日本財団ジャーナル

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優れたソーシャルスタートアップの成長の支えに。世界的アクセラレターと日本財団がタッグを組む理由とは?

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インタビューに応じてくれたImpacTech(インパクテック)のヨアフさん(写真左)、キネ―レットさん(写真右)と、日本財団の花岡さん(写真中央)
この記事のPOINT!
  • 「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」とは、社会課題に挑戦するスタートアップを支援する実践的プログラム
  • 日本には、一定の成長が見込めるソーシャルスタートアップでも相手にしてくれない投資家が多い
  • ソーシャルスタートアップがステップアップするためのホーム(支援の仕組み)が必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

2019年4月、アジアを中心に100社以上のスタートアップを支援してきた世界的なアクセラレター・ImpacTech(インパクテック)と、ソーシャル・イノベーションを日本最大規模の助成事業で牽引する日本財団がタッグを組み、社会課題に挑むスタートアップを対象とした起業支援プログラム「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」(外部リンク)をスタートさせた。ImpacTech創業者のKineret Karin(キネ―レット・カリン)さんと、Yoav Elgrichi(ヨアフ・エルグリチ)さん、そして日本財団の花岡隼人(はなおか・はやと)さんに話を聞いた。

新しい社会貢献のカタチを模索したい

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写真左から、シンガポールから、タイや、香港、日本で事業を展開するImpacTech創業者のキネ―レットさんとヨアフさん、日本財団の花岡さん

――まず、キネ―レットさんとヨアフさんがImpacTechを創業した理由を教えてください。

ヨアフさん:近年、社会的に大きなインパクトがあるビジネスの多くは、スタートアップから誕生しました。インターネットの到来によって生まれた、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook(フェイスブック)、スマートフォンの出現によって誕生した、Uber(ウーバー)、Instagram(インスタグラム)、WhatsApp(ワッツアップメッセンジャー)など世界規模で大勢のユーザーを抱えるアプリなどのように、以前は大きな会社にしかできなかったことを、テクノロジーの進化によって誰でもできるようになりました。私たちは、スタートアップのサポートを通じて社会にインパクトを与えるビジネスをつくりたいと思って立ち上げたんです。

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ImpacTech創業者の一人であるヨアフさん。スタートアップは大きな可能性を秘めていると語る

キネ―レットさん:特に「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」では、「このプログラムを通して社会に良い影響を与えられたら」という思いが強いですね。

――花岡さんとは、どのようにして出会ったのでしょうか?

キネ―レットさん:2016年に開催された、セクターを超えて社会課題やその解決方法について議論する「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム」(別ウィンドウで開く)というイベントがきっかけです。

花岡さん:キネーレットさんには、ある分科会のパネリストとして参加いただきました。その中で、シンガポールで多くのスタートアップをサポートされた話を聞き、ぜひ日本でもやってみたいと思ったんです。最近は斬新なアイデアで、社会課題に挑むスタートアップが増えている一方、それをサポートする仕組みが少ないと感じていたのも理由の一つです。

――その出会いがきかっけで、一緒にタッグを組むことにされたんですね。

花岡さん:そうですね。イベントの後も、どうすれば日本のスタートアップを支援できるか、何度も話し合いを重ね、シンガポールやタイにも見学に行き、ご自宅に招待いただいたこともありましたね。何度もお会いするうちに、彼らがビジネスの経験が豊かなのに加えて、人間的にも素晴らしく、一緒に何かをやり遂げてくれる人たちであると感じました。

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時に冗談を交えながら話す3人。チームとしての絆の強さを感じる

――先ほどのキネーレットさんのお話で、このプログラムを通して社会に良い影響を与えたいという言葉がありましたが、それ以外に日本財団独自の目的のようなものはあるのでしょうか?

花岡さん:大きな目的としては、キネーレットさんの言うとおりですが、日本財団としては、資金提供以外にも、能力開発のノウハウや意欲的なスタートアップとのつながりといった、これまでにない強みを増やすことができるのではないかと考えています。

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日本財団としても新しいことに挑戦していきたいと語る花岡さん

日本財団ソーシャルチェンジメーカーズとは?

――なるほど。ここからは「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」の内容についてお伺いできたらと思います。

ヨアフさん:4カ月間にわたって、マーケティングやGTM(「Go-To-Market Strategy」の略称。事業計画や営業戦略のこと)の専門家が講師としてサポートを行います。彼らのアドバイスをもとに、ディスカッションを重ね、ビジネスプランを練り直します。そして、最終日となるデモデイ(成果発表会)では、投資家や日本財団からの資金調達の機会も与えられます。

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「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」の第1期に参加したスタートアップの皆さん
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「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」のプログラムの様子。講義は一方的なものでなく、積極的な意見が求められる

――なかなかハードですが、良い経験になりそうですね。

ヨアフさん:実際、専門家たちと議論を重ねていく上で、ビジネスモデル自体を変えたスタートアップもありました。会社によってそれぞれですが、そのスタートアップなりの正しい手順を踏んで、デモデイにたどり着けたと確信しています。卒業後も、グローバル・ネットワークに所属する海外のメンターや、卒業生らのコミュニティによるサポートなどを提供し、ImpacTechが彼らのホームであり続けられればと思っています。

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「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」のプログラムで講義をするヨアフさん

――何社中、いくつのスタートアップがこのプログラムに参加することになったのでしょうか。また、選考の過程で、重視した基準についても教えてください。

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これまで100社以上のスタートアップのサポートに携わってきたキネ―レットさん

キネ―レットさん:応募のあった37社中、10社を選びました。選考で重視したのは以下の4点です。

  • そのビジネスのよって社会課題を解決できるか
  • イノベイティブなアプローチか
  • 良いビジネスモデルか
  • 良いチームか

ヨアフさん:別にこれは優先順位順ではありません。最後の「良いチーム」というのはちょっと抽象的かもしれませんが、メンバーの関係性や雰囲気などを見ています。

花岡さん:チームについては、僕はだいたいナンバー2の方を見るようにしていますね。その方が、トップの言うことをそのまま聞くだけの関係なら、少し厳しい言い方になりますが、別に誰でも同じことができると思うんです。そんな意味でナンバー2はその会社のあり方を表現しているんじゃないかな。

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ImpacTechのスタッフの皆さん。笑顔にあふれチームの良い関係性を感じ取ることができる

キネ―レットさん:その考え方、いいね(笑)

社会貢献に取り組むスタートアップを増やすには?

――ところで、スタートアップの9割が失敗するという話を聞いたことがあります。失敗しないためのポイントのようなものはあるのでしょうか?

ヨアフさん:スタートアップは、本当に大変で孤独な存在です。そんな中で事業を継続するのは、単純だけど「やり遂げよう」という意志の強さが鍵になります。Don’t Give up!

花岡さん:僕も挑戦を辞めないことは大切だと思っています。

キネ―レットさん:精神的なタフさは求められますね。ビジネスモデルを見直してみることも大切です。あと個人的には、別に失敗しても良いと考えています。アジアの国だと失敗=悪いこと、と思われがちですが、欧米では2、3会社を立ち上げて失敗し、4つ目でうまく行った例なんてたくさんありますしね。

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起業で失敗しても悩まなくていいし、別に道はあると語るキネ―レットさん

花岡さん:最近だと関心を持ってくれるエンジェル投資家などによって、芽を出すスタートアップも多いのですが、次の成長のステップに行けない企業が多いのも事実ですね。特に、ソーシャルスタートアップの場合、一定の成長が見込めるにもかかわらず、相手にしてくれないVC(「venture capital」の略称。投資会社のこと)が多いのも事実です。

――なるほど。それで、この「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」につながるわけですね。最後に、皆さんがこの事業を通じて実現したい未来について教えてください。

ヨアフ:シンガポールから東京に引っ越すことかな?

一同:(笑)

花岡さん:ぜひぜひ!

ヨアフ:スタートアップのサポートを通じて社会に良いインパクトを与えられたらいいですね。

キネ―レットさん:私たちの事業を通じて、スタートアップのホームとなれる場所をつくっていきたいですね。あとは、東京に限らず地方のスタートアップとも積極的につながっていけたらと考えています。

花岡さん:日本財団は、NPOやNGOの支援以外にも、こういったスタートアップや企業ともいろいろなコラボレーションをやっていることを知ってもらい、いろいろな社会課題を解決する事業につなげていけたらいいですね。

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2019年8月21日に行われた 「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」第1期デモデイの様子
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デモデイの懇親会で、大役を終えたばかりの3人

「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ」の取り組みについて、熱く、時折ユーモアを交えながら語ってくれたキネ―レットさん、ヨアフさん、花岡さん。参加したスタートアップはどのような成長を遂げたのか。その成果は、2019年8月21日に行われたデモデイのレポート記事でお届けする。

撮影:永西永実

〈プロフィール〉

Kineret Karin(キネ―レット・カリン)

ImpacTech創業者の一人。シリアルアントレプレナー(連続起業家)として、いくつかの企業の設立、販売をした経験を持つ。また、統計学の修士号を取得し、データベース分析、市場調査、ビッグデータの分野で、20年以上のビジネスとリーダーシップのキャリアを持つ。イスラエル出身で、現在はシンガポール在住。
ImpacTech コーポレートサイト(外部リンク)

Yoav Elgrichi(ヨアフ・エルグリチ)

ImpacTech創業者の一人。シリアルアントレプレナーとして、上場に関わった経験もある。また、経験豊富なメンターとしての一面、ハイテク分野で25年以上の経験を持つコーチとしての一面、IoTおよびウェアラブルデバイスドメインの特許の発明者といった一面も持つ。イスラエル出身で、現在はシンガポールに在住。

花岡隼人(はなおか・はやと)

日本財団経営企画部ソーシャルイノベーション推進チーム・チームリーダー。一橋大学法学部卒業、ワルシャワ大学政治学研究科修了。三菱総合研究所でコンサルタントとして勤務後、ポーランド留学を経て、2013年入職。子どもの貧困対策や「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム」などを担当。書籍『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』(文藝春秋)を執筆。 2018年6月より現職。

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