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面倒な国民が政治を変える?議員の「男女平等」を実現するヒントを専門家に聞いた

イメージ:女性と天秤
日本の女性議員数は、諸外国と比べても著しく低い現状がある
この記事のPOINT!
  • 日本における女性議員の比率は 10.0パーセント(※1)で、G7(※2)の中でも最下位
  • 日本で女性議員が増えない理由の1つは、政治活動におけるジェンダー格差がある
  • 「面倒くさい国民」となり政治を楽しめば、政治の女性参加も増える可能性が上がる

取材:日本財団ジャーナル編集部

2023年のジェンダー・ギャップ指数(※)が146 国中125位と、諸外国と比べても女性の社会進出が著しく遅れている日本。

その男女差がもっとも顕著なのが、政治の世界です。日本における女性議員の比率は衆議員では10.0パーセント。これは世界190カ国中165位という結果となり、かなり低いということが分かるでしょう。

1999年には男女共同参画社会基本法(※1)、2018年には政治分野における男女共同参画推進法(※2)が施行されたにもかかわらず、成果が上がっているとは言えません

  • 1. 地方公共団体及び、国民の男女共同参画社会の形成に関する取組を総合的、かつ計画的に推進するため制定した法律
  • 2. 男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指すこと等を定めた法律。政党は男女の候補者数の目標設定に努めるものとされている
イメージ:フランス

一方、2020年のジェンダー・ギャップ指数が15位のフランス(※1)。30年ほど前は女性議員比率が5.9パーセントでしたが(※2)、2023年には37.8パーセント(※3)と大幅に女性議員の比率を伸ばしています。

折れ線グラフ:日本とフランスにおける女性議員割合の推移

日本とフランスの女性議員は1960年ごろは約3パーセントと同程度であったが、フランスでは2000年頃から急上昇し、現在では約40パーセントに。日本はいまだ約10パーセントほど。
日本とフランス における女性議員割合の推移。出典:列国議会同盟ウェブサイト(外部リンク)

そのターニングポイントとなったと言われているのが、2000年に導入された政党に候補者数を男女同等とするよう義務付ける「パリテ法」です。ちなみに「パリテ」は、フランス語で「同等・同量」の意味となります。

フランスはどのような背景でパリテ法を導入し、女性議員を増やしていったのか? また、日本で女性議員が増えない理由はどこにあるのか?

上智大学法学部の教授であり、女性の政治リーダーシップを養成するためのトレーニングなどを提供しているパリテ・アカデミー(外部リンク)で共同代表を務める三浦(みうら)まりさんと、専修大学人間科学部の専任講師であり、フランスのパリテ法を研究する村上彩佳(むらかみ・あやか)さんにお話を伺いました。

男性が履くガラスの下駄(げた)。政治活動の資源には男女格差が

――まずは三浦さんに伺いたいのですが、日本にはなぜ女性議員が少ないのでしょうか?

三浦さん(以下、敬称略):要因はきりがないほどたくさんありますが、1つには議員になる前の選挙の段階で、立候補に必要な資源にジェンダー格差があるということです。

具体的には家族の支援、時間、資金、人脈などが挙げられます。日本では女性が家事や育児などのケアを担っている場合が多く、家族の支援を得づらい、時間が足りないという問題があります。

さらに票や資金調達につながるような人脈も男性が持っていることが多い傾向にあります。選挙というのは男性にとっても簡単なことではありませんが、そもそも資源がなければ選挙には出づらいということがあります。

日本で女性議員が少ない背景について説明する三浦さん

――議員となってからも、男女間で格差はあるのでしょうか?

三浦:当然あると思います。こちらの資料は内閣府男女共同参画局が調査した「議員活動を行う上での課題」を、性別間ポイント差が大きい順に並べたものです。

表:「議員活動を行う上での課題」という質問で、男女間ポイントが大きかったもの

1位:性別による差別やセクシャルハラスメントを受けることがある。男性 2パーセント、女性 35パーセント。ポイント差 32.6 ポイント。

2位:議員活動と家庭生活(家事、育児、介護等)との両立が難しい。 男性 14パーセント、女性 34パーセント。ポイント差 20.0 ポイント。

3位:専門性や経験の不足。男性 42パーセント、女性 59パーセント。ポイント差 17.0 ポイント。

4位:政治は男性が行うものだという周囲の考え。男性 15パーセント、女性 31パーセント。ポイント差 16.1 ポイント。

5位:生計の維持。男性 38パーセント、女性 26パーセント。ポイント差 12.7 ポイント。

同率5位:地元で生活する上で、プライバシーが確保されない。男性 24パーセント、女性 37パーセント。ポイント差 12.7 ポイント。
議員活動を行う上での課題も性別間で差がある。出典:内閣府男女共同参画局「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書」(外部リンク/PDF)

三浦:セクハラの多さ、議員活動と家庭生活との両立などは特に男女間の差が顕著です。

クオータ制(※1)や、パリテを日本に導入するかという議論になると、「これらの制度は女性に下駄を履かせる(※2)ようなもの」という意見が必ず出てきますが、実態としては、すでに男性が“見えない下駄”を履いているようなもので、私はこれを「ガラスの下駄」と表現しています。

三浦:このように女性が政治家になりにくい構造があるのですが、女性が立候補をする際の社会的な支援は足りていません。そこで、お茶の水女子大学教授の申(しん)きよんさんと一緒に、2018年に「パリテ・アカデミー」を立ち上げました。

パリテ・アカデミーでの研修の様子。画像提供:パリテ・アカデミー
パリテアカデミーが提供するプログラム

・若手女性の政治リーダーシップ養成
・専門トレーナー養成
・行政や企業のリーダーシップ研修
パリテ・アカデミーが提供する主なプログラム。女性の政治リーダーシップ養成講座の提供を柱に活動を行う

――女性政治家が少ないことによって、改めてどんな問題があるのかお聞かせいただけますか?

三浦:問題点もたくさんありますが、1つには女性の声が届きにくく、女性にとってとても不利な政策環境に置かれているということだと思います。

例えば女性の身体に関わる政策がまだまだ不十分という現状があります。緊急避妊薬(アフターピル)を使うには処方箋が必要ですし、経口中絶薬もようやく承認されることになりますが、価格が10万円以上になると言われています。他の国であればそんなに費用はかかりません。

――地方も同じような状況なのですか?

三浦:統一地方選前の数値ですが、女性議員が0人か1人のいわゆる「ゼロワン議会」が、日本の1788自治体の内、約4割を占めており、かなり厳しい状況です。

ただ一方で、地域差もかなり大きいと思います。一般論として、人口の流動性が高い都市部の方がしがらみがなく、女性議員率が高い傾向があります。ところが、鹿児島は県議会の女性議員数を急激に増やし、今回(2023年)の統一地方選では5人から11人に倍増しました。熊本県議会では1人から6人に増えています。

地方においても、女性が増える地域が出てきたことは注目に値します。とはいっても、男女の人口比と比べれば、まだまだ女性が少ないことは明らかです。

――なぜ鹿児島県議会で、女性議員が増えたのでしょうか?

三浦:「鹿児島県内の女性議員を100人にする会」という団体があって、10年以上精力的に活動をしており、その会が立候補する女性を支えていることが大きいと思います。

そういった、女性の立候補を支えるネットワークや市民活動が盛んかどうかも重要になってきます。

――女性議員が増えることによって、どういうメリットがありますか?

三浦:よく聞かれる質問なのですが、私は「その問い自体を考え直してほしい」と思っています。「“男性にとって”、女性議員が増えることでメリットはあるのか?」というニュアンスを含んでいませんか?

それよりもまず、「女性議員が政治に参画できない仕組みがあること自体が問題」と捉えるべきではないでしょうか。

女性と男性の人口比率に対して、女性議員は明らかに少ないのが現状です。これでは民主主義国家とは言えないのではないでしょうか。そのことに危機感を持たないといけないと思います。

女性議員比率が約3倍に。フランスを変えたパリテ法

――今度は村上さんにフランスの状況を伺いたいと思います。フランスで導入されているパリテ法とは具体的にどのような法律なのでしょうか?

村上さん(以下、敬称略):ひと言でいうと、政党に選挙候補者を男女同等とするよう義務付けた法律です。

比例代表制(※)が適用される選挙では、各政党の選挙候補者名簿の登録順を、男女あるいは女男交互にするよう義務付けています。交互でない名簿では立候補ができません。また、小選挙区制が適用される選挙では、政党がパリテのルールを守らなかった場合には、パリテの違反の程度に応じて、政党助成金が減額される罰則があります。

  • 各政党の得票率に応じて議席数を配分する制度
フランスのパリテ、女性の政治参画などを研究している村上さん

――なぜフランスではパリテ法を導入することができたのでしょうか?

村上:いくつか要因はありますが、その1つが女性運動です。

ジェンダー・クオータを求める女性運動は多くの国で起こりました。フランスの女性運動が諸外国と異なったのは、都市部のエリート層の女性から始まった運動が、地方の女性市民たちにも広がっていった点にあります。

フランスではパリと地方をつなぐネットワーク型の市民運動が盛んでした。カトリック系の女性団体はその一例です。

カトリック系の女性団体は、地域の女性を集めて、地域の課題を議論する集会を行っていました。そうしたノウハウを持つ団体が、団体の活動目的の1つにパリテを取り入れました。これが、都市から地方までパリテを求める運動が伝わるきっかけとなりました。

――女性の権利獲得、いわゆるフェミニズム的な運動に積極的ではなかった層にも広がったと。そういった層まで広がりを見せたのはなぜでしょうか?

村上:パリテに込められたメッセージが、クリアで分かりやすかったことは要因の1つでしょうね。

パリテが大きく広がりを見せた時、それまでの「政治を脱男性化しよう」という固いメッセージではなく、女性に向けて「あなたたちの観点が、知識が、政治には必要です」というシンプルで分かりやすいものになっていました。

フランスの女性たちにとってパリテは、「政治は実は身近なものである」と気付くきっかけにもなりました。例えば地方の政治課題はスクールバスの運用や町の公園整備など、身近な課題に関わります。こうしたテーマは、地域で活躍する女性たちが常々考えていたことでした。

イメージ:立ち上がるフランス国民

村上:最近の調査では女性議員が増えたことで、女性関連政策が明らかに増えたことが分かっています。ジェンダー平等など、女性の権利に関連する法律の修正案を女性国民議会議員が提出する確率は、男性国民議会議員よりも75パーセント高いです。

――フランスと比べればまだまだですが、杉並区では昨年(2022年)女性区長が誕生し、今年の地方統一選でも女性議員数を大幅に増やしました。投票率も上がったといいます。杉並区でなぜこのようなことが起きたと思われますか?

村上:1つには、「自分たちが動いていけば何かが変わる」という成功体験が、女性区長の誕生(※)によって得られたからではないでしょうか。

日本にもPTAや地域活動などを行いながら、働きながら家事育児まで両立している優秀な女性はたくさんいると思うのですが、政治に文句を言ったり、アクションを起こしたりするのはとても大変なことだと思います。声を上げることによって何かが変わった経験がなければ、やろうとは思えないでしょう。

フランスではデモが文化に根付いていて、文句を言って政治をひっくり返した経験があるから、関心も高いし、声を上げる人も増える。

少しずつでも成功体験を積み上げていくことが、日本が変わっていくきっかけになると思っています。

政治家を見張り、声を上げれば日本も変われる

――再び、三浦さんに伺います。日本では政治に無関心な人も少なくないです。そんな人たちに伝えたいことはありますか?

三浦:暮らしの全ては政治で決まっていますから、「政治にかかわらないと損をする」ということをお伝えしたいです。例えば「保育園で使用したおむつは保護者が持ち帰らなくてはいけない」というルールがある地域もあるんです。そのような小さなことも、政治に働きかけることによって変えることができます。

そういった困り事は、みなさんの近くにたくさんあると思います。それは自己責任でもなんでもなくて、「政治によって変えていける」ということを、ぜひ知ってもらいたいです。

イメージ:投票する女性
一人一人の1票が増えることで、暮らしやすい社会につなげられる可能性が高まる

――お話を伺っていると、「議員や政治家に対して意見を言っていなさ過ぎるのでは?」というように思えてきました。もうちょっと面倒くさい国民になることで、社会が良くなるような……。

三浦:そうそうそう!本当にそう思います。そしてその「面倒くさい国民」を楽しむといいですよね。

杉並区の今を見ていても思うのですが、仲間が集まって、愚痴を言っている中で、アイデアが集まり、1人街宣(※)などのクリエイティブな活動が出てきて、政治を楽しめているんだと思います。

――面倒くさい国民を増やすために、私たち一人一人ができることとは何でしょうか?

三浦:日本社会がジェンダー平等からほど遠いということに気付く人が増えてきました。議会が男性中心的だと、ジェンダー平等を支える法律も成立しにくいわけです。

そこで、議会における男女不均衡に注目する人も増えてきたと思います。確実に時代が変わってきているので、この傾向が強まり、政治をもっとオープンで公平なものにしていけたら、女性だけでなく、障害者、若者、外国ルーツの人なども増えて、議会に多様性が生まれるでしょう。

このことは、日本の民主主義を強靭なものにすると思います。

パリテ・アカデミーの合宿に参加する女性たち。政治について考えることを楽しんでいる様子が印象的だ

編集後記

日本では改善要求を意味する「クレーマー」という言葉もあり、声を上げることが厄介なこと、恥ずかしいことだと思われがちです。しかし、政治においては声を上げないことが悪影響となってしまうということに気付かされました。

自分の周りで困ったことがあれば、気軽に地元の議員に伝えて動いてもらう。そして「自分の声で社会は変わるんだ」と理解し、成功体験を重ねれば、政治が身近なものになり、面白くなり、それが社会をより良くしていく。

もう少し面倒くさい国民になってみようと思えた取材でした。

〈プロフィール〉

三浦まり(みうら・まり)

上智大学法学部教授。米国カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門はジェンダーと政治、福祉国家論。主著に『さらば、男性政治』(岩波新書)、『政治って、面白い!』(花伝社)、『日本の女性議員:どうすれば増えるのか』(朝日選書)、『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店)など。パリテ・キャンペーンやパリテ・カフェの活動も行っている。
パリテ・アカデミー 公式サイト(外部リンク)

村上彩佳(むらかみ・あやか)

専修大学人間科学部専任講師。大阪大学で博士号(人間科学)を取得。日本学術振興会特別研究員DC1、PD、パリ第9大学訪問研究員を経て現職。フランスのパリテ、日仏女性の政治参画、女性の政治参画を支援する女性市民運動について研究している。

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