要があるのです。

子どもアドボカシーの対象は、社会的養護の子どもがメインとなります。

児童福祉法の改正により、2024年から「児童の意見聴取等の仕組みの整備」が実施されます。これによって、児童養護施設や一時保護施設の子どもたちへの措置を検討する際、子どもの意見を聞くことが盛り込まれました。

しかし、社会的養護の子どもに限らず、家庭の中にもなかなか自分の声を聞いてもらえないと感じている子どもはいるはず。子どもの声を社会に反映させるためには、あらゆる子どもに対して子どもアドボカシーが必要です。

保護者や教師など子どもに関わる全ての人が子どもアドボカシーについて理解し、子どもの声を聞くことで、子どもを尊重した社会を実現できるのです。

子どもアドボカシーについての説明図:
アドボカシーはジグゾーパズル

・真ん中…本人(セルフアドボカシー)
・右上…友人・同じ背景を持つ人(ピアアドボカシー)
・右下…アドボケイトら(独立/専門アドボカシー)
・左下…親・養育者・近所の人(インフォーマルアドボカシー)
・左上…教師・福祉職員心理士(フォーマルアドボカシー)

それぞれの立場が補完し合い子どもの声を聞くことが大切
引用:「子どもの声を尊重する社会の実現に向けて − 子どもアドボカシーの取り組み – 」内閣官房 p37(外部リンク/PDF)

子どもの意見を尊重するためにできること

「子どもの声を社会に反映させる」というと、なんだか途方もない道のりのように思えるかもしれません。しかし、私たちが過ごす日常が社会をつくるのだから、私たちの日々の心がけによって少しずつ実現できると考えます。

私たち一人一人が、子どもの意見を尊重するためにできることは何でしょうか。

1.子どもが声を上げやすい環境をつくる

子どもの声を聞くために、まずは子どもが安心して声を上げられる環境をつくることが大切です。いくら大人が子どもの声を聞こうとしても、信頼していない大人には本音を話さないでしょう。そのため、日頃から子どもとの信頼関係を築くように努めなければなりません。

信頼関係を築くというと難しく聞こえるかもしれませんが、約束を守る、話を最後まで聞くなど、人とコミュニケーションをとる上で極めて基本的かつ大切なことを意識するだけで変わってきます。

2.普段から自分の考えを認識し表出することを認める

突然、社会に対する意見を求められても、多くの子どもは考えたり意見を表出したりすることができないでしょう。それもそのはず、「意見を言う」と一言で言っても、それまでにはたくさんの過程があるからです。

まずは、自分の考えを認識しなければなりません。

お菓子が食べたい、学校に行きたくない、公園で遊びたい……日々生活する中で、心の中にはいろんな思いが湧き上がってきます。それを自分の中で認めずに、「こういう決まりだから」と抑え込んでいたら、だんだん考えることをやめてしまうでしょう。

そしてそれは自分の中だけでなく、大人に伝えても無視されてしまったら、「どうせ言っても無駄なんだ」と考えることを諦めてしまうかもしれません。

子どもが何を思い、どんなことを考えるのかは自由。そのときの状況によって、全て子どもの思い通りにはできないこともありますが、「自分の意見を言っていいのだ」ということを子どもに伝え、大人が子どもの意見を受け止めることが重要です。

3.子どもに意見を言わせることを強要しない

子どもの意見を聞くことは大切だが、それは「子どもが意見を言いたいと思ったとき」に限った話です。

そもそも、意見を言うかどうか決める権利は子どもにあります。子ども自身が話したくないと思ったときは、話す必要はありません。

もしかしたら時間が経てば話したくなるかもしれないし、別の環境を改めて設定する必要があるかもしれません。話したくないときに「何でも聞くから、遠慮なく話してね」と言われるのはプレッシャーになります。

「話したくない」というのも、子どもの意見の1つだと大人は認識しなければなりません。

4.子どもの意見を否定したりないがしろにしたりしない

せっかく子どもが意見を言ったとしても、それを否定したりないがしろにしては、子どもはがっかりしてしまうでしょう。

話した内容が悩みや言いにくいことだったとしたら、子どもは大きなショックを受けるかもしれません。もしそれが何回も続いたら、子どもは大人を信用しなくなり、意見を言うのをやめてしまいます。

もし子どもの話に意見したくなったときは、「そう考えているんだね」と一度受け止める必要があります。その上で、大人の考えを押し付けるのではなく「こういう考え方もあるよ」と1つの案として提示することが大切です。

イメージ写真:親に話をする子ども
まずは子どもの意見、話に耳を傾けることが大切。takayuki/shutterstock

子どもの意見を社会に反映させるために、まずは日常生活で私たちができることを考えてみました。どれもコミュニケーションの基礎であり、子どもだけでなく大人にとっても大切なことが分かるのではないでしょうか。

日々の忙しさや余裕のなさから、大人はつい自分本位な行動をとり、子どもの意見を尊重できないこともあるかもしれません。

しかし、「子どもは、大人より劣っているわけではない」「子どもも大人も、社会に暮らす対等な存在である」と理解し、もし間違った対応をしてしまったら謝り、再び子どもの声に耳を傾けることができたら、信頼関係を崩すことなく、子どもを尊重する社会へ少しずつ変化していくことでしょう。

[資料一覧]

※1.引用: 「第1章 子供・若者育成支援施策の総合的な推進(特集)」内閣府(外部リンク)

※2.参考: 「子どもの声を尊重する社会の実現に向けてー子どもアドボカシーの取り組みー」内閣官房 p26(外部リンク/PDF)

〈プロフィール〉

浅野すずか(あさの・すずか)

フリーライター。看護師として勤務後、ライターに転身。その経験を活かし、主に医療や介護に関する記事を執筆。社会課題にも関心があり、NPO法人でも活動中。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。
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