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海洋ごみ対策となる海のごみ箱「Seabin」。経済的メリットなしでも普及に挑む理由

「Seabin」が水面のごみを回収している
海や湖に浮くごみを回収できるオーストラリア発の装置「Seabin」
この記事のPOINT!
  • 環境問題に取り組むSUSTAINABLE JAPANは海洋ごみ問題の解決に注力しているが、関心を持たれないなど課題は多い
  • 世界で注目される海洋ごみ回収装置「Seabin」。日本で普及しないのは経済的メリットがないから
  • 地球環境への取り組みが企業や団体の価値を上げる空気を、社会全体でつくることが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

深刻化する海洋プラスチックごみ問題。世界では年間800万トンものごみが海に流出し、その7〜8割が街から川を伝って流出したものです(※)。

世界各地で脱プラスチック化の動きが加速し、海洋プラスチックごみに対して意識を向ける人は増えていますが、すでに海に流れ出てしまったごみ自体の解決にはつながっていないのが現状です。

そんな中、注目を集めているのが2014年にオーストラリアで開発された、海洋ごみ回収装置の「Seabin(シービン)」です。

直径約50センチのバケツ型のごみ回収装置「Seabin」。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

「Seabin」は水面に浮かんだごみを効率よく回収する装置で、世界39の国と地域で860台(2023年8月時点)が導入されており、TikTokでは「Seabin」がごみを集める動画が1,200万回再生を記録したことも。

日本では人気YouTuberのフィッシャーズが動画企画(外部リンク)で取り上げたことで話題となりましたが、経済的メリットがないなどの理由で日本での普及率はそこまで高くないそうです。

熊本県で「Seabin」の販売・リース代理店業等を行う株式会社SUSTAINABLE JAPAN(外部リンク)の代表を務める東濵孝明(ひがしはま・たかあき)さんは、その理由を「ごみ拾いは経済性ゼロの活動だから」と分析します。

海洋ごみ問題に歯止めをかけるためには、社会全体でどういった行動が必要なのでしょうか? 東濵さんにお話を伺いました。

「Seabin」を抱える東濵さん。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

生まれ故郷の海が変わってしまったことにショックを受けて

――「Seabin」とは、一体どんな装置なのでしょうか?

東濵さん(以下、敬称略):英語でseaは「海」、binは「ごみ箱」となり、「Seabin」は「海のごみ箱」を意味します。その名の通り、海の中に設置しごみを収集できる装置です。

直径約50センチのバケツのような形で、ポンプが付いており、海や湖に浮かべるとごみを水ごと吸い込んでくれます。中には「キャッチバッグ」と呼ばれるかごのようなものがついているので、ごみだけをキャッチ。ごみを20キログラムくらいまで溜め込むことができます。

フィルターも付いているので表層油なども除去できるのが特徴です。

海に浮かぶごみを回収した「Seabin」。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN
表層油を吸い込んでいる様子。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

――東濵さんが海洋ごみ問題に興味を持ったきっかけは何でしょうか?

東濵:今から9年ほど前、妻の出産を機に、東京から自分の生まれ故郷である熊本に帰ってきたことがきっかけです。実家近くの漁港を20年ぶりに訪れたところ、子どもの頃に遊んでいた海との違いにがくぜんとしてしまったんです。

自分が小さかった頃は、かなりきれいなイメージがあったのですが、ビニール袋やペットボトルがぷかぷか浮いているような状態でした。

取材に応じてくれたSUSTAINABLE JAPAN代表の東濵さん

――それはショックですね……。

東濵:はい。それで、最初はビーチクリーン活動をしていたんですが、一度きれいにしても次に行くとまた元の状態に戻っているんです。これでは切りがない。人力だけで海をきれいに保つことは難しいと思って、効率的にごみを拾えるものはないか探していた時に、インターネットで見つけたのが「Seabin」でした。

――すぐに購入されたんですか?

東濵:それが、オーストラリアの「Seabin」本社に連絡したところ、「個人向けに販売はしていない」と言われてしまったんです。「すでに日本で販売代理店として手を挙げている会社があるから、そっちに連絡してみたら」とアドバイスをもらったので、実際にアプローチしたところ、そちらも個人向けの販売は行っていなかったので、それならばと会社を立ち上げたのが2019年のことです。

――それで購入することができたのですね。そこからは、どのように「Seabin」を広げていったのですか?

東濵:まずは自分で試してみないとどういうものか分からないと思ったので、実証実験を行うことにしました。熊本県水俣市にある丸島漁港で初めての実験を行いまして、17日間で約43キログラムものごみを回収することができました。

――中に入っていたごみで印象的なものはありましたか?

東濵:マイクロプラスチック(※)ですね。海に漂っているマイクロプラスチックは目で見づらいですし、手ですくっても指の間から流れてしまうのでなかなか取ることができないんですが、それが効率的に取れているのを見て、「Seabin」の可能性を強く感じました。

あとはペットボトル、たばこの吸い殻、木の枝なども多かったです。細かいものでは人工芝も取れていました。

「Seabin」が回収したごみ。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

経済的メリットがないと人が動かないことこそが課題

――「Seabin」の普及状況はいかがでしょうか?

東濵:あまり進んでいるとはいえず、難しさを感じています。自治体ですと熊本市の依頼で江津湖(えづこ)に2機設置した実績がありますが、その後は問い合わせがあっても契約まで至らないケースがほとんどですね。

自治体よりも建設会社や電力会社など一般企業から月単位の短期リースの依頼が多くなっています。

――企業からのリース依頼は、どんな目的が多いのでしょうか?

東濵:ある建築会社では、海の近くで家を建てる際に、木やごみが海に飛んでいってしまうので、それを回収する目的で設置されていました。自社の作業のあとに、海をきれいにする目的で使われる企業の方が多い印象です。

――社会課題のためというより、清掃用具として使われているんですね。「Seabin」の普及が進まない理由をどのように分析されていますか?

東濵:これは講演会などでもお話しているのですが、『「Seabin」はごみ拾いの装置で、ごみ拾い自体は経済的メリットをもたらすものではない」というのが大きな理由ではないかと思っています。

「Seabin」を購入してもらった場合、うちの会社には利益がありますが、購入した会社や自治体には経済的なメリットがないですから。

――海外での普及状況と比べても、日本は遅れているとのことですが。

東濵:はい、そう思います。海外だと日本とは違って、寄付文化(※)が根付いていますし、企業が社会課題にアプローチすることによって、企業価値が上がっていくという風潮があるんです。

日本にはあまりそういう空気がないですよね。「経済的メリットがないと人は関心を持たない・動かない」ということは大きな問題だと思っています。

ただ、日本に根付かないから仕方がないとも言っていられません。熊本の海を日々見ている僕にとって、海洋ごみの問題は本当に深刻で、会社設立から4年が経ちますが、ごみの状況は年々ひどくなっている気がします。

地球環境にとっては、絶対に必要な装置だと思っていますので普及に力を入れていきたいです。

京都府立海洋高校の研究の様子
過去には京都府立海洋高校が、隣接する栗田湾(くんだわん)に「Seabin」を設置し、ごみの分析研究を行ったこともある。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

海洋ごみの発生源を断つため、用排水路用のごみ回収機を開発

――農業用水を流す用排水路向けのごみ回収装置「SEETHLIVER(シースリバー)」を自社で開発されたそうですね。

東濵:はい、熊本の米農家さんから「「Seabin」を用水路に設置したい」という声をいただいたのがきっかけです。

米農家さんの声から生まれた用排水路用のごみ回収装置「SEETHLIVER」。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN

東濵:用排水路から海に流れるごみも多いですし、米農家さんが使う肥料の中には「被覆肥料(ひまくひりょう※)」というものがあって、使用後の被覆殻がプラスチックごみとして海に流れてしまうという問題もあるんです。

最初は「Seabin」を用水路に設置してみたのですが、水位が大きく変わる用水路ではうまく稼働しないことがあったんです。なので、用排水路用のごみ回収装置を自社開発してみることにしました。

被覆肥料の被覆殻。画像提供:SUSTAINABLE JAPAN
  • ※肥料成分をプラスチックの殻でコーティングした肥料の一種。肥料成分がゆっくりと溶け出すので省力化できる一方、殻が用水路を通って海に流出することが大きな問題となっている

――用排水路にごみ回収装置が設置できれば、さまざまなごみが海へ流出するのを止めることができますね。

東濵:そうなんです。ただこれが苦難の連続で(笑)。

当初は自社で製造まで行おうとしていたのですが、出来上がった試作品がかなり大きくなってしまい、製品化は無理だと判断しました。そこで製造会社に委託して、2年の歳月を経て2023年にやっと製品を完成させることができました。

最初に声をかけてくださった米農家さんは残念ながら亡くなられてしまったのですが、熊本県内で農薬を使わず自然栽培でお米を作っている農家さんの協議会があり、そこで導入してもらうことが決まっています。

――その協議会が「SEETHLIVER」の導入を決めた理由は何でしょう?

東濵:自然栽培にこだわったお米を作るのであれば、自分たちの周りの環境も良くしたいという思いがあったようです。また、その方たちは地球環境への取り組みがお米のブランド価値にもつながると信じています。

社会課題に取り組んでいることが、企業や商品の価値を高めるという風潮が日本でも広がっていくといいなと思います。

――最後になりますが、海洋ごみ問題に取り組んできた東濵さんから見て、読者一人一人が解決のためにできる行動はありますか?

東濵:通勤や通学時、道に落ちているごみを、行きと帰りに1個ずつ合計2個を拾う、そんな小さな行動だけでも解決につながっていくと思います。その行動を長く続けて、同じように行動する人が増えていけば、大きなインパクトになりますよね。

海に流出しているごみのほとんどが街から出ているわけですから、それを食い止めれば海はきれいになっていくと思いますし、きれいにする責任が私たちにはあると思うんですよ。

SUSTAINABLE JAPANでは今の活動に加え、今後はふるさと納税で「Seabin」や「SEETHLIVER」を設置できるといった、経済的負担が少なく海洋ごみ問題を解決できる仕組みを考えています。

少しでも海を守るべく活動を続けていきたいと思っています。

編集後記

環境問題というと大きな規模で考えてしまいがちですが、海洋ごみ問題は私たちが原因をつくり出している問題だと改めて考えさせられる取材となりました。これからの私たちの行動や意識が地球の未来を変えていくのだと思います。

株式会社SUSTAINABLE JAPAN 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。