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フェムテックの先駆け、ルナルナが20年以上向き合ってきた「生理」と「社会」の壁

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サービス展開が活発になった2006年に入社して以降、ルナルナに長く携わってきたという日根麻綾さん
この記事のPOINT!
  • 女性の健康情報サービス「ルナルナ」が誕生した22年前は「生理」に対し強いタブー感があった
  • 2019年に健康経営優良法人(※)の審査基準に「女性の健康」が追加されて以降、社会の風潮が変化
  • 生理に対し正しい知識を持てば寄り添い方も変わり、より女性が活躍できる社会につながる
  • 企業が従業員の健康に配慮した経営を行っていることを、日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、経済産業省が認定する制度

取材:日本財団ジャーナル編集部

女性の生理に対する社会の風潮が大きく変化している。長い間、生理は隠すものとされてきたが、近年はオープンに語られることが多くなった。

後述する2019年の経済産業省(以下、経産省)の発表がきっかけとなり、生理に伴う症状や、それによる労働損失は個人の問題ではなく、社会全体の課題だという認識が広がった。2020年にはフェムテック(※)市場への参入企業が大幅に増え、日本の「フェムテック元年」とも呼ばれるようになった。

  • 「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語。女性特有の健康課題をテクノロジーの活用により解決する製品やサービスのこと

そんな生理に20年以上寄り添ってきたのが、女性の健康情報サービス「ルナルナ」(外部リンク)だ。2000年にガラケー用女性の健康情報サイトとして誕生し、2010年にスマートフォンアプリの提供を開始。2022年2月には1,800万ダウンロードを突破した。

今では女性なら知らない人はほとんどいないであろうルナルナだが、サービス開始当時は世間には生理の話をすることに強いタブー感があり、軌道に乗るまでにさまざまな困難を乗り越えなければいけなかったという。

ルナルナというサービスの歩みを通して、生理に対する社会の風潮の変化をひもとくと共に、さらに理解を広めるための課題について、株式会社エムティーアイ(外部リンク)のルナルナ事業部で事業部長を務める日根麻綾(ひね・まあや)さんにお話を伺った。

赤い文字さえ使えない。「生理」への強いタブー感

ルナルナは生理日管理や排卵日予測をはじめ、妊活・妊娠・出産から、ピルの服薬や医療機関の受診支援まで、女性の健康全般をサポートするサービスだ。

ルナルナの操作画面
生理日管理アプリ、ルナルナ。フェムテックの先駆けともいわれるサービスだ。画像提供:ルナルナ

近年では、提携した産婦人科での診察時に、基礎体温などのアプリに記録したデータを、利用者の許諾のもと医師が自身の端末から参照できる「ルナルナ メディコ」(外部リンク)や、スマホのみでピルのオンライン診療・処方を受けられるプラットフォームサービス「ルナルナ おくすり便」(外部リンク)などもスタート。生理、妊活、出産など女性のライフステージに寄り添ったサービスを提供している。

現在は多くの女性にとって身近なアプリだが、サービスを開始した2000年はさまざまな困難に見舞われた。その当時はまだ入社していなかった日根さんだが、その頃を知る社内メンバーからこのように聞いている。

「当時の携帯電話は、今のスマホのように全てのウェブサイトを閲覧できるわけではなく、各キャリア(携帯電話の事業者)に申請・承認されてはじめて、『キャリア○○版 ルナルナ公式サイト』としてアクセスが可能になるという仕組みだったんです。つまりキャリアに認めていただけないと、そのキャリアのユーザーにサービス提供ができませんでした。2000年時点で審査が通ったのは1社のみ、2007年にやっと大手3社でサービス開始という状況でした」

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サービス提供開始時の生理に対する社会の風潮について話す日根さん

なかなか審査が通らなかった理由は、今では考えにくいことだが、「生理日管理(女性の身体のことを取り扱う)」というコンセプト自体が受け入れられなかったからだという。

「これはキャリアが悪いというわけではなくて、当時は『生理』を扱うことに社会全体でそれほど慎重になっていたということです。その背景には、生理に対する強いタブー感がありました。『生理用ナプキンのCMを家族で見るのが恥ずかしい』というような時代で、多くの女性が当然のように生理を隠していたと思います」

「生理」というテーマにタブー感があることによって、なかなか表立ってサービスのことを紹介できない。しかし、このサービスが提供する機能は「生理日管理」「生理日予測」という言葉を使わなければ伝わらない。そのはざまで苦労をしてきたというルナルナ。さらにプロモーションに力を入れ始めた時にも、「生理」という言葉の壁は立ちはだかった。

「本格的なサービス提供が始まったその次には、広告が出せないという関門が待っていました……(笑)。まず『生理』というワードが入ったテレビCMは、キー局では流せないという状況でした。そこで、地方局の深夜の時間帯に流すCMから始まり、徐々に実績を重ねていきまして、1年ほどかけてやっとキー局でのCM放映が実現したんです」

「(生理の時に出る)経血をイメージさせるような赤い色の文字は使わないでほしい」という注文が入ったこともあったという。そんな風潮の中でも、ルナルナは順調にユーザー数を増やしていく。生理日を管理するアプリは、女性にとって便利でなくてはならない存在になっていった。

女性個人への寄り添いから、女性が生きやすい社会の実現へ

社会の生理に対する風潮が変わり始めたのは2019年頃。そのきっかけは何だったのだろうか?

「これは私個人の見解ですが、2019年3月に経産省が発表した報告書『健康経営における女性の健康の取り組みについて』(外部リンク)の中で、月経随伴症状(げっけいずいはんしょうじょう※)による労働損失が4,911億円、社会経済的負担が6,828億円に上るというデータをはっきり示したこと、また2019年に健康経営優良法人の基準の中に『女性の健康』が入ったことが大きかったのかなと思っています。そこから『女性の健康問題』や『女性の健康づくり』といったテーマが取り沙汰される機会がものすごく増えましたし、産業界からの女性の健康に対するアプローチや議論も増えていったのではないでしょうか」

  • 月経に伴う症状の総称
月経随伴症状(月経に伴う症状の総称)は、月経前症候群(PMS)と月経困難症の総称
※生理と月経は同じ意味。生理を医学用語で月経と呼ぶ

■月経前症候群(PMS)について
月経前に3〜10日間続く症状を指す

・精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感などがある

・身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある

※とくに精神神経症状が強い場合には、月経前不快気分障害(PMDD)の場合も

■月経困難症について
月経期間中に表れる病的症状

・下腹痛、腰痛、お腹が張る、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、イライラ、下痢、憂うつなどがある
生理(月経)の主な症状。作成:日本財団ジャーナル編集部。参考:ソニー健康保険組合, 公益社団法人日本産科婦人科学会、富士製薬工業株式会社

図表:月経随伴症状による1年間の社会経済的負担

月経随伴症状による1年間の社会経済的負担率と推計額
・通院費用 13.6%
930億円

・一般用医薬品費用 14.5%
987億円

・労働損失 71.9%
4,911億円

総計 6,828億円
出典:平成31年経済産業省ヘルスケア産業「健康経営における女性の健康の取り組みについて」

2020年には生理をオープンに語るムーブメントが各地で起き、加速していく。また女性の健康課題を解決するためのサービスや商品を指す「フェムテック」という言葉が日本で知られるようになり、注目を集めた。日根さんが当時、特に印象的だと思った2つの出来事があったそうだ。

「生理をテーマにしたマンガが映画化されことと、大手デパートが女性の生理周期への寄り添いをテーマとした売り場をオープンさせたことです。細かな部分のやり方に対して賛否が分かれた部分もありましたが、“大手が取り組んだこと”、“それにより多くの人に注目され、議論の対象になったこと”は事実だと思います」

そして2020年は、ルナルナがサービスを開始してから20年目となる節目の年でもあった。そこでコンセプトやミッション、ロゴなどのリニューアルを行う。

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2020年にリニューアルされたロゴ。それまでのピンクを基調としたロゴから、ネイビーブルーの中性的なイメージを表現。画像提供:ルナルナ

「これまで『ルナルナ』では女性の幸せの実現に貢献するということをミッションにしていましたが、リニューアルを機に新たなミッションが加わりました。それが『女性が生きやすい社会を実現するため、社会の変化を後押しする』というものです。その取り組みの一環として始まったのが『FEMCATION(フェムケーション)』でした」

「FEMCATION」とは「Fem」と「Education」を組み合わせた造語。女性の健康について男女問わず学ぶ機会を創出し、社会全体に理解を浸透させていくことを目的としているそうだ。

FEMCATIONの取り組みは主に4つ

・データ
ユーザーアンケート
モニター調査
共同研究

・コンテンツ
ルナルナ各種アプリ内での記事コンテンツなど

・プログラム
知識講座
理解度テスト

・パートナー
企業や各種団体との取り組み
FEMCATIONの主な取り組み。画像提供:ルナルナ

「取り組みの1つが、産婦人科医師による女性の身体についてのセミナーの開催です。最初は弊社でオンラインセミナーを開いていたのですが、それですと意識を高く持つ一部の方にしか届きません。そこで女性の健康問題に関する知識啓発を行いたいと考えるさまざまな企業さま、特に男性従業員や管理職の方向けに、私たちが企画したセミナーを受講いただいております」

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実際のセミナーの様子。男性だけでなく、女性も参加が可能だ。画像提供:ルナルナ

日本は性教育後進国ということもあり、男性が女性の身体について学べる機会は少ない。実際に受講した男性からの感想として、生理に対しての誤解がとけたという声が届くこともあるという。

「セミナーの中では、多くの女性が生理の際に精神面や身体面でさまざまな症状や苦痛を経験することをお伝えしていて、その話を聞いた方から『生理がつらいのは1日だけだと思っていた。生理前も含めたら月の半分以上は、つらい期間がある人もいると知り驚いた』という感想が届いたこともありました」

また、女性であっても生理時の痛みや症状は人それぞれだということを理解できていない人も少なくない。女性にとっても、相対的な知識を得られるいい機会になっていると好評だそうだ。

「正しい知識」を知ることから寄り添いは始まる

2019年以降の変化により生理のタブー感は薄まりつつあるが、まだまだ女性の身体について理解が浸透しているとは言い難い。どのようにすれば多くの人に理解が深まり、女性がより活躍できる社会をつくれるのだろうか。

「広げていくべきは『女性の身体のことや生理のこと、それによって変化する女性の生活のこと』についてです。女性の身体についてもう少しオープンに知ることができ、語ることができる社会の実現が私たちの願いであり、ミッションだと思っています」

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「女性の身体について話される場面がもっと増えるように、私たちも力を尽くしたい」と日根さん

では、その社会を実現するために、特に男性ができることはどんなことだろうか。

「すごく広く男性全体をイメージした時に、男性のできるアクションは、女性との関係性によっても変わってくると思っています。関係性が薄い女性に、生理について話し出すことは、相手を驚かせたり、不快な気持ちにさせたりするかもしれません。でも、知ることから全ての寄り添いが始まると私は思っています。正しい知識を持っていれば、声のかけ方が変わったり、いざという時に必要なアクションがとれたりするようになると思うんです。なので、知る機会が自身の周りにあった時に、手に取ってみる勇気を持っていただきたいなと思います。多分1、2年後には社会全体に生理への理解がもう少し広がり、お願いしたいことが変わってくるはずです。また、生理にまつわる症状は同じ女性であっても人それぞれ異なりますし、年代によっても考え方が違うと感じますので、女性に対しても同じことが言えると思っています」

生理を話題にすることは難しい。この取材の中でも日根さんは「生理は『他人にオープンにしなくていい面』も多く含む現象です。例えば、他人にナプキンを見せることはありませんよね? どこまでオープンにするか線引きが難しいのですが、それは個人の価値観によっても異なります。オープンにすることを他人に強要するのはあるべき姿ではないとも思う」と話していた。

「学ぶ」という機会が少なかったことにより、さまざまな問題が透明化され、気付くことができなかった。しかし、現在は違う。

男性はもちろん、女性も「女性の身体」について”正しく知ること“で、女性がもっと生きやすくて活躍できる社会をつくれるはずだ。

撮影:十河英三郎

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