ローカル・コモンズを基盤に、地域の協同で、孤立した子どもや家族の支援に取り組む、さいたま「堀崎プロジェクト」
埼玉県さいたま市で、子ども第三の居場所を二拠点運営する「NPO法人さいたまユースサポートネット」。2020年3月、遺贈寄付を用いた拠点開設第1号としてさいたま市みぬま拠点、通称「あそぼっくすみぬま」の運営を始めました。
2021年10月には、「あそぼっくすみぬま」から車で10分ほどの距離のところに2拠点目を開設。「地域の子育てコミュニティ」を醸成することを目指し、地域参加を重視した運営体制で居場所づくりに取り組んでいます。
▼「あそぼっくすみぬま」についての紹介記事
2万人を超える子ども・若者を支援してきた「NPO法人さいたまユースサポートネット」
さいたまユースサポートネットは、孤立する子どもや若者などへの持続的な支援と多様な人が交流できる地域づくりを掲げて、2011年の設立。以来、貧困世帯の小学生から高校生までを対象にした学習支援や、高校生以上の若者に対する居場所づくりと就労支援をしてきました。
また、不登校や引きこもり、障害、貧困などさまざまな困難を抱えながら自立を目指す若者が利用できる「若者自立支援ルーム(公設の居場所)」をさいたま市内で2カ所、上尾市内で1カ所、委託を受け運営しています。毎日、合計して50~70名ほどの来所があります。今までに1万人を超える若者たちと関わってきました。自立支援ルームでは、音楽・美術・演劇・スポーツなど興味関心に合わせた活動があり、心理面での相談も専門職が受けています。地域の自治会・住民とも協同の活動も行われています。
培ってきた若者支援の経験や行政や地域の企業とのネットワークを活かし、また代表の青砥恭さんが元教員であることなどから、子ども向けの支援を拡充すべく、2020年から子ども第三の居場所に仲間入りしました。
地域ぐるみで、持続的な支援体制をつくる
常設ケアモデルの「あそぼっくすみぬま」に対して、2拠点目の「あそぼっくすほりさき」はコミュニティモデルです。拠点があるのは、元々さいたま市の交流施設だった建物。会議室やアリーナは、市民の様々な活動に利用されてきました。
2020年に運営主体がさいたまユースサポートネットに移った後も、地域の人が活動する場所であることはそのままに、より地域ぐるみで子育てができる施設づくりを試みています。
もう一つの特徴が、堀崎プロジェクトの運営協議会を設けていることです。「堀崎サイト」を中心に、地域で子どもを守り育てる仕組みづくりを「堀崎プロジェクト」と命名し、地域の自治会や企業、NPO、民生委員・児童委員、社会福祉協議会、自治体(オブザーバー)、大学教員、利用者の父母などからなる運営協議会と研究者を構成員とする「評価委員会」を設立し、情報・意見交換の機会を定期的に設けています。
二つ目の特徴が、「堀崎サイト」の一角にカフェを併設していることです。これは補助金に頼らず、持続可能な運営を目指すため。コミュニティカフェとして誰でも気軽に立ち寄りやすい開けた空間であることはもちろんですが、使う食材も無農薬で店内のBGMも一つひとつこだわり、カフェとして単体での黒字経営を目標にしています。
誰もが主体となって地域に関わる、ローカルコモンズの考え
あえて協議会を設けて多様な人や組織と連携しながら運営することや、持続可能な運営体制をつくることに重点を置く根底には、「ローカルコモンズがある」と代表の青砥さんは話します。
ローカルコモンズとは、地域共同管理空間のこと。地域社会の仕組みにより、地域が持続可能性に配慮して共同管理する空間を指します。
貧困率が13.5%(出典:2020年厚生労働省「平成30年国民生活基礎調査」)となり、さいたま市内の貧困世帯で暮らす小中学生は、13,500人(「堀崎プロジェクト」調べ)と推計されます。そのため青砥さんは、行政だけではなく、地域住民や団体、企業が地域課題に関心を持ち、地域づくりに参加することが大切だと考えます。
「行政は制度設計と時限的な支援が中心です。実質的に支援を行うのは民間です。ただ、NPOなど民間の支援は量的な限界があり、面的支援を行うには十分ではありません。企業もまた資金はあっても支援のノウハウが不十分です。子どもに対して持続的な支援をするためには、行政・NPO・企業に加えて、支援・被支援の垣根を超えた住民の参加が不可欠です」
青砥さんは、地域参加型の体制が作れれば、行政の支援制度からこぼれ落ちる人も救えるのではないかと考えます。
「困難を抱えている人にも仲間に入ってもらい、足りないものや希望を聞いてみんなで取り組んでいきたいです。僕たち、NPOはお金はないけど、マンパワーやノウハウはあります。地域の関係資源のネットワークを活かしながら、子ども達を支えていきたいです」
コモンズカフェで市民の交流が!
活動を持続可能にするために、事業の柱の一つとしてスタートしたカフェ運営ですが、オープン後は困ってる人や誰かの力を借りたい人との出会いの場としても機能させたいと言います。
「コモンズ・カフェ」は2021年10月にオープンしたばかりですが、すでに何件も相談や困りごとが持ち込まれているそうです。
例えば、今後、定期的に開催される「絵本の会」。これは市内で絵本の読み聞かせ活動をしているグループが、カフェでも実施したいと声をかけてきて生まれたイベントです。
また、自宅でハンドメイド作品を制作・販売している主婦の方から、スタジオで販売イベントをしたいと相談があり、12月に開催したところ、多くの住民が訪れ、ハンドメイドの会からは、「今後も継続してこの場所を利用したい」と、期待の声がありました。
「拠点を持ったことで、私たちNPOを認知してもらうことに繋がり、協働したいとか助けて欲しいとかの声が届くようになりました。みんなで知恵を出し合えば、もっといろんなことをやれる可能性があると感じています」
カフェにはピアノがありますから、今後は、ピアノやヴァイオリンなどの奏者とコラボレーションしたコンサートをはじめ、季節ごとのイベントの開催も予定しています。
また、利用登録している子ども向けの学習支援や食事提供にとどまらず、家で一人でご飯を食べている子どもが学校や遊びの帰りにカフェへ寄れるようにもしていきたいと、子どもの支援も充実させていく方向です。
「学校にも家にも自分らしく居られる、自分らしさを発揮できる場所がないと、生きづらさを感じるのではないでしょうか。拠点にはいろんな大人が関わり、スポーツや絵本、遊びなどの興味あるものを追求できる環境があります。それらを掛け合わせながら、行政や企業、NPO単独ではできない、子ども支援の地域協働モデルを構築していきます」
みなさんは、貧困を含む子どもの課題を解決するためには、「行政や施設だけに押し付けるのではなく、地域の住民、一人ひとりができるところから関わることが必要」という青砥さんのメッセージをどう受け取られたでしょうか。お住まいの近くに、もし子ども第三の居場所があるのなら、寄付やボランティア、時には提供する事業の利用者として応援をお願い致します。
取材:北川由依
日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。