高齢者施設等への無料PCR検査事業 中間報告 インタビュー編 Vol.3大阪大学 感染制御医学 忽那賢志教授へインタビュー

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大阪大学大学院医学系研究科 感染制御医学 忽那賢志教授

日本財団では、2021年2月24日より東京都、3月からは埼玉県、千葉県、神奈川県の高齢者福祉施設等の従事者を対象に、高齢者の方々の命を守ることを目的に、また、従事者の皆さまに安心して仕事をしていただけるように、無料のPCR検査事業を実施してまいりました。
今回、感染症専門医である忽那賢志(くつなさとし)教授に効果的なPCR検査の活用法についてお話を伺いました。ぜひご覧ください。

PCR検査は流行状況をみながらの活用が大事
高齢者施設では早期発見につなげる意義のある検査

感染症専門医である忽那賢志(くつなさとし)教授に、効果的なPCR検査の活用法や高齢者施設等で行う意義についてお話を伺いました。忽那教授は、国立国際医療研究センター医長を経て、2021年7月より大阪大学大学院医学系研究科、感染制御医学の教授。大阪大学医学部附属病院(以下、阪大病院)内のコロナを始めとする感染症全般の専門医も務め、また、大阪府が、軽症・無症状の新型コロナウイルス感染者向けに準備する「大阪コロナ大規模医療・療養センター」の監修にも携わっています。

PCR検査は流行期と非流行期で調整しながら活用

― 忽那教授は「感染の流行度でPCR検査を行う頻度を考えることは大事である」とおっしゃっていますが、流行度で考えるとはどういうことでしょうか。

流行期について

検査を行う際の基本となるのは、“検査体制”の状況と、その時期の“流行度合い”を考えることにあると思います。新型コロナ感染の流行初期は、キット供給や準備体制が不十分で検査数に限りが見られました。そこで、優先順位としては重症度の高い人を中心に診断を行っていました。

そして、検査体制が整ってきた頃には、無症状も含め濃厚接触者も診断するようになりました。検査のキャパシティーがあることが前提ではありますが、流行状況を勘案して、緊急事態宣言が出て非常に感染者が多いという時期には、スクリーニング検査を毎週行う効果があると思います。

非流行期について

一方で、非流行期には、流行期ほどの頻度は必要ないと考えています。理由は、感染者が少ない時期に誰彼とはなしにスクリーニング検査をしても陽性である確率は非常に少ない。効率ということもありますが、例えば、PCR検査の場合は、2か月前に感染してそのウイルスの残骸が残っていて陽性が出てしまうこともある。偽陽性のひとつと考えられます。つまり、今感染性があるわけではないのに引っかかってしまうことがあります。

ですから、ある程度、その流行状況に合わせてメリハリをつけるということが大事になってきます。わかりやすい指標としては「緊急事態宣言、まん延防止等重点措置」などの状況を基準に考えるとよいと思います。

阪大病院を例にあげますと、流行期には、濃厚接触者でもなく感染の可能性がないような人にも入院時には全員検査を行っていましたが、10月の緊急事態宣言の解除のタイミングと感染状況を見ながら勘案し、一般の入院患者向けのスクリーニング検査を現在は一時休止しています。

高齢者施設における意義、重症化とクラスター発生を回避する

― 現在、日本財団では、高齢者施設・介護サービス従事者向けに「無料のPCR検査事業」を実施しています。これは、施設従事者の方々が定期的かつ高い頻度でPCR検査を受けることで、安心して仕事をしていただけるようにということを目的としています。
本事業によるPCR検査は、一次目のスクリーニングとして、陽性反応が出た場合は提携病院で受診していただくお約束のもとに行っています。このような高齢者施設でのスクリーニング検査についてはどのようにお考えですか。

重症化とクラスター発生を回避する

一般の人と比べて高齢者施設を対象にする場合は、その重みが違ってくると思います。高齢者の方々は、感染した場合に重症化しやすいという点がまず一つ。そして、クラスター発生を回避するために感染者の早期発見と濃厚接触者の特定が重要となります。発生した場合の重大性、深刻性を考慮すると、検査をする意義はあると思っています。

現在、抗体カクテル療法(注1)による重症化予防目的の投与も出てきているため、早期発見によって、先手を打つこともできます。

高齢者でも5人に一人くらいの割合で、無症状の感染者がいると言われています。流行期は特に、検査をせずに診断が見逃されてしまうとクラスター発生につながってしまうので、定期的に行う。非流行期では、ワクチンの接種率や施設の効率なども考慮しながら、頻度は考えてもよいと思います。症状がある人は、仕事も休み検査も受けてもらうなど基本のことは、流行期、非流行期を問わず行っていただきたい。

(注1)新型コロナウイルス感染症に対する中和抗体薬による治療。軽症の患者さんに対して重症化を防ぐことを目的とする。

自治体が提供するPCR検査について

― 各自治体でも「社会的PCR検査」を行っています。どうみていますか。

考え方によりますが基本的には、自治体によって、やる、やらないと判断が分かれているのは問題があると思います。とにかくやればいいというのも、全くしないというのも極端です。本来は各自治体がその地域における流行期にあわせて検査をやるべきだと思っています。

明確に線引することは難しいですが、検査陽性率や地域における接触歴不明の人の割合をみながら「どうなったら検査をしましょう」とオンオフする目安があったほうが良いと思います。

例えば、東京、都心から流行が始まることが多いですが、「今、新宿から徐々に増えつつあるから、その地域内の老健や入院患者から検査を始めましょう」といった判断のもとにできると、リソースなどの無駄もなく拡大予防につながっていくと思います。

今後の感染症予防について。基本的な対策の継続とブースター摂取を

― 今後の感染予防対策について私達が気をつけるべきこと、できることはどういったことでしょうか。

ワクチン接種について

日本のワクチン接種率は、70%以上とかなり高くなっているが、その殆どが7月から9月の間の接種されたものです。このワクチンは、接種後3、4カ月位が感染拡大を防ぐ効果が高いと言われています。今は、感染が広がりにくい状況ですが、今後予防効果が落ちてくるとまた広がりやすい状況になってきます。

海外の事例でも、接種後時間が経った人も含めてどんどん感染者が増えています。3回目となるブースター接種(追加接種)広めていかないと流行そのものを落ち着かせていくのは難しいだろうと思います。

対変異株

12月に入り、南アフリカから発生した変異株「オミクロン株」が先進国にも広がり、日本でもすでに海外からの帰国者から感染者が出てきています。水際対策、検疫の体制をどうしていくべきか。新しい変異株が出る度に同じことの繰り返しが行われないように、その侵入を遅らせるためのしくみづくり、検疫体制を強化しないといけないのかなと思っています。
より感染力の強い、ワクチン効果も落ちてしまうとも言われている変異株が入ってくると、感染者の拡大につながっていく懸念があります。

ワクチン・検査パッケージについて

より安心安全に面会できるためのしくみとしてワクチンと検査を組み合わせて感染対策をしていくという考え方自体は非常に重要かと思います。

阪大病院でも、ワクチン接種を2回完了している人、またはPCR検査3日以内の陰性結果を確認できた人だけを面会できるようにしています。ただし、ワクチン効果は数カ月で弱くなることもあり、感染していないことを保証するものではなくなってきます。両方組み合わせて、「ワクチン接種かつ検査で陰性」という方がより強固ではあります。現時点ではどちらかでOKということになっていますが、ワクチンについてはその辺の注意も必要かと思います。

日常での対策

現在、感染者自体は非常に少ないので、会食行くのをやめようとか、永遠にスティホームだという状況ではないですが、それぞれできる最低限の感染対策は続けつつというのは大事です。基本的には、3密を避ける、マスク着用、手洗いの徹底、そして、ワクチンは3回目目の順番がきたら接種していただきたいと思います。

ブースターについては、3回目の接種のあと、次が必要なのか、その場合はどのくらいの期間のあとに必要かなど、現時点ではまだ何とも言えません。コロナ感染や変異株の状況も繰り返す可能性はありますがそれも現時点で予測できるものではありません。しかし、開発中の経口の飲み薬が処方可能になってくるなど、病気の脅威としてはだんだんと後退していくものではないかと期待しています。(#2021年12月16日現在)

インタビューを終えて 日本財団より

今回、お話を聞く中で、忽那教授から「日本財団がこれまで行ってきた検査をデータ化して、どのような基準で検査をやるとどの程度有効だったかなどが出れば、PCR検査をさらに有効に行うための参考になるのではないか」との助言をいただきました。日本財団では、今回のPCR検査事業で得たデータの集計、分析等を予定しています。今後、こうしたデータの有効利用なども併せながら、「社会的PCR検査」をより効果的に活用していただけるよう努めてまいります。

参考文献

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