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「ボランティア」は誰のため? その定義は? 専門家・二宮雅也教授に聞いた
- バスや電車で誰かに席を譲ることも立派なボランティア活動の1つ
- 自ら課題解決に動く人たちが地域にいると暮らしやすさや安心感が高まっていく
- 無理なくできる小さな支え合いを、一歩ずつ社会に伸ばしていく意識が大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
ボランティア活動は、地域づくり、子育て、障害のある方や高齢の方のサポート、災害支援など、複雑化する社会課題に対処するための重要な手段となっています。国や自治体はさまざま対策に取り組んでいますが、多様化するニーズに対応しきれない現状があるからです。
ボランティア活動は、課題やニーズに応じて人々の生活にポジティブな変化をもたらす一方で、参加者の自己成長を後押しする側面も持っており、人との交流や新しいスキルの習得を通じて参加者に良い影響を与えています。
2023年10月に日本財団ボランティアセンターが実施した「全国学生1万人アンケート ~ボランティアに関する意識調査2023~」(外部リンク)によれば、ボランティアへの興味や参加経験が幸福度にも影響することが明らかになっています。
そこで今回は、社会におけるボランティア活動の重要性と、個人にもたらす影響について考えてみたいと思います。
スポーツボランティア教育の第一人者であり、「全国学生1万人アンケート」を主導した日本財団ボランティアセンター(外部リンク)の参与でもある、文教大学教授の二宮雅也(にのみや・まさや)さんにお話を伺いました。
ボランティアとは「やりたいことに対し自らの意志で行動すること」
――そもそも「ボランティア」とは、どういう行為のことなのでしょうか?
二宮さん(以下、敬称略):一般的には「無償で行う公益性のある行動」のように理解されていることが多いのですが、それは誤解なんですね。
ボランティアの語源はラテン語の「Volo(ウォロ)」という言葉で「何かをしたいという人間の欲や気持ち」のことを指しています。また英語のwillの語源でもある「Volo(ウォロ)」は、「やりたい」という意志が自分の中にあって、その思いに基づいて未来のために行動する、参加することが「ボランティア」という行為の概念を表しています。
ですから、「やりたくないのに無理やりやらされる」活動は当然ボランティアとは言えませんし、現代社会で特に注目される「無償性」「公益性」といった要素は後から加えられた概念に過ぎません。例えば海外では、地域や家族を守りたい、と自らの意志で「志願兵」として戦争に行く人たちもボランティアと表現しています。
――NPOなどの団体や組織の主導のもと、みんなで社会のために何かをするイメージが世の中にはあるかもしれません。
二宮:現代は、社会活動を支援することの意義が世の中に広まってきたので、ボランティアを支援する団体も増えてきました。しかし、そういった組織に所属して行うことだけがボランティアではなく、自分一人であっても目の前にある社会的ニーズに気づいて自発的に行動すれば、それはもう立派なボランティアなんです。
日常の中で、バスや電車で具合の悪そうな人を見つけて「席を譲ったほうがいいかな?」と思うことがありますよね。そこで実際に「席を譲る」ということができたとき、社会的ニーズ+自らの「やりたい」という思い+行動がワンセットになり、社会とのつながりを実感する。これこそボランティアの意義であるといえます。無自覚に行っている人もたくさんいると思います。
――海外と比較して、日本のボランティア独特の傾向は見られますか?
二宮:ボランティア活動に参加した理由を問う調査で、「社会のために役立ちたい、困っている人を助けたい」という回答が1位になるのが日本の特徴とされています。海外では、これらに加えて「自分のスキルを活かしたい」「新たなスキルをボランティアで身につけて将来に活かしたい」といったスコアも高くなります。
日本では誰かのため、社会のためという動機が強く、自己充実の動機が低い傾向が見られる、と言えるでしょう。
ボランティアをしている人は幸福度や健康度が高い
――「全国学生1万人アンケート」の結果を見て、注目すべき点はどこだと思われましたか?
二宮:1つは、ボランティア活動から得られたことの中で「人との交流」と回答した学生が非常に多かったことです。これはコロナ禍の直後である、という影響も大きかったように思います。また「新しい体験ができた」という結果も伸び、海外のように「自分のためになる」にというニュアンスが得られている印象です。
――ボランティア活動への関心や参加経験が幸福度に影響する、という調査結果もありましたね。
二宮:「ボランティアに関心がなく、活動もしていない人」よりも「ボランティアに関心があり、活動もしている人」の方が幸福度は高い、という数値が出ました。
先行研究によって、ボランティア活動が幸福度を上げることは世代を超えて報告されているほか、ボランティアを実践している人の方が健康度は高く、1人で懸命に運動する人よりも複数人で社会活動をしている人の方が要介護率は低い、という統計結果も出ているんですよ。
対価ではなく「ありがとう」の言葉が、活動を持続可能にしていく
――私たちの社会に、なぜボランティア活動が必要なのでしょうか?
二宮:ふだんは目に見えづらいかもしれませんが、私たちの暮らしは既にボランティアなしには成り立たない社会システムになっているんですね。
例えば、共有のごみ捨て場。町内会というシステムによって当番制で清掃するからきれいに保たれるわけで、みんなが好き勝手に使っているだけではもっとごみや汚れが溜まっていくはずです。このように、日常の仕組みにボランティアが組み込まれているから持続可能になっていることはたくさんあります。
しかし行政のように平等性があるシステムではないため、盛んな地域やコミュニティと、そうでないところで差がついてしまう面は存在します。
――ボランティア活動が地域やコミュニティに与えるメリットとは?
二宮:社会課題も多様化し、行政に電話をして「何とかしてほしい」とお願いしても解決できないことがたくさんある時代です。それを受けて、自治体や町内会、学校などの単位で、「子どもが犯罪に巻き込まれてからでは遅いから、地域で見守りをしよう」とか、「高齢者が要介護になる前に、集まって健康体操をやろう」といった動きがボランティアとういう形で出てくるようになりました。
これは、コミュニティにある社会的ニーズに対し「解決しなければ」という思いが複数人で共有化され、行動に表れている、ということ。自分たちの暮らす地域の課題を自ら解決していこう、みんなで励まし合いながら、地域の価値を高め合っていこう、と動くコミュニティは課題解決がしやすく、その結果暮らしやすさが高まるといった恩恵を受けやすいと思います。
――このボランティアという仕組みが地域の中でうまく回る鍵は何でしょうか?
二宮:「ありがとう」など、お礼の言葉が存在しているかどうか、または「あの人がちゃんとやってくれている」という事実が地域の中で認識されているか、という要素は大きいですね。褒めたたえられたくてボランティアをしているのではない人がほとんどですが、それでも存在すら認められないのであれば、なかなか続きません。
ボランティア活動が定着している地域は多くの場合、誰が地域のためにどう貢献しているのか共有されており、「あなたのおかげでこうなっている」という言葉を伴ったコミュニケーションが存在している。だからモチベーションになるし、定着するし、再生産もされていくんです。レコグニション(社会の中で存在を認める)はボランティアの維持に大切な要素なんです。
――学びや発見など、ボランティア活動に参加するからこそ得られるメリットはありますか?
二宮:ボランティア活動が存在するところには必ず社会課題があります。その現場に身を投じることで、肌感覚と体でそういった課題を理解できるのが一番の価値だと思います。
私はよくマラソン大会のボランティアに参加するのですが、「東京マラソン」のような大きい大会はボランティアだけでも約1万3,000人。希望者が多く、抽選になることもある人気イベントなので「ボランティアというより、趣味の延長ではないか」と思われることもあります。
しかし、2023年度の「東京マラソン」の参加費は国内ランナーで1万6,500円ですが、実際ランナー1人当たりにかかるコストは約5万4,800円(2018年大会時)という報告もあります。これはランナーの安全を守る警備費を含んだ金額であり、ボランティアの存在がなかったらもっと高騰するのは明らかです。また、地方のマラソン大会の中には、参加者がいないのではなく、ボランティアが足りないという理由で開催できなくなったケースもあります。
社会の安全・防犯対策や少子高齢化といった社会課題も、マラソン大会のボランティア活動を通じて見れば、より “自分ごと”として理解しやすいですよね。こと若者世代にとってボランティアの機会を得ることは、多様な世代と交流したり、社会の捉え方や物事を見る目を広げたり、という意味でその後の人生に与えるインパクトが大きいと思います。
助ける側、助けられる側ではなく、対等な関係性を築く必要がある
――2024年1月には「能登半島地震」が発生しました。被災地でボランティア活動を行う上で意識すべき点はありますか?
二宮:被災地支援は大きく2つに分類されます。1つが重機の使用も含め、人間のスキルやマンパワーによって現場を復旧していく支援。もう1つが、被災された方の心身に寄り添ってケアしていく支援です。
被災地の状況に心を動かされ、ボランティアに関心は持っても「自分に何ができるのか」と足踏みしてしまうかもしれません。しかし、現地には必ず誰かのボランティアニーズにフィットする分野がありますから、まずは「何かの役に立ちたい」という気持ちを携えてご参加いただき、実際に何をするかについては、被災地にいる専門機関の判断と指示に従ってもらう形がいいのではないでしょうか。
日本財団ボランティアセンターも、ボランティアの専門団体として、現地団体や災害系のNPOなどと連携しながら、主に学生ボランティアの現地での活動をコーディネートしています。炊き出しや足湯などを通じて、高齢者の多い避難者の皆さんに寄り添った活動を行っています。
――ボランティア活動を行うときの心構えとは、例えばどんなものがありますか?
二宮:ボランティアは社会的意義が高い活動である故に、一生懸命やるほどに褒められたり、賞賛されたりします。そうなると、当然やっている側は気分が良くなり、さらに懸命になる。そのうち、相手のニーズを叶えるためにやっていたことを忘れて、自分のために活動をする傾向が強くなってしまう場合があります。
そのせいでいつの間にか「助ける側」と「助けられる側」という非対称な関係性に陥ってしまう。これは被災地ではもちろん、ボランティア全般において起こりやすい注意点だといえます。本来ボランティアは対等な関係性です。災害はいつどこで起こるか分かりません。もしかしたら突然けがをして車いすの生活になることもあるかもしれない。
今回は「助ける側」として参加するけれども、自分もいつ「助けられる側」になるか分かりません。はじめから支え合う関係性が重要なのです。
次の世代に、ボランティア文化を継承していくために
――ボランティア文化を広めていく上で、現状はどういった課題がありますか?
二宮:ボランティア=誰かがやっている特別なこと、という認識で興味関心が向かない人が増えています。日本経済は明るい兆しが見えませんし、今後プラスに転じる予感もない。そういった状況下では、生活も経済活動と自分のことで精一杯となり、社会的な活動に身を投じようという意欲も低下しているのではないか、というのが現状の見立てです。
それが顕著なのが若者で、アルバイトに追われる毎日で、社会で起きていることに関心を持つ余裕がない層の多さは想像以上です。これは選挙の投票率の低さや、海外と比べて日本はデモが起きにくい、といった事柄とも関係しているのかもしれません。
――ボランティア文化の継承には、どのような取り組みが必要なのでしょうか?
二宮:子ども時代にボランティア活動などの体験活動を経験していると、自分も社会の一員である、という感覚が育ちやすく、成長後もボランティア参加のハードルが下がる、という統計結果があります。そのため、子どもたちが参加できる社会活動の機会をつくり、この活動が何につながるのか説明し、理解できる場を設けていくと、将来的なボランティア参加率も上昇しやすくなるだろう、と考えています。
例えば、NPO法人海さくらが主催する「ビーチクリーン」(別タブで開く)には、親子連れの方も含め多くの方が参加されます。ここでは主催者がタツノオトシゴが帰ってくるくらい海をきれいにする、という目標を明確に掲げ、「日本一楽しいごみ拾い」にしようとイベント性を持たせています。そのため、子どもたちが楽しんで活動に参加し、同時にプラスチックごみが海にもたらす課題についても学んでいるんです。
――日本財団ボランティアセンターが力を注いでいる活動についても教えてください。
二宮:ボランティア活動全体を活性化する、という文脈で主軸になっているのが、ボランティアのプラットフォームサイト「ぼ活!」(外部リンク)です。
ここではボランティア希望者と活動とのマッチングのほか、独自のセミナーや研修プログラムも実施して、機会と学びの両方を提供できるようにしています。災害ボランティア研修に力を入れているのも特徴で、現在は茨城県つくば市に災害ボランティア教育用の施設を建設し、災害現場における重機の操作研修なども行っています。
また、「ボ学」(外部リンク)という中学校向けの出前授業もあります。これは、道徳や総合学習の授業の一環としてボランティア経験者を講師として派遣し、実際のボランティア経験を交えながら、ボランティアの楽しさや大切さ、社会的な意義を子どもたちに伝える取り組みです。
二宮:ボランティア文化を醸成するアプローチでは、25歳以下限定の「旅するボランティア」(外部リンク)という参加費無料の企画があります。私たちは “経験の奨学金”という表現をしているのですが、作文選考によって選ばれたメンバーに日本各地を旅しながらボランティア活動をしてもらい、自分と社会の在り方を知る経験をしてもらおう、というものです。未知の価値観に出会ってもらいたい、という願いを込めているんです。
――ボランティアの入口はいろいろあるのですね。社会の一員である私たちは、ボランティア文化を広めていく上で何ができるのでしょうか?
二宮:ボランティアを例える言葉の1つに「Pass me the salt(お塩を取ってください)」という表現があります。これは「お塩を渡してあげるくらい気軽で、気持ち良くできる行動がボランティアの始まりなんだよ」ということを表しています。
塩を取ってあげることに負担はないですし、誰かにしてあげれば自分が困ったときも「取ってください」と言いやすくなる。これこそ「支え合い」のミニマムな縮図です。こういった感覚を少しずつ社会に伸ばしていけば、ボランティア活動とは大それたことでも、高尚なことでもなく「お互いが気持ちよく生活するために、自分にとっても必要だからやること」という認識が醸成されるはずです。
日頃の生活の中でハッと誰かの困り事に気づくことがあれば、それはもう社会との接点がある、ということです。寄付でも、行動でもいいので、そのとき自分にできる形で動いていくことが、ボランティア文化の広がりを生んでいくのではないでしょうか。
編集後記
ボランティア活動は、意識が高い人がするものと考える人も少なくないかもしれません。ですが、お年寄りに席を譲ったり、あるいは食事の際に誰かのため調味料と取ってあげたり、「誰かのためにやりたい」と自分の意志で起こしたちょっとした行動も立派なボランティアという二宮教授の話に、自分にもできることがたくさんあると気づかされた取材となりました。
年明けから大変なニュースが飛び交った2024年ではありますが、一人一人の小さな行動がつながり、それが支えとなって救われる人もたくさんいるはず。あなたも今日から改めてボランティアを始めてみませんか?
撮影:永西永実
ボランティアの募集やセミナー開催中!
日本財団ボランティアセンターが運営する日本最大級のボランティアプラットフォームサイト「ぼ活!」では、能登半島地震などの災害ボランティアや、マレーシア・ボルネオ島での森林再生ボランティア、大規模スポーツイベントなど、多様なボランティア募集情報を掲載。英語や手話などボランティア現場で役立つセミナーも開催中です。詳しくは公式サイトをご覧ください。
ぼ活! 公式サイト(外部リンク)
〈プロフィール〉
二宮雅也(にのみや・まさや)
二宮雅也(にのみや・まさや)
1977年宮崎県生まれ。筑波大学大学院体育研究科修了。文教大学人間科学部人間科学科教授。公益財団法人日本財団ボランティアセンターの参与を務め、ボランティアの調査・研究と共に、ボランティア活動の社会への普及に取り組んでいる。専門領域はスポーツ社会学など。
公益財団法人日本財団ボランティアセンター 公式サイト(外部リンク)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。