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世界が“ごみ”でつながる!ワールドカップ開催も決定した「スポGOMI」の魅力とは?
- スポGOMIはごみ拾いを競技化し、ごみ問題を自分ごと化できる日本発祥のスポーツ
- 2023年11月、世界20カ国が参加する「スポGOMIワールドカップ」が初開催される
- ごみ問題を身近にすることで、世界のごみ問題にも興味を持つ機会へとつなげる
取材:日本財団ジャーナル編集部
地域清掃に取り組む企業や団体は数多くありますが、そのごみ拾いにスポーツのエッセンスを加え、競技へと発展させた日本発祥の新しいスポーツ「スポGOMI」(外部リンク)をご存知でしょうか?
2008年の初開催以来、大会の開催数や参加人数は増加しており、海外にも拡大。2019年には、日本全国から地方大会を勝ち抜いた高校生が集結した「スポGOMI甲子園」(外部リンク)が開催されるなど話題を集め、累計参加人数は延べ13万人を超えているということです。
そして2023年、世界20カ国が参加する「スポGOMIワールドカップ」(外部リンク)の開催も決定。3月から予選が各国で行われ、2023年11月には日本での決勝大会が開催される予定です。
今回はそのスポGOMIの発起人である、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブの代表理事・馬見塚健一(まみつか・けんいち)さんに、スポGOMIの魅力について伺いました。
どこでも開催、誰でも参加できる。地球に最も優しいスポーツ
――まずは馬見塚さんが代表を務める「ソーシャルスポーツイニシアチブ」について教えてください。
馬見塚さん(以下、敬称略):チーム対抗でごみ拾いを行う「スポGOMI」を中心に、国や地域が抱えるさまざまな課題をスポーツで解決することを目的に活動している団体です。
スポGOMI以外にも、「スポーツ雪かき」や「スポーツ柿取り」を開催するなど、地域の困りごとに合わせて幅広い活動を行っています。
――“スポーツ”と付くと、それだけで楽しそうです! 改めてスポGOMIのルールについて教えていただけますか?
馬見塚:3~5名でチームを組み、決められたエリア内で制限時間内にごみを拾い集めるというのが基本的なルールです。ごみは種類ごとにポイント化していて、合計ポイントの高いチームが勝利となります。
馬見塚:チームメンバー同士は10メートル以内の距離を保つこと。競技エリアは走らないこと、スポーツマンシップに則ること。また、各チームには安全面を確保するため、審査員が帯同します。
――参加するのに年齢制限など何か条件はありますか?
馬見塚:ありません。未就学児は保護者の方と一緒に参加していただきますが、小さなお子さんから高齢の方まで、年齢や性別、国籍などに関係なく誰でも参加できるのがスポGOMIの大きな特徴です。
ただ、単に拾い集めたごみの重さだけで勝敗を決めると不公平になってしまうので、お子さんでも拾いやすいタバコの吸い殻のポイントを高くするなどの工夫をしています。
――子どものチームでも優勝のチャンスがあるということですね。スポGOMIはどんな経緯で誕生したんでしょうか?
馬見塚:僕が横浜のみなとみらいエリアに住んでいた2007年頃、毎朝ランニングをしていたのですが、高層ビルがどんどん建ち始め、周りの環境が変化するに連れて道端に落ちているごみが目につくようになったんです。
はじめはごみを拾うことに対して恥ずかしさや、「落ちているごみを全部拾えるわけじゃないし、偽善者じゃないかな……」という思いがあったのですが、「拾った分だけ街がきれいになるんだからそれでいい」と、思えるようになって、ランニングしながらのごみ拾いが習慣となりました。
「次はスピードを落とさないで走ってみよう」、「大腿筋を意識してみよう」と、自分なりにルールを決めていくと、それまで「汚い」と思っていたごみが「ターゲット」に変わって、だんだん楽しくなってきたんです。
ここから着想を得て、「企業や地域などが行っているごみ拾いにスポーツの要素を加えたら、ごみ問題に興味がない人でも楽しみながら、向き合うきっかけになるのでは?」と思って、当時、お付き合いのあった武蔵大学の環境学部の学生と一緒に、スポGOMIのルールを作っていったのが始まりです。
年々、盛り上がりを見せる「スポGOMI甲子園」
――これまでどれくらい開催されてきたのでしょう?
馬見塚:2008年からスタートして、総開催数は1,300回を超えました。これまでに13万人以上の方が参加してくださっています。2019年からは高校生を対象にした「スポGOMI甲子園」を開催しているほか、世界にも活動が広がっていて、ロシアやミャンマー、韓国、パナマなど海外にも展開していっています。
――すごい数ですね! スポGOMIは開催当初から受け入れられてきたのでしょうか?
馬見塚:いえいえ、全くそんなことはなくて……。最初の頃は他のごみ拾い団体の方々に「遊び半分のごみ拾いなんて」と、言われていました。
そこで、第三者にきちんと評価をしてもらおうと国立環境研究所を訪ねて、「スポGOMIに参加した人の意識調査をしてほしい」とお願いしたんです。はじめのうちは全く相手にされなかったのですが、ある研究員の方が興味を持ってくださって、2年間にわたって参加者のごみに対する意識の変化についてアンケート調査を実施していただきました。
この調査で「ごみ拾いに参加したことがなかった人が、初めて参加するきっかけになった」「スポGOMIをきっかけに他のボランティアに参加するようになった」といったデータが明らかとなり、広く意義が認められ、評価されるようになったんです。
――なるほど。高校生だけを対象にした「スポGOMI甲子園」を始めた経緯はなんだったのでしょう?
馬見塚:参加者の中で最も少ないのが高校生だったんですよ。自分自身の高校時代を振り返ってみても、おそらく「面倒くさい」「ごみ拾いなんてダサい」と思って参加しなかったと思うんですよね。
「じゃあ、どうすれば高校生たちにアプローチできるだろう?」と悩んでいるときに、日本財団さんから「野球と同じように、ごみ拾いの甲子園をつくったら面白いかもしれない」とアイデアをいただきました。
――高校生の皆さんは、積極的に参加してくださっていますか?
馬見塚:25道府県でスタートした当初は「学校の先生に言われてきました」という感じでしたが、今ではすごく盛り上がっていて「なぜ自分たちの地域では開催しないのか?」「練習したいのでルールを教えてください」などの問い合わせが多く寄せられています。
「昨年負けたからリベンジしたい!」と何度も挑戦してくれたり、高校卒業後に一般のスポGOMIに参加してくれたりするというケースも増えていますね。
ワールドカップが、世界各国のごみ問題を共有し合う機会に
――さらに、海外にも活動が広がっています。第1回目はどこで開催されたのでしょう。
馬見塚:ロシアです。2016年、シベリアのトムスク州知事が来日した際、当時の都知事と環境問題について話し合う機会があったそうなんですが、通訳の方がスポGOMIの存在を知っていてくれたようで、そこからロシアでの開催につながりました。
「ごみ拾いはスポーツである」と掲げていることもあって、「スポーツと呼ぶからにはルールがあるはずだ、教えてくれ」と、各国の方からお問い合わせをいただくんです。こうして開催地が世界へと広がっていきました。
“スポGOMI”というシンプルな名称も広まるきっかけの一因になったと思います。
――海外で開催してみて、日本のごみ事情との違いはありましたか?
馬見塚:かなり違いますね。例えばごみ処理設備が整っていないミャンマーは「濡れている」か「乾いている」でごみを分別するんです。
また、拾い集めたごみは日本だと基本的に自治体が無料で回収してくれますが、ロシアでは莫大な費用がかかってしまいました。
他にも、ある中東の国では大勢の参加者が集まることでデモやテロリストの集団とみなされてしまったり……。単なるボランティア活動では済まされない国もあるんだなということに気付かされました。
――2023年には初めて「スポGOMIワールドカップ」が開催されます。改めて、ここまで規模が成長したスポGOMIの魅力とはなんだと思われますか?
馬見塚:やはり、スポーツであること。ワクワク感やチームで力を合わせる楽しさ、勝ったときの達成感、負けたときの悔しさ……。さまざまな体験ができるのはスポーツならですね。
初めて参加する大人の多くは、「ごみ拾いがスポーツになるの?」「自分の街はきれいだから競技にならないよ」と半信半疑で参加するのですが、やり始めると夢中になっていますね。
はじめのうちはごみを見つけて喜んでいるのですが、だんだんと「ごみがあることで喜ぶのはおかしいんじゃないか」とモヤモヤし始める。競技が終わる頃には、ごみに対する意識が変わっているんです。これが従来のごみ拾いとの大きな違いじゃないかなと思います。
――スポGOMIワールドカップへの意気込みや、開催を通して期待していることがあれば教えてください。
馬見塚:世界初のごみ拾いのワールドカップ、本当に楽しみです。世界中の人々がごみを通してつながる、またとない機会でもあります。
2019年に「2030年までに50カ国でスポGOMIを開催する」という目標を立てたのですが、ワールドカップ開催によって一気に20カ国で開催できることになりました。
さらに、今回は参加国ではない国々からもたくさんのお問い合わせをいただいていて、目標達成も夢ではないかもしれないと期待しています。
編集部もスポGOMIイベントに参加してきました
2023年4月22日にユニクロ原宿店で開催された、スポGOMIイベント「スポGOMI×ユニクロ×花井祐介」(外部リンク)に、日本財団ジャーナル編集部も参加してきましたので、その模様もレポートします。
このスポGOMIイベントには、環境への身近なアクションを一押しする「ONE STEP FORWARD」というテーマでユニクロとコラボを行った、グラフィックアーティストの花井祐介(はない・ゆうすけ)さんも参加。優勝チームには花井さんの原画や、花井さんとユニクロのコラボ商品が送られるということで、会場も大変盛り上がっていました。
一般応募で集まった参加者は65名。そのほとんどが親子連れで、話を伺うと「花井さんの作品のファン」という方が多いようでした。
ルール説明と開会式を終えると、いよいよスポGOMI競技の開始です。制限時間45分の間に各チームがごみを拾いに、原宿周辺を探索します。
年齢関係なく、楽しむようにごみ拾いを行っているのが印象的でした。
あっという間に45分が経過し、集まったごみは運営本部にて計量が行われます。
結果待ちの間、花井さんが参加者と一緒に「世界で一つのアート作品を作る」というワークショップが行われました。
花井さんが今回のために描いたアート作品の上に、参加者が何かを貼り付けています。
なんと、こちらはビーチに落ちていたというプラスチックごみ。
こうして完成したアート作品がこちら(写真右側)。作品はユニクロ原宿店の花井祐介UT特設コーナーにて展示中ということです。
そして、結果発表の時間。優勝チームが集めたごみは2.91キログラムで、ポイントに換算すると787.5ポイント。また、このイベントで集まったごみの総重量はなんと32.66キロにも及んだということでした。
イベント終了後、参加していた親子に感想を伺いました。
「花壇のとことか端っこにたばこが落ちてた。たばこはポイントが高いから、たくさん集めてた」(子ども)
「花井さんの作品のファンなので子どもと来ました。環境問題はあまり考えたことなかったんですけど、こうして集めてみると『意外と落ちているんもんだな……』と、思いましたね。楽しくごみを拾えて街がきれいになる。このような取り組みはとても素晴らしいなと感じました」(父親)
親子揃ってスポ GOMIの魅力を堪能できたようで、笑顔で語ってくれました。
編集後記
参加者の声を聞き、馬見塚さんが話された「ごみ問題に興味がない人でも楽しみながら、向き合うきっかけになるのでは?」ということが、実感できました。
スポGOMIワールドカップの決勝大会は11月、東京で開催予定です。少しでも気になったあなた、参加資格はそれだけで十分。世界一を目指して、ぜひ日本での予選大会にエントリーしてみてはいかがでしょうか。
撮影:十河英三郎
【スポGOMIワールドカップ2023 in Japan 都道府県大会の参加者募集中!】
地球に最も優しいスポーツ「スポGOMI」。史上初となる世界一を決める大会が、2023年11月に日本にて開催されます。日本では都道府県ごとに予選大会を開催、成績上位のチームに日本代表としてスポGOMIワールドカップ2023 in Japanへの参加資格が与えられます。開催日程と募集要項はこちら(外部リンク)をチェックしてください。
〈プロフィール〉
馬見塚健一(まみつか・けんいち)
1967年生まれ、鹿児島市出身。一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表。1967年鹿児島生まれ。大手広告代理店の営業からプランナーへ転身し、2006年に環境とスポーツをデザインするブランディング集団「まわるプロジェクト」を設立。「ap bank」の連携先として「ゴミは幸せの抜け殻 mawarufukuro」という利益還元型のゴミ袋を発表。2009年、一般社団法人日本スポGOMI連盟を設立。ゴミ拾いという社会貢献活動にスポーツの要素を取り入れた「スポGOMI大会」を主導。現在は「スポーツで、国や地域の社会課題を解決する。」をテーマに、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブに社名を変え、環境保全以外の社会課題の解決にスポーツを掛け算する事業を展開している。
一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ 公式サイト(外部リンク)
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