高齢者施設等への無料PCR検査事業 中間報告 インタビュー編 Vol.2東京大学先端科学技術研究センター・田中十志也特任教授へインタビュー

日本財団では、2021年2月24日より東京都、3月からは埼玉県、千葉県、神奈川県の高齢者福祉施設等の従事者を対象に、高齢者の方々の命を守ることを目的に、また、従事者の皆様に安心して仕事をしていただけるように、無料のPCR検査事業を実施してまいりました。
今回、無料PCR検査事業の監修を行って頂いている東京大学先端科学技術研究センター・田中十志也特任教授に、PCR検査の重要性についてお話を伺いました。ぜひご覧ください。


「週に1度のPCR検査」と「ワクチン接種」
二本柱の感染対策で高齢者施設のクラスター発生を防ぐ

日本財団PCR検査事業の技術顧問を務める、東京大学先端科学技術研究センター 田中十志也特任教授に、PCR検査が高齢者施設等においてなぜ重要なのか、クラスター対策への有用性や役割についてお話を伺いました。

PCR検査への関わりと『PCR検査事業』技術顧問としての背景

2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年に入って間もなく本格的に猛威を振るいだました。日本ではクルーズ船での集団感染が連日報道されました。
田中教授は、こうした状況を見守る中で「この感染症はこれから急拡大する可能性がある」と考え、米疾病対策センター(CDC)から情報を得ながら、いち早く“PCR検査”の体制を研究所内に立ち上げました。なぜPCR検査だったのでしょうか?

「まずは自分たちを守る、その活動を守る事が重要だと感じました。“守るため”には、まずは感染の可能性を知ること、そして他人に感染(うつ)させないこと。そのためのPCR検査が必要であると考えました」

PCR検査では、感染か否かを早期発見することで、自分の体調に早くから配慮ができ、周囲への感染の広がり抑えることにも繋がります。

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東京大学先端科学技術研究センター・田中十志也特任教授

“自分を守るを優先する”ことについて「例えば、飛行機内で緊急事態が起きた時には酸素マスクを自分が付けてから、お子さんを助けるという手順になっている。自分の身を守れなければ、助けを必要とする人を助けたくても出来なくなってしまうという考え方。感染症においても、家族、大切な仲間たちを守るためにもまずは自分を守ることが重要です」と田中教授は説きます。

その後、田中教授は、研究所の児玉龍彦名誉教授と共に世田谷区のエッセンシャルワーカーを中心とした検査体制の立ち上げを行うなどの背景もあり、2021年2月より開始となった日本財団PCR事業に携わることになりました。

安価かつ簡便、短時間
「プール方式」によるPCR検査の利点

日本財団の事業では「プール方式」と呼ばれる唾液採取を用いたPCR検査を採用しています。
プール方式によるPCR検査の利点についてお聞きしました。

唾液を用いたプール方式は、個別検査と比較して「1回の検査で掛かる費用と同じ程度の費用で、複数の人の検査を行えること」、「唾液採取のため鼻腔の時のような痛みがなく手軽にできる」、「自主採取のため医療従事者の負担軽減」といった利点が挙げられると言います。

「感染拡大当初の鼻咽頭スワブを用いたPCR検査では、採取するスワブやウイルス保存液、RNAの抽出に必要とする試薬などが不足しがちという問題がありました。しかし、幸いにもPCR検査で使用される”酵素”については、世界をリードする優秀な国内主要メーカーがRNAの抽出なしに検査できる試薬を開発したことから、この方式の検査を進めることになりました」

これは「研究所内PCR検査」立ち上げ当時のちょっとした苦労話ですが、このエピソードからは、プール方式では、医療品不足が起きた際の痛手を受けにくく、安定した供給が可能であるいったメリットが想定されます。

検査の精度については「現在日本で行っている唾液採取のPCR検査においては、非常に感度が高く、採取した検体の中にウィルスの遺伝子(RNA)が一定以上(5個程度)あれば確実に検出することができます」と説明しています。

クラスター対策へのPCR検査の有用性

続けて、クラスター対策への有用性についてお聞きしました。

高齢者施設では、その性質上、ケアや介護をされるエッセンシャルワーカーの方と利用者との距離が近くなります。また、耳が聞こえにくいなどの理由で顔を近づけての会話が必要となる場面もあります。このような環境下でワーカーの方が無症状のまま感染していたとしても、PCR検査を行っていなければ発見できないままに複数の利用者や職員にうつ(感染)してしまい、クラスター発生に繋がる可能性は大いにあります。

「例えば、スーパースプレッダーと呼ばれるような方が同じ部屋にいた場合、話をせずにちょっとマスク外して食事をしているだけでも感染する可能性が出てきます。この場合のウィルス感染というのは、1人が1人をに感染(うつ)すということではなくて、1人が10人、100人へという恐ろしい感染の仕方をします。ですから、高齢者施設や大学の寮など集団で生活を共にしている場所では、特にこの経路への入り口を閉じなければいけない。そのために有効なのがPCR検査です」と田中教授。

実際に海外の実証実験では「学校の生徒に定期的にPCR検査を行うことによって、クラスター発生を抑えられているという結果が複数報告されている」と言います。
さらに検査対象となる人たちの間には「自分が感染してはいけない、させないためにはどうしたらいいか」といった大きな意識の変化がみられ、こうした意識付けも感染予防に貢献していると考えられています。

ワクチン接種と合わせて引き続きのPCR検査を行っていくことの必要性

国内では2021年2月より医療従事者を対象に、4月からは65歳以上の高齢者を対象にした優先接種が始まり、順次、64歳以下の人たちへの接種が進められています。65歳以上の接種率は1回が88.9%、2回が85.9%となっており(8月22日時点)*、また施設の関係者への接種も各自治体等で優先して行われてきました。
今後、ワクチン接種による「感染予防」と「重症化予防」の効果が期待される中で、引き続きのPCR検査の必要性について田中教授は次のように語っています。

「ワクチン接種が進んでも感染者が急に減るという状況ではありません。施設内での接種率が高く、感染対策をしっかりやっていても、職員やスタッフの方々が外部と行き来をされる中で感染リスクというのはどうしても出てきてしまいます」
「加えて、2回目の接種後でも陽性となるブレークスルー感染の可能性や、変異株における感染抑制効果は従来の株よりも低いという報告もあり、感染リスクはまだ十分にあると考えています」

こうした現況でのエッセンシャルワーカーへの検査継続への重要性を踏まえ、日本財団におけるPCR検査提供の期限が、8月末から10月末までに延長されました。「この大事な時期にぜひ検査を引き続き活用して感染予防に努めていただきたい」と語る田中教授、「クラスター発生抑制の効果を得るために『週に1度』定期的に検査を行うこと」を強く推奨しています。

感染対策としての社会的検査の意義、今後の可能性

日本財団が行うPCR検査は、重症化リスクの高い施設内などで無症状の方を対象として行う『社会的検査』と位置づけられるものです。
この『社会的検査』への取り組みついての可能性を最後にお聞きしました。

「長引くコロナ禍で、経済活動と安全を両立させるという意味でもPCR検査は有効なものと考えていますが、今はまだそこまでには至っていません。今後、一歩進んで社会活動や文化芸術活動が安心して行われる仕組みが、”社会的検査”を取り入れることで出来上がっていくといいなと願っています」

「そこにはリーダーシップを始めとした様々な施策や要因も必要だと思うのですが、どうにかして、みんなが活動するのを応援する、応援し合えるような状況に変えていく、その一部に検査というものを有効活用していただければと思っています」

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