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幼稚園、保育所に通わない3~5歳の未就園児は5.4万人。研究者に背景と課題を問う

イメージ:幼稚園児
さまざまな事情で幼稚園や保育所に通えていない未就園児の課題が顕在化しつつある。Toby Howard/shutterstock.com
この記事のPOINT!
  • 幼稚園、保育所に通っていない3~5歳の未就園児は全国に5.4万人存在する
  • 未就園の家庭は孤立しやすく困難を抱えている傾向がある。国による実態把握や支援が必要
  • 子育て家庭に温かい目を向けることが孤立を防ぎ、支援につながりやすい社会の一歩に

取材:日本財団ジャーナル編集部

「未就園児」という言葉を聞いて、皆さんは何をイメージするでしょうか?多くの方は幼稚園・保育所(保育園と同義)といった施設に入園する前の乳幼児を想像するかと思います。

しかし、未就園児にはもう1つの定義があり、「さまざまな理由で3~5 歳になっても、幼稚園・保育所・認定こども園といった施設に通えていない子ども」を指す言葉でもあります。

図表:未就園児の範囲

2種類の未就園児の定義を示した図。

0歳〜2歳児が就園するには、主に保護者の就労等「保育を必要とする理由」が求められる。

3〜5歳は幼稚園等の利用料が無償化されているにも関わらず、一定数未就園児が存在する。
未就園児という言葉には2つの定義がある。出典:こども家庭庁「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究」(外部リンク/PDF)

幼児教育は義務教育ではないため、未就園自体に問題があるわけではないですが、未就園児のいる家庭は他者の目が届きづらく、孤立している恐れがあると指摘されています。

現在こども家庭庁に勤める可知悠子(かち・ゆうこ)さんは、北里大学に教員として勤めていた際に、日本で初めて3歳以降の未就園児についての調査を行い、2019年3月に研究結果を発表しました。

この調査によって、3~5歳の未就園児のいる家庭は社会的・経済的に不利な傾向にあることが明らかとなり、国も本格的な調査を開始しました。

2023年3月にはこども家庭庁設立準備室より「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究報告書」(外部リンク)が発表されました。3~5歳の未就園児は全体の1.8パーセントと少数ながら、5.4万人(※)にも及んでいます。

  • ただし、企業主導型保育事業や認可外保育施設を利用している子どもも含む

図表:0〜5歳児の未就園児の割合と人数(2019年)

0歳児の保育所等に就園している割合16.4パーセント。就園していない割合83.6パーセント(78.9万人)。

1歳児の保育所等に就園している割合44.8パーセント。就園していない割合55.2パーセント(53.0万人)。

2歳児の保育所等に就園している割合50.3パーセント。就園していない割合49.7パーセント(49.7万人)。

3歳児の保育所等に就園している割合96.5パーセント。就園していない割合3.5パーセント(3.3万人)。

4歳児の保育所等に就園している割合99.8パーセント。就園していない割合0.2パーセント(0.2万人)。

5歳児の保育所等に就園している割合98.1パーセント。就園していない割合1.9パーセント(1.9万人)。
3〜5歳の未就園児は5.4万人と一定数存在する。(こども家庭庁資料より編集部作成)。出典:こども家庭庁「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究」(外部リンク/PDF)

今回、こども家庭庁設立準備室で未就園児の調査に関わった可知さんに、未就園児を持つ家庭にはどんなリスクがあるのか、そして未就園児となってしまう背景についてお話を伺いました。

※本記事における発言は可知さんの個人的見解であり、こども家庭庁を代表するものではありません

日本で初めて3歳以降の未就園児の調査研究を行ったこども家庭庁の可知悠子さん

未就園児には、経済的問題や保護者の精神面などの影響が

――まず、「3歳以降の未就園児」がなぜ問題となるのかを教えていただけますか?

可知さん(以下、敬称略):乳幼児のお子さんを育てている家庭は、保育所や幼稚園などに通っているかどうかにかかわらず、どの家庭も孤立したり、不適切な育児を行ってしまったりするというリスクを抱えています。

その中でも未就園児の家庭は、他者の目が届きにくいので、困っていることがあっても表面化しづらくなってしまうんです。

日本において幼児教育は義務ではありませんので、未就園であること自体は問題ではありませんが、地域から孤立していたり、困りごとを抱えていたりする場合にはなるべく早く把握して、アプローチを行い、支援することが重要だと考えています。

――「3歳以降の未就園児」となってしまうのには、どのような背景があるのでしょうか?

可知:こども家庭庁設立準備室の調査によって明らかになったのは、大きく分けて3つの要因です。

1つ目は「社会的・経済的に不利な家庭」です。子どもがたくさんいるいわゆる多子家庭や、外国籍や外国にルーツを持つ家庭などが挙げられます。

2つ目が「早産による障害や発達に遅れのあるお子さんを持つ家庭」。3つ目が「保護者のメンタルヘルス面に課題のある家庭」です。これらの課題が複数絡み合っていることも少なくありません。

――経済的な理由で就園を希望しない家庭があるとのことですが、2019年には幼児教育・保育が無償化されたかと思います。

可知:無償となるには条件があるほか、一部の幼児教育施設では助成される上限金額を超えて一部実費となるケースがあるんです。また、入園費・給食費・教材費などに関しては実費負担となってます。

図:子どもの教育無償化となるためのフローチャート。年齢など細かい条件があり、複雑な図。
幼児教育・保育が無償化となる条件はやや複雑。※画像をクリックすると拡大。引用:内閣府「幼児教育・保育の無償化について(日本語)」(外部リンク/PDF)

――全てが無償になるわけではないのですね。

可知:はい。こういった費用を負担に感じ、未就園となっているご家庭があることが今回の調査で分かっています。

――障害や発達の遅れが未就園につながる理由はなんでしょうか?

可知:発達障害のあるお子さんの場合は入園を断られたり、途中で退園に追い込まれたりしてしまうケースがあると聞いてます。このように入りたくても入れないケースもまだあるのが現状です。

――保護者のメンタルヘルス面に課題があると、未就園につながるのはなぜでしょうか?

可知:幼稚園や保育所の入園の手続きは自治体窓口に行かなくてはならない上、複雑でハードルが高いことが挙げられます。精神的に不調ですと、文字を読むことすら困難となることがあるんです。

また、入園が決まったとしても、園まで送迎ができない場合もあります。メンタルヘルス面の課題はかなり深刻だと思っています。

――なるほど。今回の調査では、未就園の状態から就園に至ったという3つの家庭へヒアリングを行ったと聞いています。就園に至ったきっかけとは何だったのでしょうか?

可知:調査における1つの例を挙げると、お子さんが早産で生まれ自閉症があり、母親自身も心身的な疾患を抱えているというご家庭がありました。

その母親は遠方から引っ越してきたばかりで、近くに友人も知り合いもおらず、家に閉じこもった生活をしていたのですが、ある時、手書きのお手紙が届いたんです。それは一度だけ訪れたことのあった地域子育て支援拠点(親子の交流や育児相談・情報提供を行う施設)のスタッフさんからで、その心遣いに涙を流すくらい嬉しかったそうです。

その後、その母親は地域子育て支援拠点に定期的に通うようになり、最終的にそのスタッフさんに伴走してもらいながら、就園することができたそうです。

このように支援者のちょっとした工夫や、人と人との信頼感で就園につながるケースがあるんです。

自治体と子育て家庭が顔を合わせると共に経済的支援を開始

――ここからは3〜5歳だけでなく、0歳〜2歳も含んだ全ての未就園児に対する「こども家庭庁の取り組み」についてお伺いしたいと思います。こども家庭庁は2023年4月に発足(別タブで開く)されましたが、今後どのような支援を行っていくのでしょうか?

可知:調査報告書で示した今後の取り組みの方向性としては、「孤立や不適切養育の予防」「支援の対象とすべき子どもの把握」「支援が必要な子どもと家庭との関係性の構築、支援の実施、再度の孤立防止」というのが柱となっています。

図:未就園児問題に対する今後の取り組みの方向性

■孤立や不適切養育の予防(妊娠期からのポピュレーションアプローチ)

子育て環境の変化等により、全ての家庭に孤立や不適切養育に陥るリスクがあることを考慮

■支援の対象とすべきこどもの把握

支援の対象とすべきこどもについて、必要な支援に早期につなぐことが重要

■支援が必要なこどもや家庭との関係性の構築、支援の実施、再度の孤立の防止

行政への抵抗感により支援につながらないケースや、ひろばや保育所などの拠点型サービスへ出向くことが難しいケースへの対応
未就園児問題に対する今後の取り組みの方向性、一部抜粋。出典:こども家庭庁「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究報告書概要」(外部リンク/PDF)

――具体的にはどのような支援になるのでしょうか?

可知:孤立や不適切養育の予防では、2023年1月に始まった「伴走型相談支援」(外部リンク)という取り組みがあります。

これは全ての妊婦・子育て家庭に、妊娠届け時から出産・子育てまで一貫した伴走型の相談と経済的支援を同時に行うものです。

具体的には自治体の子育て世代包括支援センター(※1)などで、1.妊娠届けを出した際、2.妊娠の32~34週、3.産後 と、合計3回の面談を行います。面談を行った子育て家庭には合計で10万円相当の経済的支援(※2)を行うというものです。

地域の身近な相談機関とつながり、いつでも安心して気軽に相談し、必要な支援を受けることができる新しい仕組みとなっています。

  • 1. 母子保健法に基づき市町村が設置するもので、保健師等の専門スタッフが妊娠・出産・育児に関する様々な相談に対応し、必要に応じて支援プランの策定や地域の保健医療福祉の関係機関との連絡調整を行うなど、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を一体的に提供する施設
  • 2.内容は各自治体によって異なる。出産育児関連用品の購入や、レンタル費用助成、サービス等の利用負担軽減などとなっている
図:伴走型相談支援の流れ

妊娠8〜10週前後で1回目の面談を行う

妊娠32〜34週前後で2回目の面談を行う

出産・産後で3回目の面談を行う

産後の育児期には子育て関連イベントの情報発信を随時行い、相談受付対応の継続実施を行う

また、 ニーズに応じた支援(両親学級、地域子育て支援拠点、産前・産後ケア、一時預かり等) 、妊娠届出時(5万円相当)と出生届出時(5万円相当)に経済的支援を行う
2023年1月より始まった「出産・子育て応援交付金」の概要。出典:厚生労働省子ども家庭局「妊婦・子育て家庭への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施(出産・子育て応援交付金)について」(外部リンク/PDF)

――自治体とつながりができ、相談しやすくなりそうですね。

可知:その通りです。面談の回数はそれほど多くはないかもしれませんが、全ての妊婦、子育て家庭を対象にしているのがこれまでにない取り組みですし、この面談でニーズを把握して別途、必要な支援につなげるということができます。

他にも保育所の空き定員等を利用し、未就園児を預かるモデル事業もスタートします。継続して週に1~2日程度、定期的に未就園の子どもを預かる仕組みで、就労状況を問わない点が画期的です。子どもたちの発達を促進することや、保護者への継続的な支援となることが期待されています。

――支援対象の子どもを把握するためには、どんな取り組みがスタートするのでしょうか?

可知:国や自治体によって3歳以降の未就園児の数と養育状況の把握をする取り組みを検討中です。

これまでも厚生労働省が自治体の協力を得て、乳幼児健診未受診者、未就園児、不就学児等の状況確認調査は行ってきたのですが、自治体や関係機関による子どもの安全確認、安全確保にとどまっていました。必要な支援につなぐことができるよう、養育状況まで把握できるように見直しを検討しているところです。

――養育状況を把握した後はどのように支援を行うのでしょうか?

可知:2023年の4月から、訪問により困りごとを把握した家庭に対して、保育所や障害児支援等の各種申請手続きのサポートを行う事業をスタートしています。例えば、就園の申請は自治体の窓口まで行かなければならず、複雑なこともあるので、申請をオンライン化し簡単にしようという流れも出てきていますね。また、家事・育児等に対して不安・負担を抱えた家庭を訪れて家事を支援するサービスも始まっています。

ただ、支援者につながったからといって、すぐに関係性が築けるわけではありませんから、つながり続けることが大切です。そのためには支援者の高いスキルが必要で、人材育成も急務となっています。

未就園児に対するアンテナを立て、社会全体で見守りを

――未就園児やその家庭に対して、私たち一人一人ができることはありますか?

可知:市民同士のつながりの中でも、子育て家庭の孤立を防ぐことはできるのかなと思っています。

例えば、地域の居場所づくりに参加して、大変そうなご家庭があれば支援につなげることもできるのではないかと。そこまでできないという方は、お子さん連れの家庭に出会ったときに優しい目線を向けることだけでもいいと思います。

可知さんはこれまでも子どもの貧困についての研究などを行ってきた

――優しい目線はすごく大事なことですよね。

可知:私自身、自分の子どもが幼い頃に、外出先で大きな声で泣き出してしまって途方にくれた経験があるんです。そんな時に通りすがりの方から優しい声をかけられて、私が大号泣してしまったことがありました。そんなふうに、ちょっとした声掛けで救われる人はたくさんいると思います。

もう1つ大切なのが、主にこども・子育て支援や福祉、医療に関わる人たちが未就園児に対して、「アンテナを立てること」だと思っています。

――アンテナを立てる? 具体的にはどういうことでしょうか?

可知:ヤングケアラー(※)がまさにそうだと思うのですが、社会課題が認知されるようになると、皆さんにアンテナが立つようになります。「この子、 ニュースになっていた“ヤングケアラー”ってやつなのかな?」というように。

未就園児も同じで、例えば介護の仕事をしている方が誰かの家を訪ねたときに、ずっと家にいるお子さんを見て、「もしかして、“未就園児”なのかな?」と気付けるようになれば、支援につながるケースも増えてくるのではないでしょうか。

  • 本来、大人が担うような家事や家族のケア(介護や世話)を日常的に行う子どものこと

――社会課題の認知とその現象の名前を知ることはとても大事だと思います。

ただ一方で「未就園児=虐待などの問題が起こりやすい家庭」と決めつけてしまうのも危険です。アンテナは立てつつも、個人の状況に寄り添い、支援につなげられるケースが増えていけばと思っています。

編集後記

3~5歳の未就園児は全体の1.8パーセント。数字で見れば大したことはないように思えますが、その背景をお聞きすると深刻なケースも多いということが分かりました。

こども家庭庁を中心に、未就園児の把握や支援が進むと同時に、私たち一人一人もアンテナを立てることが、困難を抱えた家庭の孤立を防ぐ社会づくりへの一歩となりそうです。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

可知悠子(かち・ゆうこ)

こども家庭庁長官官房EBPM推進室参事官補佐。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了後、大学教員を経て、内閣官房こども家庭庁設立準備室にて未就園児の調査研究に取り組む。2023年より現職に。主な著書に『保育園に通えない子どもたち』 (ちくま新書)がある。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。