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第1回 NPO法人にも適用される! 知っておくべき残業代の基本ルールを弁護士が解説

専門家コラム:阿部由羅さん NPOが知っておきたい法律のはなし

執筆:阿部由羅

NPO法人でも一般的な企業と同様に、雇用する従業員との関係で労働基準法のルールが適用されます。

特に残業代については、適切に支払われずトラブルに発展するケースが多くみられます。NPO法人の経営者や人事担当者は、残業代に関する労働基準法の正しいルールを理解し、従業員とのトラブルの予防に努めましょう。

本記事では、NPO法人の経営者や人事担当者に向けて、労働基準法における残業代の基本的なルールを解説します。

イメージ:電卓の横に「残業代」と書かれた積み木

残業代のルールはNPO法人にも適用されるテキスト

残業代に関するルールは、「労働基準法」という法律によって定められています。

労働基準法は、営利・非営利を問わず、雇用契約を締結する使用者と労働者の関係において適用されます。したがって従って、NPO法人と従業員の間にも、残業代のルールが適用されることを理解しておきましょう。

残業代の対象となるのは、すべての「労働者」

残業をした場合に残業代を支払う必要があるのは、すべての労働者です。

「労働者」とは、使用者の指揮命令下で働く者を意味します。正社員・契約社員・パート・アルバイトなどの区別を問わず、使用者の指揮命令下で働いている者は労働者に当たります。

労働者が残業をした場合は、後述する方法で計算した残業代を支払わなければなりません。

なお、NPO法人と対等な立場で業務を受託している者(=業務委託先)は、労働者に当たりません。業務委託先に対して支払う報酬の額は、業務委託契約などの定めに従って決まります。

残業代の種類と割増率

残業代には、「法定内残業手当」「時間外手当」「休日手当」「深夜手当」の4種類があります。時間外手当・休日手当・深夜手当には、労働基準法所定の割増率が適用されます。

法定内残業手当

「法定内残業手当」は、所定労働時間(※1)を超え、法定労働時間(※2)を超えない残業に対して支払う手当です。

  • 1.雇用契約や就業規則によって定められた労働時間
  • 2.労働基準法に基づく労働時間の上限。原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間

法定内残業手当に割増率は適用されず、通常の賃金と同様の時給によって計算します。

時間外手当

「時間外手当」は、法定労働時間を超える残業に対して支払う手当です。

時間外手当の割増率は、月60時間以内の部分については通常の賃金に対して25パーセント以上、月60時間を超える部分については通常の賃金に対して50パーセント以上です。

休日手当

「休日手当」は、法定休日(※)に行われる労働に対して支払う手当です。

  • 労働基準法によって付与が義務付けられた休日。1週間につき1日、または4週間を通じて4日

1週間につき1日を法定休日とする場合に、休日が週2日以上ある場合は、そのうち1日が法定休日、残りの休日が法定外休日となります。

どの休日が法定休日に当たるかは、就業規則等の定めがあればそれに従いますが、定めがなければ1週間(日曜~土曜)の中で最も後ろに位置する休日が法定休日となります。

法定休日の労働には休日手当が発生しますが、法定外休日の労働には法定内残業手当または時間外手当が発生します。

休日手当の割増率は、通常の賃金に対して35パーセント以上です。

深夜手当

「深夜手当」は、午後10時から午前5時までに行われる労働に対して支払う手当です。

深夜手当の割増率は、通常の賃金に対して25パーセント以上です。

法定内残業手当・時間外手当・休日手当との重複適用も認められます(例:休日労働かつ深夜労働の場合、割増率は通常の賃金に対して60パーセント以上)。

残業代の計算方法

残業代は、以下の式によって計算します。

残業代=1時間当たりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間数

「1時間当たりの基礎賃金」とは、残業代計算の「時給」に相当する金額です。

1時間当たりの基礎賃金=(1カ月の総賃金 - 下記の手当)÷ 月平均所定労働時間

月平均所定労働時間=年間所定労働時間 ÷ 12

総賃金から控除される手当は、以下のとおりです。

  • 時間外手当、休日手当、深夜手当
  • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
  • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

前述のとおり、割増率は残業(代)の種類によって異なります。そのため、種類ごとに分けて残業時間を集計し、上記の式に当てはめて残業代の額を計算します。

〈例〉1時間当たりの基礎賃金が2,000円、残業時間が以下のとおりである場合
法定内残業:20時間
時間外労働:20時間(うち深夜労働5時間)
休日労働:5時間

法定内残業手当
=2,000円 × 20時間
=4万円

時間外手当+深夜手当
=2,000円 ×(1.25 × 15時間 + 1.5 × 5時間)
=5万2,500円

休日労働
=2,000円 × 1.35 × 5時間
=1万3,500円

残業代
=4万円+5万2,500円+1万3,500円
=10万6,000円

残業時間を正確に把握するには?

残業代を正しく支払うためには、従業員の残業時間を正確に把握しなければなりません。

残業時間を正確に把握するためには、勤怠管理システムなどを導入して、機械的に時間を記録することが望ましいでしょう。従業員の自己申告に委ねていては、残業時間の把握漏れが生じるおそれがあるのでご注意ください。

当然ながら、従業員に対して実際よりも労働時間が短くなるように打刻させるなど、不正打刻を指示するのは厳禁です。実態に沿った形で、正確に労働時間を把握しましょう。

勤怠管理表
勤怠管理システムを活用すれば、従業員の残業を正確に把握することができる

従業員から未払い残業代を請求された場合の対処法

残業代を正しく計算して支払っていない場合や、残業時間の把握漏れが生じている場合には、従業員から未払い残業代を請求されるおそれがあります。

NPO法人が未払い残業代の請求を受けたら、まず従業員の請求内容が妥当かどうかを検討しましょう。

前述の計算方法に従い、会社の把握している残業時間に基づいて残業代を計算した上で、会社として支払うことができる残業代の限度額を従業員に伝えましょう。

従業員との話し合いがまとまらないときは、労働審判や訴訟などの裁判手続きを通じて解決を図ることも考えられます。

ただし、労働審判や訴訟への対応には多くの労力がかかり、弁護士に依頼する場合には弁護士費用もかかります。

従業員の言い分にも耳を傾け、できる限り話し合いで解決できるように努めるのがよいでしょう。

まとめ

NPO法人の従業員に対しても、一般的な企業と同様に、残業をした場合には残業代を支払わなければなりません。

適切に残業代を支払わないと、従業員との間でトラブルに発展するおそれがあります。残業代に関するトラブルの解決には、多くの労力と費用を要することがあるので注意が必要です。

従業員とのトラブルを防ぎ、NPO法人として本来の業務に集中するためには、労働基準法における残業代のルールを正しく理解すること、およびそのルールに沿った残業代の支払いを行うことが大切です。

労働基準法のルールを再確認して、残業時間の集計や残業代の計算が適切に行われているかどうかをチェックしてみましょう。

〈プロフィール〉

阿部由羅(あべ・ゆら)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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