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主体性、創造力、探究心——マインクラフトが教育に適した理由。広がる子どもの可能性
- 教育現場ではデジタル化が進んでいるが、地域や家庭環境による教育格差が生まれている
- Minecraftカップは、子どもたちにデジタルなものづくりに触れられる機会を届けている
- 「楽しい」と思える学習体験をより多くの子どもに届けることが、教育格差を縮める一手に
取材:日本財団ジャーナル編集部
現代社会とデジタルはもはや、切っても切り離せないものになっています。
それは教育現場においても同様。学校では子どもたちにはパソコンやタブレット端末が支給されたり、オンラインで授業を行ったりと、「紙と鉛筆」を使っていた学習スタイルからデジタルを活用する学習スタイルへと変わりつつあります。
しかし、そんなデジタル教育にも「格差」が生じています。住んでいる地域や家庭の経済事情などを理由に、デジタルに触れる機会を奪われている子どもたちが存在します。
変化の激しいこれからの社会を生き抜くためには、もはやデジタルツールを使いこなせることが必須です。そんな中、日本財団では一人でも多くの子どもたちがデジタルツールに触れ、楽しく効果的に学べる環境づくりに取り組んできました。
その一つが2019年から始まった「Minecraft(マインクラフト)カップ」(外部リンク)の開催支援です。
この「マインクラフト」とは、デジタル版のブロック遊びのようなもので、サイコロ型のブロックで構成された世界を舞台に、建物や庭園などを自由に作り出せるゲームです。
このマインクラフトには「教育版」があり、プログラミング教育や協働学習、オンライン授業といったさまざまな場面で、学校教育などの現場で活用されています。
そして、教育版マインクラフトで作り上げたものを出品し内容を競い合うのが「Minecraftカップ」となります。
今記事では、「Minecraftカップ」の大会審査委員長を務める、マインクラフト教育の第一人者であるタツナミシュウイチさんに、マインクラフトが子どもたちに与える影響や、それを普及するための課題などについて尋ねました。
また2022年に開催された第4回大会のジュニア部門において、「優秀賞」と「One World One Family賞(授与者:日本財団)」を受賞したまつだせいじゅさんにも、マインクラフトの魅力について話を伺いました。
教育版マインクラフトで広がる子どもたちの可能性
――まずは教育版マインクラフトが子どもたちにとってどれくらい有用なものなのかを教えてください。
タツナミさん(以下、敬称略):可能性は無限大だと思います。
例えば、歴史的建造物を自分たちで再現すると、そこがそのまま社会科見学の場になります。歴史と建築について同時に学べるんです。あるいはマインクラフトの中に理科の実験室を作って、そこでみんなで化学実験をしてみたり、回路を組んで情報について学んだりできます。
また、マインクラフトを通してコミュニケーション能力を伸ばすこともできると思います。以前、明治大学サービス創新研究所で、特別支援学級におけるマインクラフトの教育的効果について研究したことがありました。学びに凸凹がある子どもたちを対象に、マインクラフトの中でチームメイトと共にミッションをクリアしていく、というゲームをしてもらったんです。
ミッションをクリアするためには、チームメイトとコミュニケーションを取らなければならない。なので必然的に会話が増える。すると、一緒にミッションをクリアしたという達成感も相まって、最終的にはみんなが自然と他者と円滑にコミュニケーションを取れるようになっていたんです。
マインクラフトはメタバース(※)的な空間でもあって、子どもたちはそこで社会性を身につけることができる、ということですよね。
- ※ インターネット上に構築された仮想空間
――タツナミさんはプロマインクラフターとして、子どもたちの教育とどのように関わっているのでしょうか?
タツナミ:私はマイクロソフトによる学校教育関係者のコミュニティ「Microsoft Educator Community(マイクロソフト エディケーション コミュニティ)に参加し、マイクロソフト認定教育イノベーターフェローを拝命しています。マインクラフトの面白さや教育への有用性の啓蒙活動をしているほか、実際に子どもたちを対象としたワークショップなども行っています。
ただ、その際、「子どもたちに何かを教えよう」なんて考えてはいないんですよ。すでにマインクラフトに触れている子どもたちは、私の想像をはるかに超える作品を生み出してきますから。もちろん技術や知識などを教えることはあります。でも大事にしているのは、彼らの主体性です。
ワークショップの中で「今回はエネルギー問題、電力問題について考えてみよう」といったテーマや基本的な予備知識を伝えることはあります。それを解決するためにはどうすればいいのか、子どもたちがそれぞれ自身のマインクラフトの中で表現してくれるんですが、口出しはしません。静かに見守るだけ。そうすると驚くような考えを披露してくれるんですよ。
――その子どもたちならではの考えを披露する大きな場が「Minecraftカップ」なんですね。
タツナミ:そうですね。「Minecraftカップ」の最大の意義は、子どもたちの表現をありのまま受け止める場であることだと思います。
毎年テーマが設けられて、それに合わせて子どもたちがデジタルなものづくりをしてくる。普段はなかなか言えないこと、言葉では伝えられないこと、確実に頭の中にはあるんだけどアウトプットできないことをさらけ出す。「Minecraftカップ」はそれを受け止める場であればいいな、と考えています。
――これまでの大会で印象に残っている出来事はありますか?
タツナミ:第2回大会ですね。大賞を取った浦添昴(うらそえ・すばる)さんのプレゼンがいまでも忘れられません。美しい渓谷にある学校を作ってくれたんですが、ものすごい熱量のこもったプレゼンで、その場にいる大人たちが思わずほほ笑んでしまうほどでした。
でも私は顔がほころぶことは無く「この子は何者なんだろう」とその才能と能力に非常に驚き、真顔になっていました。当時、彼は小学5年生でしたが、中高生たちも顔負けのマインクラフトへの情熱に溢れていて、自分の考えを堂々と発表してくれたんです。
――「Minecraftカップ2022全国大会(第4回大会)」ではまつだせいじゅさんが「たのしいみらいへレッツゴー!『ごうかきゃくせんタウン』」と題した海上タウンを作り、ジュニア部門の「優秀賞」と「One World One Family賞」を受賞されました。まつださんは普段はあまりしゃべるタイプではないそうですが、プレゼンがとても滑らかで情熱的でしたね。
タツナミ:それはマインクラフトが好きだからですよ。自分の作ったものを誰かに見てもらいたい。そう思うから情熱的に発表できるんです。地区大会予選、地区大会本選を通過して、作品を褒められてきた子は、なおさら自信を持って発表できるようになります。
まつださんの作品はとにかく完成度が高かった。衣食住やエネルギー問題、海ごみの問題が1つの船の中で完結しているんです。
エネルギー問題も食糧問題も医療問題もクリアになっていて、人間と動物が一緒に暮らせる船。これはつまり小さな地球であり、もっと発展していくと宇宙船にもなりうる。宇宙航空開発に携わる人たちがまさにその研究をしているわけで、まつださんはそこにつながる可能性のあるものをマインクラフトで表現した。
そんな種を持っているまつださんを、私たち大人がきちんとサポートしていかなければいけないんです。
マインクラフトで培った自信と探究心
タツナミさんに「大きな可能性を秘めている」と評されたまつだせいじゅさん。彼はどんなことを考え「Minecraftカップ」に参加したのか。お母さんと一緒にお話を伺いました。
――せいじゅさんは普段、マインクラフトをどのように活用されていますか?
お母さん:普段は自宅で趣味として遊んでいます。
マインクラフトはもともと、息子の弱視の治療を兼ねて始めました。弱視の治療を行う際、片目を隠して手元で何かしらの作業を、毎日まとまった時間続けなければいけないんですが、片目を隠す煩わしい時間が少しでも楽しいものになればと思い、かねてから息子が興味を持っていたマインクラフトを勧めてみたんです。
今では彼にとって、なくてはならないものになりました。
――せいじゅさんが「Minecraftカップ」に参加した理由を教えてください。
せいじゅさん(以下、敬称略):マインクラフト大好きマンだからです! 難しそうだと思ったけど、マインクラフトが好きなので、何としてでもやってみたいと思いました。
――「海洋ごみ(マイクロプラスチック)」「生態系の保全」「多様性」を作品のテーマにされています。なぜこのテーマにしようと思ったのか、また作品に込めた「実現したい世界」について教えてください。
せいじゅ:マイクロプラスチックは環境にとって悪いものだけど、それをエネルギーに変えられたら海もきれいになるし、みんなの味方にも変わることができて、一石二鳥になると思いました。だからそれを船の動力源として利用できるように考えました。
それと、どんなタイプの人も関係なく、「良い」や「悪い」で分けず、人間や生物はみんな仲良くしてほしいという思いを込めました。この「ごうかきゃくせんタウン」でみんながストレスなく楽しい感情でいられることで、お互いに良いエネルギーが注がれると思います。そんな風に、環境も世界も生き物もハッピーの繰り返しが起きるようになってほしいです。
――「One World One Family賞」の副賞である沖縄のもとぶ元気村でのマリンアクティビティ体験で、特に思い出に残っていること、楽しかったことは何ですか?
せいじゅ:どれも楽しすぎて1つだけを選ぶことができませんが、特に楽しかったのは次の4つです。
●船長体験
ハンドルを動かすところがとてもワクワクしました。自分の操縦でみんながサンゴを見られて、めちゃくちゃうれしかったです。
●ドルフィンエンカウンター
最初はイルカが怖くて触れないと思ったけど、勇気を出して触ってみたら楽しかったです。
●ビッグマーブル
揺れて落ちそうになったところが楽しかったです。ビッグマーブルから降りた時、自分はこんな怖いものにも乗れるんだ、と思いました。
●野草天ぷら
ついに食べたことがない野草を食べられる日が来た!とワクワクしました。いまにも咲きそうなハイビスカスのつぼみを摘むのは少しかわいそうでしたが、おいしかったです。
お母さん:普段だったら苦手意識から避けてしまいそうな場面でも、「これを逃したら後悔する」という思いが背中を押してくれたようで、さまざまなことにチャレンジしてくれ、一気に成長を感じられた旅でした。
息子には発達特性があり、挨拶が苦手で声が出なくなってしまうのですが、旅の中ではタイミングを見計らって「ありがとうございました」と伝えようと頑張っていました。体験直後には「ありがとうって言うのとか、人と関わることがほんの少しできるようになったかも」と、うれしそうに話してくれたことも大きな収穫の1つです。
――せいじゅさんがこれからやってみたいことを教えてください。
せいじゅ:まずはJava版(※1)のマインクラフトやってみたいです。それから将来は、映画監督とゲームクリエーターになりたいと思っています。ぼくが考えたキャラクターでVチューバー(※2) になって、それを主人公にした映画やゲームを作り、解説もしたいです。
- ※ 1.汎用性の高さと処理の速さが特徴のプログラミング言語
- ※ 「Virtual YouTuber(バーチャル・ユーチューバー)」の略。架空のキャラクターの姿でYouTubeに動画を投稿したり、動画配信などを行ったりしているクリエーター
デジタル教育格差を埋めるために私たちができること
マインクラフトに触れることで自身の考えを表現できるようになった、まつだせいじゅさん。「Minecraftカップ」での受賞を機に、沖縄ではさまざまな体験をし、お母さんいわく、実生活の中でも大きな成長が見られたそうです。
このように、子どもたちの成長においてポジティブな変化をもたらすマインクラフトを普及させるべく奮闘しているタツナミさんに、私たち一人一人の大人にできることについても伺いました。
――子どもたちのデジタル教育格差が問題になっていますが、その格差をなるべく埋めるために大人ができることとは何でしょうか?
タツナミ:毎日、情報収集することです。いまは1分1秒を争う時代で、何かを作ったり発表したり、あるいは仕事をしたりするにあたって、1日遅れてしまうと取り返しがつかないことになる恐れもあります。だから、身近な子どもたちがその犠牲にならないよう、私たちにできるのが情報収集だと思うんです。
本当は国や自治体に動いてもらいたいですが、なかなか難しい。だとしたら、身近にいる大人がやらなければいけないと思うんです。スマートフォンが一台あればできるので、日々情報を集めて、子どもたちに共有する。そうやってアップデートしていくことを忘れないでもらえればと思います。
――最後に、タツナミさんの今後の展望をお聞かせください。
タツナミ:まずはテレビに出演したいです。これは目立ちたいということではなく、子どもたちの教育環境をつくる保護者や教育関係者の大人世代は若者とは違ってネットよりもテレビを見ており、その影響力を考えるとやはりテレビの存在は大きい。ですのでその場を借りて、マインクラフトの魅力についてしっかりお話しさせていただきたいと思っています。
それから本も出したい。教育におけるマインクラフトについて、現状をまとめたものを一冊出すことで、やはり大人の方にもっと知ってもらいたいんです。
そして最後に、大学教授にもなりたい。次世代のエバンジェリスト(伝道者)を育てる場である大学で、私の志を受け継いで、子どもたちのために力を尽くしてくれる人たちの育成に携わりたいんです。そこで私が培ってきたことを少しでも伝えられたら、と考えています。
そうしてマイクラの可能性について真剣に考える人が増えてくれたら、子どもたちの間で広がる教育格差も少しずつ改善されていくのではないか、と期待しています。
編集後記
「デジタルものづくり」を通して、かけがえなのないものを得られる——教育版マインクラフトについての取材を通して、そんな可能性に気付かされました。
デジタルツールを巧みに使いこなすことが当たり前とされる時代において、取り残されてしまう子どもたちをどうするのか。彼らを前にして、私たち大人は何をすべきなのか。
子どもたちの未来を明るいものにするためにも、タツナミさんの言葉をかみ締め、その「教育格差」を埋めていかなければなりません。
インタビュー撮影:永西永実
第6回Minecraftカップ、2024年に開催予定
学校教育の現場で使われている「教育版マインクラフト」で作られた作品を全国・海外から募集し、内容を競い合う大会「Minecraftカップ」。「ひとりひとりが可能性に挑戦できる場所」をコンセプトに、多くの子どもたちがプログラミング教育やデジタルなものづくりに触れられる機会を提供してきました。
現在、第5回大会の地区大会本選が行われていますが、早くも第6回大会の開催に向けて動き出しています。「Minecraftカップ」公式サイト(外部リンク)にて発表をお待ちください。
〈プロフィール〉
タツナミシュウイチ
日本で最初のプロマインクラフター。東京大学大学院 客員研究員、常葉大学講師、マインクラフトカップ全国大会審査員長。2018年マインクラフトマーケットプレイスにてアジア初、日本初の作品をリリース、プロマインクラフターとなる。2021年9月 Microsoft Innovative Educator FELLOW の称号を米マイクロソフト社から授与。「情熱大陸」(毎日放送)、「マツコの知らない世界」(TBS)、「有吉ぃぃeeeee!」(テレビ東京)など地上波番組にプロマインクラフターとして出演、マインクラフトの教育的効果について広く発信、現在もマインクラフトをプラットフォームとして使用した教育教材の制作や活用を研究中。
タツナミシュウイチ 公式サイト(外部リンク)
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