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お笑い芸人・河本準一さんが「社会貢献活動にゴールはない」と語る真意とは?

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ご自身が取り組む社会課題について語ってくれたお笑い芸人の河本準一さん
この記事のPOINT!
  • 2012年より社会貢献活動に取り組む河本準一さんは、常に現場で課題を見出してきた
  • 一方的な支援ではなく、課題を抱える当事者の声に寄り添った支援が大切
  • 当事者だけでなく普段から周囲で支える人々にも笑顔を。笑いも社会貢献活動も両方頑張り続ける

取材:日本財団ジャーナル編集部

芸人、アイドル、YouTuberとして人々に笑顔を届ける、お笑いコンビ・次長課長の河本準一(こうもと・じゅんいち)さん。バラエティ番組や舞台などで活躍する一方、2012年から地元・岡山県の介護施設や児童養護施設を訪問するボランティア活動を行っている。

きっかけは母親の生活保護受給騒動だった。

「当時、母親のことを親身になって対応してくれたのが岡山県の福祉事務所の方たちでした。そんな岡山県が悪いイメージでクローズアップされたことが申し訳なくて。何か恩返しできることはないか?と思い立ちました」

以来、月1回程度のペースで施設を訪問することを軸に、介護職員の負担を減らすべく立ち上げた「食事用エプロン」プロジェクトや、自身がプロデュースするお米「準米」を施設に届けるなど、さまざまな支援活動を10年にわたって継続している。

「10年続けることで見えてきたことがたくさんある。10年経ってようやくスタート地点に立てたような感じ」と語る河本さんに、社会貢献活動を続ける想いや、今後の展望について話を伺った。

定期的に訪問するからこそ、見えてきた課題

「最初は1人で施設に伺って、お話をしたり、歌を歌ったり、簡単な楽器の演奏などをしていました。高齢の方にも歌や楽器は喜んでもらえましたね。ただ、やはり誰かと掛け合いをした方が話が弾むと感じたので、一緒に行ってくれる後輩芸人を募ったんです。交通費などの経費は僕が出すので一緒に施設を回ってくれないか?って」

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地元・岡山での社会貢献活動について話す河本さん

河本さんの人徳もあり、松本康太(まつもと・こうた)さんと西川晃啓(にしかわ・あきひろ)さんによるコンビ・レギュラー、NON STYLEの井上裕介(いのうえ・ゆうすけ)さん、とろサーモン村田秀亮(むらた・ひであき)さんら、多くの後輩芸人が協力を申し出て共に施設を回った。

レギュラーの2人は、この訪問をきっかけに介護関連の資格を取得し、「介護芸人」として介護イベントへの出演や講演活動を精力的に展開している。

定期的に施設を訪れる中で、さまざまな課題を目の当たりにした河本さんは「まずは深刻な人手不足が問題」と話す。岡山県内の介護施設によっては、介護福祉士やヘルパー1人が担当する入居者の数が多く、業務過多になるケースも少なくないという。

そんな介護職員の負担を少しでも減らしたいという想いから立ち上がったのが「介護施設の入居者に“食事用エプロン”を届けたい!」(外部リンク)というクラウドファンディングによるプロジェクトだ。

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河本さんがクラウドファンディングで支援を募り作った介護施設利用者向けの食事用エプロン。写真:河本準一さんのアメブロより

「入居者の中には、食事を口元に運ぶのが苦手なお年寄りや、食事中によくしゃべる方も多い。そうすると、どうしても食事が服にこぼれてしまうんですよね。サッと拭きとれる場合はいいのですが、服が汚れてしまうと“着替えさせる”という、職員さんの仕事が増えてしまう。その手間を省かせるために、汚れてもいいエプロン、服が汚れないような大きなエプロンを作れないかと考えたんです。エプロンを洗濯する手間があるじゃないのか?という声もあるんですが、エプロンには撥水加工をかけているので、サッと払うだけで汚れが取れるんです」

支援へのリターンは「笑い」を届けること

エプロンの素材には地元・岡山県の名産であるデニム素材を使用。ジーンズの製造過程で出た残反(余った布)を使用することでSDGs(※)にもつながっている。

  • 「Sustainable Development Goals」の略。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標

「デニム生地に防水や撥水加工を施すには少し手間が掛かるので苦労してもらっています。でも、協力してくれているデニム業者さんは地元に貢献できるのでうれしいと言ってくれている」と河本さん。食事用エプロンの加工や施設への発送費用はクラウドファンディングで支援を募っている。

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河本さんが作った食事用エプロンをつけて食事を楽しむ介護施設の利用者の方。写真:河本準一さんのアメブロより

支援してくれた方へのリターンも河本さんが考案。「リモートで30分語り合いましょう」や「お題(冠婚葬祭や企業向けなど)に応じた動画メッセージ」、「河本準一と吉本興業の中庭でキャッチボール」など、お笑い芸人という職業を活かしたユニークなものばかりだ。

「このクラウドファウンディングは『困っている人がいます。お金がないので、どうか助けてください!』という内容にはしたくなかった。『笑ったり、面白い体験をしている間に、実は社会貢献ができている』という、仕組みにしたかったんです。支援してくれた方には僕が笑いでお返ししますと。吉本興業の中庭でキャッチボールをするというリターンも『何やこれ?』って選んでくれる方がいて、実際に会ってキャッチボールしておしゃべりをすると『面白かった。ありがとう!』と満足してくれました。その方は社会貢献をしているという感覚はなく、ただただ楽しい時間を過ごしただけ。その楽しんだ時間がエプロンに替わっているという仕組みです」

本当に必要な支援が行き届いていない現実

ある時、岡山県内の児童養護施設で「何か困っている事はありますか?」と河本さんが尋ねると、先生方が「そうやって聞いてくれる人があまりいないんです…」と神妙に答えたという。

「どういうことか?」と真意を探ると、一時期ランドセルや、グローブなどのスポーツ用品の寄付が流行し、大量のランドセルやグローブが施設に届いた。しかし、有り余る数に使い道がなく、置く場所もないので返還したという過去があったのだ。

施設側が本当に必要としている物と、支援者が匿名で寄付する物にすれ違いが生じていることに河本さんは問題意識を持った。

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課題を抱える当事者と支援者の間で生じる問題について語る河本さん

「なぜ、施設が何を必要としているのかを聞かないのか不思議でした。サプライズが苦手な女性と一緒ですよ。まず何が欲しいのかを『聞きませんか』と。で、いろいろちゃんと話を聞いていくと、食費が足りなくて児童養護施設の職員さんが自腹で子どもたちのご飯を購入しているという話が出てきてたんです。衝撃でした。これは大変だと感じて、その後、岡山県の児童養護施設長15名の方に集まっていただいて、何か必要な物がないかを尋ねると満場一致で『お米がいい』という回答だったんです」

そうした経緯も相まって、田植えから収穫まで携わりつつ、自身が宣伝部長としてプロデュースする大分県国東(くにさき)のお米「準米」(外部リンク)が誕生した。さまざまな施策と企業の支援を受けながら、このお米を定期的に岡山県内の児童養護施設へ届けるという仕組みも考案、実現した。

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「準米」で作った美味しそうなおにぎり。写真:河本準一さんのアメブロより
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「準米」の収穫を行う河本さん。写真:河本準一さんのアメブロより

常に真摯に現場の課題を吸い上げ、解決に向けて尽力する河本さんが次に懸念している問題が、児童養護施設の子どもたちの退所後だという。

「原則、児童養護施設の子どもたちは18歳になると退所しなければならず、多くの子が社会に出て就職するのですが、就職先が決まらないというケースが少なくないんです。地域格差もあるのでしょうが、結局就職できずにフリーターになって週末は施設に顔を出すという児童もいる。別にフリーターが悪いといっているわけではありません。児童養護施設出身者が就職しづらい現状があるという話です。児童養護施設は親の虐待や育児放棄が原因で預けられる児童がほとんどなのに、なぜか出身というだけで悪いイメージを持たれることが多いようで…。これは区別ではなく、明らかに差別だと僕は感じています。こうした課題も10年という期間、施設に携わってきたからこそ、気付くことができました」

未来の選択肢を広げる学校をつくりたい

「児童養護施設出身者の、就職先の可能性や視野を広げるための支援ができないか?」と河本さんは模索している。子どもたちの未来をより良いものにするために何かできないかと。

「18歳になって社会に出ることに不安を抱える子どもたちのために、どこか廃校になった学校を再利用して、職業訓練所というと大げさですけど、そういう学校やイベントができないかなぁと。児童養護施設の子どもたちに、いろいろな職業の人が『こういう仕事があるんですよ』と教えてくれる学校。例えば航空会社のCA(客室乗務員)さんが『こういう制服を着て、飛行機に乗ってこういう仕事をするんですよ』とか。今だったらYouTuberやTikTokerなどのライバー(ライブ配信者)さんに生配信の実演してもらったり。農家さんに話をしてもらっていいし。施設の中のことしか知らない子どもたちは絶対ビックリすると思います。いろんな職業や可能性があることを子どもたちに知ってほしいですね」

河本さんが出会った児童養護施設出身者の多くは施設の先生を目指すという。なぜなら、信頼できる大人が施設の先生しかいないからだ。『それが悪いことではないですが、もっと視野を広げる機会や場所をつくってあげたい」と話す河本さんは、3年後にそんな職業訓練・体験所のような学校を開校したいと意気込む。

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児童養護施設の子どもたちへの支援について想いを語る河本さん

「ボランティア活動を始めた10年前にはこういう発想は出てこないですよね。自分も必死だったし、情報のインプットも少なかった。いろんなことを経験することで課題が見えて、それを解決しようと模索して具現化していく。これの繰り返しだったような気がします。だから、この10年でようやくスタート地点に立ったという感覚です。もともと一生続けていく気持ちでいましたが、この活動はゴールがないんですよ。もうすぐゴールかと思ったら、違うテーマや課題が次々に湧き出てくる。なので、まだまだ実現したい支援はたくさんあります」

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おなじみの「タンメン」ポーズで取材現場を和ませてくれたお笑い芸人の河本準一さん

最後にお笑い芸人としての活動との両立について語ってくれた。

「こういう活動をしていて、お笑い芸人で良かったなぁと感じることは多いですね。入居者や児童の前に、まず、施設の職員さんたちが笑顔になってくれる。お年寄りや児童に喜んでもらうのは大前提ですけど、僕は施設の職員さんの疲れを癒やしたいっていうのがあるので。職員さんが『いつもテレビで観ているお笑いを生で観られて感動しました!』って感謝されるとやっぱりうれしいですね。だから社会貢献活動と並行して、テレビでずっと活躍し続けないといけないっていう想いもあります。テレビで活躍し終わったから社会貢献活動を始めるっていうのは、僕は絶対違うと思うので。同時進行していかないと。もちろん、テレビに出なくなったからといって社会貢献活動をやめるつもりはないですが。両方頑張らないと意味がないですよね」

地元・岡山県の施設を訪問するボランティア活動をきっかけに、さまざまな社会貢献活動を継続してきた河本さん。熱い想いを秘めたユニークな支援を、ぜひ応援したい。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

河本準一(こうもと・じゅんいち)

河本準一(こうもと・じゅんいち)

1975年生まれ、岡山県出身。お笑いコンビ・次長課長のボケを担当。相方は、井上聡(いのうえ・さとし)。NSC大阪13期生。持ちギャグ「お前に食わせるタンメンはねぇ!」でおなじみ。数々のバラエティに出演する一方、介護施設や児童養護施設でのボランティアや、手話を学んで講演を行うなど、さまざまな社会活動を展開する。
河本準一 公式Twitter(外部リンク)

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