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国際情勢の緊迫化で揺れる安全保障への意識。18歳意識調査から読み解く若者の戸惑いと現実感
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団が2026年3月に実施した18歳意識調査「国家安全保障」(別タブで開く)では、ウクライナやイランでの戦争などの国際情勢を背景に揺れる若者の意識が見られました。
今の日本を取り巻く状況について、「平和である」または「どちらかといえば平和である」と答えた人は全体の48パーセントであり、2023年1月に同じ内容で実施した調査よりも16ポイントも減少しました。
質問:あなたは、今の日本を取り巻く状況をどのように捉えていますか。(選択式・単一)

日本が平和である要因は「非核三原則の存在」が引き続き1位であるものの、前回3位だった「日米同盟の存在」が7ポイント減少して5位に後退し、逆に「自衛隊の存在」が9ポイント増加して2位に上昇しました。
質問:日本が平和である主な要因は何だと思いますか。3つまで選んでください。

安全保障政策については、防衛関係費の増額について「賛成」または「どちらかといえば賛成」が35パーセント、「反対」または「どちらかといえば反対」が24パーセントと、いずれも前回調査から減少し、代わりに「わからない」が大幅に増えて41パーセントとなりました。
「わからない」が増える傾向は、注力すべき安全保障政策を尋ねた質問や、国内の米軍基地について尋ねた質問などにも共通して見られ、国際秩序の混乱を背景に戸惑う若者の姿がうかがえました。
質問:2026年度政府予算案で、防衛関係費が初めて9兆円を超えました。あなたは防衛関係費を増やす政府のこの方針について、どのように考えますか。(選択式・単一)

他方で、前回の調査と同様に、自衛隊や米軍の基地や駐屯地の近くの自治体に住んだことがある人ほど、自衛隊の活動や国内の米軍基地に好意的な意見を持つ傾向が見られました。
一般に、基地や駐屯地に対する近隣住民の見方には賛否両論があると考えられますが、本調査からは、身近に存在することでポジティブな理解につながっている様子が見て取れました。
質問:あなたは、これまでの自衛隊の活動について、どのように評価しますか。(「評価する」「どちらかといえば評価する」と答えた人の割合、自衛隊近隣居住経験別)(選択式・単一)
※1.「国際平和協力活動」とは、国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動のこと
※2.「他国の活動に対する後方支援」とは、整備や補給、輸送支援などの活動のこと

日本の安全保障はどうあるべきなのかと戸惑う若者の意識を、どのように捉えたらよいのでしょうか。また、大人は彼らに何をしてあげられるのでしょうか。
今回は、国際政治がご専門の慶應義塾大学総合政策学部教授の鶴岡路人(つるおか・みちと)先生にお話を伺いました。

国際情勢への不安と、「平和が当たり前」の日本
まずは、日本を取り巻く状況について。「平和である」「どちらかといえば平和である」と回答した割合が3年前から大きく減少していますが、前回の調査が行われた2023年1月時点でも、ロシアによるウクライナの全面侵攻は始まっていました。最近では、イラン情勢を巡る中東での衝突も多く報道されています。
とはいえ、この3年間を通して、インド太平洋地域や日本の周辺では、多くの犠牲者が出続けるような紛争・戦争は発生していません。若者の平和に対する意識がどうしてこれほど変わったのかは解釈が難しいところですが、トランプ政権下の米国の動向など、国際秩序の不安定化を伝える報道が多くなされる中で、安全保障について漠然と不安を感じる人が増えたのではないでしょうか。
平和への実感は「日本を取り巻く状況」について尋ねているのに対し、次の質問では「日本が」平和である要因を尋ねているため、対象とする範囲がやや異なる点には注意が必要です。
18歳前後の若者に限らず、日本を取り巻く環境は危険だが、日本国内は安全であると捉えている人も多いと思います。その発想はとても素直で、いくらウクライナで戦争が続き、南シナ海が不安定になろうと、私たちの日常生活への影響を実感する機会は少ないのでしょう。
日本人にとっては、いきなりミサイルが飛んできて犠牲者が出たり、外国に占領されて連れ去られたりするなどの危険性がないことは当たり前で、戦後80年間、そうやって暮らしてきました。ただし、世界を見渡せば、ウクライナやガザの人々にとっては、ミサイルが飛んでくることも占領や連れ去りも、残念ながら日常の光景となってしまっています。
なぜ日本はそのようにならずに済んでいるのか。放っておいても日本は平和なのか、あるいは誰かの努力によって平和が維持されているのかを考えてみることは、若者にとっても大切なことです。
正解のない安全保障や防衛費の特殊性、「わからない」は若者のリアル
安全保障政策に関する質問に「わからない」という回答が増えたことについて、憂慮すべき結果だとか、もっと関心を持つべきだなどと言いたくなる大人は多いかもしれません。しかし、私は逆に、正直で信頼できる回答だと感じています。安全保障について具体的にイメージができている若者は多くなく、それ自体は嘆かわしいことでも不思議なことでもありません。
安全保障に対する関心が低いことは果たして問題なのか、という議論もできます。
国民全員が日々安全保障について強く意識している状況があるとしたら、イスラエルやウクライナ、あるいはロシアなど、緊迫した状況下にある国々でしょう。日々安全保障を意識する状況が幸せであるとは思いません。日本の若者が安全保障について考えていないとすれば、それは、日本が平和な証拠でもあります。
ただし、日本人だけが呑気に過ごしているうちに、周囲の国から攻撃を受けるようなことがあっては困るため、どこかに一線を設けて、平和を維持するための努力を強化する必要があります。
安全保障政策には、客観的な「正解」はありません。今回の調査の中でも、防衛関係費が9兆円を超えたことについて賛否を尋ねていますが、若者ではなくても回答が難しいものだったと思います。
というのも、世間でもあまり理解されていませんが、あるべき防衛費は、必要額の積み上げによって算出できるものではなく、本当に必要な額が客観的に自動で決まることはありません。必要額は定義次第でいくらでも変わる、とも言えます。
例えば、「パトリオット」という防空システムがあります。飛来するミサイルに対して迎撃ミサイルを発射して空中で破壊するというものですが、その迎撃弾は何発あれば十分でしょうか。仮に500発しかなければ1週間で使い果たしてしまうかもしれませんが、では1万発必要だとなれば、必要な費用は肥大化しますし、貯蔵場所にも困りそうです。それによって、他の必要な分野に手が回らなくなるかもしれません。
そうだとすれば予算の範囲内で、優先順位を踏まえて、できる限りの備えをするしかありません。予算の総額を決めるのが政治家の重要な責任です。
そもそも防衛費とは、「保険」のようなものです。1954年に自衛隊が発足してから70年以上が経ちますが、自衛隊が買った弾薬の多くは実際には使われず、お金をかけて廃棄しているのが現状です。
一見すると無駄のように思えるかもしれませんが、防衛においては、「使わなくて済むこと」こそが成功なのです。私たちが普段スーパーマーケットなどでする買い物とは異なり、「将来使うかもしれないけれど、使わなければそれに越したことはないもの」をたくさん買うのが防衛なのです。
これほどまでに防衛費や防衛調達は特殊なもので、18歳の若者に限らず、みんなに理解してもらうのは難しいのが現実です。とはいえ、防衛予算が増えるなかで、政府にはいままで以上に説明のための努力をすることが求められます。
若者世代の負担に対する的確な意見も。さらに理解を深めるために必要なことは?
ただ、若者がとても的確に現実を捉えていると感じる部分もありました。
防衛関係費の増額のための方法を尋ねた質問がありますが、防衛費を持続的に増やそうとすれば、その手段は「増税」、「他の予算の削減」、「借金(国債の発行)」のいずれかしかありません。若者の回答は、このことを現実的に捉えていると思います。
一方、政治の世界からは、「負担なき防衛費増額」という現実性に欠けた、不誠実な議論もよく聞こえてきます。選挙での有権者の支持を意識する政治家にとっては、社会保障費の削減も増税も、口にしにくいのが本音でしょう。
社会保障費以外の支出も、徹底的に査定されて必要最低限となっているはずなので、減らすのは簡単ではありません。そこで「防衛国債」に頼ろうという話が出てきます。過去には日本でも、日清、日露の戦争から日中戦争、太平洋戦争など、戦費調達のための戦時国債を発行した歴史があります。
しかし、国防という国の根幹となる分野において平時から借金に頼るのは無責任にみえます。有事の際にはさらに借金に頼ることになるわけで、若い世代が心配するのは正しい感覚です。
2026年2月の衆議院議員選挙の際には消費減税を掲げる政党が多数派となりましたが、日本の財政状況を踏まえ、減税に対して憤る若者の声も聞かれました。今後60年、70年と日本社会を生きていく世代からすると、非常に自然な心配事だと思います。そのことがはっきりと表れている、興味深い結果でした。
若者に対するものに限りませんが、安全保障に関しては、正直な情報発信が今後さらに必要になると思います。今回の調査では、自衛隊の基地や駐屯地が身近にあった人ほど、自衛隊の活動を高く評価しているという結果もありました。
この結果が示すのは、知ってもらうことで理解が広がる可能性です。日本の多くの高校生や大学生にとって、制服を着た自衛官は遠い存在です。たまたま近くに基地や駐屯地がない限り、彼らを見たこともなければ、喋ったこともない人がほとんどなのではないでしょうか。
これはあまり望ましいことだとは思いません。他の職業も含め、いろいろな人が多様な仕事をしていることを知るという観点でも、身近で見たり接したりすることで、理解が広がっていくことが期待されます。また、政府や自衛隊にとっても、理解を広げるためにどのような発信ができるか、さらなる努力が求められていると思います。
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