【現地レポート】宮城県丸森町、埋もれた神社 NPOと住民が再生

災害からの復旧・復興で大切なのは個人の住宅だけではなく、地域そのものでもあります。2019年10月の台風19号で被災した宮城県丸森町では、古い神社も被害を受けました。そこで、神社の復旧を支えて、災害に強いまちづくりをめざす取り組みがありました。

写真:被災した神社。赤い鳥居の3分の2以上の高さまで、流木や土砂が埋め尽くしていました、2019年11月(黄本富士子さん提供)
被災した神社。鳥居の3分の2以上の高さまで、流木や土砂が埋め尽くしていました(2019年11月、黄本富士子さん提供)

2月上旬、丸森町の中島天神社に東日本大震災をきっかけに被災地支援を続けてきたNPO法人スマイルシードのスタッフやボランティア約30人が集まりました。

写真:がれきが撤去された中島天神社の全景。NPO法人スマイルシードのスタッフやボランティアら複数人が作業していました
がれきが撤去された神社で、NPO法人スマイルシードのスタッフやボランティアらが作業していました

山に近い平地にある中島天神社周辺には、台風で多くの土砂や流木が流れ込みました。神社の建物自体も被災し、参道の大きな杉の木に流木がからんだままになりました。

流木や土砂は重機が取り除きましたが、地面の表面を土砂が覆ったため、もとの高さより数十センチ盛り上がった状態になりました。このため、雨が降るたびに側溝付近の土が崩れて、側溝に流れ込んでしまう状態でした。

そこで、この日は神社脇にある側溝まわりの土を補強する作業が行われていました。NPOスタッフの指示で、ボランティアがてきぱきと土のうを作り、並べていきました。

写真:緑色の土のう袋に、ショベルを使って土砂を詰めるスマイルシードスタッフたち
土のう袋に土砂を詰めるスマイルシードのスタッフたち

土砂かぶった木 二次災害の危険

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スマイルシード理事長の黄本富士子さん

スマイルシード理事長の黄本富士子さん(55)は植樹会を開くほど木を大切にしてきました。被災後すぐ、丸森町に入って土砂をかぶったままの木を見て、なんとかしたいと思いました。

神社の整備は住宅と違い、後回しにされがちです。でも、このままがれきに覆われていると、木が根から腐って倒壊などの二次災害が起きる恐れもあります。

「早く土砂を取り除かないと、と思いました。それに木の根は水を吸ってくれます。大量の雨が降ったとしても、水の行き場ができることで地域を守ってくれます。木を守ることが、水害に強い地域づくりにつながります」と黄本さんは話します。

「住民も一緒に」 それが条件

11月中旬、黄本さんは氏子総代の宍戸克美さん(65)に連絡を取りました。神社をなんとかしたいという思いは、宍戸さんも同じでした。ただ、近くに住む氏子も宍戸さん自身も自宅が被災していました。「神社の片付けまでは手が回らない」と考えていたところに黄本から声を掛けられたのです。

ただし、黄本さんは住民が参加することを条件にしました。地域のつながりを深めることが、町の復興につながると考えているからです。

11月末から始まった作業では、スマイルシードのスタッフが絡まった流木をチェーンソーで裁断したり、大きな石や丸太を重機で取り除いていきました。そこに住民も多いときは十数人が参加。土砂や流木の撤去を進めました。

写真:スマイルシードのスタッフらが、鳥居周辺を埋め尽くしている流木を、チェーンソーを使いながら取り除きました(2019年12月、黄本さん提供)
スマイルシードのスタッフが、流木をチェーンソーで切って取り除きました(2019年12月、黄本さん提供)

神社が復興のシンボルに

さらにスマイルシードは集会所を会場にランチ会や絵馬作りなどのサロンを開いてきました。子どもやお年寄りが毎回50人以上集まり、交流の場となりました。

「土砂を撤去したからといって、町は復興できるわけじゃない」。スタッフで庭園管理士の鈴木寿幸さん(52)は、サロンを開く理由を話します。「被災した人は、生まれ育ったところから寸断され、精神的に不安定になります。だから人との『つながり』が必要です。一緒にご飯を食べ、絵馬を作ることで、会話が生まれ、改めて地域の絆が育まれます」

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スマイルシードスタッフの鈴木寿幸さん

取材に訪れた2月上旬、がれきがなくなった神社では赤い鳥居が太陽の光を受けて目立っていました。神社脇には、地域の人の願いが書かれた絵馬が飾られて、風に揺られていました。宍戸さんは絵馬を見つめながら、「神社が地域の人の集まる場になり、いまや復興のシンボルになりました」と喜んでいました。

写真:神社に飾られた、地域の人が書いた絵馬。「みんな幸せで健康にすごせますように」などと書かれていました
神社に飾られた、地域の人が書いた絵馬

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