ビジネスチャンスは社会課題の中にあり。世界的アクセラレターと日本財団が支援するソーシャルスタートアップの戦略

写真:たくさんの投資家や関係者の前に並ぶ、ソーシャルスタートアップの代表者たち
スタートアップ10社によるプレゼンテーションについて活発に意見交換が行われた

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」は、世界的アクセラレーターと協働して行う実践的起業支援プログラム
  • イノベーションを起こす人材は、失敗しても自分の信念を決して諦めない人
  • 身近な人から世界の国まで支える革新的なアイデアで、10社のスタートアップが社会課題の解決に挑む

2019年8月21日15時50分。日本財団ビル8階のイベントスペースには、続々と人が集まった。会場にいる人々は、スーツを着こなした人もいれば、ラフなTシャツ姿の人も。リラックスして周りの人と会話を楽しむ人もいれば、パソコンと向き合って忙しそうにチャットでメッセージを送る人もいる。耳をすませば、英語や日本語などいろいろな言語が飛び交っているカオスな空間だ。

この日は4カ月間に及ぶ「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」のプログラムを終えた、10社のスタートアップが、投資家を前に最終プレゼンテーションを行うデモデイ(成果発表会)。各社は、5分間と決められた時間の中で、自社の事業やサービス、ターゲット、社会に与えたいインパクトについて説明し、この場に集まったベンチャーキャピタル(投資会社)や大手企業を納得させ、資金調達の機会を狙っている。

4カ月間に及ぶプログラムの集大成。圧巻のプレゼンテーション

世の中には、行政やNPO・NGOだけでは解決できない社会課題がたくさんある。近年は、こういった社会課題に、テクノロジーなどを利用した斬新なアイデアや手法で挑むスタートアップも多い。だが日本には、その成長を支える仕組みが不足している。

そんな背景の中、世界的なアクセラレーターであるImpacTech(インパクテック)(別ウィンドウで開く)と日本財団がタッグを組んで、2019年4月からスタートしたのが「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」だ。このプログラムは、創業して間もないスタートアップを対象に、4カ月にわたって持続的な事業モデルや、その運営・発展のために必要な考え方、事務的ノウハウを学ぶカリキュラムを提供している。

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当日、司会を務めたのはImpacTech創業者のキネーレット・カリンさん

そしてこの日、その集大成となるデモデイが行われた。ImpacTech創業者のキネーレット・カリンさんによると、この4カ月間で、受講した10社はそれぞれに成長し、中には元々考えていた事業モデルを大幅に変更した人もいたと語った。

投資家へのプレゼンテーションを行ったのは以下の10社だ。

各社のプレゼンテーションはどれも個性的だった。医療業界が抱える問題を人気マンガの引用で端的に指摘したり、ストーリー性ある動画でサービスの良さを分かりやすく伝えたりと、創意工夫に満ちている。どのスタートアップもユーザー目線でその魅力を伝えていた。時間管理も正確で、会場にいる誰もが、プレゼンターの話に惹きつけられていた。

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世界各地で起きた地震の住宅倒壊による被害者について語る、株式会社Asterの鈴木正臣(すずき・ただおみ)CEO
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知的障害者のアートをプロダクト化した、カラフルな傘を掲げる株式会社ヘラルボニーの松田崇弥(まつだ・たかや)代表取締役社長(写真左)と、松田文登(まつだ・ふみと)代表取締役副社長(写真右)
写真:スタートアップのプレゼンを真剣に聴く、たくさんの投資家や関係者
会場には大勢の投資家や関係者が集まった

参加者のアンケートでもっとも人気が高かった企業は?

発表が全て終了した後は、参加者からの質問タイム。投資家や大手企業の関係者からさまざまな質問が飛び交った。

例えば、安価で耐久性のある補強材で地震の被害者削減を目指す株式会社Asterに対しては、「不燃性や経年変化について教えてほしい」という質問が。また、AIがADHD(注意欠陥・多動性障害)に苦しむ人たちのスケジュール管理やモチベーション維持をサポートするHoloAsh, Inc.には、「今後は、ソフトウェアとハードウェアどちらの注力していくのか」といった突っ込んだ質問があった。

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真剣な面持ちで質問する参加者
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会場からの質問に対し的確に回答するスタートアップの代表者

「本日は、完成度の高いプレゼンテーションをありがとうございました。どれもロジカルで、将来性が感じられ、逆にどうやったらうまくいかないのだろうと考えていました。もう一点、詳しい数字へのコミットメントがあればさらに具体的なプランに落とし込める気がしましたね」

デモデイの締めくくりにそう語ったのは、日本財団・笹川順平(ささかわ・じゅんぺい)常務理事だ。

自身もコンサルティング会社で、事業再生に取り組んだ経験があるという笹川常務理事。成功した事例に共通していたのは、関係者の「絶対にやり遂げるぞ!」という高い意識だったと語る。「皆さんもぜひ強い信念持って事業に取り組んでほしいです」とイベントを締めくくった。

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これからも社会課題に挑むスタートアップをサポートし続けたいと語る笹川常務

イベントが終わった後は、スタートアップのメンバーやデモデイ参加者が立食形式で食事やドリンクを楽しみながら、意見交換を行う懇親会が行われた。懇親会では、来場者からのアンケートをもとに「最も愛される会社」「最も投資したい会社」「最もイノベーティブだと感じた会社」が発表された。

「最も愛される会社」に選ばれたのは、知的障害者のアートをプロダクト化して、世に送り出す株式会社ヘラルボニー。代表の松田崇弥さんは「選んでいただいて、ありがとうございます。これからも商品開発を通して、知的障害者のイメージアップに果敢に挑戦していきたいと思います」と笑顔で語った。

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「最も愛される会社」に選ばれた株式会社ヘラルボニーの松田崇弥さん(右から2番目)と松田文登さん(右端)
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株式会社ヘラルボニーのプレゼン資料より

「最も投資したい会社」に選ばれたアンター株式会社の西山知恵子(にしやま・ちえこ)取締役COOは、「アンターというサービスを通して実現したいのは、大変な医療現場で働いている医師の皆さまが『医者で良かったな』と思える世の中です。アプリで他の医師や専門医に相談することで、医師の皆さまが一歩を踏み出せるお手伝いができればと考えています」と、サービスを通してつくりたい未来について語った。

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人気マンガを活用したプレゼンテーションが印象的だったアンター株式会社の西山さん
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アンター株式会社のプレゼン資料より

「最もイノベーティブだと感じた会社」に選ばれたのはHoloAsh, Inc.。代表の岸慶紀(きし・よしゅあ)さんは「選ばれるとは思っていませんでした」と驚きを隠せない。「一風変わったサービスですが、この情報があふれる社会の中で、ADHDに苦しむ方たちが集中しやすい環境づくりに取り組めたらと考えています」と今後への抱負を語った。

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ご自身がADHDでもあるという岸さん。テクノロジー社会ならではのメンタルヘルスケアを提案
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HoloAsh, Inc.のプレゼン資料より

4カ月間に及ぶプログラム。その感想は…

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懇親会の様子

「ImpacTechヨアフ代表のOne on Oneが最高に良かったです」と語るのは、株式会社ヘラルボニーの松田崇弥さん。

「ヨアフさん自身もいくつも会社を立ち上げ、上場させてきた経験を持っているため、その場で具体的な改善策をたくさん出してくれたんです。指摘いただいたとおりにモデルを変えた途端、東急不動産とのコラボが決まった案件もあります」

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ImpacTech創業者の一人であり、「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」の講師でもあるヨアフさん

また、思いがけない出会いもあったと言う。

「このプログラムでは各社にメンターが付いてくれるのですが、僕たちの会社のメンターになった弁護士さんがそのまま、顧問弁護士になってくれたのもうれしいサプライズでしたね。今後は、2020年のオリンピックなどに向けて新たなプロジェクトがいくつか動き出しているので、初心を忘れず頑張っていきたいです」

次に話を伺ったのはアンター株式会社の西山さん。

「一番印象に残っているのは、人の温かさです。一般的なスタートアップの場合、こういったプログラムを受けても運営側から『本当に便利なの?お金になるの?』といった質問をされることも多いのですが、ImpacTechの方も日本財団の方も、収益化にはある程度の時間がかかることは受け入れてくれ、そこから『どうしようか?』といったように伴走してくれたことがとてもありがたかったです。アンターとしては、今後は海外も巻き込みつつ、医師の皆さんの診断のサポートができればと思っています」

行動心理学に基づき、利用者同士でお互いを励まし合いながら、生活改善に取り組める人気のピアサポートアプリ「みんチャレ」を提供する、エーテンラボ株式会社の長坂 剛(ながさか・つよし)さんも「過去にもいろいろ勉強しましたが、今回のプログラムで初めて知った知識も多かったです」と語る。

「例えば、言葉の選び方や、ストーリーテリングなどの手法は興味深かったですね。後は、このプログラム自体が、社会に大きなインパクトを与えようとしているものですよね。僕らも、サービスを通じて『自分を変えて、やりたいことができる社会』をつくろうと考えているので、社会的なインパクトはこうやって起こすのか!と勉強になりました」

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高い人気を誇るアプリ「みんチャレ」についてプレゼンずる長坂さん

デモデイの参加者はこのイベントをどのように感じたのだろうか?投資会社に勤める高林茉奈(たかばやし・まな)さんにも話を聞いた。

「投資家が見ているポイントは3点です。本当に社会的なニーズがあるのか、それに対してどのような解決策を提供するのか、なぜ(経営者が)それをやりたいのか。今日のピッチは、どれもユーザー目線のもので分かりやすかったですし、起業家たちの情熱も感じられました」

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ソーシャルに関わる事業に関心が高いと語る高林さん

ソーシャルインパクトがある事業への投資は、最近のトレンドの一つでもあるという。

「利益を追求するだけでなく、そこに社会的な意義が加わることで、さらに会社としての価値が高まるという考え方も広まりつつあります」

また、一般企業に勤める孫充一(ソン・チョンイル)さんも、デモデイに参加して社会貢献に対する目線が変わったと語る。

「社会貢献って、やるべきだと考えていても、なかなか行動には移しづらいものですよね。僕も正直『うちの企業がやっていることは、結果的に社会貢献にもつながるから(自分はやらなくても)それでいい』と考えていました。でも事業の目的そのものが社会貢献でビジネスとしてもしっかり練られたアイデアを聞いて、自分も行動に移さないと、と考えさせられました」

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IT系の企業に勤める孫さん

10社のプレゼンは、いずれも説得力があり大きな可能性を感じられるものばかりだった。きっと、社会課題があるからこそ、大きな意義とビジネスチャンスがあるのだろう。世の中には支援の手が行き届かず、課題の解決を待ち望んでいる人たちがまだまだ大勢いる、「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」を羽ばたいたスタートアップは、それぞれの革新的なアイデアを通して、よりみんなが生きやすい社会を築いてくれることだろう。

撮影:十河英三郎

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