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母子家庭の7割が直面する「養育費を払わない」問題。泣き寝入りしない「本人訴訟」という手段

イメージ:養育費の看板と親子の人形
養育費を受け取っているひとり親家庭は少なく、子どもの貧困問題という社会課題にもつながっている
この記事のPOINT!
  • 養育費を受給している母子家庭は3割未満。ひとり親家庭の貧困率は約5割が現状
  • 未払いが起きても弁護士費用が高額なため、泣き寝入りする人も。本人訴訟も1つの手段
  • 「養育費の受給は子どもの権利」。その意識を広めることが、貧困問題の解決にもつながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

未成年の子どもがいる状態で離婚をした場合、夫婦のどちらかが子の親権を持つことになります。一方で親権を持たない側は、養育費を支払うことで親としての責務を果たすことになるのが一般的です。

しかし、この養育費がきちんと支払われているケースは少なく、厚生労働省が行なった「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」(外部リンク)によると、養育費を受け取っている母子家庭は28.1パーセント、父子家庭は8.7パーセントにしか過ぎません。

ただでさえひとり親は働き方が制限されるため、生活が困窮しやすい傾向にあり、2019年に内閣府が公表した調査データ(外部リンク)では、ひとり親家庭の貧困率は2世帯に1世帯(※)というのが現状です。

養育費が払われていなくても高額な費用がかかる弁護士に依頼することができず、多くの人が泣き寝入りせざるを得ない状況にあります。

そのような中、弁護士に頼らなくても訴訟が行える「本人訴訟」という形を広げようと活動しているのが会員制コミュニティ「本人訴訟オンラインサロン」(外部リンク)。訴訟するのに必要な書類の自動生成ツールを無料提供するほか、問題を抱える当事者を中心とする交流場所を提供しています。

本人訴訟オンラインサロンの公式サイト

今回は、代表の吉永安智(よしなが・やすとも)さんに、養育費の未払い問題の実情、それによるひとり親世帯に及ぼす影響、この問題を解決するために必要な社会の取り組みについてお話を伺いました。

弁護士費用の相場は約70万円。泣き寝入りが多い養育費未払い

——まずは養育費の未払い問題の実情について、教えてください。

吉永さん(以下、敬称略):厚生労働省が行った調査で、養育費を受け取っている母子家庭は28.1パーセント、父子家庭は8.7パーセントという結果が出ています。母子家庭でいえば、全体の約3割が養育費の支払いを受けているという結果ですよね。

しかし私が個人的に所属しているシングルパパ、ママのコミュニティで20名ほどにヒアリングをした時には、まともに養育費を受け取っている人は一人もいませんでした。また印象的だったのが、多くの人が「もらえている人が3割もいるとは思えない」と話していたことです。

私の感覚値にはなってしまいますが、実際にはもっと多くの人が悩んでいるのではないかと思います。

本人訴訟オンラインサロンの代表を務め、シングルパパでもある吉永さん

——養育費の未払いによって、ひとり親世帯にどのような影響が出ますか?

吉永:子どもの教育、生活全般に大きな影響が出ます。シングルパパ、ママのコミュニティで、子どもを塾に通わせられないという声や、生活費が足りないので仕事を増やしているという声を聞きました。

仕事を増やしている方はなかなか家に帰れず、生活のバランスを崩したり、子どもとの時間が削られている人も少なくないようです。

また「生活が苦しい」と口にしづらく、一人で抱えこんでいる人も多いのではないかと思います。結果、貧困に陥りやすく、経済格差や教育格差の拡大などの社会課題にもつながっていると感じています。 

——養育費の未払いが抱える課題とは、どんなものでしょうか?

吉永:養育費というのは法的には親の義務であると同時に子どもの権利で、払わなくてはいけないものなのですが、社会全体であまり認識されていないのが大きな問題だと考えています。

この認識の低さは、養育費を払っていない側はもちろん、受けとる側にも表れていると思うんです。

養育費を仕送り的な意味合いだと思っている人が多い。だから支払う側は「相手の自由に使われるのは嫌だ」と出し渋るケースがあり、受け取る側も養育費は子どもの権利であることを知らない人が多く見受けられます。

また未払いが起きた際に、訴訟の壁が高いことも問題の1つです。

——「訴訟の壁」とは何でしょう?

吉永:訴訟を起こす場合、弁護士に依頼するのが一般的ですが、弁護士費用が高いことから、なかなか訴訟を起こしづらい現実があります。

養育費の月の平均が大体5~6万円といわれていますが、取り返すための弁護士費用は70~100万円程度になり、弁護士費用は依頼者側、つまり養育費を払ってもらっていない側が負担することになります。

このように費用負担が多額になりますので、生活を安定させるためには自分の仕事を増やしたほうが早いと、泣き寝入りする人が多いわけです。

——なるほど。それで、養育費の未払い問題に悩んでいる人が多いわけですね。

吉永:はい。未払いが起きても、一般的には当事者同士で話し合うか、弁護士に依頼して訴訟を起こすかの二択しかありません。未払いによる法的な罰則もありませんから、解決が難しいのが現状です。

そこで私が代表を務める本人訴訟オンラインサロンでは、本人訴訟という第三の道を提案しています。

本人訴訟は未払い問題解決の第三の道

——「本人訴訟」とは何なのでしょうか?

吉永:弁護士などの訴訟代理人を立てずに、自分で訴訟を行うことを言います。大きなメリットとしては裁判にかかる費用が安く済むこと。未払いの請求金額にもよりますが、書類作成に必要な印紙代など数千円で済むこともあります。

請求額に対する裁判費用の表組み:
[請求額]100万円以下/[訴訟費用]10万円までごとに1000円
[請求額]100万円超500万円以下/[訴訟費用]20万円までごとに1000円
[請求額]500万円超1000万円以下/[訴訟費用]50万円までごとに2000円
[請求額]1000万円超10億円以下/[訴訟費用]100万円までごとに3000円
[請求額]10億円超50億円以下/[訴訟費用]500万円までごとに10000円
[請求額]50億円超/[訴訟費用]10000万円までごとに10000円
高いイメージのある裁判費用。弁護士に依頼せず、自分で訴訟を行えば、かなり安く費用を抑えることが可能

——費用が安く済むとはいえ、裁判で勝つのは難しいように思えるのですが。

吉永:元夫婦間で養育費に関する取り決めが書面でちゃんと行われている場合は、本人訴訟でも勝訴できて、相手の給料や銀行口座の差し押さえができる見込みがあります。

養育費の未払い問題に直面したら、まずやることは証拠集め。証拠となるのは以下の通りです。

1.離婚した際の「養育費の取り決め」についての証拠

例:公正証書(※1)、調停での離婚調書(※2)、離婚協議書(※3)、養育費を支払う内容の念書(※4)など

  • 1.公証役場で作成された養育費、財産分与、慰謝料など離婚するときの条件を証明する書類
  • 2.離婚調停で合意した内容を記載した裁判所の書類
  • 3.個人が作成した、夫婦の間で合意した離婚にかかる取り決めを記載した書類
  • 4.約束した事項を記載して相手に提出する書類

2.養育費の支払い・未払いについての証拠

例:通帳の記録、LINEやメールでのやり取りなど

3.養育費の請求(催促)についてのやり取り

例:LINEやメールでのやり取り、通話記録、内容証明など

これらの証拠をもとに、本人訴訟の勝訴率の高さをランク付けしたものが次の通りです。

【Sランク】

  • 協議離婚の際に作成した公正証書を持っている
  • 調停離婚の際に作成された離婚調書を持っている

【Aランク】

  • 離婚協議書を持っている
  • 養育費の支払いについての念書を持っている

【Bランク】

  • 養育費の振込履歴(通帳の記載、メールやLINEのやり取り)が残っている
  • 養育費の支払義務を認めるメールやLINEのやり取りが残っている

【Cランク】

  • 口約束だけ(振込履歴なし)

【ランク外】

  • 養育費について約束していない

S・A・Bランクであれば、本人訴訟に向いていると言えます。一方でCランク以下の場合は、弁護士に依頼したとしても、調停や裁判が長期化する可能性があり、差し押さえまで至るのはなかなか難しいのではないかと思います(※)。

——なるほど。養育費未払い問題には、本人訴訟が向いているケースもあるのですね。

吉永:はい。ただ勘違いをしてほしくないのは、私は本人訴訟を積極的に勧めているわけではありません。法的な知識を持った弁護士に素人が勝てる見込みは少ないので、経済的に余裕があるのであれば弁護士に依頼をしたほうがいいと思います。

ただ経済的に訴訟が難しい人が泣き寝入りする以外の選択肢を増やしたいとの思いで、本人訟訴オンラインサロンを立ち上げて運営してきました。

今後はより勝率を上げるため、AIを使って当事者から現状を聞き取り、書類を作成する方法も模索しているところです。AIで書類を作れるようになれば、一気に本人訴訟のハードルも下がりますし、養育費の未払い問題の解決が大きく前進すると考えています。

仕組み図:
1.本人訴訟オンラインサロンが提供するサービス
・支払督促申立少額訴訟のテンプレート
・同じ境遇の会員との情報交換
・会員による「励まし」「応援」の書き込み
・本人訴訟のノウハウ
・会員同士(スタッフも含む)による訴状のアドバイス
・オンラインセミナー
「本人訴訟」の選択肢が持てる

2.オンラインサロン利用後の選択
・弁護士に頼む(本人訴訟が出来ないなら依頼する選択肢もある)
・本人訴訟(裁判費用は相手側に請求できる)
・諦める(「従来」よりも諦める人の数は改善できる)
本人訴訟オンラインサロンの活動と仕組み。提供:本人訴訟オンラインサロン

——吉永さんが立ち上げた本人訴訟オンラインサロンでは、どのような活動をしているのですか?

吉永:訴訟に必要な書類の自動生成ツール(外部リンク)を無償提供するほか、オンライン会員同士でノウハウを共有したり、情報交換をする場を提供しています。

弁護士が行っている業務を弁護士以外が行うと「非弁行為」に当たりますので、あくまで会員同士でのノウハウ提供の場としています。本人訴訟に特に向いているケースが養育費の未払い問題と、情報開示請求(※)になるので、この2つの情報提供が主軸になります。

  • インターネット上で権利侵害を受けた被害者が、加害者を特定するためにプロバイダに発信者情報の開示を求める制度

養育費を得ることは「子どもの権利」という意識を広めることが大切

——経済的に弁護士に依頼できない場合は、本人訴訟しか道はないのでしょうか?

吉永:法テラス(外部リンク※)を利用する方法があります。30分×3回の無料相談ができるのと、収入によっては弁護士費用が免除になるケースもあるようです。あとは、弁護士費用を無利息、分割で支払うという制度も利用できます。

ただ相談時間が短いことや、弁護士費用が免除になる範囲が限られていることなどがあり、社会的支援が十分とは言えません。

  • 国によって設立された法的トラブル解決のための総合案内所。法制度や相談機関・団体等に関する情報を無料で提供する業務のほか、経済的に余裕のない人が法的トラブルにあったときに、無料で法律相談を行い、必要な場合、弁護士・司法書士の費用等の立て替えを行う  

——ほかに社会的支援はないのでしょうか?

吉永:2024年度から養育費未払いに対する法改正が行われることになっており、中学生以下の子どもが対象で、生活が困窮しているという条件に当てはまる場合は、法テラスが立て替えた弁護士費用が免除されます。

こちらも範囲が中学生までというところで、学費が大きなウェイトを占める高校生、大学生が対象外になることや、生活ができないほど困っている場合に限られるというのは課題ですが、養育費の未払い問題にとっては大きな前進だと思っています。

——吉永さんが考える、必要な社会支援とは?

吉永:本人訴訟の支援というのは、いまは私たちの団体しかない状態ですので、もっと増えていってほしいと思っています。

また弁護士費用の高さが養育費未払い問題の一番のネックなので、免除できる、もしくは養育費を払っていない相手に請求できるようになれば、解決につながるのではないかと考えています。

本人訴訟について知っている人が増え、貧困に陥りやすいひとり親家庭を減らしたいと話す吉永さん

——養育費の未払い問題により苦しむひとり親、子どもを減らすために、私たち一人一人ができることとはどんなことでしょう?

吉永:まずは養育費の未払い問題がある事実を知ってほしいですし、養育費が子どもの権利だという認識が広がっていけばいいな、と。そして離婚する時には、公正証書を作るという意識も広がっていくといいですね。そうすれば本人訴訟でも十分に問題が解決できる可能性があります。

この記事を読んで本人訴訟のことを知ってもらったと思うので、もし周りに困っている人がいたときには第三の解決策として情報を共有してらえるとうれしいですね。

編集後記

なぜ養育費未払いの問題がなかなか解決できないのか、よく理解できた取材となりました。養育費が子どもの権利だと認識されること、社会的支援が広がっていくことで、貧困に苦しむひとり親家庭が減っていくことを願うばかりです。

〈プロフィール〉

吉永安智氏(よしなが・やすとも)

大阪府出身。音楽業界、ライティング業界でディレクターとして活躍、2014年に株式会社WEB STAFFを設立。約18万人のフォロワーを持つツイッターニュースアカウント「報道名人」をはじめ「転職ぱんだ」「ブラック企業を見極めろ!」など情報サイトを運営。YouTubeでは「本人訴訟のトモ」としても活動すると共に、「本人訴訟オンラインサロン」の主宰として、経済的に弁護士に相談できない人々を支援している。
本人訴訟オンラインサロン 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。