地域密着の福祉サービスを展開。ケアコミュニティの基点を目指す、熊本・玉名拠点「でぃんぐる(DingЯ)」
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熊本市の北側に位置する熊本県玉名市。ここに2021年度から子ども第三の居場所に仲間入りした拠点があります。社会福祉法人玉医会が運営する「でぃんぐる(DingЯ)」です。
障害者支援施設や児童発達支援センターなど、身体・精神・児童など幅広い領域の福祉サービスを地域密着で展開してきた玉医会。2022年度で創立50周年を迎える節目の今、子ども第三の居場所をつくる理由やどんな場所を目指しているのかをお伺いしました。
地域のケアコミュニティの基点になる複合施設
「でぃんぐる」があるのは玉医会が運営する「地域福祉交流館Finding R」の一角。建物の前に着くと、入口で旗めく「手づくりパン」ののぼりが目に入ります。これは地域の人々の交流スペースになることを目指して設置された売店「たまこひ」のもの。近づくとあたり一面、コーヒーの香りが漂っていました。
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「たまこひ」で販売されるスイーツやコーヒーは、同じ建物内にある「風工房 R」に通う、障害のある方々を中心に作られるものです。通所者はパンや焼き菓子、コーヒーに使われる生豆のハンドピック、袋詰めなどを担当しています。
中に入ると、1階の奥には障害のある方々が働く「風工房 R」や重心児対応放課後等デイサービス「すまいるきっず R」、2階はNPOの設立支援や情報提供をする「たまきな NPO 支援センター」や会議室があります。さらに奥に進むと、子ども第三の居場所「でぃんぐる(DingЯ)」が見えてきます。
居たいと思える空間をつくりたい
以前から放課後等デイサービスや療育センターを運営するなど、生きにくさのある子どもたちの生活支援をしてきた玉医会。子ども第三の居場所を運営することにした背景には、「既存の制度に収まらないニーズを拾い上げたい」という思いがある、と統括施設長の金和史岐子さんは話します。
サービス利用者として認定されている人は、行政の様々な福祉サービスを受けることができます。しかし、中には認定されたくない人や認定されるまでの手続きをする気力のない人、どこのサービスにも繋がっていない世帯であれば、既存の福祉サービスを受けることは難しいのが制度の現状です。金和さんは、「多くの困りごとを抱える方々を支援する中で、サービス利用認定されない・できない事例を多く見てきた」と続けます。
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そうした方々が、頼れる人やサービスに繋がるためにはどうしたらいいのでしょうか?
金和さんは「まずほっとできる居場所が必要で、安心していられる空間があってこそサービスや社会に繋がろうという気持ちになれるのではないか」と、長年の支援経験から考えます。
そのため、子ども第三の居場所「でぃんぐる(DingЯ)」は、「居たいと思える空間づくり」に力を入れてきました。
人との距離感を選択できる空間
「でぃんぐる」に一歩入ると飛び込んでくるのが、木材で組み立てられたキューブです。机のあるもの、和室のようにちゃぶ台と座布団が置かれたものなど、様々なタイプのものがいくつも置かれています。
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他にも自習スペース、ソファー席、学校のような黒板もあり、空間が緩やかに分かれていることも「でぃんぐる」の特徴です。
「その日の気持ち次第で、人との距離を調整できる空間を作りました。人から自分の姿が見えない場所、少しだけ見える場所、一人だけど他者の存在を近くで感じられる場所など、色々なタイプの場所を用意しています」
子どもたち一人ひとりにお気に入りの定位置があるそうで、空間の隙間に入って漫画を読んだり折り紙をしたり、様々に活用されている様子が目に浮かびます。またキューブは子どもたちが過ごすだけではなく、コミュニケーションボードや子どもたちの作品展示、本棚としても活用されるなど、自由度の高い使い方をされています。
みんなで作って食べる「おにぎりの会」
「でぃんぐる」は初回のみ登録のための手続きが必要ですが、子ども一人ひとりの気持ちを尊重するため、以降は好きな時間に来て帰ることができます。そんな中でも、多くの子どもたちが楽しみにしているのが、毎週水曜日のランチタイムに開催する「おにぎりの会」です。
「おにぎりの会」は、ご飯と季節の野菜を使ったお味噌汁を子どもたちとスタッフで作って、食卓を囲みながら食べる調理企画。子ども第三の居場所に仲間入りしたことを受け、2021年10月から新たに始めました。
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「おにぎりとお味噌汁はみんな食べたことがあるから、希望やアイデアが出やすいです。『次はもやしを入れて欲しい』とリクエストがありましたし、『豚汁やたんご汁を食べたい』という声もあります。『うちではワカメと豆腐のお味噌汁が多いよ』と家での様子を教えてもらうことにも繋がっています」
定期的に開催している「おにぎりの会」に加え、季節イベントも充実しています。12月には「クリスマス会」を実施し、ケーキの飾り付けをみんなで楽しみました。
「苦手な料理も『食べてみなよ』と友達に声をかけられて食べられるようになった子どももいます。誰しも新しいことに挑戦するのは緊張するし、失敗したら恥ずかしいという気持ちはあると思います。しかし、少しずつ前向きな姿を見られることが増えてきました」
地域ぐるみで見守り、次の一歩を後押しする場へ
「地域福祉交流館Finding R」は様々な福祉サービスがある拠点であることに止まらず、地域全体を視野に「ケアコミュニティ」の基点になることを目指しています。
ここで金和さんが指すのは広義のケア。訪れた人が困難を抱えていそうな姿を見かけたら、「どうしたの?」と声をかけたくなる気持ちをもつことも、ケアの一環であると考えています。また、時間・力・お金など何かしら自分が持っているものを、他者に提供しやすい仕組みをつくることにも注力しています。
「私はこんなことで困っています」「私はこれならできます」などと双方向にケアの気持ちをやりとりできる地域(ケアコミュニティ)の基点になるためには、人の尊厳(Respect)、その人の役割(Role)、変わりゆくすべての人・物・環境(Real)を大切にし、求め続ける姿勢を忘れてはならない。そんな金和さんの思いは「Finding R」という建物の名前にも込められています。
双方向にケアの気持ちをやりとりする試みの一つとして始まっているのが、「でぃんぐる」の前にあるフードパントリー「みんなのれいぞうこ」です。
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「みんなのれいぞうこ」は、食料品や日用品の無償提供サービス。企業や生産者のもとに余っている食材を、必要としている子育て世帯にお渡ししています。
「お子さん連れで訪れる保護者が多いので、何度も足を運んでもらううちに様子がわかってきます。食材を提供いただく生産者さんからお孫さんのお話をお伺いすることもあるんですよ。フードパントリーを利用するうちに人との繋がりができて、社会との接点を持つきっかけにもなると思います」
冒頭にもお伝えしたように、「地域福祉交流館Finding R」は放課後等デイサービスや重度障害がある人が働く場、相談支援事業所、NPO支援センターなど複数の機能を持ち合わせ、様々な人々が出入りします。そんな多機能な場であれば、子どもたちが第三の居場所から巣立っていく時も、子ども一人ひとりの特性や希望に併せて、地域の方々の力を借りながら就労先や居場所を提案し、継続的に支援することが可能です。
子どもから大人まで包括的に地域の福祉をケアする「地域福祉交流館Finding R」が、今後どのような取り組みをしながら、地域に必要とされる場所になっていくのかを楽しみに、応援していきたいと思います。
取材:北川由依
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