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NPO法人の人材不足を解消したい。求人・定着率・資金不足の解決策とは?

イメージ:人材不足の文字と人の輪郭が書かれた積み木
この記事のPOINT!
  • 多くのNPO法人は人材不足の課題を抱えている
  • 人材不足は、NPO法人の活動やスタッフの行動などに悪い影響を与えることがある
  • 人材不足の解消には、ボランティアやインターン、中間支援組織などを活用しよう

執筆:日本財団ジャーナル編集部

多くのNPO法人が抱える深刻な課題として「人材不足」が挙げられる。そのほかにも「後継者がいない」「財政基盤がなかなか整えられない」などの問題を同時に抱えていることも多く、これらの問題がNPO法人を運営していく上でさまざまな課題に影響していることもある。

この記事では、NPO法人が抱える人材不足の問題について、その原因と解決するためのヒントを紹介する。

1. 多くのNPO法人が抱えている「人材不足」問題

2024年3月に内閣府が発表した「2023年度(令和5年度)特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書」(外部リンク)によると、NPO法人が抱える課題として、認証法人(NPO法人)の65.6パーセント、認定・特例認定法人の70.6パーセントが「人材の確保や教育」と回答していることが分かった。

次いで「後継者の不足」「収入源の多様化」も多くのNPO法人が課題に挙げており、スタッフの高齢化や、ノウハウ・人脈のある人材不足が影響している可能性も考えられる。

人材確保が課題と答えた団体の割合が最も多く、人材不足はNPO法人にとって深刻な問題であることが伺える。

横棒グラフ:NPO法人が抱える課題は?
・後継者の不足/認証法人44.5%、認定・特例認定法人45.9%
・人材の確保や教育/認証法人65.6%、認定・特例認定法人70.6%。多くのNPO法人が課題と回答
・収入源の多様化/認証法人39.8%、認定・特例認定法人54.8%
・事業規模の拡充/認証法人17.5%、認定・特例認定法人13.4%
・外部の人脈・ネットワークの拡大/認証法人12.8%、認定・特例認定法人14.8%
・法人の事業運営力の向上/認証法人29.8%、認定・特例認定法人33.5%
・一般向け広報の充実/認証法人15.3%、認定・特例認定法人25.4%
・関係者への活動結果の報告/認証法人2.4%、認定・特例認定法人2.9%
・会計情報の開示/認証法人0.8%、認定・特例認定法人0.4%
・その他/認証法人3.6%、認定・特例認定法人3.4%
認証法人:n=2,139 認定・特例認定法人:n=701
2023年度 特定非営利活動法人に関する実態調査(3つまで複数回答)

2. NPO法人は人材不足に陥りやすい? 考えられる4つの原因

ここでは、人材不足に陥りやすい4つの原因について解説する。組織の運営がスムーズに進められるよう、問題の原因を正確に理解しておこう。

2-1.組織を管理・運営できる人材の不足

NPO法人の人材不足に深く影響する原因の1つとして、マネジメント層の不足がある。組織の成長には、的確な事業計画の策定や実行、活動状況の見直し、課題の発見と対策の実行のほか、適切な部下の教育が必要不可欠だ。

これらは一般企業であればマネジメント層が担う役割だが、マネジメント層が不在なことで、組織全体の課題に手が回らない状況となってしまうのである。

マネジメント層は組織のかじ取りを行う重要な人材。まずは人材の確保、人材候補の教育を考える必要があるだろう。すでにマネジメント人材が確保できている場合、改めて人材の教育に力を入れるのも有効な対策といえる。

2-2.脆弱な財政基盤

NPO法人の資金不足は、人材確保や人材の定着を妨げる直接的な要因となる。優秀な人材の確保と、雇用の定着には安定した資金確保が必要だが、財政基盤を整えられずに問題を抱えているケースが多い。

NPO法人の主な収入源は、会費・寄付金・助成金・補助金・収益活動・事業収入などが挙げられる。融資などの手段もあるが、確実な返済の見通しが立てられない場合は避けたいところだ。

財政基盤を整えるには、資金調達の情報収集や、ネットワーク・人脈の強化、ノウハウの蓄積が重要なカギを握る。改めて資金調達の情報収集から始めてみるのも良いだろう。

2-3.スタッフの高齢化問題

高齢化したスタッフが組織を抜けることで人手不足が生じ、そのまま後任スタッフを確保することが難しいケースもある。このため、後任候補は早めに教育しておきたい。また、若手人材を積極的に確保し、長く活躍してもらえる環境を整えることも重要だ。

冒頭で紹介した2024年3月、内閣府発表の「2023年度(令和5年度)特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書)」によると、認証法人(NPO法人)の44.5パーセント、認定・特例認定法人の45.9パーセントが「後継者の不足」を課題として認識している。

スタッフの高齢化と、後任不在の問題は早めに発見し、対策を考える必要があるだろう。

2-4.社会的な認知度の不足

2018年10月に内閣府が行った「NPO法人に関する世論調査(平成30年10月調査)」(外部リンク)では、NPO法人を知っていると答えた89.2パーセントのうち、67.5パーセントが「言葉だけは知っている」と回答。このことから、NPO法人とはどのような組織かを具体的に知らない人が多いことが分かる。

また、同調査で「直近3年間においてNPO法人が提供する支援やサービスを受けたことがあるか」との問いに対し、84.5パーセントが「支援やサービスを受けたことがない」とも回答している。

NPO法人の実態や支援、サービス内容を知る機会がなければ、働いてみたいという思いにもつながりにくい。団体の認知度向上も、人材不足の解消に向けた一歩といえる。

3. NPO法人の人材不足がもたらす「負の連鎖」とは

マネジメント人材の不足、脆弱な財政基盤、スタッフの高齢化などの問題は、NPO法人の人材不足へとつながり、そのままにしておくと、やがて重大な「負の連鎖」へと陥ってしまうことになりかねない。

次に説明する問題に直面している組織は、早急に立て直しを図る必要がある。

3-1.事業の質の低下

NPO法人の人材不足は、事業の実施やサービス提供の停滞、サービス品質の低下に影響しやすい。これらは、組織の信頼性や評判にも悪影響を及ぼす可能性がある。

さらにサービスが低下すると、スタッフが社会的意義を実感しづらくなったり、利用者からクレームを受けてモチベーション低下の要因になってしまったりするなどの連鎖が生じかねない。結果として、事業の質がさらに下がるという悪循環の要因になることがある。

3-2.新規事業の停滞

新しいアイデアや事業計画があるにもかかわらず、人材不足のために実行に移せないケースも考えられる。すでに新たな事業を進めていても、人材不足が計画の進捗を遅らせてしまうのだ。

新規事業の停滞は、組織の成長や発展の阻害する要因となり、社会課題への対応が遅れる可能性もある。問題の存在を把握しておきながら、その対策が取れない事態は、NPO法人の存在意義の1つである社会貢献活動にも影響しかねない。

3-3.スタッフの業務負担増による疲弊・士気の低下

人材不足は、既存スタッフの業務負担の増加につながる。負荷の重い状態で事業を継続すると、スタッフが疲弊してしまうだけでなく、組織の将来への不安が広がり、やがて優秀なスタッフの離職を招いてしまう事態を引き起こしかねない。

既存スタッフの離職は、組織で積み上げたノウハウや経験が失われ、さらなる人材不足の深刻化という悪循環に陥ってしまう。組織全体の士気も低下し、さらに離職率を上げてしまうこともある。

3-4.資金調達の困難化

寄付や助成金などによる資金調達を行うには、組織の社会的な信頼度が重要な判断基準となる。しかし人材不足による事業やサービスの停滞、サービス品質の低下は、結果としてNPO法人への信頼を失墜させることになり、資金調達を困難にしてしまう。

NPO法人では、収入源の多様化を課題として抱える組織は多い。人材確保の際は、資金調達のノウハウや知識を持った人材も同時に募るのが理想といえる。

4. NPO法人の人材不足を解消するための戦略

ここからは、NPO法人の人材不足を解消するために実行すべき対策を紹介する。採用活動はもちろん、次の4つのアイデアを参考に戦略を立ててみてほしい。

4-1.ボランティアやインターンの募集

ボランティアやインターンを募り、団体の人材不足を補う。ただ業務を体験してもらうのではなく、継続的な従事の可能性も考慮に入れ、充実した研修制度を整えた上で、組織内に必要な各種人材を募ることが重要だ。

ボランティアやインターンを募集する際は、団体の活動内容、理念、参加によるメリット、ボランティア・インターンに求める業務内容などを、ホームページやSNSを通して明確に伝え、拡散しよう。

4-2.中間支援組織の活用

NPO法人における中間支援組織とは、NPOを支援するNPOのこと。NPO法人の中間支援組織は、ノウハウの提供・マネジメント層を含む人材教育・資金調達の課題解決・運営・組織基盤の強化といった支援を担う。さまざまな中間支援組織があるため、自団体に適した支援を行う支援センターを探そう。

なお、中間支援組織は各地域に設置されており、「地域名 NPO支援センター一覧」「地域名 中間支援組織一覧」と検索することで見つけられる。

また日本財団(外部リンク)も国内最大規模の中間支援組織の1つで、助成制度やネットワーク作りなど幅広い活動を展開している。

4-3.NPO・NPO法人同士の連携や協力

同じ分野のNPO法人、NPO同士で協力することで、互いの組織の強みを活かし、不足を補いながら課題解決を目指す。単純な人材不足の解消だけでなく、コミュニケーションを通した人材の成長、目標達成による団体の成長も期待できるおすすめの対策だ。

互いのネットワークを活用すれば、広報活動の活性化や認知度の向上にもつなげやすい。また、任意団体との協力なら社会的な信用を得る戦略にも活用できる。新規事業の展開や、停滞していた事業の進行など、幅広い問題の解決を目指せるだろう。

4-4.マーケティングの取り組み

採用領域において、マーケティングを活用する手法もある。具体的には、Webでの広報活動、Web広告の運用、広告代理店との連携によるプランニング、ホームページのアクセス解析などの業務を行う。そのほかに、SNS広告やLPの作成など、採用マーケティングは、さまざまなアプローチが可能である。

自団体の目的や使命を明確に伝え、たくさんの人に興味を持ってもらう工夫を凝らして、反響を確認しながらPDCAを回し、採用活動における目標達成を目指していこう。

図:PDCAサイクル
PLAN(計画を作成する)
↓
DO(計画を実行する)
↓
CHECK(行動を評価・分析する)
↓
ACTION(改善し次回に繋ぐ)
この流れを繰り返す
PDCAを実行することで、採用活動を含め、NPO法人の運営にとって重要な社会から「信頼」を得ることができる

5. NPO法人の人材不足対策としての職員定着のための対策

人材不足の解消と併せて考えておきたいのが、スタッフ定着のための施策だ。もし人材を確保できても、スタッフの定着率が悪いと根本的な解決には至らない。

ここでは、スタッフの定着率を高めるためにできる対策を3つに分けて紹介する。

5-1.公平で透明性の高い評価制度の構築

一般的な会社と同様、NPO法人においても、スタッフの貢献を適切に評価し、その成果を公正に報酬に反映させる制度が重要だ。評価制度を構築する際は、基準を明確化し、スタッフとの定期的な面談の機会を設けると良いだろう。

面談は、目標設定の確認やフィードバックだけでなく、コミュニケーションの強化にもつなげられる。

また、昇給や昇進の基準を透明化することで、職員は将来への展望が明確になり、モチベーション向上となる。インターンスタッフ用の評価制度もあると、長期的な定着にも役立つはずだ。

5-2.スキルアップ支援・キャリアパスの提示

研修制度や外部セミナーへの参加支援、資格取得支援など、スキルアップのための機会を提供し、スタッフの成長意欲に応えよう。志高く組織へ参加してくれたスタッフの意欲を活かし、組織の活性化につなげる意識が重要となる。

また、NPO法人内でのキャリアパスを明確に示すことで、スタッフが自身の将来像を描き、組織への長期的な貢献意欲を高めることも期待できるだろう。

5-3.ワークライフバランスの改善

職員が仕事とプライベートを両立できるよう、柔軟な働き方を導入することも重要だ。例えば、フレックスタイム制・リモートワーク・時短勤務など、個々の状況に応じた働き方を支援することで、職員の満足度を高め、離職防止にもつなげられる。

まとめ

NPO法人の人材不足には、マネジメント層の不足、財政基盤の課題、スタッフの高齢化、社会的信用度・認知度の低さなど、複数の原因が影響していることが多い。

ボランティアやインターンの受け入れ、中間支援組織の活用、同分野のNPO法人・NPOとの協力などを積極的に実行し、人材不足を解消しつつ、そのほかの問題にも着手していくことが重要だ。

また、スタッフの定着率を高める施策も考えることも大切。既存スタッフや新たに参加した優秀なスタッフを逃さないよう、より良い組織づくりを目指そう。

参考文献:

内閣府NPOホームページ「2023年度(令和5年度)特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書」(外部リンク/PDF)

内閣NPOホームページ「新しい公共支援事業の実施に関するガイドライン 」(外部リンク/PDF)

内閣府世論調査「NPO法人に関する世論調査(平成30年10月調査)」(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。