「見た目問題」は「見る目問題」。許容性のある社会が、みんなをもっと生きやすくする

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著書『この顔と生きるということ』を手にする岩井さん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「見た目問題」とは、人と違う特徴的な外見を持つ人々が学校や就職、恋愛などで苦労する問題のこと
  • メディアの画一的な「美の基準」によって苦しんでいる人も多い
  • 「見た目問題」は「見る目問題」。認知度を高め、多様性のある社会を築くことが大切

白い肌に、くっきり二重、真っ直ぐな鼻筋、シャープな顎のライン…。メディアで報道される「美」の基準はあまりにも画一的だ。おそらく大多数の人が、自分の「顔」や「見た目」について、理想と現実の狭間で、悩んだ経験はあるだろう。

国際美容外科学会(ISAPS)の調査によると、2017年、国内での美容整形の施術数は約168万件。これはアメリカ(約431万件)や、ブラジル(約243万件)に次ぐ世界3位という結果であった。また、世界的に見ても特徴的なのが、日本で行われる施術の9割が、二重やシミ取りなど「顔」に対するプチ整形であったことだ。

こんな社会の背景にはどのような問題があるのだろう。それを考えるヒントをくれるのが、新聞記者・岩井建樹(いわい・たてき)さんの著書『この顔と生きるということ』だ。この本は、顔の変形や、あざ、傷の痕などによる「人と違った外見」を持ったため、学校や恋愛、就職で苦労し「生きづらさ」を抱える人々のエピソードをまとめたものである。そこで今回は、著者である岩井さんに話を伺った。

息子が生きやすい社会のヒントを探して

――病気やけがなどによる特徴的な外見を持つ方々が「生きづらさ」を感じてしまう「見た目問題」。岩井さんがこのテーマに関心を持ったきっかけについて教えてください。

岩井さん:僕の息子は「顔面表情筋の不形成」という疾患を抱えており、顔の右側の筋肉や神経がないまま生まれてきました。彼が泣いたり笑ったりすると、顔が左右非対称にゆがみます。

はじめは、そんな息子の症状に戸惑いました。どうして良いか分からず、いろいろな情報を集めてみましたが、インターネットや病院で聞く情報には限りがあり、同じような問題を抱えた方に体験談を聞いてみることにしました。

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生まれたばかりの岩井さんの息子さん(写真:朝日新聞社提供)
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「息子の笑顔を避け、できるだけゆがみのない写真を選んでいた」こともあるという岩井さん

――それで、記者として取材を始められたのですね?

岩井さん:いえ、当時は編集センターという取材がない部署に勤務していたので、通常業務とは切り離して取材をしていました。ジャーナリストとしての好奇心がなかったと言うと嘘になりますが、「息子に幸せな人生を送ってほしい」という気持ちが強かったですね。

はじめは見た目にビックリしても、友達になれば気にならないもの

――取材を通して、どのような方々と出会ったのでしょうか?

岩井さん:「生きづらさの海で溺れてしまいそうだよ」とTwitterでつぶやいていたアルビノの女性、髪の毛がないアイドル、頬や顎の骨が未発達な状態で生まれるトリーチャーコリンズ症候群の青年、過去にいじめられた経験がある顔にコブを持つ男性…。本ではこのような方々を紹介していますが、実際はもっといろいろな人がいました。

大変ながらも自分の顔と折り合いをつけて生きている人もいれば、そうでない人もいる。現在悩んでいる方や、精神的な疾患を抱えている方もいました。

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以前はうまくいかないことをアルビノのせいにしていたという、神原由佳(かんばら・ゆかさん)。彼女は「見た目問題」を抱える当事者の親にインタビューしたことで、アルビノであることと向き合えるようになったという(写真:朝日新聞社提供)
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トリーチャーコリンズ症候群を多くの人に知ってもらうべく活動を続ける石田裕貴(いしだ・ゆうき)さん
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「円形脱毛症で髪の毛を失った吉村(よしむら)さやかさん(写真左)。「髪がない女性でも生きやすい社会が広がれば」と著書の中で語る。夫の矢吹康夫(やぶき・やすお)さん(写真右)は自らもアルビノで、アルビノと社会の関係について研究している(写真:朝日新聞社提供)
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生まれつき動静脈奇形を抱え、これまで血管の塊を切除する手術を40回以上繰り返してきました河除静香(かわよけ・しずか)さん(写真左)と、夫の悟さん(写真右)(写真:朝日新聞社提供)

――なるほど。当事者の方たちと接する上で、気を付けたことなどありますか?

岩井さん:アルビノの男性を取材していると「岩井さんは、僕でどんなストーリーを書きたいの?」と聞かれました。当事者の多くは「かわいそうな人」という立場で描かれることに疑問を抱いています。ですので、取材時はそういった先入観を捨てて、その方の話を聞いてから割と自由に書くようにしていました。

――取材を続ける中で、岩井さん自身の考え方にも変化がありましたか?

岩井さん:当事者の方たちに対する考え方と、息子への接し方が変わりましたね。正直に言えば、疾患によっては、初めてお会いした時にその見た目に驚いたこともありました。ですが、取材を進め、仲良くなっていくと、見た目のことは特に気にならなくなるんです。顔には慣れるんだと思います。心の傷を知っているからこそ、他人を思いやれる優しい方が多いなとも感じました。

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当事者の気持ちや痛みを少しでも理解するために、顔にあざの特殊メイクをして、街に出た時の岩井さん。わずか5時間程度のことではあったが、見られる恐怖心を抱き、視線を浴びればイライラしたと言う(写真:朝日新聞社提供)

岩井さん:息子について、心配事がないかと言われれば、今でもゼロではありません。でも、取材を通してさまざまな方にお会いしていく中で、偏見を持っていたのは、僕自身でないかと感じるようになりました。

そもそも、どうして僕が息子の将来に不安を感じるのか。「笑顔が大切」という社会通念があり、「普通の笑顔でなければならない。ゆがんだ形の笑顔では受け入れてもらえない」と僕が思い込んでいたためです。そんな僕の偏見を解きほぐしてくれたのは、息子でした。彼が屈託なく笑う姿を見ていると、少々ゆがんでいようとも、心から楽しく笑っているからどうかは相手に伝わるもので、愛想笑いよりもよほど魅力的だと思えるようになりました。

息子に対しては、妻の方が、ポジティブで「(著書にも)もっと息子のかわいらしさや、学校でモテることも書けばいいのに」とよく言われています(笑)。

――岩井さんのように、お子さんの「見た目問題」で悩んでいる親御さんも多いと思います。そういった方にアドバイスできることがあればお願いします。

岩井さん:大切なのは「社会や人とつながること」。親が疾患の話題をタブー視していると、当事者の子どもがしんどいかもしれません。悩んでも相談できませんから。社会には、同じような悩みを持った人がたくさんいます。そういった方々とつながることで、いろいろ相談でき、悩みを共有することができるんです。

私も、息子と同じ疾患がある男性と出会い、今も交流しています。将来、息子が悩むことになったら、その男性の存在が大きなものになると思います。

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息子さんに「うまく笑えなくても、心から爆笑できる人生を送ってほしい」と願う岩井さん

画一的な「美しさ」を求める日本のメディア

――話は変わりますが、「見た目問題」の裏側には、メディアによる画一的な「かわいさ」や「美しさ」の基準があるのではないでしょうか?

岩井さん:それは、確実に存在すると思います。個人的な考えですが、日本人は「他と違うこと」が苦手な方が多いと感じます。外見について言えば、メディアの提示する「世間並みの美しさ」を追い求めがちです。

――「世間並みの美しさ」ですか?

岩井さん:はい。美について詳しい大学教授によると、「世間並みの美しさ」はメディアやSNSに登場する俳優やアイドルから、そのイメージが作り上げられます。一重よりも二重、色黒よりも色白、痩せていること、年を取っているよりも若いこと…。そんな画一的な基準と自分を比べたら、自信を失ってしまいますよね。外見は本来、一人一人が違うものなんですから。

――確かに、美しさを求めることは悪いことではないですが、そのやり方では本来の自分を否定し続けることになってしまいそうですね。

岩井さん:社会的に見ると女性の方が、そうしたプレッシャーが大きいかもしれません。「女性は美しくあるべき」「髪は女の命」といった常識が多くの女性の生きづらさにつながっています。外見に症状を抱える女性たちも「女の子なのにかわいそうね」と声を掛けられた経験をしています。

「見た目問題」を持つ役者や、先生、ニュースキャスターもいる社会って素敵じゃない?

――最後に、岩井さんが考える「見た目問題」の解決方法を教えてください。

岩井さん:知り合いのジャーナリストが「『見た目問題』は、『見る目問題』だ」と指摘していました。当事者の多くは社会に適用しようと、もがいています。次は、社会の「見る目」が変わる番だと思います。

――そのためには、どのようなことが必要だと思いますか?

岩井さん:まずは、当事者について知ることですね。どんな人たちが、どのような思いで生きてきたのか。それを社会に広めるために頑張っている当事者の方もいます。

――先日開かれた著書の出版イベントでも、当事者の方たちと共にお笑い芸人の村本大輔さんが「見た目問題」の本質について探られていました。

岩井さん:村本さんの「(見た目問題を)刹那的に消化しない」との問いかけは、メディアにも向けられていると思いました。当事者が苦労を乗り越える感動ストーリーとして、メディアは描きがちです。でも、本当の当事者像は多様です。頑張れない人もいるし、そもそも差別を経験していない人もいます。感動ストーリーに当てはめるのではなく、彼らの多様な姿を、継続的に報道していくことが僕の使命だと改めて思いました。

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お笑い芸人の村本大輔さんと当事者たちが「見た目問題」の本質について語り合った『この顔と生きるということ』の出版イベントの様子

――時には、メディアの情報に疑問を持つことも大切ですね。

岩井さん:障害者の人と健常者の役者がテレビドラマで一緒に役を演じていたり、顔にあざがあるニュースキャスターが鋭い発言をしていたり、髪がない女性が楽しげに街を歩いていたり…。許容性のある社会だと、いろんな人がもっと生きやすくなると思います。「見た目問題」を抱える人や、そうでない人も一緒になって、そんな社会をつくっていきたいですね。

撮影:新澤 遥

〈プロフィール〉

岩井建樹(いわい・たてき)

通称「見た目記者」。顔の変形、マヒ、けがなど、特徴的な外見を理由に、学校生活や、恋愛、就活で苦労し、生きづらさを抱える「見た目問題」を精力的に取材している。「見た目問題」の記事(別ウィンドウで開く)は、ウェブメディア「withnews」にて連載。朝日新聞文化くらし報道部記者。2005年に朝日新聞に入社し、岡山県・京都府・環境省・岩手県・紙面編集などの担当を経て、現職に。

2019年7月19日に朝日新聞出版社より発売

『この顔と生きるということ』

顔の変形やアザ、マヒなど特徴的な外見のため、学校や恋愛、就職で困難に直面した人々のルポルタージュ。筆者の長男も、顔の筋肉が少なく、笑顔をうまくつくれない。悩める記者が見つめた、当事者の未来。

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