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8割が利用できていない、不正受給率はごくわずか。生活保護について正しい理解を

イメージ:生活保護申請書
ネガティブなイメージを抱きがちな生活保護制度。正しい知識を持つことが、みんなが生きやすい社会につながる
この記事のPOINT!
  • 生活保護はネガティブなイメージから、できれば使いたくないと考える人は多い
  • 生活保護は健康保険と同じく、困ったときに支え合うための国民の権利
  • 非正規雇用の増加などで、今後もより身近になるはず。正しい理解を持つことが急務

あなたは「生活保護」にどのようなイメージを持っていますか?

バブル(※1)崩壊の1990年以降、必要な人が増えたにもかかわらず、生活保護利用者を揶揄(やゆ)するナマポ(※2)といった俗語も生まれ、「生活保護を受けたら終わり」「税金の無駄遣い」など、ネガティブな意見が散見されます。

  • 1.バブル経済の略。資産価格が投機によって実体経済から大幅にかけ離れて上昇する経済状況を指す
  • 2.主にインターネットなどで使われる俗語で、生活保護、またはその受給者に対する蔑称。生活保護の略語である「生保」から

生活保護は国民全員が平等に有する権利の1つ。年金、健康保険や失業給付と同じく、誰かが困ったときにみんなで支え合うための制度です。

しかし、受給資格がある人の約2割から3割しか利用できておらず、批判されやすい不正受給の額は全体の0.29パーセント(※)とごくわずか。そういった事実があまり知られていないのが現状です。

コロナ禍により失業者が増え、生活保護を必要とする人は今後も増えることが予測されます。なんとなくのイメージで避けるのではなく、正しい知識を持つことが、みんなが生きやすい社会につながるのではないでしょうか。

今回、「日本の貧困問題を社会的に解決する」というミッションのもと活動をしている認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい(外部リンク)理事長の大西連(おおにし・れん)さんに、生活保護の基本的な知識や誤解、私たち一人一人が意識するべきことなどを伺いました。

「弱い立場の人が使う制度」という誤解

――生活保護とはどのような制度なのか、具体的に教えてください。

大西さん(以下、敬称略):細かい条件はたくさんあるのですが、大枠としては収入と資産が国の定めた基準額に満たない世帯に対して、最低生活費として足りない分について給付を行う制度です。

東京都で暮らす単身者の方ですと、12〜13万円が基準額(※)といわれています。無職でなくて収入がある人でも、基準額から収入を差し引いた差額を支給してもらうことが可能です。

自分が暮らす地域の役所へ行き申請し、要件を満たしていると判断されれば必要な金額が支給されます。

もやい代表の大西さん。日本の貧困問題や社会保障制度に関する政策提言も行っている

――生活保護制度はどのようにして生まれたのでしょうか?

大西:戦後、日本国憲法の中に、全ての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するという「生存権」が明記されました。

この「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度として、1946年に旧生活保護法が制定されたのですが、この時は一部の人の利用を制限する「欠格条項」というものがあり、素行不良や怠惰な人、家族や親族が扶養できる人は受けられないなど、曖昧な基準が存在していたんです。

1950年に現在の生活保護法が制定され、無差別平等の原則が入ったため「欠格条項」はなくなったのですが、現在でも生活保護に対して悪いイメージを抱いている人が多いのは、旧生活保護法の影響もあるかもしれません。

――もやいでは生活に困窮した方の相談も受け付けていますよね。実際に生活保護に対してネガティブな印象を持っている人は多いと感じますか?

大西:多いですね。相談に来られた方と話をしていると「生活保護だけは使いたくない」「家族や周囲の人に知られるのが恥ずかしい」という声をよく耳にします。

生活に困っていて、申請をすれば生活保護を利用できるのに、その状況でも「使わない方が望ましい」と思ってしまっている方はとても多いですね。

――それほどまでに敬遠されているのはなぜでしょうか?

大西:バブル崩壊以前の日本は経済的に豊かな時代が続いていたので、実際に生活保護を利用する方が少なかったんです。病気や障害がある、高齢で年金も少なく身寄りがないといった一部の人しか利用していなかったので、自分には関係のない遠いところにあるもの、弱い立場の人が使うものだと感じている人が多いのではないでしょうか。

また、2012年にお笑い芸人の母親が生活保護を利用していたことが週刊誌に大きく取り上げられ、バッシングの対象になりました。

この件では、お笑い芸人の方も事前に役所に相談して、実際に援助をしていて、それだけでは足りない必要な分だけ支援を活用していたと言われておりますので、不正受給ではありません。何も悪いことはしていないんですよ。

それなのにそのお笑い芸人の方が謝罪会見をすることになり、メディアでの拡散も手伝って、結果的に生活保護制度や利用者に対して、ネガティブな印象を持ってしまった人は多いと考えています。

生活保護は国民全員に与えられた平等の権利

――生活保護を受ける方の割合が増えていると聞いています、きっかけは何だったのでしょうか?

大西:大きなきっかけは、1991年から1993年にかけて起きたバブルの崩壊だと思います。日本経済が不況となってからは生活保護世帯が増加しました。また、2008年のリーマンショック(※)をはじめとした世界金融危機の時も大きく増加し、生活保護を利用する方は増えています。

  • アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに発生した世界的な金融・経済危機
グラフ:生活保護受給世帯と人数の推移(1951年〜2020年)

被保護世帯は1951年は約70万世帯、ジワジワ下がり、1957年には約58万世帯に。その後、右肩上がりに伸び続け、1984年には約79万世帯。以降、右肩下がりで1993年には約58万世帯へ。1993年から2020年まで一気に右肩上がりに伸び続け、2020年に約163万世帯になっている。

被保護人員は1951年には約204万人、上下しつつも下がっていき1985年には143万人に。そこから、急激に右下がりになり、1992年には約89万人に。以後、1997年まで同じような人数だったが、1998年以降、被保護者が増え続け、2015年に約261万人とピークを迎える。以降、少しづつ減っていき、2020年には約205万人となった。
生活保護を受けた人数の推移。バブル崩壊の影響は1998年ごろから表れている。データ出典:護人員・保護率・被保護世帯数の年次推移|令和3年版厚生労働白書(外部リンク)

――最近はどのような傾向にあるのか教えてください。

大西:利用する方自体は減っていますが、日本の人口自体も減少していて、高齢化も進んでおり、割合としては今後増えていくものと思われます。もやいでもコロナウイルスの影響で生活が苦しく、生活保護の相談に来る方が増えています。

一方、捕捉率(ほそくりつ)といって、生活保護制度の対象となる人の中で実際に利用している人の割合は2割から3割といわれています。大多数の必要な方に届いていないのが現状の課題ですね。

イメージ:街中で暮らすホームレス
生活保護制度を利用できるのに、なんらかの理由で利用していない人が約8割

――必要な方に届いていないのはなぜでしょうか?

大西:生活保護制度の詳細を知る機会、教わる仕組みがないことが原因の1つだと考えています。生活保護利用のための条件や申請場所などは、学校では教えてくれませんよね。これは生活保護に限らず、確定申告のやり方や失業給付などにも共通していえることです。

まずどこかでその制度を知って、自分で調べて、情報収集をして、その上で窓口に行ってようやく申請ができる。自らが動かなければ情報を得られない上に、利用できるまでのプロセスも多い。日本の「申請主義」は大きな問題だと思います。

生活保護は「権利」なので、学校で子どもたちに教えてもいいと思うんですよね。

――離職後に手当がもらえる失業手当などは、「知っておくと得する情報」として捉えられ、利用者への批判はあまり聞きません。なぜ、生活保護だけ風当たりが強いのでしょうか?

大西:国の制度を「対価を支払っているから利用できるもの」と誤解して捉えている人が多いんだと思います。だから、雇用保険や国民年金などは「自分たちが働いている間に納めたものが返ってきている」というイメージ。

一方で生活保護は「他の人の税金から支給されている」というイメージを持ち、「労働や納税をしてない人が国から支給を受けるなんてけしからん!」と考えてしまう人が一定数いるのではないでしょうか。

しかし、それは誤解です。例えば、医療保険は前年の所得をもとに金額が決まりますが、医療機関を利用する頻度というのは人によって異なりますよね。

生活保護も同じなんです。困っている人が必要なときに利用できるよう、みんなで支え合うための制度なんですよ。

イメージ:みんなで支え合う社会
困っている人をみんなで支え合うというのが生活保護の考え方

「みんなで支え合う」という意識に変える

――生活保護をいざ申請しようと役所の窓口に行って、そこで断られるケースもあると伺いました。

大西:役所の職員の方はもちろん丁寧に支援を行ってくれることも多いのですが、中にはあまり適切ではない対応をしてしまう方もいます。その方の経験や性格、コミュニケーション能力によって、窓口に訪れた方が傷ついてしまったり、必要な方が支援を利用することをためらったりすることも残念ながらあります。

また、窓口担当の方が、必ずしも制度に詳しいというわけではないんですよね。公務員は仕組み上、定期的に異動となってしまい、知識や経験のある方がずっと担当し続けるということは、なかなかできないんです。

また、対応した窓口担当の職員の方に悪気はなくても、コミュニケーションの齟齬(そご)により、「働けるのではないかと申請を受け入れてもらえなかった」「冷たい言い方をされて諦めた」という話は少なからず耳にします。

――そのような場合はどうすれば良いのでしょうか。

大西:私たち支援者、専門家のところに相談に来てほしいです。団体やグループによって違いますが、例えば一緒に申請書を作成したり、必要な場合は同行して手続きを行ったりすることもあります。

とにかく悩んだら一人で考えたり諦めたりせずに、周りの人や支援機関を頼ってほしいです。

もやいが配布している生活保護申請ガイド
もやいの公式サイト(外部リンク)では生活保護等の資料をダウンロードすることが可能

――生活保護制度の正しい知識を広げるために、一人一人ができることはありますか?

大西:まずは生活保護が国民の権利として認められているもので、必要であれば誰もが使っていい制度だということを理解してほしいです。

公園のトイレを使うのに「みんなの税金で作ったトイレを無料で使ってしまってすいません!」なんて思う人はいないじゃないですか。それと同じく、必要なときに気兼ねなく利用できる環境になってほしいと思っています。

最近はニュースで「財政的な負担が〜」など「負担」という言葉を耳にすることが増え、生活保護も利用者以外の人が負担をしているように感じる人がいるかもしれませんが、そうではなく「みんなで支え合うための制度」という意識を持ってほしいです。

今後、非正規雇用の増加や生涯年収の減少などで、生活保護制度は私たちにとってより身近なものになってくるはずです。

悪いイメージを払拭して、困ったときにはみんなで支え合える社会になればいいですね。

編集後記

漠然としたイメージを持っていた「生活保護」の仕組みや、利用者へのバッシングの理由、世の中の誤解を知ることで、考え方が大きく変わりました。もし自分が働けなくなったら? もし仕事がなくなったら? あなたも「自分ごと」に置き換えて生活保護の在り方を考えてみてください。

〈プロフィール〉

大西連(おおにし・れん)

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿ごはんプラス共同代表。生活困窮者への相談支援活動に携わりながら、日本国内の貧困問題、生活保護や社会保障制度について、現場からの声を発信、政策提言している。
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい(外部リンク)

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