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刑務所内での就職活動ができる?受刑者専用の求人誌『Chance!!』が生まれた理由
- 再犯者の7割が無職という現状。犯罪を繰り返さないためには就労支援が重要に
- 受刑者専用求人誌『Chance!!』は刑務所や少年院などに配布。出所前の就職活動が可能に
- 犯罪者となってしまう可能性は誰にでもある。再挑戦できる環境が安心できる社会につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
一度罪を犯してしまった人は、刑務所を出所してもなかなか生活を安定させることができず、繰り返し罪を犯してしまう人も少なくありません。
法務省が行った調査によると、2021年に検挙された人の内、再犯者は48.6パーセント。2019年の調査では、再犯者の7割が再犯当時に無職だったことが分かっています。
元受刑者は、安定した仕事に就くことで再犯を防止できるといえるでしょう。ですが、服役を終えても社会に受け入れられづらく、就職することが難しいという現実があります。
「罪を犯したのだから自業自得」と考える人もいるかもしれません。しかし、罪を犯した人の背景には、家庭環境が複雑、虐待を受けてきたなど、複雑な事情を抱えていることも。
そんな状況を知った株式会社ヒューマン・コメディ(外部リンク)代表の三宅晶子(みやけ・あきこ)さんは、2018年に日本で初めて受刑者専用の求人誌『Chance!!(チャンス)』を創刊しました。
三宅さんに誰もが再チャレンジでき、犯罪のない安心できる社会をつくるためのヒントを伺いました。
きっかけは1人の少女との出会い
――なぜ、受刑者専用の求人誌を作ろうと思ったのでしょうか?
三宅さん(以下、敬称略):前職を退職後、人材育成の会社に転職したいと思っていたことから、生きづらさを抱えている人に会って話を聞こうと、自立援助ホーム(※)や出所者等の支援を行う団体でボランティアをしたことがあったんです。そこで出所者が社会復帰をする際に、さまざまな困難があることを知りました。
そんな時、ホームで仲良くなった当時17才の女の子が少年院へ送致となり、私に手紙をくれたことをきっかけに、彼女が少年院を出たあとの身元引受人となりました。その子は両親から育児放棄や虐待を受けていて、親を頼ることができない状況だったんです。
身元引受人になったことで、「彼女のような人が社会復帰しやすい環境」について考え始めました。
- ※ 義務教育終了後、15歳から20歳までの家庭がない、家庭にいることができない児童が入所して、自立を目指す施設
――それで求人誌を作られることになったと。
三宅:はい。最初は非行歴、犯罪歴のある方を対象とした有料職業紹介事業を行っていましたが、事業として成り立たせるのがとても難しかったんです。
そもそも応募がかなり少なかったですし、内定となって働き始めても次々に辞めたり、行方不明になったり、再び罪を犯したり、トラブルを起こしたり……。就業先からはクレームが絶えませんでしたね。
――なるほど。職業紹介は難しいと感じられたんですね。
三宅:はい、そうです。当時、そうした方の職業紹介をしているということをウェブサイトのみで案内していたのですが、それを利用できる人というのは、インターネットを使って「出所者、雇用」といったキーワードで検索して、たどり着ける力のある人でした。そういう人は「当社のサービスがなくとも、自分で人生を切り開くことができる」とも感じていて。
そうでない人や、ネット環境がない刑務所や少年院にいる人たちが当社の存在を知り、仕事を見つける方法はないかと考え、思いついたのが紙媒体の求人誌でした。
――そんな背景があったのですね。ちなみに元受刑者の方が就職活動をする際、どんな困難があるのでしょうか?
三宅:普通は自分の過去をオープンにすると、受け入れてくれる企業はかなり少ないです。過去を隠して就職できたとしても、名前をインターネットで検索したら出てきてしまう。それで雇い主から「辞めてほしい」と言われるケースも多いようです。
仕事だけでなく、家を借りることも難しく、安定した生活を手に入れることが難しいんです。
――過去を理解した上で受け入れてくれる就職先を見つけることが、生活を安定させるためには重要だということですね。三宅さんが『Chance!!』を作る上で、心掛けていることはどんなことでしょうか?
三宅:掲載企業の雰囲気や空気感を伝えることを一番大切にしています。
少年院や刑務所などの施設ではインターネットが利用できないので、企業について情報を得ることができません。なので、自分が採用された後のイメージが湧きやすいように働く場所、仕事内容、社長や同僚の顔など写真をたくさん使うようにして、その会社の空気感を伝えるように工夫していますね。
また、『Chance!!』では少しでも多くの人の可能性を広げたいという思いがあって、全ての漢字に振り仮名を振っています。編集作業は大変なのですが、平仮名ばかりのお手紙をいただくこともあり、やはりそうした配慮は必要と思っています。
社員を大切にしてくれる会社を第一に。掲載を断ることも
――掲載する企業はどのように決めているのですか?
三宅:掲載を希望する企業の方とは、私が面談を行っています。企業の中には、元受刑者の方の足元を見て、かなりひどい条件で働かせるケースもあると耳にしますので、社員を大切にしていない会社だと感じたら掲載をお断りしています。また、すでに掲載している企業であっても、実情が掲載内容や本人の自立更生からかけ離れていて是正していただけないような場合は、返金してでも掲載を中止することもあります。
内定率が上がることよりも定着率を上げたいと思ってるんです。内定したけど超ブラック企業だったため我慢できずに飛び出して、お金が尽きて、再犯をしてしまっては何の意味もないと思うので。
――実際に元受刑者の方を雇用している企業の方からは、どのような声が届いていますか?
三宅:継続的に『Chance‼』に求人を掲載してくださっている企業の方たちからは、元受刑者のような境遇の人の方が「もう後がない、ここで頑張るしかない」と、覚悟を持って、むしろ一般の人よりも頑張るという声を聞きます。
中にはトラブルを経験して、掲載を止めてしまう企業さんもいらっしゃいますが……。
――トラブルが起きてしまうのは、なぜなのでしょうか?
三宅:罪を犯してしまう人の中には、貧困家庭の出身や、虐待を受けた経験のある人が少なくありません。親に愛され、信じてもらった経験がないと、人間関係を構築したり、社会生活の基盤をつくったりすることが難しいという面はあると思います。
――本人がコントロールできない面もあるということですね。ちなみに国が行っている、元受刑者への就労支援などはあるのでしょうか?
三宅:2016年に再犯防止推進法(※1)が施行され、徐々に整備されつつあります。日本財団さんの職親プロジェクト(外部リンク)(※2)も広がってきていますね。
そんな背景もあって、最近では刑務所の中で就職活動をすることが一般的になりつつあります。
身元引受人がいて初めて、仮釈放(※3)の審議対象に挙がるので、刑務所内で内定をもらい、その会社の社長に身元引受人になってもらうことを目標にして、就職活動に力を入れる人は多いです。
- ※ 1.2016年12月に公布・施行された、社会復帰が難しい人への支援策を充実させ、再犯を防止する法律。出所者の職業や住居の確保のほか、刑務所などでの教育や職業訓練の充実をはかる
- ※ 2.少年院出院者や刑務所出所者に就労先や住まいを提供することで、円滑な社会復帰を支援するとともに再犯率の低下を目指すプロジェクト
- ※ 3.収容期間満了前に、一定の条件のもとに釈放し、社会復帰の機会を与える措置
――実際に『Chance!!』を通して就職し、社会復帰できた方の例がありましたら教えてください。
三宅:『Chance!!』の表紙を通して、とある連鎖が生まれたという話があります。2021年の春号に株式会社拓実建設という会社の三村(みむら)くんという社員が表紙を飾ったのですが、それを見た伊東(いとう)くんという子が、「彼と一緒に働きたい」と同社に応募して、内定をもらったんです。
そして、半年以上仕事を頑張ったタイミングで、今度は伊東くんが2022年夏号の表紙を飾りました。
さらにその表紙を見た方からも応募があり、内定が決まったそうです。そしてその彼も、「いつか『Chance!!』の表紙になりたい」と言っていると聞いています。
――それは素敵な連鎖ですね!
三宅:『Chance!!』では、表紙に登場する方は、非行歴や犯罪歴のある人と決まっています。「いつか自分も表紙に載れるように頑張ろう」と思ってもらえるよう狙ってやっているので、実際にそうした声が多いことがうれしいですね。
伊東くんはその後、車を購入して、彼女もできて年内には結婚する予定なんだそうです。『Chance!!』が彼の最初のきっかけになったことがうれしいし、取材でお会いした時に楽しそうにしていたのを見て、『Chance!!』を作り続けてよかったと思いました。
誰もが再チャレンジできる社会に必要なのは「想像力」
――罪を犯した経験のある人が社会復帰をするために、私たち一人一人ができることはどんなことでしょうか?
三宅:「想像力を働かせる」ことだと思います。この記事を読んでいらっしゃる読者の方の中にも、自分は犯罪とは無関係だと思われている方がいらっしゃるかもしれません。
でも、立場は簡単にひっくり返るものだと思うんですよね。私はいつも「明日はわが身」だと思っています。
――明日はわが身とは?
三宅:例えば、高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えてしまう交通事故のニュースをよく耳にしますが、自分がその間違いを起こす可能性だって十分にあり得ます。
また、明日大地震が起きて、食べる物がなくなり、目の前にドアの開いた無人のコンビニがあったら、私は盗みを働いてしまうんじゃないかと思います。
何が起きてもおかしくないですし、罪を犯してしまう可能性は誰にでもあると思うんですよ。
そういう可能性を想像してみたり、あるいは罪を犯した人がどういう環境で育って、どういう人生を歩んできたんだろう、自分が同じ環境で生まれ育ったらどうだろうって想像したりすることがとても大切だと思うんですね。
――確かにそうですね。ただ、実際に自分の身に起きていないことを想像することはなかなか難しいですね。
三宅:そうですね。そんなときには、「今の自分の生活は、自分の努力だけで築いたものだろうか?」と、「今、自分が罪を犯さずに当たり前の生活ができていることに、感謝できているだろうか?」と、自問してみることが大事だと思います。
――一方で、自分の家族の近くに犯罪者が来てほしくないとか、一緒に働きたくないと遠ざける人も多いと思うのですが……。
三宅:相手が何をしたのか、どういう人なのかを知らなければ、無理もないと思います。そんなの私だって怖いです。
でも、理由や背景を聞くと「そうせざるを得なかったのか」と思うことが多いし、彼らと話していていつも思うのは、私たちと同じ普通の人だということです。
生まれた時点で圧倒的にスタート地点が異なる人がたくさんいることや、犯罪者といっても罪を犯してしまう時点までは、虐待など何かしらの被害者である人も多いことを知ること、そして相手の背景や自分の可能性を想像し、自分も犯罪を犯す可能性があるのだという視点に立つことが大事だと思います。
「犯罪者は排除すべき」などと言っている場合ではなく、犯罪の背景にある貧困や虐待は社会課題です。犯罪をした人のやり直しを応援することのできる優しい社会になるよう、働きかけていきます。
編集後記
犯罪は許されるものではありませんが、再犯を減らし安心できる社会をつくるためには、出所後の生活の安定が欠かせないことがよく分かりました。
『Chance!!』の最新号(外部リンク)は、インターネットで無料閲覧が可能です。ぜひ読んでみて、この求人誌をどんな人が手にしているのか、自分ごととして想像を働かせてみてください。
〈プロフィール〉
三宅晶子(みやけ・あきこ)
1971年、新潟市生まれ。中学時代から非行を繰り返し、高校を1年で退学となる。お好み焼き屋で働いていたが、大学進学を志し、23才で早稲田大学第二文学部へ進学。卒業後は貿易事務、中国・カナダ留学を経て株式会社大塚商会入社。退職後、受刑者支援団体等でボランティアを行う。2015年に株式会社ヒューマン・コメディを設立。2018 年、日本初の受刑者等専用求人誌『Chance!!』を創刊。
株式会社ヒューマン・コメディ 公式サイト(外部リンク)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。