「社会貢献」って言葉、カタくないですか?アスリートが考えるもっと気軽な助け合いのカタチ

アスリートと社会をつなぐプロジェクトについて語る

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

・短期間で絆が生まれ、仲間になれる“スポーツの力”が、社会貢献活動にも必要

・課題を解決しながら勝利を目指すアスリートは“改善のプロ”。その力は競技場外でも強みとなる

・HEROsにみんなを巻き込むことで、困っている人を楽しく助けるヒーローを増やしたい


「社会貢献」という言葉を聞いて、どんな印象を受けるだろう。「意識高い人がやってそう」「ハードルが高い感じ」「何をすればよいか分からない」「私には関係ないかも」。こういったイメージを持つ人も多いのではないだろうか。そんな社会貢献に対する考え方や社会の在り方を変えるべく、競技場やコートの外で活躍しているアスリートたちがいる。

日本財団が取り組む「HEROs Sportsmanship for the future」(以下、HEROs)は、現役時代も引退後もアスリートが社会とつながり活躍できる仕組みを広げるために、アスリートの声を集めて2017年10月にスタート。次の3つのプロジェクトを軸にした活動だ。

「HEROs ACADEMY(ヒーローズ・アカデミー)」
若手アスリートやチームを対象に、社会に貢献できる次世代の人材育成とサポートを行う。

「HEROs ACTION(ヒーローズ・アクション)」
さまざまな社会貢献活動とアスリートやチームをつなげ、社会のために活躍できる場を提供。社会貢献活動を行うアスリートをサポートする。

「HEROs AWARD(ヒーローズ・アワード)」
社会に貢献した選手やチームを表彰し、スポーツの社会的な力を可視化。アスリートの社会貢献活動を広げていく。

HEROsの公式サイト。アンバサダーには現役選手からレジェンドまでそうそうたる顔ぶれが揃う

「HEROsアンバサダー」には、競技を超えたトップアスリートが揃う。スポーツの力を社会のために積極的に活用することで、社会課題の解決とスポーツの価値の向上を目指して集まったメンバーだ。

[HEROsアンバサダー一覧]
東俊介(元ハンドボール選手)、池田信太郎(元バドミントン選手)、井上康生(元柔道選手)、上原大祐(パラアイスホッケー選手)、大林素子(元バレーボール選手)、奥野史子(元シンクロナイズドスイミング改めアーティスティックスイミング選手)、河合純一(元パラ水泳選手)、五郎丸歩(ラグビー選手)、佐藤琢磨(モータースポーツ選手)、白石康次郎(ヨット選手)、田臥勇太(バスケットボール選手)、中田英寿(元サッカー選手)、長嶋万記(ボートレース選手)、根木慎志(元車いすバスケットボール選手)、萩原智子(元水泳選手)、松井秀喜(元野球選手)、松下浩二(元卓球選手)、村田諒太(ボクシング選手)、山本隆弘(元バレーボール選手)

ではアスリートの社会貢献とは、一体どんなことをしているのだろう。アスリートだから生み出せる価値とは何なのか。

今回は、HEROsの立ち上げからかかわる日本財団HEROsのチームリーダー・長谷川隆治(はせがわ・りゅうじ)さんを進行役に、アンバサダーとして活動する、ハンドボール日本代表キャプテンを務めた東俊介(あずま・しゅんすけ)さん、ロンドン五輪でバドミントン日本代表として活躍した“イケシオペア”の池田信太郎(いけだ・しんたろう)さんのお二人を迎えて対談を行った。

左から、元ハンドボール日本代表の東さん、日本財団HEROsチームの長谷川さん、元バドミントン日本代表の池田さん

アスリートたちの引退後って?気になる活動内容は?

長谷川さん:本日は、よろしくお願いします。まずは、東さん、池田さんが普段行われている活動について教えてください。

東さん:僕は経営コンサルタントをはじめ、パラレルワーカーとして、相撲や柔道といった日本発祥のスポーツの魅力を海外にPRすることや、アスリートとの触れ合いや体験会などを通したスポーツの振興に力を入れています。また「表彰台の降り方。」というサイトを開設し、引退後のアスリートたちの素顔とその活動を追うコンテンツを制作しています。

企業コンサルなどの事業に取り組むほか、ハンドボールのメジャースポーツ化にも力を注ぐ東さん

長谷川さん:引退後のアスリートの素顔や活動というのが興味深いですね。

東さん:アスリートの人たちって、現役時代はとても光が当たる場所にいるんですよ。日本や世界の頂点を目指して戦っているわけで、引退後、それを超えるような生きがいを見つけることって、結構難しいんです。そこを少しでも解決できればいいなと思い、このサイトを作りました。あと、日本ではスポーツを収益化できていないケースが多いと思います。池田さんみたいに、競技の経験を活かしながらしっかり事業をしている人は少数派。僕たちは、現役時代は選手として、つまりコンテンツとして働いているわけですが、引退した後は競技をマネタイズできる人材にならなくてはいけないと考えています。

池田さん:真面目ですね!(笑)

(一同笑)

池田さん:僕はもともと子どもの教育に関心があり、最近では長野県の白馬村に子どもたちを集め、キッズキャンプを開催するなどしています。バドミントンも教えますが、その他にも脳の働きについての勉強だったり、集団生活の送り方だったり、キャンプを通して子どもたちにいろんなことを吸収してもらうよう心がけています。

バドミントンを通した子どもの育成プログラムなどを手がける池田さん

長谷川さん:参加した子どもたちの様子はいかがですか?

池田さん:人数も多いので、お風呂に入るだけでも本当に大変なんですよ! けんかもするし(笑)。でも、このキャンプを通じて多様な価値観をつかみとってくれるといいなと思っています。バドミントンを活用したプログラムでは、フォームを練習したり、シャトルを打ったりするだけではありません。今後もこの活動を継続して、挨拶や礼儀作法、さらには人間関係の作り方やリーダーシップなども子どもたちに伝えていきます。

短期間で絆が生まれ、仲間になれる“スポーツの力”を、社会貢献活動に!

長谷川さん:HEROsプロジェクトでは、スポーツの持つ楽しさや注目度、アスリートの発信力を社会課題の解決のために発揮して、日本の社会貢献を取り巻く状況を良くしていきたいと思っています。お二人には、これまでにもHEROsの活動としていろいろ取り組んでいただいています。

アスリートが持つポテンシャルに着目し、誰もが気軽に楽しく参加できる社会貢献活動の形を追求する長谷川さん

東さん:僕は以前、根木慎志(ねぎ・しんじ)さんが子どもたちを対象に行う車いすバスケットボールの体験会に参加させてもらいました。他のアンバサダーがどんな活動をしているのかにも関心がありましたし、アスリート同士がつながることで、よりバリュー(価値)が出せると考えたんです。この体験会の狙いは、障害やインクルーシブな社会について考えてもらうことなのですが、最初に車いすバスケットで楽しむことで、すぐに打ち解けることができるんですね。プレー後に、私たちの話を聞いてもらったのですが、子どもたちの聞く姿勢がまったく違うと、先生方が驚かれていました。スポーツが持つ、心を一つにする力を発揮できたと思います。

長谷川さん:はじめは緊張する子どもも多いと思いますが、皆でスポーツをすることで一気に連帯感が生まれて“仲間”になれる。そこがスポーツの持つ魅力ですよね。

東さん:あと、「ハンドソープボール」の監修とか…。これは手にハンドソープをつけて行うハンドボールで、ツルツルすべるボールに振り回されながらプレーする、失敗する度に笑いが起こる楽しいスポーツです。ボールを落とすとハンドソープが追加されます。「ピピッ!ワンソープ!!」って。老若男女、健常者、ハンディキャップのある人、運動音痴の人といった誰もが楽しめるスポーツです。

試合が進むごとに手がツルツルになる「ハンドソープボール」。試合が終わる頃には、フィールド周辺がいい香りで包まれる

長谷川さん:東さんが理事や競技監修を務める「世界ゆるスポーツ協会」が開発したスポーツですね。同協会は2017年のHEROs AWARDも受賞しました。スポーツ弱者をなくすという活動が高く評価されましたよね。

「もともと素敵なコンセプトの活動に、トップアスリートが絡むことで、さらに完成度が高くなる」と語る東さん

東さん:「勝ってうれしく、負けても楽しい」というのが素晴らしいですよね。こたつの上で、湯飲みを使ってデジタル表示されるみかんを弾き合う「こたつホッケー」なんかも、ただ面白いだけではなく、お年寄りが座りながら腕全体の伸縮運動をできるように作り込まれています。

「こたつホッケー」は相手ゴールにシュートを決めれば1点、湯飲みに入ったお茶をこぼしたら「ペナルTEA」として相手に1点が加算されるルール。5点先取で勝利となる

池田さん:体の理にかなったスポーツですね!ぜひ体験してみたい。僕のHEROs の活動としては、2018年に、他のアスリートたちと一緒に広島の豪雨災害の被災地に訪れました。災害に見舞われた場所を訪問して、近くにスポーツができる環境があれば、子どもたちと一緒にキャッチボールやバドミントンをしたり、仮設住宅に行ってみんなでお餅をついたり。そのときは柔道の井上康生(いのうえ・こうせい)さんや阪神の鳥谷敬(とりたに・たかし)さんも一緒だったんですが、有名なアスリートたちが訪れることで、被災地で疲弊した人たちが笑顔になり、活気づくんです。少しでも現実を忘れて一息ついてもらえたことに、大きなやりがいを感じました。被災した方だけでなく、地道な活動を続けるNPOやボランティアの方々の活動も知ることができましたし、今後の支援についてのイメージも湧きました。

2018年10月に行った「平成30年7月豪雨」被災地での視察・支援活動の様子。池田さんは中学校などに訪れ、生徒たちと給食やバドミントンを通して交流を深めた
同じく被災地での視察・支援活動の様子。東さん、長谷川さんはじめHEROsの面々は、中高生やボランティアと一緒に、餅つき大会やプランターへの花植えなど行った

長谷川さん:僕がアスリートの皆さんに惹かれるのが、課題を見つけて、ゴールまでプロセスを踏んでいく力。はじめから上手なのではなく、うまくなるために課題を見つけて、改善を繰り返すプロ。その力って、ビジネスや社会貢献といった他の分野でもとても重要なものだと思うんです。

東さん:確かに、アスリートには「できないことをできるようにする力」はありますね。それに、他の人に対する思いやりのある人が多いと思います。現役時代に僕たちは、多くの方に自分のプレーを観てもらって、さらにたくさんの応援をもらっているんです。なので「自分にできることがあれば社会貢献したい!」と考えている選手は本当に多いと思います。あと、ファンを作ったり、見ている人を楽しませたりすることができるのも、アスリートの強みだと思いますね。

池田さん:競技を通じて、募金に貢献できるといった強みもありますね。東日本大震災のすぐ後に、遠征でスイスのジュネーブに行ったんですよ。震災のための募金を募ったら本当にたくさんの人が寄付してくれて驚きました。「日本は大丈夫?」とか「応援しているよ!」みたいな温かい励ましの声もあれば、「これは何のために使われるの?」とか「こういう風に使ってください!」みたいな使い道についての意見もあって、僕自身、募金を受ける側にもしっかり用途を説明する義務があるんだなと感じましたね。

長谷川さん:では、お二人がHEROsに関連する活動の中で、特に印象に残っているものはありますか。

東さん:やっぱり「ゆるスポーツ」かな。みんなで楽しめるところがいいですよね!

池田さん:僕は、カンボジアにおける有森裕子さんの活動「HEARTS of GOLD(ハーツ・オブ・ゴールド)」ですね。有森さんは、まだ体育、音楽、絵画といった情操教育が不十分なカンボジアで、青少年指導者育成を目的としたスポーツ大会を実施するなど、小・中学校で体育の授業が実施できるようカンボジアの教育省と共に取り組んでいらっしゃいます。1998年から、海外でこのような活動をしている有森さんの視野の広さに驚かされます。

有森裕子さんがカンボジアで活動を行う「ハーツ・オブ・ゴールド」

長谷川さん:まさにトップアスリートの力を発揮した活動ですよね。僕は、自分もサーフィンをするので、アンジェラ・磨紀・バーノンさんの知的障害児対象のサーフィンスクール「Ocean’s Love(オーシャンズ・ラブ)」に共感しました。アンジェラさんの声掛けで、ボランティアがいつも100人前後集まるんですよ。参加したボランティアからも「これまで知的障害のある子にどう接すればいいか分かりませんでしたが、この活動を通じて、他の子と同じようにそれぞれ個性があってかわいいなと感じました」という意見をいただきました。こんなに短期間で理解を深めることができるのは、スポーツの持つ力を活用したからこそですよね!

アンジェラ・磨紀・バーノンさんが知的障害児を対象に行うサーフィンスクール「オーシャンズ・ラブ」

「アスリートに会いたい!」が参加する理由じゃだめ?

池田さん:前からずっと思っていたんですけど、「社会貢献」って言葉、カタくないですか?どうしても、一方が他方に何かを「やってあげる」といったワンウェイな感じがするんですよね。

東:分かる!

長谷川:確かに!

池田さん:普段行う子どもたちとの活動でも、広島の被災地訪問でも、こっちだってたくさんのものを相手からもらっているし。ボランティアって、みんなで何か課題を解決していくことだと思うんですよ。だから楽しんでやったって問題ない。むしろその方が、参加する人が増えそう。

社会貢献の堅い印象を払拭し、誰もが参加しやすい空気を作ることも重要だと3人は考える

長谷川:なるほど。どんな言葉が良いと思いますか?

池田さん:「エンジョイ!サポート」とか?よりカジュアルな感じでもいいんじゃないですか?もっと楽しんでやってもいいと思うんですよね。

東さん:いいですね! 被災地に行く理由だって「池田さんと一緒に泥かきしたい!」で良いんですよ(笑)。

長谷川さん:最後に、お二人が活動を通じて実現したい未来についてお聞かせください。

池田さん:2020年のオリンピックに向けて盛り上がっているけど、メダルを何個取ったかだけがスポーツの価値ではないはず。スポーツの盛り上がりに併せて、もっとアスリートと社会をつなげて、貢献していきたいですね。

東さん:「ヒーロー」って突き詰めていけば、みんなが「こうなりたい!」って思う、憧れの存在だと思うんですよ。僕たちのHEROsの活動を通して、困っている人を“楽しく”助ける、そんな、ヒーローのような大人を増やしていきたいですね!

長谷川さん:頼もしいお言葉、ありがとうございます。スポーツも、そしてアスリート自身も社会のさまざまな問題を解決する大きなポテンシャルを秘めていると思います。そんなアスリートたちの力を使って「社会貢献」に対する印象をひっくり返し、誰でも気軽に社会貢献ができる社会を作りたいですね。

活動内容や社会貢献の在り方について、楽しそうに語る3人

「社会貢献はもっと楽しいものでいい」。そうはっきりと言い切るアスリートたち。常に課題に向き合い解決し続けてきた彼らだからこそ、競技場を去った後も提供し続けられる価値がある。社会貢献をするのに、最初から立派な考えや目的がなくたって構わない。手をツルツルにして行うハンドボールや、合宿でのバドミントンのように、まずはアスリートと一緒に楽しむ気持ちで参加してみてはいかがだろう。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

東俊介(あずま・しゅんすけ)
元ハンドボール日本代表キャプテン。大崎電気で日本一を9度獲得、日本代表としてアテネ五輪アジア予選、アジア選手権など数々の国際試合に出場し、2009年に現役を引退。引退後は早稲田大学大学院でスポーツマネジメントを学び、現在は企業におけるスポーツ事業のコンサルティングや講演会の講師なども行う。

池田信太郎(いけだ・しんたろう)
1980年12月27日生まれ、福岡県出身。筑波大学を卒業後、日本ユニシスに入社、その後エボラブルアジアと契約。2020年東京オリンピック・パラリンピック大会アスリート委員会メンバー。2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックに日本代表として出場。現在は、外資系のコンサルタント企業、フライシュマン・ヒラード・ジャパンでシニアコンサルトして従事。スポーツの普及、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

長谷川隆治(はせがわ・りゅうじ)
日本財団経営企画部 HEROsチームチームリーダー。1995年、日本財団に入職。犯罪被害者支援や自殺対策、難病の子どもの支援などを担当した後、非営利活動への寄付文化の醸成を目的としたプロジェクトに従事。欧米など寄付先進国で、多くのアスリートがチャリティーの先頭に立っていることを知り、2016年より「HEROs Sportsmanship for the future」プロジェクトをスタート。

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