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地震、水害、火災…もしも自宅が被災したら。生活再建で使える公的支援と申請の流れ

被災した街
被災した人を支援するさまざまな公的支援が存在する
この記事のPOINT!
  • 甚大な被害をもたらす災害が増加。今後も巨大地震の発生が予想されている日本
  • 被災したときに、住宅再建などに活用できる国や自治体などの支援が数多く存在する
  • 1日も早く日常を取り戻すためには、公的支援の種類や手続きなど把握しておくことが重要

近年、甚大な被害をもたらす自然災害が増えています。2023年7月には、福岡、佐賀、大分など九州の広範囲な地域で、線状降水帯(※)が原因の記録的な大雨が発生し、大規模な水害が起こりました。

さらに、南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など、近い将来発生する可能性が高いと指摘されている巨大地震も数多く存在(※)しています。

災害大国、日本では誰もが被災者になる可能性があります。

イメージ:いろいろな自然災害

もし自宅が被災したら、ぜひ活用したいのが国や自治体などによる公的支援です。

2023年9月1日に迎える関東大震災100年を前に、この記事では、内閣府の「被災者支援に関する各種制度の概要」(外部リンク/PDF)を参考に被災した際の公的支援の一例と、その申請のために必要な手続きを解説します。

自宅が被害を受けるというのは精神的なダメージが大きいものですが、1日でも早くもとの生活を取り戻すために、冷静に対処できるよう備えておきましょう。

罹災証明書を発行するには

自宅が被災した際に公的支援を受けるためには「罹災証明書(りさいしょうめいしょ)」が必要になります。罹災証明書とは被害程度を公的に証明する書類のことで、各自治体で申請・発行を行います。

罹災証明書を申請するためには、被害状況を写真や動画で記録する必要があります。被災したら「一刻も早く片付けないと!」と焦ってしまう人も多いかもしれませんが、まずは、以下のポイントに気をつけながら被害状況を記録に残すようにしましょう。

1.被害状況を撮影する

[撮影するときのポイント]

  • 自宅の外の様子が分かるように4方向から撮影する
  • (水害の場合)浸水の高さが分かるように撮影。近くに人が立つと比較しやすい
  • 屋外設備(エアコンの室外機や配管)や、屋外に置いているもの(自動車、物置、納屋、農機具)も撮影する
  • 家の中(天井、床、壁)や、濡れてしまった家具や家電の被害状況も記録。家具や家電はメーカーや製品番号が分かるように撮影する
  • 自分が必要だと思う3倍の枚数の撮影をしておくと安心
イラスト:
1.被災した部屋ごとに全景を撮影
2.被害を受けた箇所全体が分かるよう撮影
家の中の撮影ポイント。引用:政府広報オンライン「住まいが被害を受けたとき 最初にすること」(外部リンク)

2.自治体や消防署に罹災証明書の発行を申請する

次に自治体や消防署に罹災証明書の発行を申請します。自治体によってはオンラインでの申請も可能となっています。

[申請するときに必要なもの]

  • 申請書:自治体ごとに書式が異なる
  • 本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど
  • 破損した家屋の写真:破損の状況が分かる写真

[申請書の提出先]

  • 自然災害の場合は、市区町村の役所
  • 火災の場合は、所轄の消防署

[注意点など]

  • 罹災証明書が発行されるまでには数週間から1カ月以上かかることも。早めの申請を
  • 被害認定の判定に不服や疑問がある場合は、再調査を申請することも可能。写真や動画などは申請後も大切に保管しておく
  • 納屋や車庫などの住居ではない建物の損害は、被害の程度を証明する罹災証明ではなく、被害を受けた事実を証明する「被災証明書」が必要になる

3.罹災証明書の発行

罹災証明交付申請書を提出すると、申請書の内容に基づく自治体による調査が行われ、罹災証明書が発行されます。

申請方法などは市区町村によって異なりますので、詳しくは自治体窓口にお問い合わせください。

東京都大田区のり災証明申請書:
(あて先)大田区長(大田区災害対策本部長)
(申請者)住所、氏名、電話番号

記入項目
・り災者:住所、氏名
・世帯構成員(貸家所有者の場合は不要):氏名、続柄
・り災原因
・り災建物。チェック項目/所在地 り災住所と同じ、その他()/住家(※)、非住家()/木造・プレハブ、非木造/持家、借家、貸家
※住家とは、現実に居住(世帯が生活の本拠として日常的に使用していることをいう)のために使用している建物のこと。(被災者生活再建支援金や災害救助法による住宅の応急修理等の対象となる住家)

自治体確認欄
・本人確認。チェック項目/運転免許証、個人番号カード、パスポート、健康保険証、その他()
・受付欄
罹災証明交付申請書の例。自治体によって書式は異なる。引用:東京都大田区「り災証明書(罹災証明書)の発行について」(外部リンク)

支援金額を左右する被害認定基準

罹災証明書により証明される被害には「全壊」「半壊」など基準が設けられており、それにより支援金額などが変わります。

被害認定基準の目安は次のとおりです。

全壊

住居の延べ床面積の70パーセント以上が倒壊、流失、埋没、焼失したり、損壊が激しく、再使用したりすることが難しい状態。また、家の損害割合が50パーセント以上に達した場合。

大規模半壊

住居の延べ床面積の50パーセント以上、70パーセント未満が損壊し、大規模な補修を行わなければ住み続けることが難しい状態。また家の損害割合が40パーセント以上、50パーセント未満程度の状態。

中規模半壊

住居の延べ床面積の30パーセント以上、50パーセント未満が損壊し、補修を行わなければ住み続けることが難しい状態。また家の損害割合が30パーセント以上、40パーセント未満程度の状態。

半壊

住居の延べ床面積の20パーセント以上、70パーセント未満が損壊しているが、補修すれば元どおりに再使用することができる状態。また家の損害割合が20パーセント以上、50パーセント未満程度の状態。

準半壊

住居の延べ床面積の10パーセント以上、20パーセント未満が損壊している状態。また、家の損害割合が10パーセント以上、20パーセント未満程度の状態。

イメージ:災害を受けた家
住居の損壊レベルによって受けられる支援金額も変わる。申請時にはしっかり記録を残す必要がある

被災のケース別で見る公的支援の種類

被災した際、受けられる公的支援は多数あります。その一例をケース別に紹介します。

【住まいが被害を受けた場合】

被災者生活再建支援金

災害によって住居が全壊するなど、生活基盤に大きな被害を受けた世帯に対して支給される支援金です。支給金額は次の通りです。

被災者生活再建支援金の支給額早見表:
1.全壊(損害割合50%以上) 2.解体 3.長期避難の場合
●基礎支援金(住宅被害程度)
100万円

●加算支援金(住宅の再建方法)
・建設・購入200万円。基礎支援金と合わせて計300万円
・補修100万円。基礎支援金と合わせて計200万円
・賃貸(公営住宅を除く)50万円。基礎支援金と合わせて計150万円

4.大規模半壊
●基礎支援金(住宅被害程度)
50万円

●加算支援金(住宅の再建方法)
・建設・購入200万円。基礎支援金と合わせて計250万円
・補修・100万円。基礎支援金と合わせて計150万円
・賃貸(公営住宅を除く)50万円。基礎支援金と合わせて計100万円

5.中規模半壊
●基礎支援金(住宅被害程度)
なし

●加算支援金(住宅の再建方法)
・建設・購入100万円
・補修50万円
被災者生活再建支援金の一覧。引用:内閣府(令和5年6月1日現在)「被災者支援に関する各種制度の概要」(外部リンク/PDF)

ただし、被災時に住んでいた家(世帯)が対象となるため、空き家、別荘、他人に貸している場合は支援の対象外に。

災害援護資金

災害により負傷した人、住居や家財の損害を受けた人に対して、生活の再建に必要な資金を貸し付けする制度。貸付限度額や利息などは次の通りです。

災害援護資金の詳細:
貸付限度額
1.世帯主に1カ月以上の負傷がある場合
ア 当該負傷のみ150万円
イ 家財の3分の1以上の損害250万円
ウ 住居の半壊270万円
エ 住居の全壊350万円

2.世帯主に1カ月以上の負傷がない場合
ア 家財の3分の1以上の損害150万円
イ 住居の半壊170万円
ウ 住居の全壊(エの場合除く)250万円
エ 住居の全体の滅失または流失350万円

貸付利率
年3%以内で条例で定める率(措置期間中は無利子)

据置期間
3年以内(特別の場合5年)

償還期間
10年以内(据置期間を含む)
災害援護資金の内容。引用:内閣府(令和5年6月1日現在)「被災者支援に関する各種制度の概要」(外部リンク/PDF)

[支援対象となる世帯]

  • 世帯主が災害により負傷し、その療養に約1カ月以上かかった世帯
  • 家財の3分の1以上の損害を受けた世帯
  • 住居の半壊、または全壊、流出した世帯

ただし、市区町村民税における、前年の総所得金額による所得制限があります。

日常生活に必要な最小限度の部分の修理(住宅の応急修理)

被災した住宅の居室、台所、トイレなど日常生活に必要な最小限度の部分を応急的に修理してくれる制度です。

[1世帯当たりの修理限度額※]

  • 大規模半壊、中規模半壊、半壊(半焼)の世帯:70万6,000円以内
  • 準半壊の世帯:34万3,000円以内
  • 令和5年(2023年)4月基準

被災後の住宅再建にはさまざまな利用できる制度があります。NHKが作成したロードマップなどを参考に、自分たちに合った再建方法を組み立てましょう。

このフローを参考に住宅の再建方法について検討しましょう

1.り災証明の申請

2.基礎支援金の申請を検討※被災者生活再建支援金

3.住宅再建の方向性を検討。解体・転居など

4-1.自宅を修理して済む場合
住宅の応急対応(乾燥・消毒など)→応急修理(補助)制度の申請を検討→見積もりを複数取る→契約加算支援金(制度)の申請を検討

4-2.公営住宅に引っ越す場合
公費解体(制度)の申請を検討→物件探し→入居の申し込み→契約

4-3.住宅を建設・購入する場合
公費解体(制度)の申請を検討→見積もりを複数取る。物件探し→ローンの申し込み→契約→加算支援金(制度)の申請を検討

4-4.賃貸住宅に引っ越す場合
公費解体(制度)の申請を検討→物件探し→入居の申し込み→契約→加算支援金(制度)の申請を検討

5.入居
住宅再建ロードマップ。引用:NHK「避難生活&住宅再建ガイドブック」(外部リンク/PDF)

【けがや疾病により障害を負った、家族が亡くなった場合】

災害弔慰(ちょうい)金

災害により死亡された人の遺族に対し、支給されます。支給額は次の通りです。

  • 生計維持者が死亡した場合:市町村条例で定める額(500万円以下)
  • 生計維持者以外が死亡した場合:市町村条例で定める額(250万円以下)

災害障害見舞金

災害によって負傷、疾病で精神や身体に障害を負った場合、支給されます。支給額は次の通り。

  • 生計を支える人が重度の障害を負った場合:市町村条例で定める額(250万円以下)
  • 生計を支える人以外が重度の障害を負った場合:市町村条例で定める額(125万円以下)

【生活再建に資金が必要な場合】

雇用保険の失業等給付

雇用保険は失業給付だけではなく、災害によって雇用される事業所が休業することになり、一時的な離職または休業を余儀なくされた人に、雇用保険の基本手当を支給する特例措置が実施されることがあります。

未払賃金立替払制度

災害で自分が勤める企業が倒産し、給料が未払いになっている場合、国が未払い賃金の80パーセントを立て替える制度です。

対象となる未払い賃金は、労働者が退職した日の6カ月前から立替払請求日の前日までが支払い期日となっている定期賃金(給与)と、退職手当のうち未払いとなっているもの。ボーナスや、未払賃金の総額が2万円未満の場合は対象外となります。

詳しくは、労働基準監督署(外部リンク)もしくは独立行政法人労働者健康安全機構(外部リンク)までお問い合わせください。

【子どもの養育・就学を支援してほしい場合】

教科書等の無償給与

災害によって学用品を失った小・中学校、高等学校などの児童・生徒に対して、教科書や教材、文房具、通学用品を現物支給する制度です。

小・中学生の就学援助措置

被災による経済的理由で就学が困難になった児童や生徒の保護者を対象に、就学に必要な学用品費、新入学用品費、通学費、校外活動費、学校給食費などを援助する制度です。被災地外に避難をしている人も対象となります。

高等学校授業料等減免措置

被災による経済的理由で授業料などの納付が困難な生徒を対象に、授業料、受講料、入学料などを減額、免除する制度です。

いずれも問い合わせ先は各自治体、学校となります。

【その他、各種相談窓口など】

こころの健康相談

精神保健福祉センターでは、電話や面接などで心の健康について相談を受け付けています。医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師などの専門職が相談に応じてくれます。

問い合わせ先:都道府県や指定都市の精神保健福祉センター(外部リンク)

法的トラブル解決のための総合案内所

全国の日本司法支援センター(法テラス)地方事務所や、法テラス・サポートダイヤルなどの窓口に連絡すると、法的トラブルの解決に役立つ法制度や適切な窓口を無料で案内してくれます。

問い合わせ先:日本司法支援センター(法テラス)(外部リンク)

被災者見守り、相談支援等事業

被災者が応急仮設住宅に入居する期間、安心した日常生活を送れるよう、孤立防止のための見守り支援や日常生活上の相談を行った上で、各専門相談機関の紹介などを行っています。

問い合わせ先:都道府県、市町村の担当窓口

公的支援を事前に把握しておくことが、1日も早い生活再建に

被災したことによる精神的ダメージが大きく、公的支援を十分に活用できないまま生活再建を進めようとしてしまう人も多いのが現状です。

今回紹介したのは、数多くある公的支援の中の一部。ほかにもどんな公的支援があるのか事前に調べ、地震や水害といった有事の際に備えるようにしましょう。

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。