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知らずに相手を傷つけてしまう言動「マイクロアグレッション」を防ぐには? 専門家に聞いた

写真:著書を手に持ち笑顔を向ける渡辺雅之さん
マイクロアグレッションに関する著書「マイクロアグレッションを吹っ飛ばせ」を出版した、大東文化大学・教授の渡辺雅之さん
この記事のPOINT!
  • マイクロアグレッションとは、思い込みや偏見によって無自覚に相手を傷つける言動
  • マイクロアグレッションの放置は、人権・人命を侵害する深刻な差別に発展する可能性がある
  • 問題について学びながら、自覚的になることが、差別のない社会の一歩につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

「女性なのに出世してすごい!」「新入社員にしてはいいこと言うね!」といった言葉。

一見なんてことのない、またはある意味褒め言葉のようにも聞こえますが、その発言の裏には「女性は出世できない」「新入社員は仕事ができない」といったような無意識の思い込みが潜んでいます。

このような言動を「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」と呼び、それにより疲弊している当事者も多いという現状があります。

マイクロアグレッションに関する著書を手がけ、多文化共生(※)教育を専門にする大東文化大学特任教授の渡辺雅之(わたなべ・まさゆき)さんは、「マイクロアグレッションはヘイトスピーチ、ひいてはジェノサイド(民族・人種の抹殺や危害を加える行為)につながっている。そのことを自覚することがまず必要で、口にしてしまった場合は真摯に反省を繰り返すことが大切」と言います。

  • 国籍等の異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと。参考:総務省(外部リンク)

そんな渡辺さんにマイクロアグレッションが生まれる背景、どのようにすれば防げるのかを伺いました。

悪意はなくても、差別に発展しかねない「マイクロアグレッション」

――まず、マイクロアグレッションとは何なのかを教えていただけますでしょうか。

渡辺さん(以下、敬称略):「小さな」「微細な」を意味する「マイクロ」と、攻撃を意味する「アグレッション」を掛け合わせた言葉で、直訳すると「些細な攻撃」ということになります。僕の著書の中ではアメリカの研究者「デラルド・ウィン・スー」の議論を踏襲しつつマイクロアグレッションを以下のように定義しています。

[日頃から心の中に潜んでいるものであり、口にした本人に「誰かを差別したり、傷つけたりする意図」があるなしとは関係なく、対象になった人やグループを軽視したり侮辱するような敵対・中傷・否定のメッセージを含んでおり、それゆえに受け手の心にダメ―ジを与える言動]

ポイントは相手を傷つける意図があるかないかではなく、傷つけようとしていない、むしろ褒めようとして行われることもあるということです。意図がなくても相手に細い針でチクっと刺したような痛み(ダメージ)を与える行為と言えるでしょう。

ヘイトスピーチへの抗議(カウンター)などの社会運動にも力を入れている渡辺さん

――悪意のある、暴力的な差別ではないにしても、ダメージを与えるということですね。もちろんよくないことだとは思いますが、具体的にはどのような影響があるのでしょうか?

渡辺:ジェノサイド(※1)のように人の生命を脅かしたり、ヘイトスピーチ(※2)のように人権侵害を伴ったりする差別というのは、ある日突然生まれるのではなく、その下地になるようなものがあって発生していくものです。

  • 1.国民的・人種的・民族的または宗教的集団の全部、または一部を破壊する意図をもって行われる、殺害または危害を加える行為
  • 2. 特定の国の出身者であること、またはその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動
図:ピラミッド型の図

上からジェノサイド、暴行脅迫→殺人、嫌がらせ・差別、嘲笑・バカにする、うわさ・冗談・悪口と書かれている
渡辺さんの唱える差別のピラミッド(「マイクロアグレッションを吹っ飛ばせ」を元に編集部作成)

渡辺:この図のように、ジェノサイドやヘイトスピーチを下支えしている、最下層にあるものがマイクロアグレッションだと考えています。

――マイクロアグレッションからジェノサイドは地続きとなっていると。マイクロアグレッションの具体例はどういったものがありますか?

渡辺:マイクロアグレッションは、その人の出自・属性に関することや、自分で選択したり、変えたりできないものに対して発生する場合が多いです。

例えば「○○さん、素敵な洋服ですね」というのはマイクロアグレッションには当たりませんが、「○○さんの髪ってクルクルでかわいいね」はどうでしょうか。あと、よくあるのが外国籍だと思われる見た目の方に「日本語上手ですね」と伝えること。そういう方の中には、日本国籍の方もいますから。

ただ言われた方も、「言った相手に悪意はない」と分かっているから、抗議するわけにもいかないし、言った側も問題だと気づきにくいんです。マイクロアグレッションの特徴の一つです。

イメージ:落ち込んでいる女性
マイクロアグレッションは、受けた相手の心に少しずつダメージを重ねていく

――マイクロアグレッションを受けた側にはどんな影響がありますか?

渡辺:ダメージが重なると、疎外感を抱いたり、周囲とうまく交われなくなって鬱状態になることもあるでしょう。一方で、この社会で生きていくために上手に受け流そうと「努力」している人もいます。星野ルネ(※)さんのエピソード(外部リンク)が典型的だと思います。

  • カメルーン出身で4歳を直前に来日し、日本で育った漫画家

2022年に、うちの大学でルネさんをお呼びして講演会をしてもらいました。彼はカメルーン出身ですが、4歳から日本で育っています。もちろん日本語もペラペラですし、日本国籍を有しています。ですがアフリカ系の見た目から、ずっと「NJD攻撃を受けてきた」って笑いながら話すんです。

――NJD攻撃とは?

渡辺:「日本語、上手、ですね」の頭文字をとったもので、ルネさんの造語です(笑)。今まで何百回、何千回とその言葉を言われてきて、そのたびにルネさんは、「僕は日本人だけど、日本で暮らすには値しない見た目なんだな」ってことを感じさせられてきたと思います。でも彼はユーモアで「お兄さんもお箸使うの上手じゃないですか」などとうまく受け流してきたわけです。差別の相対化とでもいいますか。

――ダメージを受ける・受け流せるの差は、一体どこからくるのでしょうか。性格の問題?

渡辺:それは違いますね。周囲の理解など環境的な問題と学びの力だと思います。

ルネさんには保育園の頃からずっと一緒に遊んできた友だちがいました。小学校に上がったばかりの頃、上級生が「くろんぼがいるぞ」と見に来た時も、友だちが「ルネは見せもんじゃないぞ」と追い返したらしいんです。

そういう理解ある人が周囲にいればメンタリティーは保てると思います。

――「学び」とはどういうことでしょうか?

渡辺:ルネさん自身がマイクロアグレッションや差別について学んでいて、「マイクロアグレッション、ぼくも結構やってるよ」とおっしゃっています。

自分が一方的にやられることではなくて、みんなが考える問題だと分かっているんだと思います。HSP(※)のように性格的に傷つきやすい人もいますが、性格の問題にしてはいけないと思います。

――それはなぜしょう?

渡辺:性格の問題にしてしまうと、「受け取った方に問題がある」という理屈につながります。当事者の苦しさと社会の問題性を不可視化、つまり見えないことにしてしまいます。

気にしている側に問題があるのではなくて、「社会には根強い偏見や差別があること」が問題で、その人の苦悩の元はそこにあるわけです。問題がどこにあるかを見誤ってはいけないと思いますね。

イメージ:孤立
マイクロアグレッションは、社会の問題であると理解することが重要

完全に防ぐことは難しいマイクロアグレッション。日本人に多い?

――マイクロアグレッションはなぜ起こってしまうのでしょうか

渡辺:差別は恐れから生じるという研究があります。「同じ性質である集団、属している集団に身を置いて安心したい」という防衛本能的な心理から、自分と異なる肌の色や言語、振る舞いの違いに違和感を持つことになりやすいです。

これは人に備わった本能ですから、ある程度は仕方ないと思います。

――日本は人種が多様な社会ではないから、特にそういう思いを抱きやすそうな気がします。

渡辺:多様な人との交流の機会が少ないですよね。人種のるつぼのような国であれば、アジア系の人が英語を話していたって「英語上手だね」なんて言わないはずです。

――例えば、外国から来た人と仲良くなるため、その人を良く知りたいと思って、根掘り葉掘り聞きたくなってしまうのですが、これもNGですか?

渡辺:仲良くなってから聞くのは問題ないと思いますよ。初対面や関係性がそこまでできていない状態で相手のプライバシーに関わることを根掘り葉掘り聞く行為はそもそも失礼ですよね。

あと、興味本位では聞かないことも大切ですね。「普通」というのも変な言葉ですが、「普通」は聞かないことに対しては慎重になるべきです。

例えば、同性愛者(ゲイ・セクシュアル)に「どんなセックスするの?」という問いかけをする人がいます。でも、異性愛者(ヘテロ・セクシュアル)に同じテンションで聞きますか? たぶん、聞かないでしょう。

そう考えると、この手の質問はあまりにも興味本位で、相手の領域に踏み込み過ぎていると思いませんか?

――そうですね……。これまで何回もやってきている気がして、胸が痛いです。

渡辺:いやいや、僕もしょっちゅう、マイクロアグレッションをやらかしてますよ。

人との関係性において完璧はないですし、同じ言葉でも人によって受け取り方は違うので、完全に防ぐことはできないと思っています。誰の心の中にもマイクロアグレッションを生む思い込みはあるんです。

大切なのはマイクロアグレッションに自覚的であることですね。気をつけていてもやってしまう言動なんだけれど、自覚する。反省する。その繰り返ししかないですね。

――自覚的になるにはどうしたらいいでしょうか?

渡辺:マイクロアグレッションを受けた側からは指摘しにくいので、第三者から指摘してもらうのが一番いいと思っていて、例えば僕はパートナーから教えてもらうことが多いです。

つい先日もパートナーとホームセンターに出かけた際に、黄色いスポーツカーが障害者用駐車スペースを利用していました。その車から若いカップルが降りてきたのを見かけて、つい「若いのにしょうがねえなあ」って言ってしまったんです。

そしたら、パートナーから「若いから、お金持ちそうだからって、障害がないとは限らないでしょ」と指摘されて、「あー、またやっちゃった」って……。こんなことの繰り返しですよ。

――とてもいいパートナーに恵まれていますね。そういう人がいない場合にはどうしたらいいでしょうか?

渡辺:いないということは、ないと思うんですよね。厳密にいうと今はいなくても、自覚的になりたいと思ったときに、そういう人が現れるはずです。

というのも人間は似た性質を持った人が集まりやすいんです。自分がマイクロアグレッションに自覚的になりたいと思えば、似たような人が現れるし、そういう人たちとつながることができるでしょう。

大切なのは知識のアップデートを楽しむこと

――上司などこちらからは意見しづらい人、または自分の子どものように教える必要がある人が、マイクロアグレッションを行っていた場合はどうしたらいいでしょうか?

渡辺:指摘するより「問い」で返したり、対話したりするのがいいと思いますね。例えば上司から「アフリカ人って足速いよなー」なんて言われたときに、「え? どうしてそう思ったんですか?」「僕の知り合いのアフリカ人はそんなに足速くないですけどね」と言ってみる。

実際、オリンピックで活躍しているのはアフリカ系選手だけじゃないし、事実を織り交ぜながら伝えてみるのもいいと思います。

子どもであれば、「へー、あなたはそう思ったんだね。お母さんはそう思わないな」とか「なんでそう思ったの?」という感じで対話していく。そうすれば段々と自覚できるようになると思います。

指摘をしていさめるより、対話をしていくことが大切だと渡辺さん

――自分の子どもがそういう発言をしていた場合は、正したくなりますね。

渡辺:子どもがそういう態度を取るのは、ある意味発達のプロセスです。もちろん全ての子どもがそうだとは言わないけれど、異質だと思われるものが入ってきたら避けたくなる。その心情を頭から否定する必要はないです。

僕は心の中に何かしらの差別心が生じること自体はしょうがないと思うんです。でもそれを外に出さない、それを理由に他者を排除したり、不当に扱わない。そういうことが大事ではないでしょうか。

つまり「自分の中に差別心があることを自覚する」。これがとても大切だと思います。

――マイクロアグレッションの認知や、それがよくない行動だと広めるために、一人一人ができることはどんなことでしょうか?

渡辺:やっぱり、学ぶことが大切だと思います。意図的に自分で本を読んだり、こういう記事を読んだりしてみる。そして学びを楽しむことが大事だと思います。

人間は知的好奇心がないと生きていけない生き物なので、常に何か外からの刺激を受けて、好奇心をもって生きています。

その中のもっとも優れた営みが学びですから。知識のアップデートをぜひ楽しんでもらいたいと思います。

編集後記

マイクロアグレッションは大きな差別にも発展しかねないと聞き、自分の経験も重ね合わせ、改めてその重大性を理解できました。言葉に自覚的に、慎重にならなければならないけれど、臆病になり過ぎず、人と人との関係性の中で学んでいくことが、差別のない社会を生み出す大きな一歩となりそうです。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

渡辺雅之(わたなべ・まさゆき)

大東文化大学文学部特任教授(教職課程センター)。専門は生活指導、道徳教育、多文化共生教育。埼玉県内で中学校教員として22年間勤務。TBSドラマ「3年B組金八先生」で、いじめ問題に取り組んだ実践がそのままモデルとして取り上げられる。国会前デモのリーガル(警備)やヘイトスピーチの抗議(カウンター)、UDAC埼玉-投票率を上げる市民の会(代表)、埼玉朝鮮学校補助金再開を求める有志の会(共同代表)、などの社会運動にも積極的に関わる。近年は銀座No!Hate小店のレギュラー講師など、人権問題や教育問題に関する講演活動で全国各地を飛び回っている。著書には「いじめ・レイシズムを乗り越える「道徳」教育」(高文研)、「『道徳教育』のベクトルを変える」(高文研)、「マイクロアグレッションを吹っ飛ばせ やさしく学ぶ人権の話」(高文研)など多数。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。