「バイリンガルろう教育」のエビデンスを調査ろう教育の手法の一つとして知られる「バイリンガルろう教育」の有効性を検証するため、文献調査とヒアリングを実施しました。

写真
デラサール大学セントベニルデ校附属ベニルデろう学校での授業の様子

日本財団は、過去20年以上にわたり、東南アジアの聴覚障害者を対象とした就学支援を実施してきました。その過程で、手話を一つの言語と位置づけ、現地語の手話と公用語を書記言語として学ぶ「バイリンガルろう教育」の手法をとってきました。このたび、これまでの弊財団の活動を振り返り、世の中の変化に対応しながら、今後の活動指針を見定めることを目的として、株式会社国際開発センターに委託し、文献調査とヒアリングを実施しました。

調査概要

2025年6月から12月にかけて、先進国における研究及び実践の動向を文献調査に基づいて整理しました。開発途上国では、「バイリンガルろう教育」についての学術的な論文や報告は限定的なため、主にヒアリングを通じて弊財団が事業を実施している対象国(フィリピンとラオス)の概況を把握し、教育手法の有効性を検証しました。

調査仮説と結果

調査の仮説:

本調査では、「バイリンガルろう教育は有効なのか?」という問いをさらに掘り下げ、「どのようなコンテキストにおいて、どのようなろう児に対して『バイリンガルろう教育』が他の教育法と比較してより効果的であると言えるのか?」という問いを設定しました。この問いに答えるため、二つの調査仮説を立てました。

仮説1

開発途上国の支援において、音声言語獲得のための医療インフラ等が未整備である場合には音声言語の獲得が困難な聴覚障害児にとって「バイリンガルろう教育」が最適解となる。

仮説2

開発途上国の支援において、補聴器、人工内耳装用児に対しても「バイリンガルろう教育」を通して十分な学力を獲得できる可能性がある。

調査結果:

  • バイリンガルろう教育が、社会情動的スキルや自尊心、ろう者のアイデンティティの形成に一定の効果を持つことについては、複数の研究によって支持されています。その一方で、学力、とりわけ読解力の向上については、年齢相応の到達を実証するエビデンスは限定的であり、理論的前提そのものに対する批判も存在します。
  • フィリピンおよびラオスの状況分析からは、補聴医療インフラや早期介入体制が未整備な状況では、音声言語獲得に依存しない教育アプローチとして、バイリンガルろう教育が現実的かつ有効な選択肢となり得ることが示唆されました。
  • また、自然手話に熟達した教員の不足、音声言語を手話単語で表した手指コミュニケーションである対応手話の影響、インクルーシブ教育政策との整合性、さらには幼少期に自然言語への接触が遅れ認知発達に悪影響を及ぼす深刻な言語剥奪といった構造的課題も確認されました。

今後の活動への提言

本調査を通じ、途上国におけるバイリンガルろう教育支援は、単なる教育手法の選択ではなく、言語権の保障や学びの質の確保という複合的課題への対応を意味することが明らかになりました。

今後、各国の文脈に応じて、手話への早期アクセスを保障するとともに、手話を教育言語として位置づけるため、手話で教える専門人材の持続的育成と、バイリンガルろう教育の有効性に関するエビデンスを継続的に蓄積していくことが提言されています。

  • 日本財団は、助成対象国・地域における個別の事情を踏まえて支援事業を実施しています。そのため、本報告書に記載された提言については、今後の検討材料とするものであり、必ずしもそのすべてを実施することを約束するものではありません。

調査報告書・資料

関連リンク

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日本財団 特定事業部 インクルージョン推進チーム

  • メールアドレス:100_inclusion_suishin@ps.nippon-foundation.or.jp