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性暴力の傷を二人で抱え込まないために。被害者のパートナーが直面する孤独と、必要な支援とは
- 性暴力の被害者の回復には、パートナーや身近な人の関わりが大きな影響を与える
- 一方で、被害者のパートナーは怒りや自責感、パートナーとの関係に悩みを抱え、孤立しやすい
- 被害者とパートナーの双方に適切な知識と支援を届けることで、回復を後押しできる
取材:日本財団ジャーナル
もし、あなたの大切な人が性暴力被害に遭ったら、あなたはどう寄り添えばいいのでしょうか。
痴漢や盗撮、セクシュアルハラスメント、性的暴行など、本人が望まない性的な言動や行為は「性暴力」と呼ばれ、被害者の心身に深刻な影響を及ぼします。
PTSD(=心的外傷後ストレス障害※)を発症したり、自責の念に苦しんだり、他者から「あなたにも落ち度があったはずだ」といった心ない言葉を浴びせられ、二重の傷を負うケースもあります。
- ※ 「PTSD」とは、命の危険を感じる出来事や、過度ないじめ、性的暴力に遭うなど、強いショックを受けた体験が原因で、心と体にさまざまな症状が現れ、日常生活に支障をきたす病気
こうした性暴力被害者の回復には、周囲の人や支援機関の支えが欠かせません。なかでも、家族やパートナーなど、身近な人との関わりは、回復を左右するカギになるといわれています。
一方その過程で、被害者を間近で支えるパートナー自身もまた、戸惑いや孤立感、強いストレスを抱えがちです。その背景には、婚姻関係にないパートナーは支援の対象に含まれにくい傾向にあること。そして、性被害を経験した方とのパートナー関係に関する適切な情報や、相談先にアクセスしづらいという課題があります。
そんな支援の空白を埋めるべく、性暴力被害者の男性パートナーの語り場「寅さんのなみだ」を開催してきたのが、性暴力撲滅に向けた啓発活動に取り組むNPO法人しあわせなみだ(外部リンク)です。
本記事では、理事長の千谷直史(ちや・なおふみ)さんに、性暴力被害者のパートナーが直面する苦悩や必要な支援、性暴力のない社会を実現するために、私たち一人一人にできることについて話を伺いました。

怒りや悲しみ、孤立。性暴力被害者の男性パートナーの苦悩
――性被害を打ち明けられた男性パートナーは、具体的にどのような感情を抱くのでしょうか。
千谷さん(以下、敬称略):以前、知り合いから性被害を告白されたことをきっかけに、しあわせなみだにつながりました。今回は、私たちが運営する語り場に参加した方々の声に合わせて、私自身が感じたことをお答えします。
まず私の場合は、加害者に対して、これまでに感じたことのないような、すさまじい怒りを感じました。同時に「自分が被害を防げたのではないか」という強い自責感にもとらわれました。そして、同じような感情を抱く男性は多い印象です。
加えて、「どう反応すべきか分からなかった」という声をよく耳にします。
混乱のあまり「気にしなくてもいいんじゃないか」「勘違いかもしれない」と被害を軽視するような言葉をかけてしまったり、「服装のせいで被害に遭ったのではないか」といった被害の責任が被害者にあるような考え方をしてしまったりする人もいます。

――なぜ、そのような考え方や言動をしてしまうのでしょうか。
千谷:性被害のような理不尽な出来事が起きたとき、人は「被害者になんらかの落ち度や問題があったのではないか」という考え方を持ちやすいといわれています。
なんの落ち度もない人が被害に遭ったという現実を受け入れることができず、混乱する感情を処理するために、被害者側に落ち度を見出そうとする心理が働くためです。
また、性暴力に対する誤った認識が、不適切な言動を招いてしまうこともあります。
例えば、被害者の中には、心を守るために、被害を正面から受け止めず、あえて明るく振る舞う人もいます。そうした様子を見て「たいしたことではなかったのだ」と受け取ってしまうと、被害の深刻さを否定する言動につながりかねません。
そうした言動は、被害後にさらに被害者が傷つけられる二次被害として「セカンドレイプ(※)」と呼ばれています。
- ※ 「セカンドレイプ」とは、性犯罪の被害に遭った後、被害時の服装や行動を問題視されたり、「たいしたことではない」「早く忘れるべき」など被害を矮小化したりする周囲の言動によって、被害者がさらに傷つけられること

――強い怒りや自責感を抱く一方、二次加害に至ってしまうこともあるという矛盾から、動揺の大きさが伝わります。男性パートナーは、心にどのような影響を受けているのでしょうか。
千谷:被害者に寄り添って、トラウマ体験や苦しみに触れ続けることで、被害者と同じようなストレス反応が生じる二次受傷(※)が起こることがあります。
ただ、男性パートナーはこうしたつらさにふたをして、誰にも相談できないまま、一人で抱え込んでしまいがちです。背景には、「男は強くあらねばならない」という固定観念や、パートナーのプライベートな情報を他者に話すことができないという葛藤があります。
さらに、性暴力の話題すら「エロコンテンツ」として消費されがちな風潮への抵抗感が強まり、ほかの男性との間に溝が生まれることも珍しくありません。
- ※ 「二次受傷」とは、トラウマ体験をもった人の話を聞くことで生じる、被害者と同様の外傷性ストレス反応のこと
パートナーは「医師やカウンセラーの代わり」にはなれない
――パートナー関係ではどのような悩みが生じるのでしょうか。
千谷:「性暴力被害に遭ったパートナーとどう接するべきか分からない」というのが主な悩みです。男性側はどんな言動が相手を傷つけてしまうのかが分からず、関係がぎくしゃくしやすいんです。
例えば、「一緒にテレビを見ていて、性暴力を想起させる場面があったとき、すぐに消すべきか、何事もないように振る舞うべきか。どちらにしても傷つけそうで不安」といった声はとてもよく挙がります。
さらに、互いに心に傷を負っている状態が続くと、相手に依存し合う共依存(※)に陥ることがあります。そうなると、「自分がいないときに被害の記憶がよみがえって、パートナーが自殺してしまったらどうしよう」といった大きな不安を抱きやすくなります。
- ※ 「共依存」とは、自分の価値を周囲の基準だけで判断したり、他者の問題解決や期待に応えたりすることに集中するあまり、自己犠牲的な献身に傾き、自分自身に目を向けられなくなっている状態
――共依存が深刻化すると、どのような変化が見られますか。
千谷:共依存が進むと、外出や仕事などの社会生活を送る上で当たり前のことができなくなり、生活全般に深刻な影響が及ぶことがあります。
例えば、「仕事を休みがちになり、お金が足りなくて家賃を滞納してしまう」「友人との誘いを断り続け、誰からも誘われなくなる」といった、以前と明らかに変わったところがあれば要注意です。
こうした状況であっても、誰にも相談できず、二人きりで苦しんでいる人は、可視化されていないだけでたくさんいるのではないかと考えています。


男性パートナーへの支援が、被害者の回復につながる
――あらためて、しあわせなみだという団体について教えてください。
千谷:2009年に前代表で理事の中野宏美(なかの・ひろみ)が設立した団体です。
性被害当事者ではない第三者の立場から、被害者支援に関する情報提供や、研修・講演、行政への意見提出などに取り組んできました。
活動を続ける中で、「パートナーの存在によって性被害からの回復が早くなる人がいる」ということが見えてきました。そこで、パートナーを支えることが間接的に被害者を支えることにつながるのではないかと考え、2016年に性暴力被害者の男性パートナーの語り場「寅さんのなみだ」を立ち上げました。
「寅さんのなみだ」という名前は、「自分たち男だって、つらいと認めてよい場である」ということを表したいと考え、初期の頃の参加者と共に決めました。
――しあわせなみだが、性暴力被害者の男性パートナーへの支援を重視する理由を詳しく教えてください。
千谷:男性パートナーが適切な支援を受けることで、共依存や共倒れを回避しながら、適切な距離感で、孤立・疲弊することなく、被害者を支えることができるからです。
性被害からの回復には、医師やカウンセラー、支援団体、家族など、多方面からの支援体制があるのが理想で、パートナーは、あくまでもそのうちの一人なんです。
パートナーだけで支えようとすると、負担が集中し、結果として被害者の回復を遅らせてしまうこともあります。だからこそ、パートナーは、適切に外部の支援を頼りながら、二人で穏やかで楽しい時間を重ねていくことに専念してほしいと考えています。
――「寅さんのなみだ」に参加した性暴力被害者の男性パートナーたちからは、どんな声が寄せられていますか。
千谷:「誰にも言えなかった悩みを話せて、孤独感がやわらいだ」という声はとても多いです。「男は人に弱みを見せてはならない」という先入観が強い人でも、ほかの参加者が心の内を率直に語る姿を見せると、少しずつ安心して話せるようになっていきます。
また、加害者が男性であった場合に、自分も同じ男性であることに強い嫌悪感を抱く人もいます。そうした葛藤を話してくれることもありますね。
「寅さんのなみだ」では、私をはじめ、しあわせなみだの男性スタッフが進行役を務めています。参加者が安心して話せるよう、どのように進行するか、どんな言葉をかけるかについて、工夫を重ねています。

――一方で、対面での参加が難しい人もいるのではないでしょうか。
千谷:そうですね。そうした方に向けて、24時間匿名で相談できるチャットボット「Two Drops」を制作し、2024年6月から7月にかけて期間限定で運用しました。
その際に集まった声やデータを基に、パートナーが性被害を経験した男性向けのQ&Aをまとめた「性被害に向き合う男性パートナーのためのガイドブック」を、2025年1月に発行しました。
男性パートナーが知りたい情報が載っているだけでなく、被害者本人が自身の経験や思いをパートナーに伝える際にも活用できる内容になっています。

――チャットボットやガイドブックには、どのような反響がありましたか。
千谷:「こんな悩みを抱えてもいいと知れて安心した」「同じ悩みを持つ人がいるとは知らなかった」などの声が寄せられました。
支援者の中には「加害者とパートナーが同じ性別である場合、被害者と良好な関係を継続するのは難しい」と考える人もいます。しかし、実際には男性パートナーに支えてほしい、良好な関係を築きたいと望む被害者もいるし、支えたいと思う男性パートナーもたくさんいます。
これをきっかけに、支援のあり方がいっそう発展していくことを期待しています。

「NO」を言える第三者が性暴力のない社会をつくる
――しあわせなみだの今後の展望を聞かせてください。
千谷:性暴力で苦しむ人をなくすことです。そのために、性暴力を起こさない環境と、被害者を支える仕組みの両方をつくる必要があります。
性暴力を起こさない環境づくりには、正しい知識を広めることが欠かせません。今後は、若い世代への啓発を目的にしたショート動画を公開する予定です。
そして、被害者を支えるためには、公的機関による支援の拡充や質の向上が必須です。残念ながら、事情聴取の過程で二次加害を経験し「被害そのもの以上につらかった」と語る人もいます。警察や検察などの公的機関であっても、性暴力に関する正しい知識が十分に共有されているとは限りません。
だからこそ、公的機関への啓発に力を入れていきたいです。そのほかには、「障害のある人の性暴力被害」についても取り組んでおり、警察で複数回の講座を実施しています。

――性暴力を起こさない社会をつくるために、私たち一人一人にはどのようなことができるでしょうか。
千谷:まずは「性暴力とは何か」を正確に知ること。性暴力は「された側が嫌だと感じた性的な出来事」ですが、きちんと理解していない人がとても多いんです。
加害者は自分の基準で「これくらいなら大丈夫だろう」と性暴力に及び、「これも性暴力と呼ぶのか」と怒ることさえあります。しかし、そんなことがまかり通る社会はおかしいのだと、多くの人に認識してもらいたいです。
そして、被害者だけに声を上げる責任を負わせるのではなく、周囲の第三者が加害者に「NO」を突き付け、被害を発生させづらい社会をつくらなければなりません。
――それでも性暴力が起こってしまったときは、どうすればいいのでしょうか。
千谷:被害者は自己嫌悪や自責感にとらわれやすいため、周囲の人が寄り添い、孤立させないことが大切です。そして、支えが持続可能なものとなるよう、苦しいと感じたときは、勇気を出して外部の支援機関に頼ってほしいと思います。
一方で、相談の受け皿が足りていないのも事実です。相談先が増えること、そしてパートナーを支えることが間接的に被害者を支えることにつながるという考え方がもっと社会に共有されていくことを願っています。
性被害に遭った人を支えるために、私たち一人一人ができること
千谷さんから、身近な人が性被害に遭ったときに、私たち一人一人にできる3つのアドバイスをいただきました。
[1]安心して話せる空気をつくり、自分は被害の真偽を判断する立場ではないことを踏まえて話を聴くことに徹する
被害を打ち明けられたときは「あなたは悪くない」と伝え、自分の感情をぶつけないことが大切。また「本当に起きたのか」といった疑念を示す質問をしない。事実確認は警察や司法の役割であり、親しい人の役割ではない。問い詰めず、ただ話を聞くことが支えになる
[2]一人で支えるのではなく、多方面の支援につなげる架け橋になる
被害者を身近でサポートしていると、二次受傷や共依存のリスクが高まることがある。一人で抱え込まず、適切な専門機関に相談するようアドバイスする。あなたが架け橋となって、被害者が医療や司法へとつなげることで、回復への道筋が描きやすくなることもある
[3]性被害を未然に防げるような環境づくりを支える
性被害を未然に防ぐためには、周囲の人が不適切な言動を見過ごさないことが重要。第三者が不適切な言動に介入することで、被害の拡大や深刻化を防ぐことができる。こうした行動の積み重ねが環境や組織に変化をもたらし、誰もが安全に過ごせる社会へとつながる
性被害に遭った方のパートナーを支援する団体があると聞き、なぜパートナーに支援が必要なのか、また支援がどのような意味を持つのかを知るために取材しました。
特に印象的だったのは「パートナーの二次受傷」の話です。犯罪被害者の家族に二次受傷や家庭内不和が起こることがあるのは想定されており、すでに一定の支援体制が整っています。
しかし、婚姻関係にないパートナーへの支援は、彼らが被害者にとってもっとも近しい存在の一人であるにもかかわらず、多くの機関で対象外とされているのが現状です。
性暴力が、被害者だけでなく周囲の人の人生まで変えてしまう、れっきとした犯罪であること、パートナーが被害者の回復を助けるキーパーソンであることを踏まえると、性暴力被害者のパートナーへの支援の不足は大きな課題と言えます。
まずは公的機関において、十分な支援の受け皿が確保されることを願ってやみません。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。