村本大輔と探る「見た目問題」。恋愛、結婚、就職について当事者が語る

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写真後列左から、トークイベント「村本大輔が斬りこむ『見た目問題』 恋愛・就職・生きづらさ~当事者と語る」に登壇した村本大輔さん、河除静香さん、石田祐貴さん。前列は「この顔と生きるということ」の著者・岩井建樹さん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 人とは違う特徴的な外見の人たちが、学校や就職、恋愛で苦労する「見た目問題」
  • 初めて顔を見て驚かれるのは仕方のないこと。「見た目問題」を「知らない」ことが偏見を生む
  • 「見た目」ではなく、まずは「自分」を知ってもらうことが大切

顔の変形やあざ、まひ、傷の痕といった、人と違った外見を理由にいじめられ、学校や就職、恋愛で困難に直面する「見た目問題」。この問題の当事者たちの人生をたどるルポルタージュ『この顔と生きるということ』(朝日新聞出版社)の出版を記念したトークイベント「村本大輔が斬りこむ『見た目問題』 恋愛・就職・生きづらさ~当事者と語る」が、2019年8月16日、東京・渋谷ヒカリエで開催された。

〈司会進行〉

岩井建樹(いわい・たてき)

朝日新聞文化くらし報道部記者。ウェブメディア「withnews」にて「見た目問題」をテーマにした記事(別ウィンドウで開く)を連載。2019年7月19日に初の著書『この顔と生きるということ』を刊行。

〈登壇者〉

村本大輔(むらもと・だいすけ)

2008年に中川パラダイスと漫才コンビ・ウーマンラッシュアワーを結成、2013年に「THE MANZAI」で優勝。全国各地で精力的にライブを開く。2019年春まで、AbemaTV「Abema Prime」でMCを務めた。

河除静香(かわよけ・しずか)

動静脈奇形。血管の塊が口や鼻にあり、これまでにその切除手術を40回以上繰り返してきた。見た目問題をテーマに、一人芝居を各地で演じている。

石田祐貴(いしだ・ゆうき)

顎や頬の骨が未発達のまま生まれるトリーチャーコリンズ症候群。現在は筑波大大学院生。小学校での講演もたびたび行っている。

一人芝居に込められた「見た目問題」当事者の「怒り」と「悲しみ」

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恐ろしげな黒い仮面をつけた河除さん

本イベントの幕開けは、河除さんの一人芝居で始まった。河除さんは、人とは違った外見を持って生まれた孤児と、孤児をいじめた少年への復讐を持ちかける悪魔を演じ分ける。はじめは、自分の命と引き換えに、悪魔に少年への復讐を願う孤児。しかし最後には、これまでの振る舞いを心から謝罪する少年を許し、自分の外見と過去の全てを受け入れた孤児は、自らの命をかけて悪魔と対峙する……。

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悪魔と対決する孤児を演じる河除さん

この一人芝居は、河除さんの実体験がヒントになって生まれたものだ。劇中で少年から浴びせられる心無い言葉は河除さんが実際に経験したものであり、その「怒り」と「悲しみ」は観る者の心を強く揺さぶる。さらに劇中の少年の謝罪も、河除さんが成人式で経験した実体験であり、孤児の心の変化も自身が経験したもの。おそらく彼女の一人芝居を観た人は、誰もが「見た目問題」を他人事ではなく、自分自身にも深く関わることだと感じるのではないだろうか。

「見た目」のことで「やりたいこと」を諦めなければいけない世の中はおかしい

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写真左から、トークセッションに登壇した村本さん、河除さん、石田さん、司会の岩井さん

河除さんによる圧巻の一人芝居の後は、岩井さん進行の下、村本さん、河除さん、石田さんによるトークセッションが行われた。「見た目問題」についてさまざまな角度から意見が交わされた。

[なぜ、積極的に世の中に情報を発信しているの?]

村本さんは、「雑誌の取材を受けたり、講演会などのイベントに出ようと思う理由は?」という質問を、河除さんと石田さんに投げかけた。

河除さんは「自分はこの顔をずっと隠さなければいけないと思っていたのですが、今は自分の活動を通じて、自分の顔に『意義』を感じています」と答えた。

この「意義」とは「誰かの役に立ちたい」という想いから生まれたものであり、「見た目問題」のことを一人でも多くの人に知ってもらいたいという想いが込められている。

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石田さんは「僕はそれほど強く『自分から発信していこう』と考えている訳ではありません。『自分は自分のままでいい』と思っています」とのこと。ただ、誰かに求められているのであれば、自分の話や経験が何かの役に立てば…という気持ちもあるそうだ。

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質問に答える石田さん(写真右)

[「見た目問題」で「生きにくい人たち」がいる世の中を、どうすれば良いのか?]

続く村本さんの質問は、「『会社に行く』『道を歩く』といった人として当然のことがしにくい人がいる世の中をどうすれば良くできると思う?」というもの。

河除さんは「世の中がそうなっているのは、多くの人が『見た目問題』のことを知らないから」と答えた。

石田さんも同意見だが、視線の問題が一切なくなることは難しいと言う。

「人はどうしても多数派と異なる外見には反応し、僕自身ですら小学生の頃に片腕が無い方を見かけ、そのことを言って母に叱られたことがあります」

最初に驚くのは仕方がないことで、その後、いかに普通に接するかというのが重要だと考えている。

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質問を投げかけ、時には自らの経験を語る村本さん

[『傷つけられた怒り・恨み』をどう消化したのか?]

対話の中で出てきたのが、「周囲を恨むことはなかった?」という村本さんの問いかけ。

石田さんは幼い頃に「なぜこんな顔で産んだのか?」と母親を責めた時、「私はあなたがその顔で生まれてきて良かったと思っているし、幸せだとも思っている」と言ってもらえたことで、これまで人を恨まずに生きてくることができたと語った。

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それぞれの経験や想いを語る登壇者たち

「見た目問題」を乗り越えるための「信じられるもの」に関連して、村本さんは岩井さんに「子どもへの接し方」を尋ねた。実は、岩井さんの長男も、顔の筋肉がなく、うまく笑顔がつくることができない。そのことがきっかけとなり、記者として「見た目問題」を追うようになった。

「以前は子どもに『学校で顔についていじめられていないか?』と聞いていましたが、今は『最近、学校はどうだ?』と聞くようにしています」と岩井さんは答えた。「顔のことでいじめられていないか」と聞くことは「お前の顔はいじめられる顔だ」と言っているのに等しい。だから、そういう聞き方をやめて、もし何かあれば寄り添うようにしているそうだ。

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自分の子どもとのエピソードを語る岩井さん

[恋愛・結婚について]

ずっと恋愛に臆病だった河除さんが前向きになれたのは短大生の時。「卒業旅行で恋愛の話題になり、『私みたいな顔だと、恋愛なんてできないよね』と漏らすと、友人の一人が『なんで、そんなことを言うの?』と泣きながら叱ってくれました」。

そのことをきっかけに「私も恋愛していいんだ」と思えるようになったそう。

そして、自分の価値を認められるようになったのが旦那さんとの出会いだ。付き合い始めの頃、顔のことに触れない河除さんに「どうして顔のことを話してくれない!」と本気で怒られたという。「すごくうれしかったですね。そんなこと言ってくれた人、初めてだったので」と河除さんが当時の気持ちを振り返ると、「いい人を引き当てましたね〜」と村本さんがツッコミ、会場は笑いに包まれた。

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方言が素敵な河除さん(写真左)とお笑いの達人である村本さん(写真右)。2人の会話は何度も会場を笑いで包んだ

一方、これまでに3回ほど告白した経験があるという石田さん。「恋愛なんて縁がないと思い込んでいましたが、高校の時に彼女ができました。『内面を好き』と言ってもらい、見た目が全てじゃないと知りました」。そのことをきっかけに、恋愛については比較的に前向きに考えられるようになったとか。

ただ、結婚や子どもをつくることに関しては、トリーチャーコリンズ症候群が遺伝する可能性もあることから、やはり躊躇してしまうと言う。「彼女自身が受け入れてくれたとしても、その親御さんや親戚のことを考えるとちょっと…。僕自身もトリーチャーコリンズ症候群の子どもが生まれてきたら、動揺してしまう部分もあるでしょうね」と、正直な思いを語った。

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自らの恋愛観・結婚観について語る石田さん

[就職・仕事について]

石田さんはアルバイトの採用で落とされた経験が多く、河除さんも短大時代にアルバイト先で受付の仕事はやらせてもらえないなど、働く場所を制限された経験があるという。

それに対し、村本さんは「仕事上の能力とは関係なく、『見た目』のことで『やりたいこと』を最初から諦めなければならない社会は、やはりおかしいでしょ」と指摘した。

岩井さんは子どもの将来の仕事について、これまでは「営業や接客は無理」「専門的な技術職がいいだろう」など制限をかけて考えていたが、今は子どもがやりたいと思うことを応援しようと考えているということだった。

自分の存在を隠さないことが、みんなが生きやすい世の中につながる

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登壇者に質問をする参加者の方

トークセッションの後は、参加者も巻き込んでの質疑応答が行われた。

「『見た目問題』を持つ当事者としてそのことを世の中に発信することは怖くないですか?」

参加者からのこの質問に対し、河除さんは「過去の辛かった経験を追体験することになり、講演会では毎回号泣しますが、子どもたちのためにやはり伝えたいという気持ちが強いですね」と回答。

石田さんは「取材などで話すと過去の嫌なことも整理され、さらに一歩前進できるような気がします」と答えた。

これを受けて、村本さんも「アメリカでは、障害のあるコメディアンも自分たちの障害を『笑い』に変えているけど、彼らはそんな『笑い』にすることが自分にとっての『薬』なんだと言っていました」という話を披露した。

「自分たちの存在を隠しておいてほしいと考える『見た目問題』の当事者についてどう思いますか?」

参加者からのこの質問に対し、河除さんは「『知られたくない』という人がいるのは自然なことです。それでも、自分の子どもたちが私と同じような経験をしてほしくない、という思いで活動を続けています」と答えた。

石田さんは「自分の存在を隠さないことが将来の世の中のためになると思っています。また、僕は決してトリーチャーコリンズ症候群の代表者ではないので、同じ症状のある方たちが今回出版された『この顔と生きるということ』の中で情報発信してくれたのもうれしく思います」と語った。

河除さんも石田さんも、「私が一人芝居をするのは未来への礎」「子どもたちへの教育によって社会は変わるだろう」と言っていたが、「見た目問題」は簡単に解決する問題ではない。まずは私たち一人一人が心の中にしっかりと刻んでおくことで、「見た目問題」をいつか過去のものにできるのではないだろうか。

撮影:新澤 遥

写真:「この顔と生きるということ」(朝日新聞出版社)の表紙
2019年7月19日に朝日新聞出版社より発売

『この顔と生きるということ』

顔の変形やアザ、マヒなど特徴的な外見のため、学校や恋愛、就職で困難に直面した人々のルポルタージュ。筆者の長男も、顔の筋肉が少なく、笑顔をうまくつくれない。悩める記者が見つめた、当事者の未来。

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