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世界の人助け指数でワースト2位。なぜ日本は寄付文化が広まらない?専門家に聞いた

イメージ:寄付
世界的に見たとき、日本には寄付文化が根付いているとは言えない
この記事のPOINT!
  • 先進国でありながら日本は世界人助け指数118位で、世界ワースト2位に
  • 東日本大震災やクラウドファンディングなどをきっかけに寄付の方法は多様に
  • 「寄付」とは、自身の社会への関心を可視化するための具体的な行動の1つ

取材:日本財団ジャーナル編集部

2022年にイギリスに本部のある慈善団体Charities Aid Foundationが「World Giving Index」(外部リンク)を発表しました。これは「世界人助け指数」という調査になり、「寄付をしたか?」「ボランティア活動をしたか?」「見知らぬ人を助けたか?」などの質問に対する回答を国ごとに集計したものですが、日本は118位と世界ワースト2位となっています。

この結果を見ると、日本には寄付文化が根付いていないように思えます。では、ランキング上位の国は、どのような理由で寄付文化が浸透してきたのでしょうか?

今回、寄付・社会的投資が進む社会の実現を目指し、さまざまな活動を行っている日本ファンドレイジング協会(外部リンク)の宮下真美(みやした・まみ)さんに、日本の寄付文化の現状や、諸外国との違いなどについてお話を伺いました。

震災やコロナ禍、未曾有の有事を機会に寄付文化が回復

――まずは日本ファンドレイジング協会の活動について教えてください

宮下さん(以下、敬称略):私たちの協会では大きく3つの事業を展開しており、1つ目は「認定ファンドレイザー資格制度」(外部リンク)を立ち上げ、社会課題を解決するために寄付金を集める「ファンドレイザー」と呼ばれる方々を対象に、研修やさまざまな情報を共有し合うカンファレンスなどを開いています。

ファンドレイザーとは、活動資金を集める営業の面や、共感を軸にファンを集める広報の面、NPO経営者の右腕という側面もあり、幅広い知識や経験が求められます。

2つ目は寄付をする側の人々を対象に、日本の寄付の現状や動向について調査・研究結果をまとめた「寄付白書」の発行や、子どもたちに向けて社会貢献教育を行うことで、「寄付をする」という選択が社会にどのような影響を与えるのか、考える機会を提供しています。

3つ目は、寄付に対する環境整備です。経済的だけでなく社会的なリターンも加味した「社会的投資」や「遺贈(いぞう)寄付※」が定着しつつありますが、それには制度も整えていかないといけません。どんなプレイヤーが求められていて、どんなルールが必要なのか。そのための仕組みづくりなども行っています。

写真:オンラインで取材に応じる宮下さん
取材に対応いただいた日本ファンドレイジング協会の宮下さん

――さまざまな角度から日本に「寄付文化」を広げるための取り組みをされているんですね。日本の寄付文化がどのように変化してきたのか教えていただけますか?

宮下:日本の歴史をひもといてみると、奈良時代には仏教僧が民間から奉加(ほうが)と呼ばれる寄付を集める活動が行われていたり、江戸時代には商人たちが寄付を出し合って、橋が建設されたり、子どもたちに教育の場を与える「寺子屋」が盛んに開かれたりと、慈善活動や後進育成のために資金や時間を提供する文化が根付いていました。

それが明治期に入って国が政策を定め、地方自治体がそれに従う中央集権体制となったことで、「福祉をはじめとする公共的なサービスは行政がやるべきもの」という認識が植え付けられ、それまであった「自分たちの社会は自分たちが良くするもの」という意識が失われていったと考えられています。

ただ、現代に入ってからも変化し続けています。1995年に起きた阪神淡路大震災では、1日に2万人以上のボランティアの方たちが集まるなど、社会的活動が活発になり、社会貢献活動の発展を促進する「特定非営利活動促進法」 が制定されました。

表:年ごとの個人寄付総額、寄付者数・寄付者率の推移

2009年の個人寄付総額 5,455億円、寄付者数3,766万人、寄付者率 34.0パーセント
2010年の個人寄付総額 4,874億円、寄付者数3,733万人、寄付者率 33.7パーセント
2011年の個人寄付総額 1兆182億円、寄付者数7,026万人、寄付者率 68.6パーセント
2012年の個人寄付総額 6,931億円、寄付者数4,759万人、寄付者率 46.7パーセント
2014年の個人寄付総額 7,409億円、寄付者数4,410万人、寄付者率 43.6パーセント
2016年の個人寄付総額 7,756億円、寄付者数4,571万人、寄付者率 45.4パーセント
2020年の個人寄付総額 1兆2,126億円、寄付者数4,352万人、寄付者率 44.1パーセント
「寄付白書 2021」より日本の個人寄付総額、寄付者数・寄付者率の推移。参考:寄付白書2021

宮下:この10年で寄付する人や金額は増え続けているのですが、大きな契機となったのは、2011年に起きた東日本大震災です。インフラが途絶えてしまったことで、現地でのボランティア活動が難しい時期があったり、被災地の映像を見た人々の「少しでも貢献したい」という意識が高まったりしたことで、寄付という形で思いを表現される方がたくさんいらっしゃいました。

それまで一般的だった被災者への直接的な支援となる「義援金※」は、被災者数など正確な情報を把握した後に均等に分配されるため、手元に届くまでに時間がかかります。その間に子どもたちは成長し、心を病んでしまう方もいる……。

こうした状況の中で、NPO団体などが被災地のニーズに合わせて速やかに支援活動に役立てる「支援金※」への寄付が急激に広がりました。

宮下:さらに、同じタイミングで「クラウドファンディング※」サービスが立ち上がったことで、インターネットから簡単に寄付ができるようになり、「寄付をする」という行為に対するハードルが一気に下がりました。

――確かに、クラウドファンディングをきっかけに寄付が身近になった感覚があります。

宮下:ただ、全体的な寄付文化が根付いているかという点で考えると「まだまだ」というのが現状です。

内閣府が行っている「社会意識に対する世論調査」(外部リンク/PDF)によると、国民の60パーセント以上が「何らかの形で社会に貢献したい」と回答しています。しかし、弊団体の調査では、実際に寄付をした経験のある人は国民全体の約40パーセントに過ぎません。

この20ポイントのギャップを埋める上で、自分が寄付したお金が誰に、どのように使われ、どのような形で社会の中で活かされるかが明確なクラウドファンディングの仕組みは、とても有効だと思います。

円グラフ:あなたは日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っていますか?

・思っている 64.3パーセント
・あまり考えていない 34.1パーセント
・無回答 1.5パーセント
出典:内閣府「社会意識に対する世論調査」
横棒グラフ:性別 寄付者率

・全体
寄付を行った 44.1パーセント
寄付を行っていない 55.9パーセント

・男性
寄付を行った 42.3パーセント
寄付を行っていない 57.7パーセント

・女性
寄付を行った 45.9パーセント
寄付を行っていない 54.1パーセント
出典:寄付白書2021

宮下:他にもふるさと納税も寄付の1つの形ですが、「ガバメントクラウドファンディング」(外部リンク)という取り組みも始まっています。

これは返礼品ではなく、「子育て応援」や「動物愛護」など、自治体の問題解決のための使い道をより具体的にプロジェクト化し、そのプロジェクトに共感した方から寄付を募る仕組みで、特に若い世代の方たちを中心に広がっています。

さらに、コロナ禍の2020年には、政府から一律給付された10万円を、資金的援助を必要としている団体や企業、個人を支援したいと考えている人と、支援を必要とする人をつなげる「コロナ寄付プロジェクト※」が立ち上がり、2年間で総額4億円の寄付を集めています。寄付の形は多様化していると言えるでしょう。

――世界人助け指数トップ3を見るとケニア、インドネシア、アメリカとなっています。そのほか上位を見ても、国の経済状況と人助け指数は無関係のような気がします。これはなぜだと思いますか?

宮下:寄付だけの話でいうと、1つには宗教観が大きく影響していると思います。例えばキリスト教では、神の約束のもとに毎月のお給料から献金(寄付)するという教えがありますし、イスラム教でも寄付が義務とされています。

また、寄付先進国であるアメリカでは制度が整備されていて、寄付金控除の対象となる団体の数が非常に多いんです

一方、日本で控除制度の対象となっているのは、認定NPO法人や国の公益活動法人など、一部の法人格への寄付のみで、このような文化や制度の違いが大きな理由ではないでしょうか。

より良い未来をつくるために「寄付」という形で社会に投資を

――より多くの人にとって寄付文化を身近なものにするため、日本ファンドレイジング協会が取り組んでいることはありますか?

宮下:先ほどもお伝えした、子どもたちを対象にした社会貢献教育のプログラムが挙げられます。

教室で講師が「寄付の教室」のプレゼンを行っている
日本ファンドレイジング協会が行っている小学生向けプログラム「寄付の教室」の模様

宮下:一例として、2020年のコロナ禍には、子どもたちに寄付の選択を託すクラウドファンディングを立ち上げました。

このプロジェクトでは、さまざまな活動を行うNPO法人の方にプレゼンテーションをしていただき、自分たちでも活動内容について調べ、どんな団体に寄付をしたらいいか話し合います。

「目の前の困っている人を助けたい」という意見もあれば、「困っている人を支えている人たちを支えたい」という意見もある。こうして多様な価値観を学び合いながら、実際に社会貢献に参加する体験はとても重要です。

「自分が寄付したことで、社会や誰かの役に立てた」という成功体験があってこそ、2回目、3回目の寄付にもつながります。

今後もこうした社会貢献教育は積極的に行っていきたいと思っています。

中学生がチームを組み、ホワイトボードと使って、どこに寄付をするか会議中
子どもが社会課題を調べ、自ら寄付先を考えるプログラム「Learning by Giving」 の模様

――社会課題を解決するために活動している団体がたくさんある中で、自分に合った寄付先を探すにはどうしたらいいでしょうか?

宮下:「寄付をする」ということは、将来的にどんな社会や地域になってほしいか、何を大切にしたいのか、自分自身の社会に対する関心を可視化し、具体的に起こす行動の1つだと考えています。

まずは、さまざまな社会課題の中で、自分が最も関心があるものを探り、それに対して活動をしている団体を探してみてはいかがでしょうか。

その団体がどのように寄付で集めた資金を活用しているかをチェックするのはもちろんのこと、最近では NPOなどを第三者的な視点で評価しているウェブサイトあるので、こちらを参考にしてもいいかもしれませんね。

――自身と寄付先とのマッチングが重要ですね! 宮下さんの考える「寄付文化の未来」とはどういうものでしょうか?

宮下:「寄付」という言葉が日常の会話に出るようになってほしいなと思います。

なんとなく「寄付=意識が高い人がすること」というイメージがありましたが、東日本大震災やコロナ禍をきっかけに、著名人の方々がSNSなどを通じて寄付したことを発信するようになったことは、大きな変化の1つですね。

寄付に対して「売名行為」と捉えてしまう方も少なくないです。でも、それって「寄付したお金がどう使われているかを知らない」からだと思うんです。

そういう意味では、ファンドレイザーは「どう使われて、どう役に立ったのか?」をアピールしていくことも重要な仕事で、それも含めて「寄付」という言葉がもっと出てくる社会にしていきたいですね。

編集後記

「社会課題」と一括りにすると具体的に思い浮かばないかもしれませんが、「動物の殺処分をゼロにしたい」「大好きな芸術や芸能が後世にも受け継がれていってほしい」「自分たちが生まれ育った海を守りたい」など、自分の近くに「気になる問題」はあるのではないでしょうか。

寄付は社会や未来への投資。誰かのためにしていたつもりの寄付が、実は自分のためでもあったことに気付かされました。

日本ファンドレイジング協会 公式サイト(外部リンク)

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