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ミタメトークレポート(後編)「あなたとかかわりたい」のひと言がカギ。「見た目問題」の向き合い方

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「ミタメトーク!」にゲストスピーカーとして登壇した「見た目問題」当事者の3人
この記事のPOINT!
  • 当事者自らイベントに参加するのは、「見た目問題」の存在を知ってもらうため
  • 見た目問題の根幹には「問題自体を知らない」「当事者に慣れていない」ことがある
  • まずは相手のことを知り、互いを思いやる姿勢が、みんなが生きやすい社会につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

顔の変形やまひ、傷痕といった、人と違った外見を理由に差別を受けたり、結婚や就活で困難に直面する「見た目問題」。今回は、この問題の当事者であり、生きづらさを抱え人生を歩んできた3人にインタビュー。先だって中高生限定で開催されたトークイベントに登壇した際の感想を交えつつ、それぞれが思う見た目問題の本質について語っていただいた。

真剣に話し合い、子どもも当事者も深く考えた「見た目問題」

2019年3月23日に開催された「見た目問題」をテーマにしたトークイベント「ミタメトーク!」。ゲストスピーカーとして登壇したのは、単純性血管腫により左顔に赤いあざがある三橋雅史(みつはし・まさふみ)さん、生まれつき肌や髪の毛が白いアルビノの神原由佳(かんばら・ゆか)さん、トリーチャーコリンズ症候群で、聴覚に障害がある石田祐貴(いしだ・ゆうき)さんだ。

3人は、これまでの体験や、見た目問題とぶつかった当時の心の動き、さまざまな壁を乗り越えることで得た気付きについて語った。参加した中高生は彼らに対し多くの質問や意見を投げ掛け、深いディスカッションに発展。見た目問題を超えて、現代社会の「生きづらさ」を解決するために必要な視点などを語り合う場となった。

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NPO法人マイフェイス・マイスタイル代表の外川浩子(とがわ・ひろこ)さんによる司会進行のもと、見た目問題について語るゲストスピーカーたち

そんな子どもたちの声に触れ、ゲストスピーカーの3人は何を感じたのだろう。まずは、各々にイベントを終えての感想を伺った。

三橋さん:子どもたちが僕たちの話を真剣に受け止めてくれていることが、表情や発言からよく分かりました。見た目問題の当事者とどうかかわっていくか、この問題に関しては正解がないんです。だけど今日の話をきっかけに、これからも自分なりの答えを探して、考え続けてもらえたら嬉しいですね。

神原さん:「見た目問題の当事者はものすごく苦労していることが分かった」という感想を、多くの子どもたちからいただきました。もちろんそのとおりなんですが、自分よりも大変な人がいるから辛いことも我慢する、みたいには思ってほしくないんです。人と比べずに「辛いことは辛い」と素直に口に出してほしいと、この場を借りて伝えたいです。

石田さん:僕らが抱える見た目問題に限らず、誰もが家庭や学校の悩みを抱えていると思います。今日の話から1つでもヒントを持ち帰って、つまずきそうになった時に生かしてもらえたら嬉しいですね。それから、子どもたちとのディスカッションを通してこれまでにない発見があり、とっても勉強になりました。感謝でいっぱいです。

当事者自ら発信するのは、まず「見た目問題」の存在を知ってもらうため

今回のイベントを主催しているのは、誰もが自分らしい顔で、自分らしい生き方が楽しめる社会を目指しているNPO法人マイフェイス・マイスタイル(以下、MFMS)と、読者の気になるニュースを募集し、取材・発信しているウェブメディア「withnews(ウィズニュース)」(別ウィンドウで開く)だ。

三橋さん、神原さん、石田さんはMFMSのメンバーでもある。彼らは普段、どのような活動をしているのか尋ねてみた。

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左から、三橋さん、神原さん、石田さん

石田さん:僕は筑波大学大学院に通い、障害に関する研究をしています。それと並行して、MFMSが手掛けるイベントなどを通して、見た目問題に関する講演もしています。小学校に行き、これまでの経験を子どもたちにお話しすることもあるんですよ。

神原さん:私は福祉施設で働きながら、日本アルビニズムネットワークに所属し、当事者たちの交流会などを企画しています。またMFMSではイベントやトークショーに参加して、当事者としての経験を生かしながら見た目問題に関する情報を発信させていただいています。

三橋さん:実は僕、見た目問題についてそこまで精力的に活動しているわけではないんです。MFMSに依頼されたた時にトークショーなどで自分の経験を話させていただいている程度で、普段は公務員として児童福祉に関する部署に勤めています。地域の子育てを支援する仕事に就き、毎日大きなやりがいを感じながら働いています。

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子どもに関する仕事にやりがいを持って取り組んでいる三橋さん

では彼らは、どのような思いを抱いて自らイベントやトークショーに参加し、話をしているのだろう。今回の中高生を対象とした「ミタメトーク」への参加理由も併せて聞いてみた。

石田さん:見た目問題って、案外知られていないんですよね。だけど生きづらさを感じている人はたくさんいる。当事者としてさまざまなイベントに参加させてもらうことで問題を発信し、社会が変わるきっかけを作れたらと思っているんです。

神原さん:私も同じ思いです。今回のトークイベントに限って言えば、中高生向けだったことが私の中でポイントでした。子どもたちだけに話をする機会はこれまでなかったし、開催する側と参加する側、両者にとってチャレンジングな企画だったなと。子どもたちの意見を聞きながらお話をさせていただけたのは、とても有意義でした。

石田さん:そうですね。僕も小学校ではよく話をしますが、今回みたいに少人数を相手に近い距離で意見を交わしたことはありませんでした。新鮮でしたし、彼らが何を感じているのかを知れたことは、経験としてとても大きかったです。

三橋さん:そうそう。子どもたちと近い距離で話すことで、僕らみたいな人がいることを、肌で感じてもらえたのは良かったと思います。見た目問題の根幹には「問題自体を知らない」「当事者に慣れていない」ことがあると思うんです。今回僕らと触れ合ったことで、普段の生活の中で見た目問題の当事者に会ったときに、どのように接すれば良いか少なからず理解できたんじゃないでしょうか。

写真:トークイベントを振り返る石田さん
石田さんは「子どもたちと近い距離で話せたことが楽しかった」と嬉しそうに語ってくれた

今回参加した子どもたちに対する印象についても聞いてみた。「受け入れられない」ことの辛さを経験している3人の目に、今の子どもたちはどのように映ったのだろうか。

神原さん:まず、見た目問題に関心を持ち、足を運んでくれた子どもたちには心から感謝しています。あと、ネットを使って誰もが簡単にいろんな情報を入手できる現代社会の良さを実感しました。私が中高生の頃って、関心があってもこのような特殊なテーマを扱ったイベントを自分で探すなんて難しかったですから。

三橋さん:ネットやSNSは本当に大事ですね!今の子どもたちって、自分と違う人に対して、とても寛容ですよね。多様性を受け入れることの重要性を、話を聞かずともSNSを通じて理解し始めている。“何が間違っていて、何が正解か”を決めつけたりしない印象を持っています。

石田さん:確かにそうですね。いろいろな個性を認めることが当然の世代になってきている。見た目問題においても、この感覚はきっと重要なんです。それを当たり前に持っている子どもたちが増えていることは、喜ばしいことです。

三橋さん:本当にそうですね。そんな子どもたちが、今日の話を通して感じたことを発信してくれたら嬉しいな。

「見た目問題」はひとくくりにできない。一人ひとりの当事者と向き合う姿勢が必要

最後に、今回のイベントの中で挙がった子どもたちの質問に対する答えを掘り下げて聞いてみた。

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「髪を黒く染めない」ことを信条にしている神原さん

まず、「自分の中で、これだけは曲げられない!と思っていることは?」。

神原さん:トークショーでもお話したとおり、髪を染めないことです。黒髪がうらやましいこともありましたし、髪の色が原因でアルバイトの面接に落ちたことも何度もあります。「黒く染めたら採用する」と言われたこともあるのですが、自分が生まれ持ったものを隠して生きていくのは私らしくないと思っていて。なので、何があっても髪は染めないと決めているんです。

三橋さん:“生き方や考え方にこだわらないこと”にこだわっているというか、長い物には巻かれろというか…。とりあえず柔軟でいたいと思っています。例えば見た目問題にしても、隠したい人は隠す。治療で治るなら治療を受ける。逆にこれが個性であると受け入れて、隠さずに生きていく。どれでもいいじゃん!と、誰ともけんかすることなく生きていけたらと思っています。

石田さん:そうなんですね。三橋さんと逆の意見になってしまうなあ(笑)。僕の場合は何事も諦めない、絶対に前を向き続けることを信条にしています。見た目に問題があるから何かを諦めるとか、相手に理解してもらうことを諦めるとか、そんなことはしたくない。何に対してもめげずに立ち向かう姿勢でいたいんです。

神原さん:同じ見た目問題の当事者同士でも、こんなに意見が違うんですよね。多様性があるのは楽しいことです。

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子どもたちの質問にじっくりと考え、答える3人

問題の核心部分とも言える「これまでに感じた“うっとうしい善意”は?」。

この質問に対し「これは本当に難しい質問でした…」と前置きしつつ、3人は口を開いてくれた。

石田さん:悪気がないと分かっていても、まるで悩みを理解しているかのような発言をされることって、こちらからするとやっぱり辛いものがあるんです。

神原さん:そうなんですよ。本当に、おっしゃるとおりです。

石田さん:だけど、こちらとしても悪気がないと分かっている。きっと、お互いが思いやることが大事なんでしょうね。こちらも善意を受け入れる姿勢を持ち、声を掛ける方も少し考えてから発言をしてもらう。そのバランスが取れたら“うっとうしい善意”はなくなるでしょうし、差別の解決につながるかもしれません。

三橋さん:そう、うっとうしい善意を知らずに押し付けてしまう人が中にはいますよね。こうした方がいい、ああした方がいいと言われると、やっぱり嫌な気持ちになります。自分の意思や生き方を尊重してほしいのは誰だって同じ。その考え方に対する溝を、会話を通して埋められたらいいですよね。

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同じ「見た目問題」でも、抱えている悩みは千差万別であると語る3人

神原さん:コミュニケーションが大事だなと、私も感じています。何気なく共感されたり、見た目に関して腫れ物を扱うかのように話をされると、こちらとしては困ってしまう。逆に、「どうして髪が白いの?」とストレートに聞かれた方が楽なんです。私の症状について理解してもらった上だと、関係性も深まりますし。

三橋さん:ただ難しいのが、「その症状はどうしたの?」とダイレクトに聞かれることを、嫌がる方も少なからずいることなんですよね。僕たちは人前で話をしているぐらいですから、むしろどんどん聞いてほしいと思っています。だけど、見た目に関して触れられること自体が苦痛な人もいるので、そういうあり方も尊重されるべきだと思います。。

石田さん:だから当事者に対し、まずは「あなたとかかわりたい、あなたのことを知りたい」という意思表示をすることが大事だと思うんですよ。最初は見た目に関係なく、その人自身を知ること。そうしてある程度の関係性を作ってから触れてみるのが良いのかもしれません。

神原さん:そうですね。こればっかりは、見た目問題の当事者同士であっても難しいことですから。その人を見た上で、どんなコミュニケーションが気持ち良いかを考えることが大事なのかもしれません。

「見た目問題」の解決は簡単ではないが、多様性の大切さが理解され始めている今、インタビューを通して見えてきた希望もある。人間関係の基本である思いやりや気遣いに加え、「一人ひとりが違う」という前提が広く浸透すれば、誰もが生きやすい社会が実現できるのかもしれない。

撮影:佐藤潮

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