【ソーシャル人】摂食障害を乗り越えた起業家が挑む、障害者が成功体験を得るための仕組みづくり

写真:VALT JAPAN代表の小野貴也さん
VALT JAPAN代表の小野さんが目指す、新しい障害者就労の形

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 障害者の中には、働く意思はあるのに働く環境を得られず、社会になじめない人がいる
  • クライアント企業と働き手となる障害者の間に入りマネジメントすることで、双方の抱える課題を解決
  • 障害者が継続的に自分のペースで仕事と成功体験が得られる仕組みづくりが、これからの社会に必要

「世の中」あるいは「誰か」のために役立つ仕事をしたい。そんな志を抱く若者に向けて、社会課題に対し自らの意志と力で歩み、日々向き合っている先輩たちの声を届けるのが連載企画「ソーシャル人」だ。

第1回は、障害者によるアウトソーシングサービスを展開するVALT JAPAN株式会社代表・小野貴也さんにインタビュー。障害者一人ひとりが存在価値・存在意義を強く感じられる社会をつくることを目標とし、一般企業をクライアントとする顧客満足度は99%と高い数字を誇っている。彼がソーシャルビジネスを立ち上げたきっかけは何なのだろう。そして、どんな理想を描いているのだろうか。

外注したい企業と働きたい障害者の双方の課題を解決する注目のビジネスモデル

2018年12月に開催された、障害者就労支援に取り組む企業や団体が全国から集う日本財団主催の「就労支援フォーラムNIPPON 2018」。その分科会に登壇し、障害者雇用の新たなビジネスモデルとして注目を集めたのがVALT JAPAN株式会社(以下、VALT JAPAN)だ。

VALT JAPANは、業務の外部委託を希望する企業と、仕事を受けたい障害者をつなぐBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を展開している。例えば、クライアントからデータの入力作業依頼があった場合、障害者福祉施設や障害者個人に入力業務を発注し、VALT JAPANのスタッフが進行管理を行う。と同時に、徹底した品質管理を行うことで、精度の高い成果物をクライアントに提供。障害者にとっても業務や体調管理のサポートを受けながら働くことができるというメリットがある。

図表:VALT JAPANの障害者支援ビジネスモデル

VALT JAPANの障害者支援ビジネスモデルを示すイメージ図。クライアント(発注者)から仕事依頼・相談を受けたVALT JAPANが、VALT障害者チーム(受託者)へ発注。VALT障害者チーム(受託者)は、VALT JAPANのスタッフの進行管理・品質管理のもと成果物を作成・納品。その成果物をVALT JAPANがクライアント(発注者)に納品する。
VALT JAPANは、クライアントとなる一般企業と、働き手となる障害者の間に入りマネジメントすることで、それぞれが抱える課題を解決する

現在、障害者の登録者数は全47都道府県で6,000人以上。BPO事業のほかにも、在宅による障害者の雇用を支援する在宅雇用管理事業と、障害者の業務歴や能力、健康情報をデータベース化することで企業との雇用のマッチング率を高めるプロファイル事業もスタートさせたばかり。障害者雇用の活性化を図る新たな仕組みづくりを行い、ソーシャルビジネスの新たなプレイヤーとして、小野さん自身も業界から期待を集めている。

1日の食事代が1万円。自身の摂食障害が企業のきっかけに

小野さんがVALT JAPANを設立したのは社会人3年目、25歳の時だ。そのきっかけは大学時代に遡る。

プロ選手を輩出する強豪野球部に所属し、毎日全力投球で過ごしていたが、大学3年生になり引退。野球を続けたくても続けられないジレンマや就職活動に対するストレスのせいか、大量に食べては吐き戻す摂食障害が始まった。

症状について「一気に食べて吐き切ると、頭がスカーッとするんです。その快感が病みつきになっていました」と小野さんは話す。

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野球部を引退して、就職する直前の小野さん。学生の頃から続いた摂食障害も起業するきっかけの1つになった

「病で苦しんでいる人の治療に貢献できる仕事にやりがいを感じつつも、摂食障害は続き、気がつくと仕事中も含む3食全て過食しては戻すことを繰り返すようになっていました。そのため、1日の食事代が1万円かかることもたびたびありました」

給料だけでは生活費が足りず、借金をしてまでも食べ続けていたという。

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製薬会社におけるMR研修時の小野さん(左端)

これではいけないと、摂食障害を克服するためネットで情報収集することに。その中で、精神疾患のある人々が集う意見交換会が行われていることを知り、一当事者として参加することにした。足を運ぶと、そこには自分と同世代の若者や60代くらいの中高年まで幅広い年代の人が30人ほど集まっていた。

職業上、薬の成分や効果について十分把握してはいるものの、MRには医療従事者とのやりとりしか許されないので、当事者たちの声を聞くのはこの時が初めてだった。

意見交換会では、一人ひとりが自分の症状や使用している薬の効果、日常の体験などについてスピーチした。その話を聞き続けるうちに彼らの共通点に小野さんは気がついた。皆、仕事における成功体験があまりにも少ないのだ。

「体調管理や人間関係がうまくいかずに、仕事が長続きしない…。そのような理由で、多くの参加者が働く意思はあるのに、働く機会を得られずに悩んでいたんです。それまで、病気や症状は薬である程度緩和されると思っていました。けれど、薬だけでは完治できない問題があることを知りました。それに気づいた瞬間、この人たちの力になりたいと思い、障害者の雇用環境を整える仕事を始めようと決意しました」

それからすぐに上司に相談し、1カ月の引き継ぎを経て退職。その翌日にはVALT JAPANを設立した。

憧れの起業。ビジネスモデルを模索し続けた半年間

会社を設立したものの、現在のビジネスモデルが固まっていたわけではない。決めていたのは、“障害者の役に立つ仕事”をするということと、上司や職場との関係性に悩むこともなく、業務を行えるように“在宅ワーク”にすることだけだった。

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いろいろな可能性を試しながら新しいビジネスモデルを模索したという小野さん

肝心の業務内容をどうするかと模索していた最中、知人の社長から秘書が欲しいという声を聞き、在宅の障害者ワーカーによる秘書代行サービスを実験的に行った。障害者スタッフは電話を利用したテレワークによりスケジュール管理やお店の予約など細かな業務を担当。小野さんは、毎日決まった相手とのコミュニケーションなら精神的な負荷も軽減でき、仕事を任されているという自信ややりがいにもつながるんじゃないかと考えた。

「その狙いはあたり、障害者の働き方という意味では実験は成功したんですが、電話を活用した秘書代行というサービス自体にニーズが少なく、諦めることにしました」

その後しばらくの間、新たなサービスを模索する日々が続いた。

障害者が初めて手がけたパソコン作業。その品質に障害者福祉施設の経営者も驚愕

起業から半年後、小野さんは経営から障害者雇用まで多くの勉強を重ねながら福祉業界を駆け回るうちに、とある障害者福祉施設の経営者と出会い、急スピードで事業が展開していくこととなる。

「その施設では20〜30人の障害者を抱えていました。彼らに振り分ける仕事を僕が営業代行をして獲得することになったんです。知人などのコネクションを生かして、遂行することが可能そうな仕事をとにかくかき集めてきました」

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障害者福祉施設の経営者との出会いがビジネスを加速させる転機になったという小野さん

最初に受注した案件は、企業のプレゼン資料を制作するための文字の書き起こしを中心とする作業。クライアントから支給されたメモ書きをベースに、パソコンを使ってテキストやイラストを作成するというミッションだ。

「それまで施設では、パンやスイーツづくりといった物をつくる作業や、パソコンを使ったシンプルな入力作業がほとんどだったんですが、テキストやイラストの仕上がりは申し分なく、そのクオリティの高さは僕が思っていた以上のものでした」

クライアントも成果物に満足し、施設経営者も「うちのスタッフたちはこんなパソコンを使った業務もできるのか」と驚きを隠せなかったという。

それをきっかけに営業を強化。他の障害者施設からも「パソコン業務をやりたかったというスタッフが数名いるので、仕事をいただけませんか」といった連絡をもらうようになる。そして、案件数の増加に伴い、徐々にビジネスモデルが構築されていった。

図表:VALT JAPANのアウトソーシングサービスの仕事の流れ

VALT JAPANのアウトソーシングサービスの仕事の流れを示すイメージ図。クライアントから発注・案件相談を依頼されたVALT JAPANのディレクターチーム(在宅管理マネージャー、ディレクター、プロジェクトマネージャー)が、作業者チームへ発注するとともに、業務サポート、体調フォローなどを行う。作業者チームは、継続型就労支援施設チーム、在宅就業チームに分かれ、継続型就労支援施設チームでは施設職員による品質管理、作業者自身の品質管理のもと成果物を作成、在宅就業チームは作業者自身の品質管理のもと成果物を作成。成果物は、品質管理に特化したVALT JAPANスタッフ、継続型就労支援施設チーム、在宅チームによる修正指示や技術指導のもとより精度を高めながら完成し、VALT JAPANのディレクターチームを経由し、クライアントへ納品される。
VALT JAPANのスタッフが進行管理・品質管理を行うことで、納品スケジュールも成果物の精度も保持される

もちろんクライアントを満足させる品質を保つための苦労は、計り知れないほどあったが、小野さんはトライ&エラーを繰り返しながら仕組みをブラッシュアップさせていき、現在のITを活用した障害者によるBPO事業・在宅雇用管理事業・プロファイル事業のシステムを完成させた。

目指すのは、障害者が継続的に仕事と成功体験を得られる仕組みづくり

小野さんの思い描くゴールは、これで完結ではない。

「ただ、障害者の方が仕事を得られれば良いというわけではありません。一時的なものではなく、彼らが自分のペースで継続的に仕事に取り組めて、かつ成功体験が積み重ねられる仕組みを整えていかなければならないと考えています。そのためにも無理なく働ける環境を用意して、仕事の成功体験をできるだけの多くの人に味わってもらいたい。そうすれば、もっと生きいきとした暮らしを実現できるはずですから」と小野さんは語る。

現在、主な発注企業はIT系企業、ホテル、メーカー、広告・メディア、福祉など多岐に渡る。ここまで拡大できたのも、クライアントには100%のクオリティで成果物を、そして障害者には、体調管理など安心して働ける環境を提供することを徹底し、それぞれの満足度を上げてきた結果だろう。

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起業してからの多忙な日々を振り返る小野さん

起業してからこれまでの5年間の道のりを振り返り、毎日が充足感でいっぱいだと小野さんは話す。

「これといって大きな試練があったわけではないのですが、乗り越えなければならない課題が常に目の前にあるんです。新たな知識を必要とする案件も多いですし、働き手となる障害者の方が増えれば、それだけフォローしなければならないことも増えてくる。そのような課題に対して、スピード感を持ってトライ&エラーをひたすら繰り返さなければならない状況で、無我夢中で駆け抜けてきたといった感じです。そういう意味で、充実した毎日が過ごせていますね」

自身の障害から社会問題に触れ、解決策を探るべく起業の道を選んだ小野さん。最後に、ソーシャルビジネスを志す若者にアドバイスをお願いすると「とにかく行動あるのみです!猛勉強も含めて(笑)」と歯切れのいい言葉で答えてくれた。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

小野貴也(おの・たかなり)

VALT JAPAN株式会社代表取締役。プロ野球選手を輩出する強豪校、富士大学の野球部で活躍。卒業後は製薬会社に就職し、MR(医薬情報担当者)として約3年間勤務した後、2014年に「意志のある可能性に愛を」という理念を掲げて起業。現在は10名の社員とともに、全国約6,000人の障害者登録スタッフとクライアントをつなげるよう日々邁進している。
VALT JAPAN株式会社 公式サイト(外部リンク)

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