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外国人と日本人が半々のシェアハウス「ボーダレスハウス」に学ぶ、多文化共生の糸口

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ハウスマネージャーとしてシェアハウスの入居者の生活を支える細木さん
この記事のPOINT!
  • 国際交流ができるシェアハウス「ボーダレスハウス」は、差別や偏見の解消を目的につくられた
  • 異文化に触れることで改めて自分を知り、中には人生の大きな転換点を迎える人も
  • 多文化共生社会の実現のためには、異文化にアンテナを張り、触れてみることが大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本にいながらまるで留学をしているような生活ができるシェアハウス「ボーダレスハウス」(外部リンク)をご存じでしょうか。

入居者は日本人と外国籍の人が半々になるように設定されており、自室には調理家電やテレビの持ち込みは禁止。清掃のルールは入居者同士で決めるなど、密な交流ができるように工夫されています。

2008年の設立以降、入居者数は延べ1万5,000人を超え、日本には75施設を展開。さらに台湾、韓国にも進出しています。

言語の習得を目的に入居される人が多いそうですが、自分とは異なる国や文化の中で育った人々と暮らす経験から得られるものは大きく、自分と深く向き合い、人生の転機を迎える人も少なくないといいます。

少子高齢化が進む日本では、働き手不足が深刻化しており、外国人材の受入れ拡充が図られています。また、地域の担い手としても期待されており、日本が「選ばれる国」となるため、多文化共生(※)は必須のテーマといえるでしょう。

多文化共生社会を実現するためのヒントを、ボーダレスハウスを運営するボーダレスハウス株式会社(外部リンク)のハウスマネージャーである細木拓哉(ほそぎ・たくや)さんに伺います。

異なる人種のコミュニケーションを生み出すシェアハウス

――ボーダレスハウスはどのようなきっかけで誕生したのですか?

細木さん(以下、敬称略):日本には外国籍であることだけを理由に、家を借りられないという問題が根強くあります。もともとはその解決のために、私たちが賃貸物件を借り上げて、外国籍の方に貸し出したのがこの事業の始まりです。

そのような問題の根本には、外国籍の人に対する偏見や差別、思い込みがあり、それらを無くしていくには外国籍の人と交流する場を生み出すことが何より大切だと考えたんです。

また入居者の外国籍の方から、「日本語を勉強したいのに日本人と触れ合える機会がほとんどない」という悩みを聞くようになり、2つの問題を解決できるシェアハウスの形に行き着きました。

――改めて、ボーダレスハウスとはどんな場所なのかを教えてください。

細木:「住みながら世界がちょっと広がる国際交流シェアハウス」というコンセプトで運営しています。年齢は18歳から39歳までで、外国籍の方と日本人が5:5になるように、そして外国籍の方の中でも、同じ国の方は2人までとなるように調整しており、さまざまな国の人と交流できるような仕組みになっています。

入居の理由は日本語や英語を学びたいという方が最も多いのですが、コロナウイルスの流行が拡大していた頃には、誰とも会って話せない孤独感に耐えられなくて入居した方も多かったです。

写真:日本人をふくむさまざまな外国人の入居者によるイベントでの記念写真
とあるボーダレスハウスの様子。交流を深めるため物件内でのイベントも定期的に行われている。画像提供:ボーダレスハウス

――他のシェアハウスと違う点、特に力を入れている点はありますか?

細木:入居者間のコミュニケーションが生まれることを特に意識して運営しています。

リビングで交流しやすいように、自室に冷蔵庫や電子レンジなどの調理家電やテレビは置けないルールになっていますし、多くの物件がリビングを通ってしか自室に行けないように設計されています。

また、異なる言語を話す者同士が、それぞれの言語の学びを助け合う「言語交換プログラム」やボードゲーム、運動系のイベントなど、他のボーダレスハウスの居住者とも交流ができるイベントも定期的に開催していますね。

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オンラインで行われた言語交換プログラムの様子。画像提供:ボーダレスハウス

――ちなみに細木さんがボーダレスハウス株式会社に入社された理由は?

細木:日本にさまざまなバックグラウンドを持つ人を受け入れ、交流する場が少ないと感じたことがきっかけです。

僕はカナダに留学した経験があるのですが、留学前には差別を経験することもあるだろうと、少し身構えていました。ところがそんなことは一切なく、みんなに受け入れてもらうという想像とは全く逆の経験をしたんです。

日本に帰国したあと、「なぜ日本にはそういった交流できる場所がないんだろう?」と考えるようになり、ボーダレスハウスのコンセプトに共感して入社を決めました。

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インターンとしてカナダの旅行会社で働いていた経験もあるという細木さん

トラブルの原因は「きちんと思いを伝えていない」こと

――ボーダレスハウスで暮らしているからこそ生み出されるものはありますでしょうか。

細木:入居された皆さんがおっしゃるのは、「自分とは異なる背景の人と過ごすことによって、自分を知ることができた」ということですね。そして多様な価値観に触れて、変わっていく方がたくさんいらっしゃいます。

――細木さんがこれまでに見た中で、特に変化が顕著だった方はいますか?

細木:とあるIT企業に勤めていた日本人の方が強く印象に残っています。その方は英語にもともと興味があったのと、性格がとてもシャイだったのでコミュニケーション能力を高めたいという思いから入居され、イベントにもよく参加してくれていました。

3年ほど経つと、そのシェアハウスの中心人物になり、家の中の雰囲気をとても良くしてくれるようになったんです。近くで見ていても対人関係を築く力に大きな変化を感じましたね。今はボーダレスハウスを退去されていますが、旅をしながら日本の各地で働く生活をしているそうです。

――シャイだった方が? すごい変化ですね!

細木:はい。その方がおっしゃっていたのが、「ボーダレスハウスでいろんな経験をする中で視野が広がり、自分をもっと変えていきたいという気持ちが強くなった」ということでした。

日本だと大学を卒業したら就職する、就職したら3年は勤めるなど、ある程度決まった道・価値感のようなものがありますが、海外ではそれが当たり前ではありません。生き方の多様性も知れるようですね。

異文化に触れるということは、さまざまな文化を知るだけでなく、世界を広げ自分が変わることにつながるんだと改めて感じました。

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変わっていく入居者を目の当たりにして、刺激を受けることも多いと話す細木さん

――逆にトラブルはありますか?

細木:ボーダレスハウスに限ったことではなく、シェアハウスには多いことだとは思いますが、清掃に関するトラブルは多いですね。清掃業者を入れていますが、清掃をどのように行うかを話し合うことはコミュニケーションのいいきっかけにもなるので、業者の利用は月に1、2回にとどめ、あえて入居者同士で話し合ってもらうようにしています。

またもしトラブルが起きても、ルールをこちらで決めてしまうのではなく、僕たちも参加しながら、対話の場を設けています。

――さまざまな国の人が暮らしているということなので、文化の違いからトラブルが起きることはありませんか?

細木:それがほとんどないんです。トラブルを訴えてきた側から「文化が違うから」という言葉が出てくることはありますが、それって実は自分の言いたいことをきちんと伝えないで、「文化の違い」に逃げてしまっているだけというケースが多い気がします。

問題は文化ではなく、「相手に思いを言葉にしてきちんと伝えているか」ではないかと、僕は思っていますね。

異文化へのアンテナを張ることが、偏見や思い込みの解消に

――ボーダレスハウスができたことによって、近隣地域の方との交流が生まれたりもしていますか?

細木: 京都の上賀茂にあるボーダレスハウスには、町内会の会長さんをはじめとした地域の方が度々訪れて交流が生まれています。京都という土地柄もあって海外からの観光客と触れ合う機会はこれまでも多かったそうですが、ボーダレスハウスの住民とは「外国の方、観光客」というくくりではなく、1対1の付き合いができるようになったという話を聞いています。

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京都上賀茂の1周年記念パーティーの様子。地域の人たちも多く訪れ、国籍や年齢を超えて交流を続けている。画像提供:ボーダレスハウス

――とても素敵ですね!

細木:ありがとうございます。とはいえ、まだまだそういった交流ができるシェアハウスが少ないということが、僕たちにとっても課題となっています。

少しでも解消できればと考えつくられたのが、浅草橋のBORDERLESS STATION(外部リンク)なんです。2階以降はシェアハウスですが、1階はラウンジとなっていて入居者は安くお酒を楽しむことができますし、バー営業している時間帯は誰でも利用できるので、気軽に国際交流が可能です。

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BORDERLESS STATION 1階にあるラウンジ。画像提供:ボーダレスハウス

細木:また地域の子どもたちを招き、国際交流のできるワークショップなどをしながら、ご飯も食べられる「国際交流×こども食堂」のようなイベントも定期的に開催し、地域とのつながりを模索中です。

少しずつですが、この周辺の町内会イベントやお祭りに参加させていただく機会も増えてきました。

BORDERLESS STATIONに置かれたイベントカレンダー
さまざまなイベントがBORDERLESS STATIONで定期的に行われている

――素晴らしい取り組みだと思います。一方で日本では外国籍の人に対する偏見がまだまだ多い気がします。そういったものをなくしていくために、普段の生活の中で一人一人ができることはどんなことでしょうか。

細木:異文化を理解するためには、まずは自分を知ることがとても大切だと思います。自分は何が好きで、どういったことを許せないと感じるのかなどを知ることが、他人との違いを受け入れる準備なのではないでしょうか。

また、自分から多様な人と関わっていくことがとても大切で、そういう場に行き着くためには普段からアンテナを張っておくといいと思いますね。「異文化」というアンテナを立てておけば、自然とそういう情報やイベントのお知らせを目にすることもきっと増えると思います。

そしてその場に飛び込んでみれば、自分を変える出会いが待っているのではないでしょうか。

編集後記

細木さんの話でとても印象的だったのが「トラブルの原因は文化の違いではなく、自分の思いを話していないこと」というお話です。文化の違いが分断を生むのではなく、文化が違うから分かり合えないはずだという思い込みが分断を生んでいるのだと改めて感じました。

そのことに気が付くことも、多文化共生社会を広げる一歩につながるといえそうです。

撮影:十河英三郎

ボーダレスハウス 公式サイト(外部リンク)

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