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大阪万博で白菜がコンクリートの代わりに?食品廃棄物が建材に生まれ変わる新技術

fabula取締役の大石さん。fabulaは代表である町田さんを中心に、3人の幼なじみによって創業した
この記事のPOINT!
  • 東大発ベンチャーfabula代表の町田さんは、食品廃棄物から建材や小物などを作れる新素材を開発
  • コンクリートには原料不足、CO2排出などの課題があり、fabulaが開発中の建材に期待が寄せられる
  • 建材はコンクリートだけじゃない。当たり前を疑い、他の選択肢を知ることが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

今、世界で砂を巡る争奪戦、いわゆる「サンドウォーズ」が起きていることをご存知でしょうか? 身近にたくさんあるはずの砂が、なぜ奪い合いの対象になっているかというと、その理由はコンクリートにあります。

都市化が進み、世界でコンクリートの需要が高まっています。そのコンクリートの原料は大半が砂。特に川の砂が適しているといわれ、世界がこの良質な砂を求めています。

世界の砂の使用量は年間約500億トンともいわれ、砂が希少化しつつあります。今後コンクリートが作れなくなる可能性は十分にあるでしょう。

また、コンクリートは生成時にCO2を大量に排出するなどの課題も抱えています。

そんな課題を解決するため、東大発のベンチャー企業fabula (ファーブラ)株式会社(外部リンク)は食品廃棄物を建材に加工するという新技術を開発しました。

さまざまな食品廃棄物を加工し成形したもの。画像提供:fabula Inc.

今後の研究によってはコンクリート問題、食品廃棄物問題を同時に解決することができるのではないかと注目が集まっています。

この技術が生まれた背景や技術について、fabulaで取締役を務める大石琢馬(おおいし・たくま)さんに詳しく伺いました。

世界では砂を巡る争いも。食品廃棄物がコンクリートに代わる日が来る?

――fabulaの活動について教えてください。

大石さん(以下、敬称略):「ごみから感動をつくる」をコンセプトに、規格外の野菜や食品加工時に出る端材などの食品廃棄物から、新素材を作っている会社です。2021年10月に代表である町田紘太(まちだ・こうた)を中心に、3人で創業しました。

その素材を使用したタイルなどの建材や、家具、コースターやお皿などのオリジナルグッズの製造や販売も行っています。

fabulaの製品の数々。100パーセント食品廃棄物で作られている。もとの食品の香りや色を楽しめ、製品一つ一つの風合いが異なることも魅力

――食品廃棄物が新しい素材になるというのが面白いですね。どんな食品廃棄物を使っているのですか?

大石:これまでの実績としてはコーヒーかす、抽出後のお茶の葉、消費期限の切れたコンビニ弁当なども試したことがあります。90種類くらいの食材で試したことがありますが、どれも技術的には変わりはないので、食材と呼ばれるものであれば、ほぼなんでも作れると思います。

原料となる食品廃棄物は、食品加工を行っている業者さんなどから基本的には買い取って製作しています。

取材に応じてくれた大石さん。fabulaは2023年度の東京都スタートアップ社会実装促進事業に採択されるなど、注目を集める企業

――どのように加工するのでしょうか?

大石:食品廃棄物を乾燥させてから、粉砕して粉末状にし、それを金型に入れて熱圧縮します。素材の乾燥方法や粉末の粒度、成形時の温度などによって、色やテクスチャーを変えることができるのも、この技術の特徴だと思います。

みかんの皮を乾燥、粉砕し、熱圧縮したもの
食品廃棄物を加工する方法。基本的にどんな食品でも同じ方法で加工が可能とのこと。画像提供:fabula Inc.

――なぜ、食品廃棄物を使って新素材を作ろうと思ったのですか?

大石:弊社の代表である町田は、もともと東京大学生産技術研究所でコンクリートの研究をしていました。その研究室がコンクリートの再利用方法や、コンクリートに代わる持続可能な建材の開発を研究課題にしていたんです。

その中で町田は「食べられる建材」をテーマに研究をしており、食品廃棄物を活用することを思いついたそうです。

――コンクリートの課題というのはどんなところにあるのでしょうか?

大石:その研究室で取り扱っていた課題としては3つあります。

まずはコンクリートの原料の1つであるセメントを作る際にCO2の排出量が高いこと。世界のCO2排出量の内8パーセントは、セメント生産によるものといわれています。

もう1つは、使い終わった後の処理の問題です。現状、使い終わったコンクリートは、道路建設の際、舗装の中に埋められるくらいで、コンクリートがら(がれき)の有効的な活用方法が見つかっていない状態なんです。

――最後の1つは?

大石:あとはコンクリートの原料の問題ですね。コンクリートの原料となる砂は粒度が規格化されており、砂漠の砂などは利用できません。良質な砂が世界的に不足している現状があるんです。

イメージ:コンクリートを製造する人
都市化が進み、コンクリートの需要は高まる一方

――では、何年後かにはコンクリートが使えないような状況になってしまうということでしょうか?

大石:そうですね。「何年後」とも言っていられないくらい、もしかしたらもっと直近で起きるかもしれないです。

普段生活している中ではコンクリートの原料不足について感じることはないかもしれませんが、海外ではコンクリート用の砂を巡って「サンドウォーズ」と呼ばれる争奪戦が起きているほど苛酷な状況なんです。

――なるほど。そこで食品廃棄物を活用することに行き着いた、というわけですね。

大石:はい。例えば、コンクリートに代わりに石を使おうとしても、結局、石も有限ですので、同じことの繰り返しになってしまいます。しかも、自然物なので人間の手による再生産は難しい。

食材であれば生産も比較的たやすいです。しかも、副産物として出る食品廃棄物が利用できれば、無駄がない。そういう意味で食品廃棄物に着目したんです。

大阪万博で実用化も。進む研究と課題

――fabulaでは、コンクリートにとって代われるような素材は開発できているのでしょうか?

大石:開発段階という感じです。実用化するには素材の機能を高めたり、法律をクリアしたりと乗り越えないといけない壁があります。生まれたばかりの技術なので、耐久性などのデータがあまりなく、これから実験等を行い、データを集めていかなければならないですね。

現段階では白菜がコンクリートの曲げ強度(折れにくさ)と比べても4倍あり、厚さ5ミリメートルで30キログラムの荷重に耐えるという結果も出ており、可能性は十分にあると思っています。

また、タイルなどの建材は試作段階にきています。2025年に開催される大阪万博のあるエリアでは、fabulaの建材が使用される予定です。

――使用する食品によって強度が変わるのも面白いですね。何か理由はあるのでしょうか?

大石:食品と強度の関係についてはまだ研究途中で、仮説にはなりますが、食物繊維と糖分のバランスが重要なのではないかと思っています。逆に強度があまりないのは、かぼちゃでした。

このように素材によって強度に差はあるのですが、高強度の食材と組み合わせて補強をすることも可能です。

素材ごとの曲げ強度を示したグラフ。かぼちゃは一般的なコンクリートの曲げ強度以下の結果に。海藻、たまねぎ、かぼちゃと白菜を組み合わせたもの、バナナ、みかんは一般的なコンクリートの曲げ強度よりも強く、また白菜のみの場合、飛び抜けて曲げ強度が強い。
fabulaの研究によると、一番強度が強かったのは白菜。現在もさまざまな食品に対する研究が進んでいる。画像提供:fabula Inc.

――他にも課題となっていることはありますでしょうか?

大石:大量生産ができないので、一つ一つのコストが高くなってしまうという問題があります。今後は生産設備を整え、皆さんの手の取りやすい価格にしていきたいと思っています。

――これからが楽しみです。ちなみに大石さんは、町田さんの幼なじみだそうですね。この会社に入ったのは、環境問題に興味があったんでしょうか?

大石:正直な話、そんなに意識をしたことはなかったですね(笑)。

この事業の話を聞いたとき、僕が一番惹かれたのはこの素材の色や香りで、「プロダクトとして面白い」ということでした。さらにそれが食品廃棄物や、環境問題を解決できると聞いて、興味を持ったんです。

コーヒーかすを原料にした丸形の皿。受注生産の形をとっており、購入するときは、お茶、パスタ、紫芋など素材を選ぶことができる。画像提供:fabula Inc.

――この会社に参加するようになってから、環境に関する意識の変化はありましたか?

大石:一番大きな変化は僕たちの会話の中に「ごみ」という言葉が出てこなくなったことです。ごみを見ても、それが全部原料に思えるし、3人の間でも「これ、原料になりそうだよね」という会話になるんです。

「ごみに見えていたものにまだ使い道がある」。そう思えるようになったのは大きな変化かなと思います。

新素材は選択肢の1つ。建材を選べる社会に

――脱コンクリートの一歩はどこから始めればいいのでしょうか?

大石:コンクリート使用を完全にゼロにするのは無理だと思います。僕たちも脱コンクリートを目指して、全ての素材をfabulaでまかなってほしいとは考えていません。

「選択肢を増やし、適材適所を考えていくべきではないか」というのが僕たちの考え方です。コンクリートは悪者扱いされることもありますが、耐久性の高い、良い素材ではあるんですよ。

一方で1、2カ月しか使わないようなものであれば、わざわざコンクリートを使わなくてもいいはず。「建物を建てること=コンクリートを使う」という当たり前を疑い、別の建材も視野に入れて選択していくことが重要なのかなと思います。

「fabulaの素材はあくまで選択肢の1つ」と話す大石さん

――コンクリートが危機的状況であるということを読者一人一人が自覚するためには、どんなことが必要でしょうか。

大石:僕もこの会社に入らなければ、コンクリートの原料が足りていないことなんて全く知らなかったと思うので、まずは知る機会を増やすことだと思います。テレビや本、新聞などでこういった情報を拾わない限り、課題だなんて誰も思わないはずなので。

一歩進んで知識を得る。その先に、先ほどお話ししたようなコンクリートを当たり前に使う社会ではなく、選択肢を増やし再生可能な建材も選べる社会があるのではないかと思います。

僕たちもこの素材のことを皆さんに知ってもらいたいと思って、メディアにたくさん出たり、講演会や実際に食品廃棄物で製品を作るワークショップなども開いたりしています。

fabulaの製品を通して、コンクリート、そして食品廃棄物の課題を知るきっかけの1つになれればいいなと思っています。

編集後記

改めて街を見返してみると、コンクリートが当たり前のようにあふれていますが、今回の取材を通してその原料がどこから来ているのか、どのように作られているのかを考えさせられました。

fabulaの製品は自然な風合いが魅力的な製品ばかり。その製品に触れ、限りある資源に向き合い、再生可能な建材について考えるきっかけにしてみませんか。

撮影:永西永実

fabula株式会社 公式サイト(外部リンク)

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