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申請から採択まで何が大変? 日本財団助成金活用レポート:海と人をつなぐ——海洋文化創造フォーラム

取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団では、国内外の社会課題の解決に取り組む公益活動団体に対し、助成金を通じた支援を行っています。
その支援先の1つである一般社団法人海洋文化創造フォーラム(外部リンク)は、日本財団が推進する、「海と灯台プロジェクト」(外部リンク)に取り組む団体です。
灯台は明治から昭和にかけて、航路標識として船の安全を守るために設置されてきました。しかしGPSの発展により、従来の役割は薄れつつあります。同団体はその価値を改めて明らかにし、地域のシンボルとしての活用や、まちおこしの拠点、そして新しい海洋体験の創造を目的に活動しています。
今回、海洋文化創造フォーラムスタッフの山口健(やまぐち・たけし)さんに、団体の目標や助成金を活用して取り組みたい課題、さらに申請時に意識したポイントについて伺いました。

地域の灯台に新たな価値を。文化財としての可能性
――海洋文化創造フォーラムの活動内容について教えてください。
山口さん(以下、敬称略):私たちは官民・専門家と連携し、海洋文化資産の記録保存と価値向上、情報発信に取り組んでいます。その一環として、灯台の価値や魅力の発信、新たな海洋体験の創造を目指す「海と灯台プロジェクト(※)」を推進しています。
- ※ 日本の灯台を海洋文化資産として地域活用し、灯台を中心に海の記憶を掘り起こして地域間や異分野をつなぎ、海と人と灯台の関係性を構築するプロジェクト

山口:主な活動としては、「新たな灯台利活用モデル事業」「海と灯台利活用チャレンジ事業」があります。いずれも、灯台を活用したイベントやコンテンツ制作の事業プランを公募し、支援するものです。2025年度は全国延べ21事業を展開しており、各地の灯台や地域ならではの歴史や魅力を生かした取り組みを通じて、灯台の存在価値を⾼め、灯台を起点とする海洋文化を次世代へと継承することを目指しています。
さらに、国が定めた「灯台記念日」の11月1日から11月8日まで全国で一斉に「灯台に行こう!」と呼びかける「海と灯台ウィーク」や、研究者・専門家との協働による「海と灯台学」研究などにも力を入れています。

山口:私たちは、灯台を中心に地域の海の記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにない異分野や異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していくことを目指しています。
現在、日本全国には約3,000基の灯台がありますが、最近では灯台の役割を知らない人も増えています。もともと灯台は沿岸や港の入り口など、危険な岩礁や浅瀬の近くに設置され、船がどこに陸地や航路の入り口があるかを視覚的に確認できるようにする役割を果たしていました。また、灯台の点滅パターンや光の色は場所ごとに異なり、海図(海の案内図)と照らし合わせることで、自分の船がどのあたりにいるのかを判断できる仕組みになっています。
しかし、GPSの発展により航路標識としての役割は薄れつつあるのが現状です。
――航路標識としての必要性が低下している灯台が、なぜ現代でも必要なのでしょうか。
山口:GPSなど電子航法技術が普及した今でも、停電や災害、機器の故障時には物理的な目印である灯台が重要です。それに加えて、灯台や灯台が立つ場所は地域のシンボル、防災拠点、文化財といった多様な価値があります。
古代から海の要所とされてきた場所に建つ灯台は、地域のアイデンティティーを支える象徴ともいえるでしょう。文化庁による重要文化財指定も進み、歴史的価値の再評価が進んでいます。さらに、灯台を災害時の一時避難場所や備蓄施設として活用する動きもあります。
私たちは灯台を「海と地域をつなぐ拠点」として活用し、訪れる人を増やすことで地域活性化に貢献していきたいと考えています。
――灯台を活用してまちおこしに成功した事例を教えてください。
山口:最も印象深いのは、長崎県平戸市生月島(いきつきじま)にある大バエ鼻(おおばえはな)灯台の事例です。このプロジェクトは2022年度の「新たな灯台利活用モデル事業」として、長崎県佐世保市出身のある女性が地域に恩返ししたいという熱意からスタートした活動になります。

山口:生月島は北側と南側で2つのコミュニティーに分かれており、両者の交流はあまり活発ではなかったんです。初年度は海が身近な北側のコミュニティを中心に活動が進められ、人口約4,000人の島で1,000人規模のイベントを成功させました。そして、2年目には南側の人々も巻き込み、南側にあった生月長瀬鼻(いきつきながせはな)灯台も利用して、2つの灯台をつなぐ「ツナガル灯台マルシェ」を開催しました。
このイベントも前年度と同様に1,000人規模の参加者を集め、大盛況となりました。マルシェでは地元のおいしい食材を使った料理を提供するお店が多数出店し、さらにステージでは地元の子どもたちのダンスや、伝統芸能、バンド演奏などが披露され、大きな盛り上がりを見せたんです。

――地域のイベントとしては大成功ですね。
山口:そうですね。モデル事業は3年を目途にプロジェクトを自走化していくことを目標としています。大バエ鼻灯台のプロジェクトでは、2年目の途中から地元にUターンした2人の若者が中心となって結成された会社「ガッタライ」(外部リンク)が運営委員会に加わり、3年目にはこの会社が事業がの中心的な役割を担い、現在も毎月1回、イベントを開催しています。最近では教育委員会とも連携し、学生を誘致するようなイベントも実施されているんです。
ガッタライのメンバーは、愛する故郷が過疎化していくことに課題意識を持っていました。「過疎化、高齢化する地元に灯台プロジェクトを通して可能性を示し、それに刺激を受けて立ち上がる若者が現れるように活動していきたい」と話していたことが印象的です。
また、彼らの活動に対して地元の年配の方からも「嬉しかばい。応援するけん頑張らんばよ!」という激励の声が聞かれています。モデル事業が自走化し、持続可能な活動として地域に根付いていることが伺えます。
地域に根づく文化を育てる。日本財団のポリシーに共鳴
――日本財団のポリシーに共感した点がありましたら教えてください。
山口:支援を終わりにするのではなく、事業を地域に根付かせ、文化として永続させようとしている点です。その実現に向けて、各地のモデル事業の自走化をどう進めるのかを、日本財団とも適宜相談しながら検討しています。
●助成金の申請から採択されるまで
――助成金の申請にあたって準備したものや、書類作成をする上で苦労したこと、工夫した点などはありますか。
山口:最も時間をかけたのは事業計画の立案です。連携する地域団体の方々、海上保安庁、専門家など幅広い方々からのヒアリングに加え、直接関係ない先行事例についても調べ、事業を次のステージへと進化させるよう意識して作成しました。
書類作成で工夫した点は、プロジェクトの規模が大きいからこそ、単なる理想論に見えないよう、地域の声や文化的意義をしっかりと盛り込み、説得力を高めるように努めたことです。
――採択後の流れについて教えてください。
山口:採択通知を受け取った後、契約を締結します。その後、速やかに助成金が交付されました。例えば2024年度のプロジェクトでは、4月1日に契約を開始し、5月末には助成金が口座に振り込まれました。
●助成金活用後の対応
――助成金を使用した後に必要な処理や、報告書の作成で意識した点などがありましたら教えてください。
山口:事業完了報告書や監査資料は入念に準備しています。特に意識しているのは、日本財団指定の報告書に加えて、独自に報告書を作成することです。これは1年間の活動を振り返り、自分たちの取り組みを整理する大切な機会になると考えています。
また報告書には、写真や参加者の声を盛り込み、活動の熱量が伝わるように工夫しています。そのためイベント実施前には、関係者や地域団体に、写真撮影やインタビュー記録をしっかり取るようにお願いしています。
意義に沿ったプロジェクトや文化継承に焦点を当てた事業を実施
――助成金を活用して、特に効果を感じた部分はありますか。
山口:新たな灯台利活用をしたいというニーズが増え、公募内容の質も向上している点です。活動実績やメディアでの露出を通じて、「海と灯台プロジェクト」の文化継承という本質的な意義が広く伝わるようになり、全国各地に協働する仲間が増えてきました。
またメディア案内状を作成して取材を誘致したり、イベント後にレポートを発信したりすることで、テレビのニュースやウェブ記事で取り上げられるようになり、灯台の魅力や利活用事例が広く伝播され、全国的な注目度が高まったことも大きな成果だと考えています。
日本財団担当者から見たプロジェクトの魅力
本プロジェクトは、歴史的・文化的価値を有する灯台を地域資源として再発見し、その魅力を社会に発信する取り組みです。灯台守にまつわるエピソードや、各灯台が持つ背景など、地域に根ざした記憶や物語を活かしながら、航路標識としての役割が薄れつつある灯台の新たな利活用が各地で進められています。
地域の担い手の皆さまと共に活性化を目指す本プロジェクトは、高い新規性を有し、他地域への波及効果も期待される点が大きな特徴です。今後、全国各地へのさらなる展開が見込まれるモデルケースとして、ぜひご注目いただければ幸いです。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。