拠点同士の学び合いの機会に。第1回「子ども第三の居場所」スタディツアーを開催

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熊本・玉名拠点「でぃんぐる(DingЯ)」を訪問した一同

2023年3月、第1回「子ども第三の居場所」スタディツアーを開催しました。泉佐野市・熊本市から1拠点ずつを対象にし、NPO法人キリンこども応援団(大阪府泉佐野市)一般社団法人熊本私学教育支援事業団(熊本県熊本市)が参加し、熊本県内にある2拠点を視察し、ディスカションで学びを深めました。

スタディツアーの目的

全国に子ども第三の居場所が拡大する中、各拠点の運営方法は地域ニーズや対象児童の背景に合わせて多様化しています。年々、拠点を運営する団体の皆さまからも「他拠点の動向を知りたい」「横のつながりをつくりたい」との声を頂戴することが増えてきました。そこで日本財団では、新たにスタディツアーを検討・実施する運びとなりました。

スタディツアーの目的は、運営方針や子ども支援方法に接点がある拠点を視察することで、お互いの情報を交換し、学びを得ること。また、拠点同士の連携が生まれることで自主的な学びの加速や協力関係が生まれることを期待しています。

拠点訪問とディスカションで理解を深める

まずは、熊本私学教育支援事業団が運営する「熊本学習支援センター(以下、センター)」大江校にて、お互いの事業紹介をするところから交流していきます。

熊本私学教育支援事業団は不登校児の学習支援から始まり、熊本市内を中心に10拠点を運営しています。また、通信制高校のサテライト校も担い、センターを利用する子どもが高校卒業資格を取り、大学受験をしたい場合にも支援をできる出口を設けています。

2022年からは子ども第三の居場所の学習・生活支援モデルになりました。活動の幅は広がり続け、現在では週1回子ども食堂を開く他、被災地ボランティアや農業の機会をつくるなど、子どもに必要な教育支援をしています。

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熊本私学教育支援事業団・代表の仙波達哉さん(左)とスタッフのみなさん

一方、キリンこども応援団は、地域の集会所を借りた月1回の子ども食堂からスタートした団体。2021年にコミュニティモデルとして開所し、“自分の未来に踏み出せる場所を創造する”を理念として、居場所を核に様々なプログラムを展開しています。

2022年からは泉佐野市から「フードバンク泉佐野」の運営を受託。またコロナ禍を経て「人と会う」ことに対してハードルが高くなっている子どもに向けてオンラインフリースクール「clulu」を開校しました。リアル・オンライン問わず、子どもが学び、安心して過ごせる居場所をつくっています。

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キリンこども応援団・代表理事の水取博隆さん

熊本県内の2拠点を視察

参加団体がお互いの事業を理解したところで、熊本県内の2拠点を訪問しました。

最初に訪れたのは、学習・生活支援モデルの熊本・玉名拠点「でぃんぐる(DingЯ)」です。

「でぃんぐる」は社会福祉法人玉医会(熊本県玉名市)が運営しており、拠点の入る建物には、就労支援のカフェやNPO支援センターを併設し、複数の機能を持つことで様々な人々が出入りする拠点になっています。オンラインによる学校の授業参加やテスト受験、通信制進学のサポートなど、子ども一人ひとりに合わせた学習支援を実施しているのが特徴です。

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学校の教室ほどの大きさの部屋に、木材で組み立てられたキューブが複数ある。机が置いてあるキューブ、おもちゃが置いてあるキューブなどがあり、子どもは思い思いの場所で過ごす。
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拠点の前には、子どもがいる家庭へ無償で食料品・日用品を提供する「みんなのれいぞうこ」がある。必要な分をいつでも持ち帰ることができる。初回登録のみ必要。

二つ目の訪問は、特定非営利活動法人NPOこどもサポート・みんなのおうち(熊本県菊池郡大津町)が運営するコミュニティモデル型の拠点「coco-z(ここーず)」です。
複数の学童保育や子育て支援センターを運営する経験を生かして、2021年に開所。地域のこどもたちを見守る拠点としてとして運営してきました。

拠点は小規模保育園を併設しており、子育てプログラムやマルシェなどのイベントも実施することで、子育て拠点として地域に開かれた場所に育っています。

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木の温もりを感じられる空間。coco-zには小学生から高校生まで70名近くが登録し、1日平均16名が利用している。
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玉名拠点「でぃんぐる(DingЯ)」の「みんなのれいぞうこ」を参考に、フードパントリーを設置。横の繋がりが生まれることで、良いところを取り入れる動きが既に見られた。

訪問では、各拠点を案内いただいた後、意見交換をして運営で気になる点や最近の悩み事を共有しました。短時間にはなりましたが、直接会うことで互いの活動や人柄を認識することができ、今後何かあった時に相談しやすい関係を築く一歩を踏み出すことができました。

ディスカッションで学びを深める

訪問を踏まえ、参加団体はセンターで「テーマディスカッション」を実施。より具体的なノウハウ共有や意見交換をする時間を設けました。

話題に上がったテーマは、「複数拠点のバックオフィス」「寄付の集め方」「訪問支援の方法」など。
キリンこども応援団が、2023年度に2拠点目を泉佐野市で開設予定であることから、熊本私学教育支援事業団が強みとする学習支援や、複数拠点を運営するにあたりバックオフィスをどのように整えているかが中心になりました。

日本財団では、定期的にオンライン上でテーマ別の交流会や勉強会を開催しています。しかし、関係が築けていないと管理系の情報はなかなか聞きづらいもの。しかし、スタディツアーでは現場を見ながら、顔を付き合わせて話をするため突っ込んだ質問もしやすかったようです。「就業規則を作ろうと思っているんですが、今どのような内容で運用していますか?」「拠点ごとの採算状況はいかがですか?」といった質問にも、包み隠さず答えてくださるシーンも見られました。

参加団体の感想

  • これから複数拠点を運営するにあたり、管理業務を何から手をつけていいかわからない状態でしたが、やるべきことが明確になりました。一つひとつ取り組みながら、利用者や保護者にとって安心できる居場所になるように活動していきたいです(キリンこども応援団)
  • 普段抱えている悩みに対して、丁寧に教えていただきました。長年活動されてきたセンターの経験をお伺いできて、財産になりました。チームのみんなに共有して、自分達ができることからやっていきたいです(キリンこども応援団)
  • 子どものために、同じような志を持って活動している団体の方とお話ができて、学びしかない時間でした(熊本私学教育支援事業団)
  • キリンこども応援団さんが、一軒一軒訪問して寄付を集められているというお話が勉強になりました。一人ひとりの地道な行動の積み重ねで大きなことが成し遂げられると実感しましたので、私たちも頑張りたいと思います(熊本私学教育支援事業団)
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スタッフ一人ひとりが各々の役割や立場から問いを投げかけることで、ディスカッションは深まった。

1泊2日のスタディツアー。夜の懇親会や移動中の車内でも話は尽きることなく、子ども第三の居場所を運営する拠点同士、心が近づいた時間になりました。
代表のみならず、スタッフ同士が交わることで「代表を支えるスタッフのあるある」を共有したり、事業だけではなく管理系の話をすることができたりしたことも両団体にとって大きな収穫になったようです。

今回のテストを踏まえ、日本財団ではより一層、参加団体や受け入れ団体にとって学びのあるスタディツアーを提供できるようプログラムを検討していきます。

取材:北川由依