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車いすで縄跳び?「どうすればできるか」と考えれば、障害があっても可能性は広がる

D-SHiPS32の事業でもある、障害のある子どももない子どもも一緒に参加できるキャンプイベントの模様。画像提供: D-SHiPS32
この記事のPOINT!
  • 元パラアイスホッケー選手の上原大祐さんは複数の社会貢献事業を立ち上げ活動している
  • 障害には「できない」ではなく、「どうすればできるか」で考え、小さな成功経験を積み重ねることが大事
  • 共生社会は共有社会から。障害の有無に関係なく共にする機会を増やすことが支援につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

子どもの貧困や災害など、社会課題は国や行政だけで解決することはとても難しく、私たち一人一人が自ら行動を起こすことも大切です。

その行動の1つとして挙げられるのが「寄付」。しかし日本に寄付文化が根付いているのかというと、そうとは言い難いのが現状です(※)。

そんな中、元パラアイスホッケー日本代表の上原大祐(うえはら・だいすけ)さんが運営するNPO法人D-SHiPS32(外部リンク)では、寄付の新しい仕組みづくりに力を入れています。

その名も「D-SHiPS JOURNEY」(外部リンク)。NFT(※1)の収益を活用し、障害のある子どもたちに向けた体験型メタバース(※2)空間を制作中とのこと。

それ以外にも上原さんはさまざまな社会貢献事業を立ち上げ、運営に力を入れています。

今回は上原さんに、D-SHiPS32での活動内容や、障害のある子どもの可能性を広げるための取り組みについてお話を伺いました。

車いすに座る上原さん
上原さんは二分脊椎症という脊椎の障害により生まれつき歩くことができず、19歳の時に本格的にパラアイスホッケーを始めた。画像提供:D-SHiPS32

障害のある子どももスポーツを楽しめるように

――はじめに、D-SHiPS32ではどのような活動をしているのか教えていただけますか?

上原さん(以下、敬称略):私たちの活動は大きく分けて「親向け」「子ども向け」「社会向け」の3つに分かれています。

「親向け」の活動としては、「おやポート」(外部リンク)という、障害のあるお子さんを預かり、親御さんの自由な時間をつくるというものがあります。

「子ども向け」の活動は、キャンプや農業体験などのイベント事業を中心に行っています。障害のあるお子さんがいるご家庭が悩みを抱えやすいのが、子どもだけでイベントに参加することが難しいということ。1人でも多くの障害のある子どもたちに楽しい経験をしてほしいという思いを込めて活動を続けています。

「社会向け」の活動は、 スポーツ用車いすをレンタルする「カリスポ」(外部リンク)や、パラスポーツ大会の運営、街中で車いすに乗ってごみ拾いをしながら、たくさんの気付きを共有してもらう「車いすスポGOMI(※)」(外部リンク)などを行っています。

「パラスポーツ=障害者しかできないスポーツ」といった先入観を、いい意味で覆すことが目的です。コロナ禍になる前は、誰もが参加できるパラスポーツ全国大会、「パラ大学祭」(外部リンク)と称した大学生のパラスポーツ運動会、パラスポーツを使った企業研修なども実施していました。

D-SHiPS32主催のパラスポーツ大会の模様。画像提供: D-SHiPS32

――さまざまな活動をしているんですね! 上原さんが障害に関係するいくつもの事業を立ち上げようと思った原体験は何だったのでしょうか?

上原:2012年にアメリカ留学をした際、障害のある子どもたちがとても楽しそうにスポーツをしている姿を見たのがきっかけです。日本ではあまり目にしたことがない光景だったので、「日本にも同じような環境をつくりたい!」と思ったのが始まりでした。

多くの事業を立ち上げたきっかけを話してくれた上原さん

――日本では障害のある子どもが運動できる環境というのは、やはり少ないのでしょうか?

上原:環境も機会もまだまだ少ないと思います。

障害のある子どもを持つ親御さんからも相談を受けるんですけど、「日常生活を送ることに精一杯で、スポーツを経験させてあげられる環境がつくれない」とよく言われます。

皆さんが当たり前に通える一般校に入りたくても、役所や自治体の方に「特別支援学校に通ってみては?」と、言われるんですよ。当たり前を獲得するのに相当な労力が必要になることも原因だと思っています。

アメリカでは障害のある子も一般の学校に通って、みんなと交流してるんですよね。なんか、そういった日本の環境が「ダサいな。ひっくり返したいな」と思ってNPOを立ち上げました。

障害のある子どもたちへのメッセージが込められたD-SHiPS32の公式ウェブサイト。画像提供:D-SHiPS32

メタバース空間で、病院で過ごす子どもたちにも新しい体験を

――最近ではD-SHiPS JOURNEYというプロジェクトを立ち上げ、計画が進行中と聞いています。具体的にはどういった内容なのでしょうか?

上原:特別支援学校や入院中の子どもたちのために、とっておきの経験ができるよう、メタバースを活用したプロジェクトです。

内容は特別支援学校に通う子どもとその家族、学校の先生にヒアリングした希望を盛り込んでいます。

子どもからは「Uber Eatsの配達員をやってみたい」「台所に立って料理をしてみたい」といった声を。ご家族からは「自分で切符を買って電車に乗る体験がないので、そういう体験ができるといい」「実際に階段を上る体験をさせてあげたい」といった声をいただいたんです。

メタバースであれば、障害があってもさまざまな経験ができる。そして、その経験が人生を生きるモチベーションアップにつながると思っています。

アバターが桜の木の下に立っている
メタバース内で行う足し算ゲームの様子
D-SHiPS JOURNEYのメタバース空間。画像提供: D-SHiPS32

――面白い取り組みですね。こちらのアイデアは何がきっかけで形にされたのでしょうか?

上原:新型コロナウイルスの影響で、特別支援学校に通っている子どもや、入院中の子どもの「何かを体験する機会」が極端に減ってしまったことが大きな理由ですね。

入院中って、すごく暇なんですよ。私自身、小学校5年生の時に長期入院をしたことがあるのですが、体は元気なのに何もすることがなくて、とても退屈だったことを覚えています。

「リアルな場じゃなくても、メタバースであれば体験できる機会を提供できるのでは?」と考え、D-SHiPS JOURNEYを立ち上げました。

メタバース内にある体験型アート
上原さんたちが手がけるメタバース空間では、体験型アートの展示も。画像提供:D-SHiPS32

――こちら運営資金をユニークな方法で集めていると聞きました。

上原:1つはNFTの収益です。実際に飛空艇(空を飛ぶ船:架空の乗り物)のNFTをオンラインで販売しました。

有名なアーティストに依頼をし、帆にデザインを描いてもらった作品や、ユーザーが所有している画像データを帆に挿入できるような仕組みも用意しました。

D-SHiPS JOURNEYで販売した飛空艇のNFTアート。画像提供:D-SHiPS32

上原:ただ、思ったような収益は得られませんでしたね。販売するターゲット層が少し曖昧だったように感じています。まだNFTや仮想通貨の世界には、チャリティーに興味がある人というのがあまり存在しなかったんです。

またチャリティー要素が強くなってしまったことで、NFTや仮想通貨に興味がある層に対してもアプローチが弱くなってしまった。ここは反省点です。

――他に事業を展開する上で難しさや課題を感じたことはありましたか?

上原:成果を明確に数値化することが難しいですね。

例えば動物の殺処分防止であれば「〇円で動物の命が〇匹救えます」とか、子ども食堂であれば「300円があれば、子ども1人の1日分の食事をサポートできます」というように、明確に指標を表すことができ、支援したい人も参加しやすいと思うんですよ。

しかし、私たちの活動は「〇〇円でどうなる」という指標を表すことがとても難しい。障害に関しての支援はちょっと成果を伝えづらいですね。

活動の成果や指標をどれくらい分かりやすくアピールしていくかが、障害者支援全体の課題でもあるのかな、と。私たちもその工夫に取り組んでいるところです。

「できない」ではなく「どうすればできるか」が大事

――上原さんの活動は多岐にわたっています。そういった「さまざまな課題を解決してやろう!」といった姿勢は、どのようにして生まれたのでしょうか?

上原:これは母から受け継いでいると思います。母は私が「どこかに行きたい」と言ったら「そこに連れて行ってあげたい」、「あれを触りたい」と言ったら「触らせてあげたい」と、私の「〜したい」を必ず「させてあげたい」で返してくれたんですよ。

そのおかげで、障害がある私でもいろんなことに挑戦できたと思っています。

パラアイスホッケーの試合中の上原さん
パラアイスホッケーの日本代表選手として、冬季パラリンピックなど大活躍した上原さん。画像提供:TAKAOOCHI/KanparaPress

上原:「〜したい」に対して「できない」ではなく、「〜させてあげたい」で返すことは、私たちの団体でも大事にしています。

「じゃあ、どうすればできるか」を考えるようにしていて、その結果、やれることもやることも増え、手が足りず、他のメンバーにも怒られてるって感じなんですけど(笑)。

――一方で、やりたいことがあるけれど障害を理由に諦めている子どももいると思います。そういう子にはどういったお声掛けをされていますか?

上原:子どもには「まずは楽しみながらやってみよう!」と声掛けしています。

よく周りが大きな夢を叶えているから、「自分も大きな夢を叶えなくちゃいけないんだ」と思っている子がいますが、そんなことで悩む必要はなくて、それよりもちょっとした工夫とアイデアで、小さな成功経験を積み重ねていくことが大事だと思っています。

そういう経験が増えていくと自分の自信にもなりますし、他のことにチャレンジする意欲にもつながるはずです。

それで言うと、家族が「できない」と言うから「自分にはできないんだ……」と思ってしまう子どもも多いので、家族の意識を変えてもらうような働きかけも大事にしていますね。

以前、ダブルダッチ(下記図参照)のイベントで、自閉症や知的障害のある子どもたちと会ったのですが、案の定「うちの子は飛べません」と言う親御さんがいらっしゃったんです。

ダブルダッチのイラスト
タブルダッチとは縄を2本使って行う大縄跳び

上原:私は車いすユーザーです。なので「上原さんに縄跳びはできないだろうな……」って思う方が多いんじゃないですかね?

でも、別に車いすが重ければ降りればいいし、足で跳べないなら手で跳んじゃえばいいんですよ。私は逆立ちをすれば縄を跳ぶことができます。アイデアと工夫次第で、なんでもできるようになると思うんですよね。

結局、その日に参加した子どもは全員縄を跳べるようになりました。帰り際に親御さんからは「自分の子どもの可能性を制限してるのは、私たち自身だと気付きました」と言われましたね。

家族の意識が変わることで、子どものできることが広がる可能性は十分にあると思いますよ。なので、子どもだけじゃなくて家族が変わることも重要だと感じてほしいですね。

――最後に、「障害のある子どものために何か支援をしたい」と考える人が最初にできることとして、何があるでしょうか?

上原:昨今「共生社会」という言葉をよく耳にしますが、私は「共生社会は共有社会から生まれる」と思っていて。どういうことかと言うと、時間と場所を共有するから、共生社会ができていくんだと思うんですよね。

なので、支援を考えている人には一度パラスポーツなどのイベントに参加してもらって、障害のある人と共に過ごす時間や機会を増やしてほしいです。

障害とか関係なく、楽しさや感動を共有してもらうことが、支援に取り組む上で大切なのではないでしょうか。

編集後記

障害があるからといって「何もできない」と思う必要も「自分には無理だ」と諦める必要もない。上原さんが紡ぐ言葉からは、障害のある子どもたちに対する熱い思いが伝わってきました。

「何ができるか」ではなく「どうやったらできるか」。一人一人がそのように意識を変えていくことが、みんながやりたいことを実現できる社会づくりにつながるのではないでしょうか。

〈プロフィール〉

上原大祐(うえはら・だいすけ)

元パラアイスホッケー日本代表。2006年トリノ、2010年バンクーバー、2018年平昌と3大会出場。アメリカに留学中「アメリカは多くの障害を持った子どもたちがスポーツをするのに、日本にはこの環境がない」と感じ、2014年にNPO法人D-SHiPS32を立ち上げる。2016年には日本財団が事務局を務めるHEROsのアンバサダーに就任し、アスリートが社会貢献する日本を作るためのプロジェクト企画や商品開発、パラスポーツ地域推進作りなど幅広く活動している。その他、東京都パラ応援大使、大阪観光アドバイザーといった一面も。
NPO法人D-SHiPS32 公式サイト(外部リンク)
D-SHIPS JOURNEY 公式サイト(外部リンク)

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